まず、発災後これまでの政府の対応について、増田氏は、「自宅避難者も含めれば、今も実質上の避難生活者は20万人近くに上っているが、市町村ごとの瓦礫処理や仮設住宅の建設に差が出始めており、瓦礫処理がほとんど手に付いていない地域もある」と述べ、政府による一刻も早い対応を求めました。武藤氏は、様々な制約はあるだろうとした上で、「例えば義援金も、配っていく中で最終的に公平になればいいのであって、最初から公平な配り方などというと動かなくなる。やり方をもっと工夫すべきだ」としました。阪神淡路大震災の際に内閣官房副長官として司令塔の役割を果たした石原氏は、「震災発生直後の体制は、阪神淡路と比較しても機能していた」として評価しつつも、「政務三役だけが中心で動いて実務に当たる役人が指示待ちとなっており、その後の体制がうまくいっていない。決定をする際に最初から各省次官や担当の役人を入れるべきだ」と述べ、現在の政治主導の問題点を指摘しました。
次に、今後の復興に向けた政府の動きについて議論が行われました。政府の復興構想会議について、増田氏は議論がクローズなまま行われていることを問題視し、「被災者が共感を持てる議論をするためにも、今からでもこの会議における議論をもっとオープンにすべきだ」と指摘、武藤氏は、「日本の将来を踏まえた、発展の核となるアイデアを出したいというのは十分理解できるが、しかしこれはある意味で、復興の原則である「地域住民主体」ということと相容れないこと」と述べ、その覚悟を持った上で、地元重視の具体的な議論を行う必要性を訴えました。さらに石原氏は、阪神淡路の際に自社さ政権で一致団結して国会が機能した経緯について触れ、「今回も与野党はこれまでの体面はひとまず棚上げし、被災地の復興第一で、法案ごとに早く意見を統一し、政策合意をしていくべき」としました。
最後に、復興に向けた今後の展望について、石原氏は、「まず政治が決めるというスタイルではなくて、被災地のために、政官一体となって対応してもらいたい」と強調しました。増田氏は、「被災者の方が体を動かしてお金を稼げるような場を、無理をしてでもいち早くつくっていくいことが大切」と指摘するとともに、「現実に世界のサプライチェーンが止まっていることを考えれば、今回の東北の復興が、日本のためにも世界のためにもなるような復興にしなければならない」と述べました。武藤氏は、「新しい組織を作るのではなくて、今ある行政機構を活かすべき」として、県と市町村の密接なチャネルを今こそ有効活用すべきだと指摘、さらに財源の問題についても触れ、「国民が将来に不安を残さずに処理をしていくか、形はどうであれ、国民の負担をきちんと説明していかなければならない」と述べました。
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第1部 震災後2カ月 政府の取り組みはなぜ遅れるのか
工藤:こんばんは。言論NPO代表の工藤泰志です。さて言論NPOでは3月11日の東日本大震災から国民がきちんと共有できるような議論や情報を提供するため、言論スタジオで議論を開始しています。今回は第3回目になります。今、政府の方で震災復興の取り組みが始まっています。この政府の復興の動きに物申すという形で、議論をしてみたいとと思っています。
早速、出席者をご紹介します。まず、阪神淡路大震災時に内閣官房副長官として、まさに司令塔を務め、現在は地方自治研究機構会長の石原信雄さんです。宜しくお願いします。
石原:よろしくお願いします。
工藤:続いて、言論NPOのアドバイザリーボードのメンバーで、総務大臣や岩手県知事を務めた増田寛也さんです。よろしくお願いします。
増田:よろしくお願いします。
工藤:最後に、日銀副総裁を務められて、現在は大和総研の理事長で、言論NPOのアドバイザリーボードのメンバーもお願いしている武藤敏郎さんです。よろしくお願いします。
武藤:よろしくお願いします。
工藤:早いもので震災から2カ月が経ち、亡くなった方が15,000人、そして、まだ避難所に11万人もの方がいらっしゃいます。まさに、必死で命を救うための取り組みがなされています。まだまだ半ばだと思うのですが、この被災者を助けるための救援、復旧、復興の動きを現段階でどのように評価しているか。そこから議論を始めたいと思います。
では、最近被災地を訪問したばかり、という増田さんからお願いします。
増田:現在、避難所生活者が12万人弱ですが、避難所はプライバシーが無いので、壊れた自宅に震災後も住んでいる、いわゆる自宅避難者がかなりいまして、この人たちになかなか支援物資が届けられない問題があります。ざっと見ましたところ、20万人近くは実質上の避難生活者と言ってもいいのではないか、と思います。
阪神淡路大震災の時は、2カ月経った時点で都市計画が決まって、区画整理が進んで瓦礫処理も行われていました。これまでの対応を見ていますと、市町村ごとに瓦礫処理の進捗具合とか仮設住宅の建設に随分差が出てきたように感じます。全体的に少しずつ動き始めましたが、一方で、実質的な避難者がまだ20万人近くいる中で、瓦礫処理にほとんど手が付けられていない所もあります。岩手県の大槌町は町長が亡くなり、4分の1の職員がいないので、まだまだそういったところに手がついていない状況です。また、罹災証明が発行できていないので、義援金もやっと届き始めたという状況です。また実際には病気で避難所で命を落とされる人も出てきています。ですから、この被災地の人たちの「命を守る」と言うことをしっかりと他の人達にも伝えて、現実的に動かしていかないといけない、そんなことを強く感じました。
「命」を守ることに覚悟があるのか
工藤:「命を守る」という点で見れば、やはりいつまでにどういう形で一人一人に向かわないとならない。そのためには、政府のリーダーシップや強い意思が必要でしたが、今の政府の取り組みどう思われますか、石原さん。
石原:私はご紹介いただきましたように、16年前の阪神大震災時に官邸におりまして、復興対策にあたりましたが、その時と今回を比べて、初動体制と言いますか、震災発生直後の官邸の体制づくりは率直に申しまして、今回の方がよかったと思います。
