マーケットは震災復興に何を求めているのか

2011年4月29日

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  まず、日本経済の現状について、湯元氏は、各地で工場再開の動きがあるので最悪期は過ぎ去ったとしつつも、「本日各種経済指標が発表されたが、リーマンショック時を上回る減少となっており、個別のデータを見る限り非常に大きな影響が出ている」と指摘、内田氏は、「供給サイドも需要サイドもマインドが落ちているので、復興対策で前向きの動きが出るかどうかをマーケットは非常に注視している」と現状を説明しました。鈴木氏は、「今回サプライチェーンの問題が表面化し、東北地方の企業が日本や世界の重要な部品を作っていることが明らかになった。中長期的に考えると、企業が今回の震災で海外に出てしまうことが危惧される」と述べ、復興に向けた具体的な動きを早期にスタートする必要性を訴えました。同時に鈴木氏は、「電力を使わない産業はないのであり、今回いかにそれが重要かがよく分かった。短期的には夏場の電力消費をどう賄うかという問題はあるが、長期的にはこの国がどのようなエネルギー政策を採るのか、大元の議論を始めないといけない」と述べました。

 次に、政府の取り組みについて議論がなされ、その中で湯元氏は、政府としての統治が機能していないという問題意識を示した上で、「民主党は政治主導を意識しすぎて、例えば復興構想会議にも官僚を入れないまま議論を進めている。そのこと自体が復興のスピードを遅らせている」として、その原因を説明しました。また鈴木氏は、「中央省庁には横の調整機能もある。それをフル活用しなければならない段階だが、被災地の声を集約した上での国家戦略がないことが問題」と指摘。内田氏は市場、海外の見方に触れ、「政治的には6,7月が時間軸として注目されている」と述べた上で、「税制と社会保障の一体改革も非常に重要ではあるが、優先順位をつけて早く復興に向けてリーダーシップを発揮しないとマーケット的にも、海外の見方も厳しくなる」との見方を示しました。

 最後に、東北をはじめ日本が未来に向けて発展するために何が必要なのかということについて、各氏より意見がなされました。鈴木氏は、「例えば漁業については、全体を効率化させる視点が欠けていたと言われている。縦割りの規制を見直し、全体を俯瞰して特区のような形で変えていくことが必要だろう」と述べました。湯元氏は、「原発問題でいたずらに東電の経営体制を批判することは避けるべき。国の政策として原子力発電をどうして行くのかを明確にした上で、次のステップとして規制緩和、規制改革の議論を行っていくべきだ」と指摘、続く内田氏は「スマートグリッド」に触れ、蓄電能力の引き上げ、送電のシステムの整理ということに今こそ手がけていけば、日本の場合はかなり競争力が高まる可能性があると指摘しました。

議論の全容をテキストで読む  第1部 第2部 第3部

 次回の言論スタジオは、いま政府が進めている復興の動きをテーマに、5月13日(金)18:00から行う予定です。ぜひ、ご覧ください。

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第1部 日本経済は最悪期は脱したのか

工藤泰志工藤:こんばんは。言論NPO代表の工藤泰志です。さて言論NPOではこの前の3月11日の東日本大震災から、市民が色々なことを考える判断材料を提供したり、色んな情報を共有する目的で、言論スタジオという形で議論を発信することにしました。今回はその第2弾になりますが、言論NPOのマニフェスト評価で力を貸してもらっている国内を代表する3人のエコノミストの方と「マーケットは震災復興に何を求めているのか」」について、議論したいと思います。
 出席者の紹介ですが、三菱東京UFJ銀行円貨資金証券部長の内田和人さん。よろしくお願いします。

内田:よろしくお願いします。

工藤:内田さんは、マーケットの問題を専門的にやっていますので参加していただきました。お隣は日本総研理事の湯元健治さんです。よろしくお願いします。

湯元:よろしくお願いします。

工藤:湯元さんは以前、内閣府に出向して審議官をしていましたよね。最後が大和総研主任研究員の鈴木準さんです。よろしくお願いします。

鈴木:よろしくお願いします。

工藤:先ず、日本経済の状況は震災をふまえてかなり落ち込んできていますが、それが今の段階でどのような状況なのか。湯元さんどうでしょうか。

湯元:4月28日に、3月分の経済統計が発表されました。特に工場などの被災により、工業生産が前月比15%以上のマイナスになり、これはリーマンショック時を上回る過去最大の下げ幅となっています。電子部品などの生産が大きく落ち込みました。いわゆる東北地域とか北関東地域には、サプライチェーンといわれる自動車部品や電子部品をつくっている工場が多く、そこの生産がストップすると、実際に自動車の生産が全国的に落ち込みます。被災地の生産の落ち込みだけではなく、全国的な生産の落ち込みで業績がマイナスになってしまいました。
 個人消費も大きく落ち込みました。自粛というのもありますが、当然、震災地域の消費は大きく落ち込みました。それから、原発の影響がありますから、旅行などが落ち込み、特に外国人観光客は7割も減少しています。個人消費の落ち込みについては、全体の数字が分かるのがもう少し先ですが、個別のデータを見る限りでは非常に大きな落ち込み、足元については非常に大きい。ただ、生産の動きを見ますと4・5月は持ち直す計画を製造業は出していますので、工場再開の動きもあり、最悪期は過ぎ去ったと思います。しかし、まだまだ厳しい状況だと思います。

