被災地に向けたボランティアの動きをどう立て直すか

2011年6月16日

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 まず代表工藤から、「震災から3ヶ月が経ったが、被災地はまだ瓦礫の山があり、一万人あまりの方が避難所で暮らしている。だが、GW以降ボランティアが減ってきているのが現状。この問題をどう捉えればいいのか」と問題提起があり、①被災地におけるボランティアがいまどのような状況にあるのか、②ボランティアはなぜ減ったのか、そして、③継続的にボランティアが参加する仕組みのために何が必要なのか、をトピックとして、話し合いが行われました。

 第一の点について田中氏は、企業や医療専門家、学生などのボランティアの動きを紹介し、「全体で見た場合、日本のボランタリズムは比較的盛り上がっていると思う」とした上で、「社会福祉協議会を通じたボランティアについては、たしかにピークだったGW中から比べると6月以降は半減している」としました。一方で早瀬氏は、「費用や時期的な点も含めたボランティアの「コスト」を考えると、阪神大震災を上回る」として、「それほどネガティブに見る必要はないのではないか」と述べました。栃木でボランティアを集めている矢野氏は、「水害に対する復興に要するボランティア数は184万人」との推計を持ち出しながら、被災地のニーズから見た場合、いまだに圧倒的多くのボランティアが不足している、との見方を示しました。

 第二の点について、工藤が「ボランティアが機能するためには、地域の人との信頼関係や受け皿が不可欠だが、この三ヶ月でそれは機能したのか、まだ課題があるのか」と提起すると、矢野氏は村的な助け合いの中でのコミュニケーションのあり方と都市的な新しい共同体の関係性の違いについて触れ、「地元の社協をベースとしたボランティアセンターではそれまでの住民との関係性を重視してしまう。逆によそ者が積極的に現地に行って新しい信頼関係をつくることが必要」と指摘しました。また、NPOがボランティアを届け、受け皿になる点でも十分な役割を発揮していない、という問題が話し合われ、矢野氏は「これまで専門スタッフや行政の受託事業だけをやってきた団体がここにきてボランティアを送り出す、というのは不可能」と指摘し、田中氏も「NPO自身がボランティアや寄付を受けることで市民とつながっていないところも多く、こうした傾向を問題だと考えてこなかったNPO側も真摯に受け止めて反省すべきだと思う」と述べました。
 早瀬氏はこの点について、「ボランティアと付き合ってきたのは、現地では社協系のボランティアセンターだったが、NPO側がボランティアとつながっていたら、もう少し違う展開だった」と述べる一方で、「地元で何かしたいという人は着実に増えているので、風向きは変わってきている」とも強調しました。

 最後に、ボランティアの動きを立て直すために今後必要なことについて、矢野氏は、「ある意味でボランティアの数値目標を設定して、それを目指して努力するような動きが大切」とし、さらに「現地のボランティアセンターが疲れており、それをサポートする動きやNPO自身が受け皿となるような多様な取り組みが必要」としました。また、田中氏は、「これだけ当事者意識をもとうとしている市民の熱意を、もっと活かす社会であって欲しい」と述べ、ボランティアにとって物理的にもコーディネーションの意味でも高いハードルを下げる努力を一刻も早くすべきとの認識を示すと同時に、多くのボランティアの課題に取り組むドラマを広く伝播させることも大切、と述べました。最後に早瀬氏は、「人が参加して物事を解決していく事のほうが、参加を受け付けずに一部の人達で決めるよりもずっといいこと」と述べ、寄附やボランティアを通じた「参加の力」を様々な場面で確認し合うことこそが必要だと指摘しました。

議論の全容をテキストで読む  第1部 第2部 第3部

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第1部 被災地のボランティアはなぜ減ったのか

工藤泰志 工藤:こんばんは。言論NPO代表の工藤泰志です。今日の言論スタジオは、「被災地のボランティアは、なぜ減ったのか」ということをテーマに、みなさんと議論したいと思っております。まず出席者を紹介します。大阪ボランティア協会の常務理事で、阪神淡路大震災の時にボランティアの取りまとめ役をやった、早瀬昇さんです。早瀬さんよろしくお願いします。