阪神大震災の時は、現地からの情報が入らなくて、官邸自身で非常災害対策本部を立ち上げたのが、10時の閣議でした。5時46分に震災が起こりましたので、かなり遅れていました。ですから、政府の対応が遅れたことは非難されましたし、私共も率直にそれは認めざるを得ないことでした。
しかし、その後、現地の状況が分かるにつれて、政府は次々と対策を打ちました。この面では、今回よりも阪神大震災の時のほうが順調にいっていたと思います。
今回2カ月経ちますが、なかなか復旧、復興、あるいは救援といったことが円滑に進んでいないというのが率直な感想です。なぜなのか。1つ同情すべき点を言えば、今回は地震の規模がM9.0という大変な地震であり、また貞観地震以来の大津波がありまして、被災の程度も大きく、且つ阪神大震災のときは神戸、西宮、宝塚など阪神地区が中心で兵庫県内にとどまっていましたが、今回は青森県から千葉県まで範囲が広く、それに何と言っても福島原発の事故という非常に扱いの難しい問題が起こってしまった。そういうことで内閣の対応がうまくいっていない点はあります。
しかし、官邸自身の対応の仕方については、これだけの大災害ですから、本来、一般の津波の救済対策と原子力災害への対応は責任者を分けて、それぞれが責任を持って対応する体制を、当初からつくるべきだったと思います。今回は官邸が両方に対応しており、結果的には総理も官房長官も含めて原子力災害にいわばウェイトがかかってしまい、一般災害の対応については現地任せといった感じです。
阪神大震災のときは、震災が1月17日に起こったわけですが、3日後の20日には、すでに小里貞利さんという大変行動力のある大臣が、災害担当責任大臣として任命され、かつ小里さんを現地に駐在させて対策にあたらせた。また、この小里さんに各省の官僚の実力者を付けてもらい、いわば現地で、即断即決で対応する、その結果についてはすべて官邸が責任を負うということを総理からはっきり言っていただきました。
そのことが、その後の瓦礫の処理をはじめとした色々な問題の対応を非常にスムーズにしたと思います。今回は現地の責任者がいるわけではないし、対応がちぐはぐだったのではないかというイメージです。
工藤:武藤さんは、当時は主計局次長で、瓦礫処理担当だったそうですが。どうですか、今見ていて。
武藤:まさに瓦礫の処理についてどうも遅いと言うことで調べてみました。阪神淡路大震災のときは2カ月後に瓦礫の80%は処理されていました。それはなぜかというと、埋め立て地に瓦礫を投棄することができたからです。。
今回は5月2日時点で、丸2カ月は経っていませんが、岩手で16%、宮城で2%、福島で4%程度しか瓦礫の処理がなされていません。まさにご指摘があったように、瓦礫がなかなか処理されないと衛生問題とか、住民の方も新たにスタートする元気が出てこないなど、心理的にも衛生的にも色々な問題が出てくるのではないかと思います。瓦礫を処理するにあたり、今回は海に投棄できませんので、山に投棄するしかありません。そこで、どこに投棄するかとなれば国有地を探すしかありません。しかし、塩水に浸かったものを勝手に埋め立てると塩害の元になるので、色々考えるとやることがたくさんある。それが、がれき処理が十分なされていないということの1つの理由だと思います。
仮設住宅も、阪神淡路大震災時は60日後には66%、3分の2は仮設住宅が出来上がっていました。最終的に全部できるためには、時間がある程度かかりました。今回は、7万2,000戸が必要と言われていますが、現時点でその11%の8,000戸しか完成しておらず、圧倒的に遅れています。先ほど石原さんが指摘されたように、様々な点で阪神淡路大震災時と条件が違うとは思いますが、阪神淡路大震災の時には1月17日の震災後、復興の提言が3月に出されています。それから法律も2月から3月にはできていました。
石原:そうです。2月末には16本もできていた。
武藤:3月には関連法案が成立している。あの時は、やはり役所がそれぞれの情報を把握して、総合的に動いて、法律のどこをどう変えるべきなのかということを、いち早くまとめていたわけです。もちろん政治には頻繁に報告しながらやっていました。
政治家主導で官僚を動かしていない
石原:今の点は非常に大事なところです。あの時は各省の責任者、予算も法案も何をなすべきか分かる人を現地の小里さんの下に派遣しました。彼らがこうしてほしい、ああしてほしいという情報をどんどん上げて、官邸が各省庁と連絡してどんどん具体化していったわけです。今回は、どうも政治主導ということで、各省とも政務三役が中心で動いていて、実務に当たる役人は指示待ちなのです。私は、これが初動体制の遅れの要因であるのは否めないと思っています。
武藤:様々な事情があるにしろ、今回のやり方において、もっと工夫がなされるべきだったのではないかと思います。例えば、義援金が届いていないそうですが、それは「公平でなければいけない」とかいう議論が先にあり、誰も決めない。だけど、義援金についてはとりあえず配って、何度も配っているうちに結果として公平が実現されればいいわけです。
増田:阪神淡路大震災の時は2週間くらいで第1陣を配っていましたよね。
武藤:最初から、公平に配るべき、という議論をしてしまうと動かなくなるのです。有益な意見や議論はたくさん出てきても決断が遅いということだと思います。
石原:やはり実務経験者がいないからです。慣れた人がいれば、その段取りはどんどん進むのです。やはり政治家がまず仕切って、役人は指示を受けて動けばいいというのが、あらゆる面で影響していますね。
増田:現地の市長さんにお会いしましたが、とにかく政務三役や政治家の方の視察が多くて大変だと言っていました。政治家はいろいろ言いますが、後でフォローした際に、下におりてなくて、実務的につなぎようが無い。皆さん「分かりました、分かりました。帰ってから進めます」とか言いながらそれっきりで、その繰り返しだということです。まさにおっしゃったように、役人は指示待ちで、しかも出すぎてもいけない。
石原:政務三役と官僚組織の間が切れています。それが致命傷ですね。
工藤:しかし、初動については、生命の問題もあり、スピードの問題ですよね。
増田:やはり避難所で体調を悪くして命を落とした人がいます。
石原:初めの救急・救命を含めて、初期の段階は時間の問題です。いかに早く手を打つか。そこが非常に遅れていて、阪神淡路大震災のときと大きく違います。