工藤:最悪期は脱したとの話ですが、鈴木さん、どうですか。

鈴木:サプライチェーンの問題は意外に大きくて、東北とか北関東は重要な部品を作っているのが今回明確に分かりました。経産省が数日前に調査を発表していましたが、10月ぐらいにならないと7~8割くらいの製造業者は部品が十分には調達できるようにならないので、当面は弱い動きが続くのではないかと思います。
 今回はリーマンショック時とは違い、需要ショックではなく供給ショックなので、どんどん落ち込むというわけではありませんが、ただ中長期的に考えると、電力需給の問題もあり、急いで復興しないと企業が海外に出ていくことになりかねません。それは日本経済にとって大変なことになりますから、復旧・復興をとにかく急ぐことが重要です。


マーケットはまだ疑心暗鬼の段階

工藤:内田さん、マーケットは、株が大幅に下がったり円高になったりと不安定になりましたが。

内田:そうですね。震災直後は、マーケットは基本的に思考停止状況でした。その中で、どういうことが起きるかというと、リスク資産である株式などの売却に入るということと、円については金利が海外に比べ非常に低いので、海外の投資家や銀行などの金融機関が円を借り入れて海外に投資する円キャリーをしていたのが、このような危機下では、クローズと、つまり売買を止めることになります。そうすると、どういうことが起きるかというと、円を借りていますから、その逆の状況になります。要するに、円を返さなければいけない。そうするとどうしても円を調達しなければいけなくなる、あるいは、円を買うことになる。これが震災直後に急に円高になった原因です。それがようやく介入などで、落ち着きました。

 株で見ると震災前は10,500円近辺でしたが、8,000円台に落ちました。今は9,500円近辺で、要するに、急落した後、下げ幅の半分の水準に戻っている。これは安定しているのか、それとも下に行くのか、どっちにいくのかが今の市場の関心事です。戻ると言う期待はありますが、なかなか政府の復興対策が出てこないとか、生産とかの需要サイドのマインドが落ちています。例えば自動車の販売とかが落ちていますので、そういったところに少し復興対策という事で、前向きの動きが出るのかをマーケットは注目しています。しかし、それが、なかなか出てこないので、日々上値が重くなっている状況です。

工藤:復興に向けての政府の動きが遅いと市場は思っているわけですね。

内田:今回の震災の場合は非常に広域に被害が広がったということもあり、なかなか復興対策が動いていない。地方行政とか地方自治体との調整も必要ですが。それ自体はある程度想定しているでしょうけど、過去の大震災のケースを見ると、だいたい復旧に1~2ヶ月かかり、それから3ヶ月後6カ月後に復興対策の大体の絵が見えてくるのです。これが通常のパターンです。そうすると期待感から株式や為替とかに影響が出始めますが、なかなかそこが見えてこないのが今回の特殊な面です。

工藤:今回の震災は規模や広がりの面で阪神淡路大震災とは単純に比較はできないのですが、あの時は1月17日に震災があったのですが、1カ月後には復興の基本法ができて、復興に対する実行体制が整い、すでに動き出していて、お金の問題では地域の復興基金が出来たりしていました。そして7月末には被災者の皆さんが全員仮設住宅に移っていました。

内田:当時は1月に震災があり、そのあと英国の大手金融機関の不正取引な取引によって、株が一時暴落しました。名門の銀行が不正取引をしたせいでそれによって急落しました。その後、日米摩擦が起きて、為替が80円になり、マーケットとしては、震災の後にかなり数カ月の調整期間が続きましたが、ただしその間に復興対策が進んでいたので、その後為替も80円になって、株が安定して、一本調子に株高の動きに戻っていったのです。それが今回起きるかどうか。


工藤:新聞を見ていたら格付け機関のS&Pがまた日本国債の格下げを検討していると出ていましたが、これは政府側の動きが期待できるものになっていないと言う見方が市場に広がっているという認識でいいのですか。

鈴木:もちろん、それは復興そのものではなく、財政赤字や国債に対する格付けの話ですが、復興資金がどのくらい要るのかのかがわからない。それで財政の悪化がどんどん進んでしまうかもしれない。本当に前向きな復興投資であれば国債でやっても問題ないのですが、日本は経常的な収支バランスが悪化しているという財政問題を抱えているのです。平時に財政を健全化させておかなかったツケが、有事の対策を制約しているといわざるを得ません。その難しさをきちんとコントロールできていないと言う警告と受け止めるべきだと思います。

工藤:先ほど湯元さんは「最悪期は脱した」とおっしゃっていましたが、これまでの話だと、まだまだその動きへの疑心暗鬼がマーケット側にありますね。

湯元:当然、夏場のピーク時の電力不足対策が問題になります。一応5500万キロワットまで、供給量を増やせる見込みがたったので、一時と比べればだいぶ安心になりましたが、この夏の暑さがどうなるかにもよるので、下手をすれば電力不足で生産がダウンすることもありえます。それから国債の格下げに象徴されるように、まだ復興プラン全体が見えてこなくて、どれくらいお金がかかるかわからない。当面は国債発行でしょうけど、どうやって財源を調達するのかということについて、色んな増税の議論が出ていますが、まだ固まっていません。そこが先行き不安な状況です。
 元々少子高齢化で財政が膨らむというベースがあって、震災が無くてもこの赤字をどうするのか、という懸念があったのに今回震災が起きてしまった。ここに大きなインパクトがあったと思います。