 早瀬:よろしくお願いします。



工藤:それから、今駆けつけてもらったのですが、とちぎボランティアネットワーク事務局長の矢野正広さんです。よろしくお願いします。

 矢野:よろしくお願いします。



工藤:それから隣が、大学評価・学位授与機構の准教授で、NPO問題の専門家でもある田中弥生さんです。田中さんよろしくお願いします。

田中弥生氏 田中:よろしくお願いします。



工藤:さて、震災からもう3カ月も経とうとしているのですが、被災地はまだ瓦礫の山で、11万人以上の人がまだ避難所にいます。やはり、避難されている方の一人ひとりに寄り添うというか、その人たちの生活再建を考えると、多くのボランティアの参加が必要なのですが、この前のゴールデン・ウィーク以降、メディア報道を見ると、何かボランティアの数が減ってきていて、何か盛り上がってないという話が結構出てきています。
この問題をどう考えれば良いか、ということが今日のテーマなわけです。まずは被災地のボランティアの状況が、今どのようになっているのかというところから、話を始めたいのですが、田中さんどうでしょうか。

様々なドラマは始まっているが・・

田中:はい。ボランティアが減ったということについては、2通りの見方が私はあると思っています。1つは、いわゆる社会福祉協議会を通じて、ボランティアをされた方たちの数をみるという話もありますが、それ以外にも色々な方がボランティアをされています。お医者さんたちが、ボランティアで患者さんたちを移送したり、あるいは企業でも、例えばヤマト運輸さんの救援物資輸送協力隊ですよね。これも最初ボランティアで動いていました。それから学生さんでネットワークを作って、ユースフォー311といって、もう1800人くらい学生を送っているところもあります。色々なドラマが生まれています。これらを全体で見たときには、結構、日本のボランタリズムというのは盛り上がっているなと思います。

ただ、前者の社協のデータだけ申し上げますと、工藤さんが感じていることに少し関係すると思うのですけれど、3月からの累計で社会福祉協議会を通じてボランティアに出かけた、岩手県・宮城県・福島県に行かれた方たちの数が36万7400人です。そして、ここは毎週データを出されているのですが、やはりゴールデン・ウィーク中がピークで、1週間で5万4000人くらい行かれたのですが、では6月以降はというと、2万4000人くらいですから、数は半減しています。そういう意味では、減っていることは減っている。


それからこれは早瀬さんの方がお詳しいとは思うのですけれども、阪神淡路大震災とどうしても比較をしてしまうのですが、本当は単純に比較をしてはいけないのですけれども、1か月で60万人入ったという数字も報道されています。

工藤:阪神淡路大震災の場合ですね。

田中:ええ。それと比べると少ないのではないか、という印象を強く与えていると思います。それと私がどう感じているかということですが、もう少し元気があってもいいかな、あるいは、ボランティアももっと色々な、多様なものがあってもいいかなということは、感じていますので、それは後ほどお話したいと思います。

工藤:早瀬さん、阪神淡路大震災のときは色々な人たちがリュックサックを背負って被災地に行ったり、かなり人が殺到したという状況があったのですが、どうですか。比較というのですか、早瀬さんは、今回のボランティアというのはどう感じていますか。

早瀬:僕は逆に良くあれだけの遠隔地に、かなりの自己負担で旅費を払って、これだけの人たちが行っているものだと、そちらの方を高く評価したいくらいです。阪神淡路大震災のときには、西宮北口というところはもうすでに被災地だったわけですが、大阪の梅田から電車で片道260円、16分で入れるのです。そのような中での先ほどの数字なわけです。今回は全く行くための費用も違う。それから、非常に遠いので時間的な違いもあります。さらに、時期的なことも実はあって、阪神淡路大震災のときは1月11日に地震があったのですが、その時期は大学が冬休みなのですね。今回、ゴールデン・ウィークで非常にピークになっていた、特に関東の大学はゴールデン・ウィークまで春休みが続きましたから、その時期は非常に行きやすいわけですが、授業が始まったので、その点で厳しい状況になっているという部分もあると思います。だから、僕はかけているボランティアのコストを考えると、実は阪神大震災を上回っているかもしれない。阪神淡路大震災の時は大阪なり、京都なり、大変大きな人口ボリュームのところでカバーできたのですが、今回は隣の町も被災しているわけですから、そのあたりのことも考えないといけない。そういう面ではあまりネガティブにならなくていいと思っています。


ニーズから言えば圧倒的に足りない

工藤:なるほど。では矢野さん。この前テレビで見ていたら、栃木でボランティアを増やそうというので、何かドラマ作るみたいなことをやっていて驚きました。矢野さんはボランティアを送ろうという動きにかなり力を入れて取り組んでいると思うのですが、今回のボランティアをどう見ていますか。