工藤:これは、命がかかっている問題ですので、政府の責任問題は大きい。それくらい真剣に考えてもらわないといけない。
石原:私は、先般、今回の復興構想会議で意見を聞かれて、内容の問題はともかく、執行体制の問題として今の点を申し上げました。どうするかを決定する際に、政務三役会議の中に、始めから次官とか担当局長を入れれば、すぐに動く話なのですが、入れていない。私はこれからでもいいので、次官とか担当局長を入れるべきではないかと申し上げました。
それから、地方の県庁や市役所の方が色々と悩みがあった際に訴える場合に、今は、政治家に言ってくれということになっているのですが、政治家は色々なことをやっており、専門家ではないわけです。それよりは、現地でいろんな問題が起きれば、各省の担当者に日頃からコンタクトを取っていますので、そこに意見を言って、担当者を通じて政務三役、大臣や官邸に伝えるという道を認めて欲しい、作ってほしいと申し上げました。
今の政権になってから、官僚が事務レベルで地方の要望や意見を聞いてはいけないとなっていて、全て政治家に回せということで、受け付けてはいけないことになっています。でも、災害復興とか、人命救助の時にそんな余裕はありません。やはり困ったことが起きれば、担当の事務のところから上げたらいいのです。その道を開けて欲しいと復興構想会議で申し上げました。
増田:そうですね。しかもその上げる先が20くらいあって、どこに上げたらいいのか分からない。
石原:政治家に言ってくれと言われても、どの政治家に言えばいいのか分からない。結局、被災地の人は色々な具体的な悩み事を訴えるところが無いのです。視察に来た時に話を聞いてもらうしかない。しかし、増田さんもおっしゃったように、視察に来た人に訴えても、それがいつ、どこで、どのように実行されるのかわからない。
増田:フォローされていないですね。私は、直接そういう声を聞きました。
工藤:ようやく菅首相もお盆までに仮設住宅を作るとか、瓦礫の撤去を行うとか言いましたが、それだって目処がついていない。
石原:それは目標というだけ。一種の願望に近い目標。
工藤:それでは議論が盛り上がってきましたが、一度休憩を入れます。
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第2部 復興構想会議は機能するのか
工藤:それでは復興という問題について考えていきたいと思います。阪神淡路大震災の時は復興という動きがすぐにできて、下河辺さんがやっていた検討会議では官僚の横の連携もできて、何よりも兵庫県、地元の復興の仕組みも同時に動いたわけですね。今回の場合は、1カ月後にようやく政府の方に復興構想会議ができました。その後、議論をしているのですが、私には止まっているように見えます。そのあたりをどうお考えでしょうか。増田さんお願いします。
議論が国民に開かれないのはなぜか
増田:復興構想会議が始まっているのですが、結局、被災地のあり方とか居住をどうするのか、仕事をどうするかとか、に最後は答えを出して立て直しをしなくてはいけない。被災地にいて、とにかくこれから必死になって頑張ろうという被災者と、政府の動きは遊離をしては絶対いけないわけです。会議は6月に第一次提言が出るのであれなのですが、復興構想会議の議論は内容が全く密室的に閉じられていて、資料だけは出るのですが、マスコミも完全にシャットアウトしてやっている。
工藤:そうなのですか。
増田:マスコミも。最近の官邸の会議というのは、私が以前、安心社会実現会議のメンバーで事務局長をやっていた時には、インターネット中継までして、麻生さんの失言なんかもそのまま出て、後で怒られたりもしたのですが、それだけ社会保障の議論はオープンでやりました。そこまでやらなくても、例えば、テレビは頭撮りでいいけども、記者さんはずっと見られるようにするなどの対応をしていたのですが、今回それ自体完全にシャットアウトしてしまった。
工藤:なぜでしょうか。
増田:閉じられた議論をやっている。私はそれだとやはりまずいと思っています。全部議論が終わって、最後に議事録を公開するらしいです。また、名前はなくてもいいと思うのですが、毎回の議事要旨もすごく後になって発表している。2回ぐらい前のもので、ごく簡単なものが2週間経ってやっと公開される。そういう密室の議論をやっていると、いい議論でも、被災者からどんどん遊離していってしまいます。あるいは、東京の方から現地をちらっと見に来て、後は東京で有識者の人たちが色々な絵を描いているなということになりかねない。それを感じたのは、この間、七原則を出したのですが、その時、私は被災地にいて、みなさん方も名前聞けばわかるような方と、これ今、七原則出たのでどうだと言ったら、彼はじーっと見て、やっぱり文章がきれいすぎて、自分たちの苦悩はここには入っていないと言っていました。
多分、あの有識者の人たちも本当に色々なことを考えて練ったのだとは思うのですが、その中でのお互いの意見の違いとか苦労のところが全然外に出てきていない。結局、きれいごとにまとめたのではないか、という風にこの七原則ですら受け取られている。これからの6月下旬の第一次提言について、そんな風に扱われるのではないかという怖さがあります。今からでもいいのですが、もっと議論をオープンにした方がいいと思います。それから、その人と見ていて、七原則というには文章になってしまっていて長すぎる。どれが原則なのかよく分からない。
工藤:本当ですよね。
増田:「七」というのもちょっと多い気がするのですが、そこまでするなら各原則一行で書かないと、ビジョンは地元主体でとか。これだと文章になっていて、何が原則なのかわからなくて、被災地の方も結局何なのだろうなと言っていました。これからでも修正してやっていくべきだと思います。
工藤:被災者が共感できないような復興の議論はよくないですよね。
石原:その点、復興構想会議の立て方というか、メンバーの選び方とか。
工藤:組み立て方。