震災で分かった日本経済の構造とは

工藤:やはり政府の取り組みが非常に重要だと思うのですが、日本経済は今回震災があったから変わるのではなく、元々日本経済を筋肉質にして、力強いものにしないといけないという大きな課題がありました。一方で財政的な破綻リスクが高くなっている。一方で地震を見て、意外に日本の経済構造、先ほどのサプライチェーンの寸断が世界に影響を与えているというのが見えてきました。震災で分かった日本経済の問題をどう判断していますか。

湯元:サプライチェーンの構造というのは、日本の基幹産業である自動車や電機の部品生産が、東北や北関東地域で集積してつくっているということですので、地域的なリスクがあるのです。西日本にすぐに生産を移すことはできなかったので、そういう態勢の問題はあります。企業努力で西日本に移したり、場合によっては海外に移そうという動きもごく一部では始まっています。ですので、政府が復興対策にもたもたしていると、海外に企業が進出してしまうので一刻も早く修復しなければいけない問題があります。

 それから東北地域の産業構造を考えると、特に津波にやられた地域は農村や漁村がコミュニティごと流されてしまっています。震災前に農業については、強い農業をつくり輸出をして日本経済の成長戦略をやっていこうということで、TPPへの参加をはじめ、やっていかないといけないと議論がスタートしましたが、こういうことが起きたので、まさに農村・漁村の被災地をどうやって復旧・復興していくかという議論になりかけています。 

 復旧・復興の後に、この東北地域をどういう形で新しく再生していくか。ある意味、新しくモノをつくっていく「新興」の観点で考えていかないといけない。そういう意味では産業基盤をどうやって強化するのかという意味では、例えば、国の成長戦略で特区制度をやろうとしていました。これを日本企業が出て行くのを防ぐという目的だけではなく、外資系企業や外国人がどんどん入ってくるように税制、規制や予算処置などを優遇する特別区域をつくって、東北に集中して、産業基盤の再編をしっかりやっていくというのは1つあると思います。例えば、世界最先端の技術開発特区をつくって、そこに人や金を呼び寄せるというアイデアもあると思います。もう1つの問題は、エネルギー政策を根本的に変えていくという意味では、当然、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを導入していかないといけない、という政府の政策はありましたが、これは原発を相当上げる計画だったので、本当に太陽光や風力などはごく一部でした。ですからエネルギーが全くクリーンな新しいまちづくり、スマートシティと呼ばれていますが、全く新しい発想で町づくりが求められています。

工藤:鈴木さんは、この震災を踏まえて日本の東北地域はこんな状況だったのか、と気づいたことはありますか。

鈴木:今回分かったことということで申し上げれば、湯元さんがおっしゃったサプライチェーンということで、実は東北地域は製造業にかなり強い。特に電子部品や自動車部品、それから飲料などの生産拠点がたくさんあったということが分かりました。ただ私が特に申し上げたいのはエネルギーの話です。やはり電力を使わない産業はありません。電力が供給されないと、みんなマインドも沈み消費をせずに自粛をしています。電力がいかに重要かがよく分かった災害でした。短期的には夏場のピーク時の電力をどうするかという問題ですが、長期的にはいつまでも火力発電でいいという話ではない。エネルギー政策をどうするかが見えないと、今後、日本の企業がどう活動していけるだろうか、という問題にもなります。

内田:3点キーワードを申し上げますと、1つはやはり「日本は安心安全」というブランドがありましたが、それが崩れてしまった。このこのブランドをどう立て直すのか。2つ目は、広域な復興対策は政治的な調整が必要なので、これが非常に難しい点です。3つは、やはり復興に向けた政治のリーダーシップです。こらが今、問われていると私は思っています。

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第2部 なぜ政府の取り組みは遅いのか

工藤:引き続いて議論に入りたいと思います。今朝、僕たちは別の勉強会をやっていたのですが、その時にアメリカの人が言っていたのですが、やっぱり、「日本の復興対応がかなり遅い」と。つまり、「どういうことを目指して、どこに向かおうとしているかがさっぱり見えない」と。3割は「日本は必ず復興するだろう」、「この危機を乗り越えるだろう」と思っているが、、7割くらいの人たちは「日本はこの復興のタイミングを逃してしまうのではないか」と思っている、ということを外国人が言っていました。
 内田さんからもありましたが、やっぱり政府の対応が遅れている。対応が遅れているというのは、例えば、プランニングに入ってそれに時間がかかっている、とおいうのではなく、プランニングとか実行体制そのものが政府で決まらない。政府としての統治がなかなかこの危機下で機能していない、ようにも私は思っています。皆さんはこの政府の取り組みの状況をどう見ていますか。

内田:そうですね。過去の大震災でよく比較されるのは関東大震災の帝都復興院というものがあるのですけど、これは後藤新平さんが最終的には巨額の規模が...30億円という復興規模が...最終的には5億円に縮小されたのですが、それでも機能したというのは、徹底的にしかも横断的に官僚機能を活用したのですね。

工藤:活用したのだよね。

内田:ですから、実務家のレベルに落としてその中で知恵というかプランニングをするというのが成功例でした。具体的には、近代的な都市計画として約1千万坪の土地の区画整理事業をやる、と。こういうものは政治のリーダーシップが必要ですけども、実務的な官僚機能を活用していくということが重要になると思います。それから海外の例ですけど、カトリーナというニューオーリンズの大変な大災害がありました。この時も当時は市長と市政の対立というものがあったのですけども、結果的にはクラスタリング・プログラムという形で救済すべきということで、救済すべき地域をまさにクラスに分けて、徹底的に政治のリーダーシップを伴って、そういった救済を中心とした復興計画を立ててそれを推進しました。そうするとこれが非常にうまくいったわけです。さらには、最近では四川地震。