矢野:例えば水害ということで考えれば、水害の家の片づけとか、泥出しっていうものについては、大体分かっているので、必要なボランティアの数は大体、推計できます。津波があった沿岸部は全壊ですが、そのあとは半壊だとか一部損壊というのがずっと沿岸から2キロとか続くわけです。そういう半壊や一部損壊というところに対して、ボランティアが行くと私の勝手な推計なのですけれども、半壊と一部損壊の数が23万戸、それの8割にボランティアが11人行くと、184万人が必要という数なのです。

その11人という数は、栃木県の13年前の夏の水害があったときに、500軒の家が床上浸水なのですけれども、そこに対してボランティアが5500人必要だったという数なのです。だから、1軒に対して11人という数なのですけど、本当は30人必要なのかもしれないし、ちゃんとした数は分からない。しかし、この数字を適用とすると180何万人必要であるということになります。

この数字は津波兼水害と考えたときの、片付けの数で、その他に別のニーズを考えれば、例えば仮設住宅に行った人のケアの推計値だとかも違いますから、全然違う数字になりますが、数えやすい側面では、そういう数です。

もう一方で、例えば現場からの数字では、石巻に日帰りでボランティアにいっているわけです。そういうところでは、1軒の家を片付けるためには延べ40人が必要になります。例えば、30センチ床に積もった泥を出して、家財道具を全部出して、そして、床板はがしてその床の泥を全部取るという作業に延べ40人、2日間で、1日に20人ずつという数です。だから床上の数が何件なのか、という数で行くと、また相当の数になります。いずれにしてもボランティアは圧倒的に足りない、という状況です。


なぜボランティアの「自粛」が始まったのか

工藤:今の矢野さんは、被災地のニーズから見たら圧倒的に多くのボランティアが不足している、そのくらい今回の震災の被害は大規模だということをおっしゃっていると思います。

 ただ、このボランティアの問題は、単に数が増えないだけでなく、受け入れを自粛する状況がある、ということも報道されていました。つまり、被災地以外の人たちはみんな行きたいと言っているのに、現地の受け入れ団体が、その能力不足から処理できないので、あまり県外から来ないでほしいとか、現実に受け入れを止めてしまった、ところもある。そのあたりはどうでしょうか。

田中:おっしゃる通りで、ボランティアのセンターが、受け付けを止めました、というようなことをかなり強調して放送しているテレビ番組が目立ちましたね。その報道を目や耳にしたときに、あまりボランティア活動のことを知らない人がどう受け取ったか、です。多分、ボランティアはもう余っているのかなというのと、とにかく今は来ないでくれというようなことでしたから、自分は行けないのかな、と思った人もいたと思います。それから、ボランティアは自己完結型で来てくださいということもかなり放送したので、寝袋や食べ物、テントも持って、全部自分でやってくださいということだったので、それを見たときに、ここまで大変だと自分は行けない、と思った人もいたと思います。私の知人や学生さんたちに電話で話を聞きますと、実際に社協に電話をするのですけど、今はちょっと受け入れられませんと。実はお医者さんでも断られた人がいるのですけれども、一般の人たちがアクセスしようと思ったときに、結構シャットアウトされてしまったので、そこで難しいとか、もういらないのかなと思わせてしまったところはあると思います。

工藤:それは早瀬さんに聞かなくてはいけないのですが、確かに今回の被災地は遠いし、交通の便も悪い、ボランティアに行くのもすごくコストもかかる。けど、行きたいと思っている人は本当いたのですよ。だけど、地元の受け入れがなかなかうまくいかない。一方で矢野さんが言われたが、地元のニーズから見ればさらにボランティアが必要になっている。どこに問題があるのですか。

早瀬:そもそも重装備で行かないといけない3月、4月の中旬くらいまでの話と、それから後の情報が錯綜しています。

今回は4月28日という日が結構大切だったのではないかと思うのですが、この日は四十九日なのです。やはりボランティアを受け入れる力を被災者の方が持とうとするには、基本的に無くなってしまった命や、失われてしまった家などのことを思い続ける時期から、何とかやはり頑張ろうということになっていかないといけない。そうなっていない時に、他人に来てもらっても、はいどうぞ、とはいきにくいわけです。