石原:組み立て方とかね。そこに私はちょっと疑問を感じます。阪神淡路大震災の時は、国土政策の大家で、かつ実務もよく分かった下河辺さんが座長になって、それでメンバーも非常に数少なかったのですよ。兵庫県知事の貝原くんと神戸市長と、関経連の川上会長。それからアイデアマンの堺屋太一さんに入ってもらって。都市計画の方は伊藤滋さん。実務的に詳しいこの方に入ってもらいました。非常に人数が少なくて、かつ議論が具体的にどんどん進んでいきました。
今回は構想会議というから構想なのでしょうけど、議論が広遠かつ広範というイメージですね。メンバーを見ましても、著名な哲学者とかあるいは小説家とかいろいろな分野の方がいますが、私の率直な印象としては、実務家、実務経験者というのがほとんど見えません。これから復興構想会議がいろいろなご提言をされていくのでしょうけど、具体的な復興計画に結び付けていくかについては、かなり苦労するのではないかと思います。
工藤:しかも、阪神淡路大震災の時には、復興会議の下にちゃんと実務者が集まる連絡会議もつくっているし、とにかく実行するというイメージですよね。今回は実行するというよりは、アイデアを出すという感じがします。
会議と実行部隊の連動の組み立てがない
石原:そう。あくまで、阪神・淡路の際には復興委員会が議論しているけど、それを受けてすぐ各省庁の担当者が詰めていてそれで具体化するんですよ。そのつながりというのが極めて密接でした。今回、私は構想会議と各省の実務家、事務方がどうつながっているのかよくわからない。そこら辺の流れが良く分かりません。
工藤:だから、アイデアを出すところと実施する仕組みとの連携がよく見えない。後、被災地となり地方との関係ですよね。武藤さんはどう見ていますか。
武藤:復興については、地域住民主体というのがまず第1原則です。これは七原則の中にも入っていますけど、しかし、これは地震が起こった翌日にはもう分かっていることなので何も議論なんかする必要がない。
工藤:議論なんかしなくてもわかりますよね。
武藤:ただ、阪神淡路大震災の場合には、今回と違っていて、一応、まとまった地域であり、兵庫県という比較的経済力のある地域だったので、市街地再開発みたいなところも進んでいけたので、多少事情が違うかもしれません。その点については、私も多少考慮しなければいけないと思うのですが、しかし、今回、東日本の場合には具体的な構想といったところで、何をやるかという具体的なことを考えないといけないわけです。地元重視でやって、具体的なものというところまでいかないと、多分、抽象的なことを言っても、地元はそんな理想的なことを言われても、とてもついていけないということになって、結局、絵にかいた餅になってしまう、という怖れを私は今から危惧するわけです。
もちろん、ただ単に前に戻るのではなくて、日本の将来を踏まえた中、発展の核となるアイデアを出したいと、復興構想会議にそういう気持ちがあるということは私はよくわかります。しかし、これは、地元住民重視ということとは本来、親和性のない、ある意味相反するところがあって、ものすごく政治側の決断がないとうまくいかないわけです。その覚悟が本当にどこまであるのか、そういうことを全部わかった上で構想会議が絵にかいた餅にならないようにやってもらいたい。まだ6月だから評価は早いわけですけど、やるのであればそこまで考えてやらないと、さんざん議論して、理想的なものはできたけど進まないと。現に、瓦礫の処理と仮設住宅を復旧と言っているのだけど、復旧がこれだけできていない。地元の意見を聞くといっても、そんなことよりもまず瓦礫を何とかしなければいけない、という現場感覚というのがちょっとなかなかついてきていないところがありますね。
だから、現場重視と、現場が混乱しているということを踏まえると、早く地元をきれいにして、それから構想に地元が参加する。その上で具体的なものをどう考えていくのかです。地に足がついたような、かつての石原副長官のような方が、きちんと手順を考えていかないと、何となく不安を感じますね。
工藤:復興法案というのは、今日、閣議決定をして国会に出したという段階です。つまり、2カ月経ったわけですね。阪神淡路大震災の時は、一カ月あまりで復興関連法案まで16法案くらい出て全部決まっちゃっていましたよね。予算も。
石原:半月後にはもう大体スタートしましたから。
工藤:ですよね。でも、今回はようやく復旧の第一次補正予算が決まり、復興法案が出てきたと。この状況の動きについてどう思いますか。
スピード感がなさ過ぎる
増田:6月に提言があると、おそらく今回は官僚の人達とはつながりが非常に悪いですから、それから多分、各省はいろいろな計画を作って、必要な予算をということになる。で秋になって、やっと色々なことが政府として見えてくるくらいの、こんな時間差があるような気がします。結局、秋までかかってしまう。被災地ではもう待ちきれずにみんなもうジリジリして、早く震災前の3月10日の時点に戻りたい、早く3月10日の時点に戻してくれという声が出てきています。被災直後は茫然としていましたけど、色々な将来のことを考えていかなければいけないという気になってくる。これからの一次提言に向かって色々やるのでしょうけど、復興会議も早くやれるものはどんどん提言をしていく。で、それをもとに各役所を動かす。早く総力を挙げて動けるようにしていかなくてはならない。それから今おっしゃったように、将来については、ある程度気持ちが落ち着かないと冷静な議論につながりませんから、仮設住宅や瓦礫の処理、それから当面の生活費をどう稼ぐのか、ということについても、大至急やらないと。そのあたりについては全体の手綱の締め具合とか緩め具合とかを早くして、責任持ってやることが必要なのだと思います。
工藤:復興法案では、1年後に復興院を作る。このスピード感はどうなのでしょうか。
武藤:どういう理由で1年後ということなのかは私も理解できません。今回の3県の特殊性というのはそれぞれ違います。福島は全く原発という別の問題で苦しんでいる。地域には様々な意見もあり、それをくみ上げながら全体をまとめる、ということが一刻も早く必要だと思います。これらをもし、復興庁をつくってやるというのであれば、1年以内という時間軸はちょっと考えられません。
石原:長いですね。僕は被災地の被災者の現況を考えると、1年後に何か考えましょうというと、とてもそんな状況じゃないと思いますよ。すぐにでも何か手を打たないといけない状態にあるわけです。