工藤:中国のですね。

内田:四川地震というのは最も復興スピードが速いタイプです。これは中国という非常に特殊な国家体制のもとに、たとえば、農民制度とか土地収用とかこういう形で、ある意味強制的に復興を進めたということもあるのですが、約2年間でした。これもひとつの極端な政治のリーダーシップだと思うのですが、復興計画というものは基本的にはまず救済。それから復旧。それから復興ですけども、この3段階のスピードを官僚組織を活用し、かつ政治のリーダーシップで復興のスピードを上げていく、ということが重要なのだと思います。

工藤:逆に言えば、今、そういう風になっていないですよね。政治家主導ですから。


政治家主導では実行は難しい

内田:そうなのです。ですから、政治主導というのが政治家主導になっている。

工藤:だから、非常に対応が遅う。湯元さんはどうですか。

湯元:内田さんがおっしゃったような、まさに政治の問題というのは、非常に大きいと思います。与野党のねじれ現象というものもありますし、それから民主党政権そのものの中で意見の調整ができないということもあります。民主党というのは政治主導というのを意識しすぎましたので、この震災対応においても復興構想会議ですか、あれもあまり官僚を入れずにやるような感じになっています。そのこと自体が復興スピードを遅らせていると思います。それからもう1つは、今回、震災と津波と原発が同時に襲った複合的な大きな災害であって、特に原発は今なお予断を許さない状況なので、政府の対応の有無や関心の集中が、どうしても原発に集中してしまい、他が少し疎かになってしまうということは、やむを得ない面もあるのですが、ただ、それも体制作りが遅れたことに起因しています。今はきちんと分けて対応していますけども、そういう体制作りの遅れがこういうことと相まって対応を遅くしている。野党もこういう時は一丸となって早急に対応していかなければならないということだと思います。色々なアンケート調査とって見ても、大連立とかいろいろな議論がありますけども、そういうところはなかなかまだ微妙でごちゃごちゃした状況になっています。最終的には政治、与党だけではなく野党も含めて政治の混迷というのが対応を遅らせていると思います。

工藤:鈴木さんはどう見ているんでしょうか。
鈴木:ねじれ国会という決まらない中で災害が起きると本当に深刻だなと思います。
工藤:悲劇という感じがしますよね。

鈴木:先程、政治主導というお話がありましたけれども、中央省庁というのはかなり縦の指揮命令系統がはっきり明確にあって、横の調整機能というのも一応あるわけです。今回、それをフル活用する、という視点がないと先に進まないと思います。加えて申し上げると今回の災害は非常に広域で、沿岸部と内陸部で被害の状況も全然違いますし、原発が関係しているところとしていないところあります。まちまちなわけですよね。被災地の利害も本当にバラバラでそれを調整するような機能がどうもない。東北3県がバラバラに何かを言っていても、それは復興案としての日本の戦略にはならないわけでして、尊重すべき地域の声を集約して、なおかつ国の視点から国家戦略としてまとめ上げる。そういう機能がないのが一番問題なんじゃないかと思います。

工藤:私も同じように見ていてですね、かなり厳しいな、と思うのですが、こういう状況を経済というかマーケットがどう見ているか、ということなんですね。さっきの「危機を脱してきた」というのも湯元さんのお話も、企業が自分たちの努力で生産拠点をうまく調整したり、という話であって。それが単なる「戻す」というのではなくて「新しい形の復興」というのは、今のところ全く見えないわけですね。ただみんな議論が空中を飛んでいるだけであって。

内田:海外からの見方、市場からの見方もそうですけど、やっぱり復旧から復興への動き、これがまだ構想段階であると言ってもいいと思うのですが、一歩でも前進しているかどうかというところに注目している。具体的に言えば、この6、7月から出てくる第2次補正予算ですね。こういう中身の骨格でも、例えば、先程、湯元さんがおっしゃったように、今回は東北の経済復興というものがベースになりますので、一部政府も出していますけど経済特区とか、鈴木さんもおっしゃいましたけど東北6県の特殊性を生かす考え方とか、そういうものを進めていく。それから住民対策。次に住宅ですよね。前回の阪神淡路大震災の時もそうですし、先程のカトリーナの時もそうなのですけど、住宅の復興対策というのがかなり経済の需要サイドにも大きいですし、人々のマインドも結構回復していきますので、住宅対策が必要です。後は、東北でどういう産業を立て直していくのか。今回、サプライチェーンがかなり影響を受けたということですが、逆に言えば、そういうサプライチェーンはだからと言って西日本に移すのではなく、もう一度全国的な防災設備インフラを整えた上で、しっかりとした工業団地、経済特区のもとでサプライチェーンを立て直す必要がある。そういうことで産業を興していくという動きがこれから出てくることを今、市場や海外は非常に期待しています。

工藤:ということは、期待が裏切られると困るわけですよね。

内田:あと期待は最終的にそれが実現になってもそのスピード感が重要ですね。


市場が期待するのは実行とスピード感

政治的には6、7月を目途にかなり時間軸として注目されていると思います。具体的なことが出てこないと。あるいは税制と社会保障の一体改革も非常に重要なのですけども、やっぱり優先順位をつけて早く復興に向けてリーダーシップを発揮しないとかなりマーケット的にも海外の見方も厳しくなると思います。