水害との違いは、亡くなっている人の数が全然違います。津波と水害はやはり違います。水害でこんなにたくさんの人達は亡くなりません。だから、悲しみの重さが深すぎるので、なかなか受け入れられない。

もう1つは皆さん初めて災害のボランティアセンターをなさるので、連休だったら初日が多いに決まっていて、2日目以降どんどん減るというのが常識なのですが、初日にたくさん来たからもう閉めると言った。でも、2日目とか連休の途中から減ってくるので、またボランティアを募集していますという感じになってしまったわけです。


ボランティアを「集め、届け受け入れる」動きが作れていない

矢野:私は、阪神淡路大震災以降起こっている現象は、助け合いのグローバリゼーションだと思っています。要するに贈与経済のグローバリゼーションなのですけれども、要するに、助けたいのだけれども、全然知らない人同士での助け合いだから、本当に助けてもらっていいのかということと、本当のところ、この人は何と思っているのだろうということがわからないまま助けにいくのです。

信頼関係ができる前提でやれば、こういうことがすぐできるという関係性ができるのですけれど、それができないから、阪神淡路大震災の時も困ったわけです。

だから、当時の教訓としては、ボランティアコーディネーターという役割と、それからもう1つはそのコーディネーターが有給でずっといなくてはならないわけですから、それを支える団体としてのNPO・NGOの存在が重要になった。

その2つが必要だということで、それ以降NPO法の創設が進んだわけです。

一方で、ボランティアそのものが、そもそも少なくなっていくものだという前提があるし、ゴールデン・ウィークが終わった後は減るだろうというのは、私たちはそもそも予測していました。

だから、その前から栃木からボランティア2万人キャンペーンというのをやりまして、準備をしていて、ゴールデン・ウィークが明けたら発表しようという話をやっていたのですね。それで、マスコミそのものをそういう風に誘導していったりすることが必要なのですけど、それをNPO自体ができなかった。

それから、広域連携という形で災害のことを考えなくてはならないのですけど、阪神淡路大震災の場合は、近場から10キロ圏とか20キロ圏から歩いて行って戻ってこられるという、日帰りのコースがいっぱいできました。ところが今回は、最初の頃にそれができなかった。つまり、ボランティアを増やすためには、遠くから届ける手段と、遠くで集めて送る人達、それから受け止めるという3つの役割が必要なのですが、それを意識してつくるところまではいかなかった。

工藤:なるほど。一回休息して、次は今の話を受けて原因を考えていきたいと思います。

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第2部 ボランティアを動かすため何が足りなかったのか

工藤:それでは、話を続けていきます。今、色々な形で課題が見えてきているのですが、その中で気になっていることから始めたいと思います。確かに、ボランティアに行きたいけれど、現地の人から信頼を得るということは、非常に時間がかかる。しかし、それは今回だけではなく阪神淡路大震災の時も同じだったと思うのですが。


この3か月で被災地の住民との信頼関係はできたのか

早瀬:阪神淡路大震災の時には、私たちが震災の3日後にボランティアセンターを開きました。最初の頃は、被災者のところに出向いても、「何や、お前ら、見物に来たんか?」という調子でした。当然、試行錯誤もありました。「何かすることはありませんか?」と伺うところを、「どなたかこの近くで困っておられる方、ご存知ありませんか?」という言い方をすると、「それやったら、俺も困ってる」ということを言って下さるようなプロセスの中で、少しずつ進めて行けました。

しかし、土地柄的に、色々な人が出入りするようなことが当たり前の神戸・西宮の地域と、観光客以外は基本的にみんな仲間だという地域とは、ちょっと違います。

工藤:さっき田中先生が学生の話をしていましたが、結局は、どこの地域でも基本は同じで、地域の人達とつながりをつくって、信頼関係ができて、で、具体的な取り組みに向かう、ということになります。そうした関係は東日本の場合、震災から3カ月でつくられてきたのか。十分でないとしたら、どこに課題があるのか、です。

矢野:私は、村的な助け合いの中でのコミュニケーションの仕方と、それから都市的な新しい共同体か何かの関係との違いは、「流儀」の違いだと思います。田舎に行くと、こういうことは年柄年中あって、素早く信頼関係をつくる方法は、継続して同じ場所によそ者が行って、1軒の家でもいいからやり切ってくると、信頼が生まれ、よその家からも、うちもやってほしい、と声が上がってくる。