復興庁をつくるか、つくらないかはこれから国会で論議されるのでしょうけど、つくるなら早くつくるということと、復興庁には、現地の意見をどんどん汲み上げて、実行に移せる権限を与えなければいけません。せっかくつくっても、結局、各省や官邸に相談してというのでは駄目ですよ。作るなら現実主義、それから権限を与えて即断即決できるような体制をつくる、ということが絶対必要ですね。
そのことに関連して、実は阪神淡路大震災の時は、幸いなことに、あれは自社さ連立政権でした。
工藤:そうですね。
石原:国会は参議院も衆議院もねじれではなくて、過半数を持っていました。ですから、3党が一致結束して対策に当たる。かなり性格の違う自民党と社会党、さきがけという元々カラーの違う政党ですが、大震災への対応というのはそういう政党の違いなく一致団結して、どこの党出身の閣僚でもとにかく全力でやるという閣内の結束というか、気迫というのが非常にありました。そういうこともあって、必要な法案を準備したら、衆議院も参議院も次々に国会が処理してくれたわけですよ。それから、もちろん野党は野党としてのご意見がありました。
私もよく官邸で野党の意見も承りましたけども、野党も国会審議を止めるようなことは全くありませんでした。意見は言うけど、どんどん進めていく。その点、今回は非常に残念なことに衆議院と参議院がねじれています。しかも、震災が起こるまでは与野党の攻防戦が激しかったわけだから、何となくそういうことが、政局絡みのような臭いがしながら問題が出てきている。これは、非常に不幸なことだと思います。私は今回、被災地の皆さまの現状を考えれば、与党も野党もそれぞれの今までの体面はまず棚上げして、被災地の皆さんのことを第一に考えて、政策合意というか法案ごとに意見を統一して、法案はその代わりにどんどん上げてほしいですよ。例えば、財源をどう捻出するかという話になると、既定経費の何を削るかという話でそれぞれ思惑があるけど、そういう思惑は捨てて、被災地の復興第一で与野党が議論してほしいですね。
工藤:政治の話は関心があるので、またあとからもう一回進めますが、実行の仕組みはどういう風に組み立てたら機能するのでしょうか。つまり、閣僚会議と復興構想会議だけで機能するのか。増田さんは昔、「東北復興院を作ろう」と言っていましたよね。
増田:今、お話にあったように、屋上屋になったり、二重手間になったら大変ですから、下手な組織を作って、結局、そこを通さなければダメということは避けるべきだと思います。要するに、一番大事なのはそうした組織は現地にあって、意見の違うところは別にしても、当面やらなければいけないことはわかりきっているわけですから、そういうことについてスムーズに働くような強力な組織を作るということが大事で、つくるのだったら1年待たずに早くつくる。そして現地で決められることはどんどん決めて実行していく。
工藤:なるべく現場でなければいけないと。しかし、権限がないといけない。屋上屋を重ねるような組織を作ることが目的ではなくて、実行するための組織をつくらなければいけない。
増田:そういう組織がやっぱり僕は必要だと思います。
工藤:分かりました。ここでもう一度、休憩してまた次に進みます。
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第3部 被災地の復興をどう動かすか
工藤:では、最後の議論に入りたいと思います。今までの話を伺っていると、被災地の復興がちゃんと動くのか、ということが心配になってきました。2つの面で議論しないといけないと思うのですが、1つは政治の問題、もう1つは執行の仕組みの問題だと思います。
自然災害と人的災害は違うかもしれませんが、9.11のときにブッシュさんが、選挙の時に僅差で勝ってどちらが当選したのか分からないような状況でしたが、9.11の危機をバネにして、議会の中の支持を集めて、国民の合意も得るという形で、国を守らなければならないということでまとまりました。しかし、今の日本の政治状況は、この危機の時に政局が分裂していて、党内もおかしいという状況になっています。つまり、政治的な求心力がないように見えてしまうわけです。
一方で、冒頭に石原さんにも言われたのですが、「政治主導」が「政治家主導」になってしまっていて、官も含めた政府の機能を全面的に使って、被災地対策に全力を尽くす仕組みにまだなっていないような気もしています。もしこの状況が続くのであれば、復興はまだ遠い先に思えます。8月のお盆までに仮設住宅をつくるとか、瓦礫処理も8月に終えるとの目標は出していますけれど、それすらちゃんとできるのか疑わしい。
政治と官が一体で動かす仕組みが急務
石原:先ほど言いましたように、これから復興構想会議から色々な提案があったら、それを具体化せねばいけない。その時に、やはり私は政治主導という形にこだわってはいけないと思います。各省とも大臣以下、政務三役が中心で動くのは結構ですが、その中に直に担当局長が一緒に入って議論すべきです。そうすればすぐ具体化します。見ていますと、依然として政治家だけが動いて、事務方の動きが見えません。やはり、こういう非常事態ですから、政も官も一体にやらなければいけません。
工藤:武藤さんはどうですか。実行させるためには、どうしたらいいのでしょうか。
武藤:実行段階になりますと、政治が全部決めて、後は実行だけなどということはあり得ません。決めたことが、いざ実行してみると、ここを変えなければいけないとか、これはどうもだめだとか、そういうフィードバックが当然あるはずです。だから決めるまで動くな、決めたからやれとか、そういう順番で物事を考えているとすると、役所の機構の使い方としてちょっと現実離れした話です。決めたらどんどん指示が出て、やっていく中でまたフィードバックして決断を仰いで、ということで実行していくわけで、本当の意味で、実行するというのはそういうことだと思います。
工藤:増田さん、例えば8月のお盆までに仮設住宅の目途をつけますと言っていますよね。瓦礫処理もそうです。でも、これまでの話だとそれが実行できるかわからないわけですよね。一方で、被災地の住民の理解が得られないような復興ということは、問題なわけですよね。そのためには現地との連動も大切ですし、東北の未来を考えるようになるためには、被災地が出口が実感できるようにならないとならない。それについて、どのように懸念されていますか。