工藤:すると、第2次補正が1つの焦点になっていくと...。
内田:第2次補正とそれから対策。

工藤:どうですか、湯元さん。ちゃんと動き出すと思います?。

湯元:この復興構想会議。これは復興ビジョンをつくるということで学識者、専門家、有識者を入れて、これは基本的には東北をどういう形で甦らせるのか、まったく元のままに戻すのではなくて、新しいコンセプトをどういう風に埋め込んでいくのか。これを通じて日本全体の国際競争力、日本の経済成長を高めるようなものになるのだ、というものを出せば、海外からも「日本は必ず復活できる、より強くなって戻ってくる」と、こういう見方が出てくると思います。

 この第1次提言が6月末にまとまって、その後も提言を出していくのでしょうけれど、第2次補正というものは夏場のできるだけ早い段階で出さないといけないわけですが、この復興構想会議の提言を補正予算の中に実際にどうやって落とし込んでいくのか、です。ただ、私は先程からご指摘があったように官僚が入っていないというのもありますので、スムーズになかなか行かないと思います。役所は役所で、例えば、国土交通省は復興会議をつくって国土交通省なりの考え方で地形に応じた民家の復旧とか一方でそういうことをやっているわけです。その延長線上には何か新しいものが出来上がるという姿はちょっと想定しにくいがものあるわけです。現在も被災地で苦しんでいる方の心情を考えれば、もちろん新しいものに作り替えるなんて能天気に言っているのはどういうことか、という批判もあるのですが、そこは同時並行でしっかり進めていく。将来プランを早くつくり、一方で足下の復旧・復興は当然スピードアップしていかないといけない。その辺りが政府の中でバラバラに見えますし、民主党の中でも同じような委員会ができましたけども、それはそれで現地視察のようなことをやって、色々考えて議論はしているのですが、その3つが相互連携というものが見られないような感じがします。

工藤:そうすると、湯元さんはうまく行かないのではないか、と見ているわけですね。

湯元:もちろん、足元の原発の影響というのもあるわけですね。これは日本人に対してだけではなく、海外諸国にも心理的影響がものすごくあって、風評被害が農産物や魚だけでなく、工業製品とか部品というところまで放射能検査をさせられて証明書を出せ、と言われているわけです。先程内田さんがおっしゃった日本の安心・安全ブランドは完全に崩壊していますから、政府の役割は復興もあるのですが、そこの風評被害を海外のマスメディアや外国の国に状況をきちんと説明する。原発についてもようやく最近になってスケジュールが出てきましたが、6カ月から9カ月というあいまいな工程表です。

工藤:工程表ですね。

湯元:そこら辺をはっきり海外メディアに具体的に説明していくというのも日本が速く再生していくために必要なことですね。

工藤:日本の政府はかなり内向きで海外に対する対応を、の震災時からほとんどやっていません。支援も途中で断ったりしています。つまり、受け入れる力がないというのがあって、非常に、今、閉鎖的で内向きな状況になってしまっていますよね。さっき、鈴木さんが地域の声を反映させながら、しかし国家戦略としてやっていくその仕組みがない、と言われていましたが、、そうなってくるとひょっとしたらアイデアだけを国が出して、ということになってしまう可能性もありますよね。

鈴木:復興というのは、過去の関東大震災も、阪神淡路大震災もそうでしたけど、政府のお金と民間のお金の両輪で動いて復興していくものですよね。政府だけでやるものではないわけです。湯元さんがおっしゃったように、新しい東日本をどのように作るのかということがベースに国としてあって、そこで農業を世界的に競争力ある形に変えていこうとか、漁業にしてもまだまだ効率化する余地があると言われていますし、それから住宅だって高齢社会に適した住宅ストックをどう作って、どういうまちづくりをするのか、それをうまくやれば生活産業が入っていけるわけです。
 ですから、被災地での様々な復興事業に民間資金が入っていけるように、国がアイデアを示し、呼び水となるような、税を使った補助金でもいいですし、政策金融でもいいですし、政策を措置する。そこに民間資金がこれならいけるというような形で入っていくような循環が起こる、そういう全体の復興の計画ができるかどうかが重要です。

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第3部 東北の復興をどう進めるか

工藤:それでは議論を再開します。
 今回の復興はで、、東北は若い人が参加して、地域が発展するぐらい未来に向けて、大きく変わらないといけないと、私も思っています。
 これまでのお話を聞いていると、3つくらいのポイントがありました。漁業、農業を強いものに転換できるのか。それから、クリーンエネルギーに代表されるようなエネルギー問題のモデル地域にならないとならない。また、産業構造上、非常に大きな部品の供給基地になっていたということをどう生かすのか。もう1つあるのは、高齢化の問題です。この状況を、未来に誇れるような形にするためには、どうすればいいのでしょうか。

鈴木:農業に関しては、大規模化して生産性を上げれば、日本の製品は本当に品質が高くて、安心安全で、世界に打って出ても競争力があるものだと思います。せっかく、農地法の改正などをやって、農業に参入しやすくしているわけですから、実務的な障壁がどこにあるかということをきちんと見直して、色々な人が農業に入っていけるようにすることが必要です。また、漁業に関しては、養殖とか捕獲をして、それを港に揚げて、市場を通し、さばいて、食品に加工して、その先の最終消費者までの流通までを含めた全体を効率化させるという視点が、これまで欠けていたと言われています。それを、きちんとやって近代化させれば...。