工藤:つまり、信用ができてくるということですよね。

矢野:ところが、今回の場合、ボランティアセンターは、地元の社会福祉協議会を中心にしてやりますから、今までの社会福祉協議会と住民の関係がそのまま反映されるところがあります。そうすると、住民にある程度のお上意識というのがある場合には、ほかには頼まない。ある意味、1軒でも(ボランティアの受け入れを)やると、他の家もやらなければいけないので、見ないフリをしたりするところがあります。それが、(ボランティアは)必要が本当にあるのですかという雰囲気になってしまう。

工藤:結局、ボランティアを増やすには、ボランティアを集めて届けて、地元のニーズにつながる、ということが有機的に動かないといけない。それが、この3カ月で、だんだん尻上がりに増えてきたのか。逆にうまくいっていないのか。

矢野:私は、今、ある1つの手法であるボランティアバス、ということをやっています。私たちが阪神淡路大震災の時にやったのもボランティアバスで、多分、それが日本で初めてだと思います。こういう手法がみんなに浸透してくると、送る方は何とかなります。しかし、今度は、受け入れる方がパンクする場合があります。要するに、ある程度、一貫してそのことができるようなことがないと難しい。

 一方で、送り出す側の地域でも、ボランティアを送り出せるような基盤やネットワークができていないと、送り出すこと自体もできないという側面もありますよね。
ただ、これを機に、今からがんばるだとか、次の時にもがんばるということでやっていかないと、災害に強い社会にはならないと思います。

工藤:田中さんどうですか。


受け皿は「社協」だけでよかったのか

田中:受け皿という点では、文化的な問題もあるのですが、私は少しだけ気になっていることがあります。というのは、今回、政府はボランティアに関しては積極的で早かったと思います。辻元清美さんがボランティア担当補佐官になり、連携室も直ぐにできました。そこで、辻元さんはボランティアは社協のルートでやります、ということをまずメディアでかなりおっしゃいました。それで、何となく個人のボランティアは社協ルートを通じて、団体はNPO関係でというような棲み分けができてしまった。
アエラなどのメディア報道を見ても、そういう分け方で説明してしまっているのですね。実際に、現地のNPOにしても、ボランティアは社協さんなので、うちは団体の受け入れをやりますということで、個人ボランティアは自分たちと関係がないというか、社協にお任せしようという感じになってしまっている。NPOが、社協以外の受け皿になってもよかったのかもしれませんが、そこが弱いような気がします。

早瀬:国際ワークキャンプのNICE(ナイス)のように、一般にボランティアを募集しているNPOはあります。

田中:3百数十の団体が現地に入っていますけど、ボランティアを受け入れるためには、それなりに体力がいるのですが、それが出来ているのは50を切っています。

早瀬:海外協力系のNGOはボランティアと一緒にという感じはなく、専門スタッフでやろうとしていますね。

田中:そうですね。宗教系の団体とかYMCAなどが一生懸命ボランティアを受け入れているのですが、それ以外は、自分たちでやるので精一杯なってしまっています。

工藤:先程もあったように「まとめて届けて」、「受け止める」というそれぞれの力が、今、問われているわけですよね。まずまとめて届けるという点では、それをどう乗り越えて行けば、何かが変わる、という状況なのでしょうか。

早瀬:出欠を厳しく取るような時代に、学校の授業期間中に学生がどれだけ現地に行けるのか、という問題がありますが、1つは企業がボランティア休暇制度を活発にしています。経団連では、ボランティアバスではないけれど、ずっと走っています。それから、東京都のボランティアバスも走っています。そういうパイプは沢山できてきているわけです。1つの期待はそれなのだと思います。

工藤:矢野さんのところは、栃木で2万人を送ろうとやっていますよね。それはどうなのですか。ボランティアを送る、という点に関しては、かなり盛り上がってきているのですか。

矢野:私たちの会から、大体2400人ぐらいを送っています。それで足りないから2万人と言っています。つまり、職場あるいは学校、飲み仲間とか家族で行ってもいいです、という言い方で、電話をかけて何人行ってきました、と報告だけしてくれればいいです、ということにしています。