増田:お盆までというのはほぼ限界で、今の状況も埃が舞うような中ですから、非常に衛生的にも悪いのです。お盆を過ぎると非常に気温が下がってきて、9月になると気温が10度以下になるような地域です。ですから、やはりある程度プライバシーが守られて、居住環境があるということが最低限必要です。そういう意味で仮設住宅などは急がなくてはならない。これからの将来に向けての話になると、例えば、水産業をどういう風に立ち直らせるか。6月になるとカツオがやって来ますし、9月になるとサンマとか秋サケ、そういう時期がやってきます。私は、仮設住宅も非常に大事ですけれども、被災者のみなさんが、体を動かしてお金を稼げるという場を無理してでもいち早く作っていく、そういうことができると将来に向けて少し落ち着いた気持ちになってくるのではないかと思います。仮設住宅の建設や、瓦礫の処理は男手が必要で、非常に危ないのですが、それだけではなくて、避難所で女性陣が洗濯していますけれども、あれもやっぱり立派な仕事だということで、お金を少しでも支払うようなことをする。被災者みなさん方が、きちんとしたお金を得るような仕組みを早く作ってあげていく。そういうことを含めてやらないと、なかなか復興についての議論ができないと思います。
多分、そういう声というのは、市町村はもちろん切実ですが、今回は市町村がかなり打撃を受けているので、なかなか国にそうした声がきちんと上がっていかない。県がその点を相当綿密に考えて、国につないでいくということが必要になると思います。今見ていると、その場が復興会議だけになっていて、なかなかそれ以外の所について役所との上手いつながりが見えていません。お二方もおっしゃいましたけれど、政務三役が色々な問題を最終的に判断する、それはそれで政治が判断しなければならない、財源の部分などはあると思います。しかし、もっと手前のところで、そこまでやらなくて判断できることは沢山あって、それがまだ決まっていない。そこで溜まっているものを、一気に吐き出して処理するようなスピード感が絶対に必要になってくる。そのリズムを早く作り出していかなければならないと思います。
工藤:今の仕組みでできますか。
増田:やはり、形式的に20ある会議を、少し名前を変えて整理しましたけれど、思い切って削るところは削る。こういう緊急の時には、かなり少ない人たちで判断できるようにしなくてはいけないので、今のままだとそれはなかなか動けないと思いますね。
工藤:なんか20の会議があって、官僚の人たちがあちこちに出されている。
増田:あんまり具体的にいうと固有名詞がわかってしまうので、後で冷や飯食らうのがかわいそうなのですが、私の同期も、そういう事務局の次長とか枢要なところにいますが、彼から、今日もまだあと2つ会議があると、聞くわけです。しかも、そのほとんどが同じメンバーなんですが、少し政治家の人たちの参加が違うこともあるので、官邸周辺、内閣府あたりを次から次に渡り歩いているわけです。
工藤:会議がそこまで増えたというのは、政治が責任を持って決定できないから、増えているように見える。
石原:これから復旧から復興の段階に移ってきます。やはり、政府の中枢に会議が多過ぎる。意思決定のメカニズムというのはシンプルな方がいいと思います。特に、こういう災害対応というのは、要するにスピードなのです。今、色々な組織があって議論をしていて、その答えを政治が待っているようなところがあります。そこの整理がないと、困ったことになりますよ。
なぜ官邸の会議が乱立するのか
工藤:石原さんは、なぜ会議がどんどん増えてしまっているのだと思いますか。
石原:どうしてそんなに作ったのかわかりませんけどね、色々な問題が起こると、それについてこういう人を集めて、意見を聞こうということで、次々につくっていったのではないでしょうかね。
とにかく数が多いですよね。どこの意見を聞いたらいいのかわからない、なんて言っている人がいるわけですから。
増田:議論好きだけど、決めない政権だから。
工藤:責任を持って政治が決めれないから議論が自己増殖をしている。
武藤:議論している中のかなりの部分は、昔であれば役所が案をつくって、それをああいう人たちの前でご判断を仰ぐという流れだったと思います。ところが、ああいう人たちが集まって初めから具体的な案を作るというのは、時間もかかるし、ちょっと無駄なのですよね。
石原:そうなのですよ、原案を役所に作らせて、それをベースにして議論してどっちにするかを決めていくというのが早くいくのです。今は、復興構想会議あるいは政務三役会議で議論して、原案をどうするかの議論から始まっているのですよ。
武藤:4月中につくれと言えば、おそらく役所は作りますよ。それを審議するというやり方を踏むべきだと思います。
工藤:政治がそれを決定すればいいだけですよね。
武藤:さっきの仮設住宅の話ですが、用地が未定なのがまだ何万戸もあり、用地さえも決まっていないのだから、できっこないのです。
石原:それは用地が先ですよね。
武藤:用地が先です。そういうことをすぐに上げれば、みんながそうだということになって動くはずなのだけれども、なんだか締まりのない議論になってしまっていますね。
石原:用地は、具体的にどこ、という話なのですから。
武藤:もう現場の判断ですよね。
石原:阪神淡路大震災の時に、非常に幸いだったのは周辺に仮設住宅を建設する用地があったことで、どんどん建設できました。しかし、今回の被災地はみんな湾のところで、今まで生活していたところはみんな水浸しでしょう。だから、高地に作らなければならない。ところが地形を見ればわかるように、そのままで適地というのはあまりありません。削って作るのか、少し奥に入って作るのか、それは現地判断でどんどん具体的な議論をしたらいいのですよ。
増田:農地法の手続きとか土地計画法の用途地域の手続きがあります。だから思い切って仮設住宅は最大で2年間と法定されていますが、仮に、今回特別に最大3年間延ばすにしても、その間だけはそういう手続きはフリーにする。農地の提供者本人もいいと言っているわけですから、その間のお金は払って、その人たちの補償はし、手続きは一切いらないという風にすると、もっとパッと決まると思います。