工藤:特区か何かですか。

鈴木:規制などは、縦割りになってしまっていますので、全体を戦略的に見て、特区のような形でやるというのは、1つのアイデアだと思います。


課題は都市再生と強い農業とスマートグリット

工藤:農業・漁業については、他にこうした方がいい、というのは何かありますか。

湯元:やはり、これまで議論されてきたような、農業の改革ですよね。今まで色々と反対論があって、規制が沢山あって、実現できませんでした。そこを、まず、東北の新興ということで、特区のような形で、まず、やってみるということから、考え直す必要があるのかな、と思います。ですから、一般的に言われているような、株式会社が参入できるようにしてやる、というやり方は賛否両論があります。
 しかし、例えば、若い人を放っておくと、職がないので、東北から他の地域に出てしまうのですね。そして、一旦出てしまうと、戻ってこなくなって、本当にお年寄りばかりの地域になってしまいます。ということを考えると、若い人にも農業をやってもらうということが必要になってくるので、法人形態でどんどん自分の収入が増えるような未来があれば、若い人がどんどん就農すると思います。もちろん、これは東北の人だけではなくて、日本全国から集まるようなインセンティブを与えて、そういう人達が集まってくる、ということは1つの考え方としてありますね。

工藤:鈴木さん話を続けてくれますか。

鈴木:エネルギーについて申し上げますと、当然、再生可能エネルギーを、これまで以上に推進する必要があると思います。今回、東北地方に、例えば、エネルギーパークのようなものをつくって、そこで大規模な太陽光発電、いわゆるメガソーラーや大規模な風力発電を実証的にやっていくことが考えられます。技術的には太平洋側は風況があまりよくないなど、色々とあるようですが、エネルギーについて、再生可能エネルギーを大規模に導入していく実証的に技術を高めるの場を東日本、あるいは東北につくっていくということは、そのための製造業や雇用などが生まれることで復興になります。そういうことをやるべきではないでしょうか。

湯元:再生可能エネルギーというのは、1つの非常に大きなエネルギー政策そのものを見直す際の、重要な視点だと思います。ただ、今まで打ちだしてきた政策の延長線上では、全然追いつきません。既に、中国やアメリカ、ヨーロッパ諸国は太陽光や風力とか、色々と進めていて、どんどん量産化してコストが下がっていますから、ある意味で、日本独自の省エネ技術、電気自動車や再生エネルギーを含めたトータルな都市、つまりスマートシティといったような都市を設計していく必要があると思います。これは、実は、実証実験で、横浜や北九州など、色々なところでやられていますが、僕は実証実験ではなくて、現実につくっていくということをやっていく必要があると思っています。ただ、横浜や北九州みたいな大規模な都市と、東北の小さな町づくりとは、また別ですから、被災地にあったような町づくりをしていかなければいけません。
 そういう意味では、お隣の中国では、天津市では、そこで未来型の環境都市をつくろうという動きがありますし、スウェーデンでは、ハンマービショスタッドという人口2万人位の小さな町ですけど、全てバイオガスで循環するような町をつくってしまっています。だから、スウェーデンの企業なども、日本の都市をどのように再興するか、ということを密かに情報収集していて、参入したいという企業もあります。外資の知恵なども使いながら、しっかりしたプランは、もちろん民主導でつくり、実際の現場で、どこにどういうものをつくっていくのか。地元の意見をしっかり聞いて、町づくりプランを作成していく、という形でやることが、先程、鈴木さんもおっしゃった通り、やる以上は、単に新しい再生可能エネルギーの発電設備を設置するという一次的に雇用が増えるだけでは意味がありませんので、トータルで何年もかけた町づくりという長期的な雇用に結びつければ、持続的な雇用の増大にもつながっていくと思います。

工藤:内田さんどうでしょうか。

内田:3つあります。1つ目は、お2人がおっしゃったように、このベースは都市再生計画です。これは、四川もそうだしカトリーナもそうだし、関東大震災も同じです。つまり、住宅など都市の再生というのがベースになってきます。その意味では、菅総理がおっしゃっているエコタウンというのは、具体的な絵を描き実現できれば、かなり海外も含めて見方は変わってくると思います。
 2つ目は、先程からお話をいただいている、エネルギー対策ですが、私は、湯元さんからスマートシティというお話がありましたが、スマートグリッドですね。要するに、これまでも電力は、最大消費電力というものを押さえてコントロールできれば、もの凄く効率的な経済システムができる、ということは分かったわけです。それをつくりだすことによって、それが世界の標準になる可能性が高いわけです。具体的に言えば、発電をして、電力を使わないときには蓄電をする。要するに、いかに蓄電能力を引き上げるか、ということです。それから、スマートグリッドですから、送電のシステムをもう一度整備する。これでもって、先程の太陽光発電もそうですが、家庭の買電と配電のシステムを変える。もっと言えば、日本全国の電圧をそこで統一させる。スマートグリッドというのは、今のアメリカで、オバマ大統領が提唱していますが、アメリカの場合は電線が1本しか通ってない中で、ドラスティックに買えようとしています。一方の日本は、効率的なシステムがある中で、先程も申し上げたように、日中の電力の変電能力を少し変えて、経済システムを公平化するなど、こういうことをすると、かなり競争力は高まるし、かなりフレキシブル的な品質開発になってくると思います。

工藤:この議論は、かなり時間が必要ですので、簡単にお聞きしたいのですが、今の電力の問題は今の電力会社の議論にかかわってきますよね。つまり、発電と送電の問題、それから、さっきの周波数の問題。これらが分断していて、全然動かない。戦後、こういう状況にあったわけです。そういうところが、原発問題にかかわってきていて、そういうことを含めて、全面的な見直しということにならなければいけないのでしょ。つまり、規制緩和をし送電は、別の会社がやるというイメージですか。