工藤:それはどんどん浸透していますか。

矢野:浸透しています。それで、プロモーションビデオをつくって、今度6月あたまに公開することになっていましたが、少し延びています。

工藤:この前、NHKでやっていましたよ。沿道に手を振っていたりしてましたね。

矢野:そうです。そういうプロボノではないですけど、そういう応援の仕方もあるし、そういう中から、みんなで盛り上げていくみたいなことも、1つの支援ですよね。

工藤:つまり、今のボランティアを「まとめて、送る」というところの動きは、そういう意識を持っていかないと、なかなか動かないという状況なのですね。


現状のNPOに「送り、届け、受け入れる」力はあるのか

矢野:そうですね。それから、送る側にもう1つ、必要な能力は何かと言うと、ボランティアと共に、年がら年中その団体が運営されているのかということが一番のポイントです。

工藤:それは決定的に重要ですね。

矢野:そうです。NPOとして、専門スタッフがお金集めや行政からの受託事業だけでやっている団体では、それはできないと思います。

工藤:今のお話は非常に大きな問題で、つまり、阪神淡路大震災以降、NPO自体が市民やボランティアを巻き込むような形で成長していたかということが問われている、ということをおっしゃっているわけです。田中さん、どうですか。

田中:そうですね、おっしゃる通りで、それは私も6年ぐらい言い続けているのですが、寄付を集めていないNPOが4万団体の内、5割です。そして、ボランティアが全くいないと回答したところは2割いました。で、どうしてそうなるかというと、おっしゃったように、行政からの委託事業とか、ビジネスに走り過ぎていて、寄付やボランティアは、自分たちとはあまり関係ないし、それは昔の古いチャリティー団体のものだという風な認識があるからです。これは、実は政策的にもそれを支える動きがあったのですが、それを真っ当に受けてしまったがために、いざボランティアを送り出したり、受け入れようと思っても、とても難しいわけです。NPO側もそれができなかったという問題は真摯に受け止めて、反省するべき点ではないかと思っています。

工藤:今回、命を救うということで、お医者さんを始め、色々な人達が被災地で動きました。阪神淡路大震災の時には、自分たちの能力や人間関係を使って、被災地のために何かがしたいという、非常に純粋な大きなエネルギーがありました。今回もそういうエネルギーは強いのですが、今おっしゃったように、NPO自体がちゃんとした動きができていないという問題があります。

早瀬:そうです。実際には、ボランティアと付き合うことをしてきたかどうか。現地の中で言うと、社会福祉協議会のボランティアセンターだけでした。NPOにもあったのかもしれませんが、非常に少なかった。かつ、社会福祉協議会の中でも、例えば、福島県の中には49の市町村があるのですが、ボランティアセンターがあったのは2つだけでした。逆に言うと、その中でよくやっていますよ。そういう体制だったのだけれど、今は一生懸命がんばっていて、みなさん、この間で非常に鍛えられたわけです。NPOの方に、もうちょっとボランティアと協働しながら進める団体がもう少し多ければ、違う展開があったのではないかと思います。


NPOは市民とつながることの意味を再考すべき

工藤:そういうことが必要だという認識は出てきているわけですよね。つまり、市民とつながっていくという組織運営が本来必要だった。それは、逆に言えばそこにニーズがあるということですよね。そうした問いかけや大きな変化が始まっている、ということなのでしょうか。

矢野:始まっているのではないでしょうか。

早瀬:一般のボランティア活動への参加希望者は増えています。さすがに、私のところは大阪なので、みんなが被災地に行くということにはなりにくいのですが、地元で何かをしたいという人の数は増えています。それは、完全に風向きが変わって来ている面はあると思います。

工藤:なるほど。田中さん、今、課題はかなり見えてきたのですが。

田中:私は、どんなプログラムができてくるのかということについて、まだ様子を見ています。政府とNPOの連絡会のメーリングリストで、毎日数十通のメールが流れてきます。最初見ていると、自分たちの活動を現地で受け止めてもらうことで精一杯だったのですが、ようやく今、「ボランティアを募集します」という案内が増えてきています。しかも、そのプログラムの内容に多様性が出てきているので、私はいい兆しが出てきていると思っています。