この際、思い切って手続きを全部、災害復旧ということで用地を決められるようにするということを、決めればいいと思います。
工藤:今は、被災地の復興のためには地域指定などが必要ですが、建物を作ることは建築基準法で縛っている段階です。それも時間的な制限があります。
増田:だから、私権制限につながる部分があるので、根拠は何かということを明示する必要があります。そういう手続きについては全部無しにしてもいいという根拠をきちんと今決めることが必要ではないかと思います。
武藤:阪神淡路大震災の時は、16本の法律をつくりましたが、現行の法規制を緩めるということが、かなりの部分ありました。法律で決まったことは、法律で緩めればいいわけです。それを、すぐにやらなければいけない。
工藤:ただその法案が今回はまだ通っていない。
石原:いわゆる、特区的な発想で幅広く認めたらいいのです。この期間は、農地法にしても都市計画法にしても、そういういうものの制約を、この期間は仮設住宅については取り払うということをすればいいのですよ。
増田:仮設住宅についての役割分担で言うと、資材はお金を含めて、国がきちんと用意をする。発注は県になります。できあがった仮設住宅は県の住宅になります。但し、用地手当は市町村ということになっています。ただ、国の方は、色々と言われるので、資材はきちんと用意したけど、遅れているのは用地手当ての部分で、これはやはり地元の問題だという、そんな雰囲気になりつつあります。しかし、現実にはなかなかそれでは動きません。お互いにどんどん前に出ていって、用地手当の分については、手続きの規制を緩和するから、どんどんやれという風な形で市町村の後押しをすれば、市町村はもっと見つけやすくなると思います。
現場主義の復興をどう考えるか
工藤:さっきの議論だとちょっとまだ深まっていなかったのですが、地方と国、政府との復興計画の進め方の問題はどうすればいいのでしょうか。
宮城県は復興委員会を作っていますよね。阪神淡路大震災の時は、兵庫県がつくっていました。やはり、地方がかなり動いて、それを政府がバックアップして実行させた。今のこの動きというのは、確かに、阪神淡路大震災の時には神戸市がありましたから、財政力の弱い東北の場合は少し違うという問題はあるのですが、地域を主体にしながら国が一緒にサポートしてやっていくというこの仕組みは、どういう風に実現すればいいのでしょうか。
石原:私は基本的には具体的な計画というのは、県の計画をベースにすべきだと思います。県はもちろん市町村の意見を聞きながら作っているですから。東京で決めるのは大きな方向付けで、県が決めたものをバックアップするってことに徹したらいいのですよ。
東京で考えている通りにはいきません。その点は、阪神大震災の時は両方平行して、やっていました。現地の復興会議で議論したことを、神戸市長や兵庫県知事など同じメンバーが国の会議にも入っていましたから、そのまま持ってきてそこで議論したわけです。
工藤:復興構想会議は30人くらいいる中で、地元関係は3人程度しかいない。
石原:復興構想会議に知事は入っています。ただ、具体的に審議をどういう風にやっているのかは分かりませんが、一定の時間を与えられて発言しているだけでは不十分です。
武藤:工藤さんがおっしゃったように、新しい組織を作るのは時間の無駄だし、多分、機能しないのではないでしょうか。今ある行政機構は、県・市町村とそれぞれの省庁であり、それらが密接なチャネルがあるわけです。その日本のシステム、チャネルの強さはすばらしいものだと思います。要するに、現場の力は、アメリカやヨーロッパと比べても、私は、はるかに日本の方が強いと思う。その部分をどうも活かしていない、という感じがします。
石原:従来フルに動いていたものが、今回は動いてない。やはり政治主導ということが、災いしているのですよ。要するに、県や市町村や現場の色々な声を、すぐ各省の担当者に届けて、取り上げればいいのですよ。政務三役会議で仕切ってからというのは、時間の無駄ですよ。
被災地で広がる国との距離感
工藤:阪神淡路大震災の話を見ていると、そのやり方、例えば、県民との意見とかね、住民に対してフィードバックしていました。地域のみんなが色々な情報を共有して考えていく。そういうプロセスを大事にしていたのですが、今はそんな余裕が無い状況なのですが、やはりそういう視点も必要ですよね。
武藤:我々の時は、各省が現場とすぐに議論して、何が必要かということで、中央の本部にすぐに上がってきて、現場の議論をすぐに聞いていたわけです。これは、従来のチャネルを使えば、ただちに上がってくるわけです。
工藤:増田さんはどうですか。地域と政府との関係。
増田:今、被災地の人たちの空気は、とても復興を議論するような雰囲気ではありません。こちらで復興構想会議の資料とか色々貰って見ていますけど、向こうに戻りますと、とても復興を言い出せる状況ではありません。復興会議の議論が、もの凄く遠くに見えてしまいます。やはり、もっと近づける必要があると思います。
石原:目先の問題を早く解決することが必要ですね。
増田:もう1つは、東北は非常に共助の仕組みとか、共同体の力が強いので、むしろ公的なことでやれることの限界を早く示せれば、後は共助でやり抜くしかないという覚悟が決まります。そういうことがやはり必要ではないでしょうか。
石原:何がネックになるか、どういうことについて法律の特例を設けたらよいか、担当者はよく知っているわけです。彼らを一緒に議論に加えれば、どうすればいいかという案はすぐに出てきますよ。やはり政治家は距離を置いて物事を見ていますから、どこをどうしたらいいか、という話にすぐにならない。
工藤:時間も差し迫ってきましたので、最後に一言ずつお願いします。僕は、本当に今の政権、今の政治の仕組みで、復興に期待できるかということを、非常に心配にしているわけなのですが、東北、日本の復興を進めるために、みなさんが今思ってることを、一言ずつお願いしたいと思います。