内田:アメリカの場合は、ご案内の通り、発電と送電は違います。基本的には民営化という形なのですが、電力は国のエネルギー政策の根幹ですから、国がどういう関与をするか、どういうコミットメントをするか、ということがベースにあってから、民営化ということがなければいけません。ですから、そこまでのコミットメントをどうやってつくっていくか、ということが重要だと思います。

工藤:湯元さん、今の話はかなり重要なのですが、どうですか一言。

湯元:かなり重要な話で、ベースには原発政策をどうするのか、というところに帰着してくると思います。いたずらに、東京電力の経営体制の問題とか、国家がどこまで何をやるべきとか、そういう議論が出ています。それが、最終的には規制緩和をするとか、日本全国の電力会社の在り方みたいなところにつながっていますが、そういう議論が出てくること自体はいいと思います。ただ、きちんとさせておかないといけないのは、原発をどうするのですかと。このまま、現行の水準を維持して、増やさない、というスタンスなのか、放っておきますと、償却期限は来ますから停止してきます。中期的には、どんどん比率が下がっていきます。それを一体何で埋め合わすのか、ということについては、先程、再生可能エネルギーの話がありましたが、これは10年、20年かけて考えるべき話であって、数年でとって代わることはできない話だと思います。他の火力発電のところは、日本が石炭やLNGを増やしているということで、価格があがってしまっている状態になっています。そこのところをはっきりさせた上で、そういう規制緩和の問題も、次のステップの話として議論して考えなければいけないことだと思います。

工藤:やはり今の話は、単に東北地域の復興だけではなくて、本当の日本の経済を始めとする色々な問題について、日本の未来をかけた全面的な見直しの起点になってきているような感じがしますよね。

鈴木:世界の電力の歴史というのは、公がやったり、一部民間がやったり、色々と揺れ動いてきました。現在の日本の場合、国民にとって一番何がプラスなのか、産業にとって何がプラスなのか。技術的なことについては、素人にはなかなかわからない問題が沢山あって、発電したはいいけど電力を送電する技術が追いつかないのでは困ります。そこは、自由化したら何が起きるのかとか、50年先に目指す姿があるとして、20年、30年、40年とどういう工程表をつくるのかなど、議論の蓄積なり、経済的な分析を積み重ねる必要があります。そうした国民的な議論は、実はあまりありません。ですから、色々な方面で、エネルギー問題をどうするのか、という議論をすぐに始めることが出発点だと思います。

工藤:この問題はこの言論スタジオでも必ずやります。そこで、最後に質問ですが、復興するときに、財源をどうするかとか、復興院など体制の問題があるのですが、そういう話ばかりです。復興を具体的に進めて行くためには、財政再建や財源問題など、そういうことの組み立てをどういう風に考えていけばいいのか。どうでしょうか、内田さん。


復興財政はどう捻出するのか

内田:今、厳しい財政事情の中で、この復興の仕組みをどうするかということなのですが、今、工藤さんがおっしゃったように、ちょっと仕組みばかりが先行して、最初は復興しなければ何も決まらないものですから、それは予算の組み替えをしても、一次的な国債の発行にしても、いずれにしても財源をつける。その過程において、時限的な税制のことを考えていけばいい、という状況だと思います。なぜならば、消費税がいいか所得税と交付税の組み合わせがいいか、色々なシュミレーションがあるし、中期的には社会保障と税財政の一体改革という中で考えていかなければいけない問題です。
 ですから、まずは復興対策に対する予算については、ベースは予算の組み換え。不要不急のものについては、あるいは、民主党のマニフェストに関しても、抜本的な見直しの必要があると思います。

工藤:まだ、不徹底ですよね。

内田:それを最優先にするべきですね。それでも足りない分については、国債を発行する。ただ、国債の発行も、通常の国債ですと、阪神淡路大震災の時に毎年の市中国債は36兆円で、今は、140兆円を超えているのですね。なので、日本の国債リスクが高まる中で、単純に国債を発行するということはリスクが高い。従いまして、5年なら5年の時限的な国債、財源については責任論がありますけど、食い入って国債を発行する。それから、もう1つは、永久債など、ある程度新しい仕組みの債権を検討する。これは、個人向けの国債などもそうですけど、復興国債という形で、個人の方々の税制控除も含めた、新しい仕組みを検討する。こういうことを考えていけば、何とか財源はクリアできるのではないかと思います。

湯元:最初に、復興構想会議が復興税について議論したこと自体、違和感を感じました。ただ、確かに、日本の財政状況は震災がなくても大変な状況で、一刻も早く税制と社会保障の一体改革をしなければいけないという状況の中で、こういう震災が起きて、お金が非常にかかる。少なくとも、10兆円は超えるのではないか、というような見方になっています。まずは、マニフェストの見直し、予算の組み替えということで財源を生み出すというやり方で、最初の一時補正予算は4兆円規模を捻出したと言っていますが、実は、基礎年金の国庫負担から捻出したものを使うということをやっていまして、これは必ず何らかの増税などの手当で、対応していかないと、中期的に穴の空けられないものです。ですから、そういうことを含めて考えると、当面は時限を切った国債発行ということで、対応していくということが現実的だと思いますが、ただ、やはりそれを将来的な増税できちんと担保するような形で、財源がどういう増税かということについては、もう少し議論して拙速に決めない方がいいと思います。少なくとも増税によって償還するものであると。これは、東西ドイツが統合したときも、連帯付加税という形で所得税と法人税の税率を一定率時限的に上げるという形で、国民全体が支援するような形で組み合わせました。今回も、そういう枠組にする必要があると思います。まあ、税目の中身については、もう少し時間をかけてやっていくと。