石原:くどいようですけど、今回はこういう大災害ですから被災者の立場に立って、復旧にしても復興にしても、スピードが大事なのです。そのためにはどうしたらいいのか。私は、国民の力を結集することが重要だと思います。具体的に言うと、政も官も一体となって必要な事務をやる、ということに徹したらいいと思います。役人諸君は、何が必要か、何が不要なのかということを、よく知っているわけです。彼らの意見をどんどん取り入れたらいいのですよ。まず政治が決めるというスタイルではなくて、彼らと一体でやってもらいたいと思います。それがポイントですね。
武藤:私の立場では1つ。今日は話題に出ませんでしたが、結局、復興財源の問題に最終的にはなると思います。まだ、早いとは思いますけれども、少なくともむしろ政治は、そこをまず頭の中において行動してもらいたいと思います。おそらく赤字を垂れ流すような安易なやり方でやれば、財政問題が色々な形で起こってきて、復興事業の円滑な遂行さえも困難になりかねないと、私は思っています。したがって、こういう時の国民連帯というものをどうやって示すか、ということです。昨年、オーストラリアで大洪水がありましたが、あの時に所得税の増税をしました。災害に対してどうやって、国民が将来に負担を残さずに処理していくかということを、政治がみんな真剣に考えているわけです。増税が大変だというのはわかりますけれど、しかし、どういう形かはともかくとして、最後はそれを国民連帯で負担をしていく、政治がきちんと説明していくことが必要なのではないかと思います。
工藤:この前の第一次補正は。その点を先送りしていますからね。
石原:財源の問題こそ政治の出番ですよ。
工藤:それでは、最後に増田さんお願いします。
日本や世界に役立つ復興を
増田:岩手県で知事をしていた立場から言えば、東北の復興は日本だけではなくて、世界に役立つような、そういう復興にしなくてはいけないなと思います。現実にはサプライチェーンが、日本だけではなくて、世界で止まっている。必ずあそこの復興を成し遂げる。それは日本の為にもなるけれども、世界のためにもなる。そういう絵をきちんと描いて、それを復興に結びつける。そういうつもりでこれから復興していかなくてはいけないと思います。
工藤:もう時間との戦いです。これをやりきらなければいけないと思いますので、そういう意味で政府には期待したいし、僕たちもその動きをきちんとした形でチェックをして、色々な議論をやっていきたいと思っています。
この言論スタジオは、次は5月18日にやることになっています。今度は、緊急医療の問題の総括を含めて、今、被災地の医療でどういうことが問われているのか、ということを議論したいと思います。引き続き、みなさん、よろしくお願いします。
今日は、ありがとうございました。
一同:ありがとうございました。
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5月13日、言論スタジオにて、石原信雄氏(地方自治研究機構会長、元内閣官房副長官)、武藤敏郎氏(大和総研理事長、元日銀副総裁)、増田寛也氏(野村総研顧問、元総務大臣)が、「政府の復興計画を点検する」をテーマに議論を行いました。
2011年5月13日(金)放送
出演者:
石原信雄氏(地方自治研究機構会長、元内閣官房副長官)
武藤敏郎氏(大和総研理事長、元日銀副総裁)
増田寛也氏(野村総研顧問、元総務大臣)
司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)
まず、発災後これまでの政府の対応について、増田氏は、「自宅避難者も含めれば、今も実質上の避難生活者は20万人近くに上っているが、市町村ごとの瓦礫処理や仮設住宅の建設に差が出始めており、瓦礫処理がほとんど手に付いていない地域もある」と述べ、政府による一刻も早い対応を求めました。武藤氏は、様々な制約はあるだろうとした上で、「例えば義援金も、配っていく中で最終的に公平になればいいのであって、最初から公平な配り方などというと動かなくなる。やり方をもっと工夫すべきだ」としました。阪神淡路大震災の際に内閣官房副長官として司令塔の役割を果たした石原氏は、「震災発生直後の体制は、阪神淡路と比較しても機能していた」として評価しつつも、「政務三役だけが中心で動いて実務に当たる役人が指示待ちとなっており、その後の体制がうまくいっていない。決定をする際に最初から各省次官や担当の役人を入れるべきだ」と述べ、現在の政治主導の問題点を指摘しました。
次に、今後の復興に向けた政府の動きについて議論が行われました。政府の復興構想会議について、増田氏は議論がクローズなまま行われていることを問題視し、「被災者が共感を持てる議論をするためにも、今からでもこの会議における議論をもっとオープンにすべきだ」と指摘、武藤氏は、「日本の将来を踏まえた、発展の核となるアイデアを出したいというのは十分理解できるが、しかしこれはある意味で、復興の原則である「地域住民主体」ということと相容れないこと」と述べ、その覚悟を持った上で、地元重視の具体的な議論を行う必要性を訴えました。さらに石原氏は、阪神淡路の際に自社さ政権で一致団結して国会が機能した経緯について触れ、「今回も与野党はこれまでの体面はひとまず棚上げし、被災地の復興第一で、法案ごとに早く意見を統一し、政策合意をしていくべき」としました。
最後に、復興に向けた今後の展望について、石原氏は、「まず政治が決めるというスタイルではなくて、被災地のために、政官一体となって対応してもらいたい」と強調しました。増田氏は、「被災者の方が体を動かしてお金を稼げるような場を、無理をしてでもいち早くつくっていくいことが大切」と指摘するとともに、「現実に世界のサプライチェーンが止まっていることを考えれば、今回の東北の復興が、日本のためにも世界のためにもなるような復興にしなければならない」と述べました。武藤氏は、「新しい組織を作るのではなくて、今ある行政機構を活かすべき」として、県と市町村の密接なチャネルを今こそ有効活用すべきだと指摘、さらに財源の問題についても触れ、「国民が将来に不安を残さずに処理をしていくか、形はどうであれ、国民の負担をきちんと説明していかなければならない」と述べました。
5月13日、言論スタジオにて、石原信雄氏(地方自治研究機構会長、元内閣官房副長官)、武藤敏郎氏(大和総研理事長、元日銀副総裁)、増田寛也氏(野村総研顧問、元総務大臣)が、「政府の復興計画を点検する」をテーマに議論を行いました。