鈴木:復興にいくらかかるかは、事業が決まらないと決まりません。ただ、事業が決まってから財源なしでは困るので、財源は同時に決めないといけないということです。税には色々とあるわけですから、増税についても、もう少し科学的な議論で影響を考えるべきです。一定の増税は避けられないと考えます。

工藤:最後に、一言だけ。日本経済は今回の震災から立ち直ることができるのか、ということについて一言ずつ言っていただけますか。

鈴木:私は、福島県出身で、家族も友人も被災地に沢山いるわけですが、東北は自然と一体となった産業のウエイトが高く、自然と一体となった生き方をしていると思います。従って、環境問題などを踏まえると、この地域には凄いポテンシャルがあると思っています。ですから、きちんとした復興計画と政策が組み合わされれば、必ず復興すると思います。

湯元:私も、今回ボランティアを始めとして、日本全国民が支援をしていこうという流れができあがっています。政治は不安定なところがありますが、基本的には、日本国民は、過去も大変な危機を乗り切ってきた国民ですから、私は、それを強く信じていますので、必ず、復活すると思っています。

内田:私も、復興するのは確実だと思っています。後は、そのスピードと復興した後の日本経済の姿です。また、閉塞感のある日本経済に戻るのか、それとも、復興を糧に、さらに構造改革を進めて、少し前向きの力が出てくるか。私は、後者の方に期待していますけど、それはやはり政治のリーダーシップだと思います。

工藤:そうですね。私も、今日の話を聞いて思うのですが、今回の震災からの復興は、日本の本当の復興につなげなければいけない、という感じがしています。そういう議論をこれからも行って行きます。今日はどうもありがとうございました。一同:ありがとうございました。

報告 第1部 第2部 第3部


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 4月28日、言論スタジオにて、湯元健治氏(日本総研理事)、内田和人氏(三菱東京UFJ銀行円貨資金証券部長)、鈴木準氏(大和総研主任研究員)が「マーケットは震災復興に何を求めているのか」をテーマに、議論を行いました。

2011年4月28日(木)放送
出演者:
湯元健治(日本総研理事)
内田和人(三菱東京UFJ銀行円貨資金証券部長)
鈴木 準(大和総研主任研究員)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)

  まず、日本経済の現状について、湯元氏は、各地で工場再開の動きがあるので最悪期は過ぎ去ったとしつつも、「本日各種経済指標が発表されたが、リーマンショック時を上回る減少となっており、個別のデータを見る限り非常に大きな影響が出ている」と指摘、内田氏は、「供給サイドも需要サイドもマインドが落ちているので、復興対策で前向きの動きが出るかどうかをマーケットは非常に注視している」と現状を説明しました。鈴木氏は、「今回サプライチェーンの問題が表面化し、東北地方の企業が日本や世界の重要な部品を作っていることが明らかになった。中長期的に考えると、企業が今回の震災で海外に出てしまうことが危惧される」と述べ、復興に向けた具体的な動きを早期にスタートする必要性を訴えました。同時に鈴木氏は、「電力を使わない産業はないのであり、今回いかにそれが重要かがよく分かった。短期的には夏場の電力消費をどう賄うかという問題はあるが、長期的にはこの国がどのようなエネルギー政策を採るのか、大元の議論を始めないといけない」と述べました。

 次に、政府の取り組みについて議論がなされ、その中で湯元氏は、政府としての統治が機能していないという問題意識を示した上で、「民主党は政治主導を意識しすぎて、例えば復興構想会議にも官僚を入れないまま議論を進めている。そのこと自体が復興のスピードを遅らせている」として、その原因を説明しました。また鈴木氏は、「中央省庁には横の調整機能もある。それをフル活用しなければならない段階だが、被災地の声を集約した上での国家戦略がないことが問題」と指摘。内田氏は市場、海外の見方に触れ、「政治的には6,7月が時間軸として注目されている」と述べた上で、「税制と社会保障の一体改革も非常に重要ではあるが、優先順位をつけて早く復興に向けてリーダーシップを発揮しないとマーケット的にも、海外の見方も厳しくなる」との見方を示しました。

 最後に、東北をはじめ日本が未来に向けて発展するために何が必要なのかということについて、各氏より意見がなされました。鈴木氏は、「例えば漁業については、全体を効率化させる視点が欠けていたと言われている。縦割りの規制を見直し、全体を俯瞰して特区のような形で変えていくことが必要だろう」と述べました。湯元氏は、「原発問題でいたずらに東電の経営体制を批判することは避けるべき。国の政策として原子力発電をどうして行くのかを明確にした上で、次のステップとして規制緩和、規制改革の議論を行っていくべきだ」と指摘、続く内田氏は「スマートグリッド」に触れ、蓄電能力の引き上げ、送電のシステムの整理ということに今こそ手がけていけば、日本の場合はかなり競争力が高まる可能性があると指摘しました。

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 次回の言論スタジオは、いま政府が進めている復興の動きをテーマに、5月13日(金)18:00から行う予定です。ぜひ、ご覧ください。

 4月28日、言論スタジオにて、湯元健治氏(日本総研理事)、内田和人氏(三菱東京UFJ銀行円貨資金証券部長)、鈴木準氏(大和総研主任研究員)が「マーケットは震災復興に何を求めているのか」をテーマに、議論を行いました。

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