工藤:次は受け皿の問題です。ボランティアを受けるような団体が、被災地の中にどんどん出てきているという状況なのでしょうか。


現地の「受け皿」は疲労し、新しいサポートが必要な段階

矢野:逆に、現地のボランティアセンターで、よくやっているところは、もう疲れ切っています。だから、疲弊しています。だから、逆に、こっちから添乗員みたいな人を連れて行って、それをサポートするとか、そのぐらいやらないと、現地での受け入れはできないと思います。逆に言うと、やり方そのものは、先方がわかりますから、それにのっかって、あっちに行ってくれ、こっちに行ってくれとやれば、できてしまうと思います。私たちも更に現地にとちぎ専用のコーディネーターを置くことにしています。もう1つは、こういう大量に、泥出しのボランティアが必要なのは梅雨の間だけだと思います。つまり、あと1カ月ぐらいしか、あの活動はできないのではないかと思います。それを越すと、暑くて仕事ができないし、更に伝染病などの心配もあります。ただし、時間が限られている中で、できるところまでちゃんとやらなければいけない。これは予断を許さない状況にあると思います。

早瀬:もっと言えば、本当は梅雨の前がいいですけどね。

矢野:泥出しでキャンペーンをやっているのは梅雨の間だけだと思います。次には、仮設住宅への移行で、仮設での見守りという活動になってくる。阪神淡路大震災の時には、仮設に定期的に行って顔見知りになって、信頼関係をつくって、御用聞きをしたりして色々なことをするというのが仕事でした。定期的に訪問し、顔見知りなることが大切なので、遠隔地からはなかなかできにくい。そうすると、外からボランティアで行くのではなくて、宮城県や福島県、岩手県の沿岸部ではない人たちが応援するような形にならなければいけないし、そうした作業のサポートは僕たちはしなければいけないと思っています。


早瀬:仮設住宅が中心になる段階はまだ先の話です。今の話でいうと、確かに、疲れ切った部分とかは、おっしゃる通りなのですが、一方で、気仙沼の地域(大島)に、また新たにボランティアセンターがつくられたりしています。今の段階から、更にボランティアセンターをつくろうという動きもあり、一部の地域では閉め始めているところもある。進行が全然違います。

一部の地域がボランティアセンターを閉め始めているから、ボランティアは全体としていらなくなってきたとは思わないで、逆に、新たにボランティアセンターをつくり始めているところがある、ということをぜひ知っていただきたいと思います。

田中:そうですね。
工藤:そうした動きに支援が必要なのですね。
田中:あと報道の力も必要です。
矢野:だから、色々な見方をして、立体的に見ていかないと何とも言えませんね。
早瀬:被災地は広いですから。

矢野:そもそも阪神淡路大震災の時にはボランティアセンターはなくて、自分たちの周りのところが、一般の人たちを受けいれました。つまり、色々なところに何カ所もボランティアセンターができたのと事実上同じなのです。
つまり、各市町村にボランティアセンターが1つと決めたのは、あくまでも便宜的な話であって、それでは地震の場合には足りないはずなのです。だから、私がずっと言っているのは、地震と水害は違うから、水害と同じタイプのボランティアセンターが必要なのではないか、ということです。

田中:どんどん、自分たちでボランティアセンターの機能をつくってしまえ、ということですね。

矢野:そうなのです。あるいは、避難所そのものが、自分達でボランティアを集めて、ボランティアセンターの役割を担っていくとか、それを仮設でもやっていくなどが必要だと思います。ただ、やり方を一度覚えれば、みなさんできますので、そういう形がどんどん増えていくと、1カ所にボランティアが集まって疲弊していくということはなくなるかもしれません。

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 第3部 ボランティアの動きをどう立て直すか

工藤:市民が、被災地に絶えず関心を持ち続けることって、かなり大変なことです。だんだん関心も薄れていきますよね。それは、避けられないという面もありますが、その辺りの危機感をみなさんは感じられていますか。

早瀬:風向きが変わってしまうのは、仮設住宅にほとんどの人が入られる頃です。その頃になるとボランティアがパッと行ってできる仕事がかなり減ります。

工藤:8月末に仮設住宅に移ると政府は言っていますよね。
早瀬:おそらく、そうなると思いますね。


8月までに流れをどう作り出すか

工藤:東北は8月が終わると、冬の到来がすぐに来てしまうので、仮設まではとにかく急がなければいけないと思います。ただ、それでもニーズはかなりあると思います。まず全員が仮設に行けるかどうか。それから、行かない人でも、高齢者が多いので、がれきの山が残り、非常によくない環境下にある。健康の不安とか当然あると思うし、そのケアも必要です。そういう現場に人がどんどん入って、それを解決していくという流れをつくり出し続けるということが、非常に重要な感じがするのですが。

早瀬:僕は8月過ぎたころからは、個別の生活支援も重要だと思います。これについては、生活支援員のみなさんが、既にかなりの人数採用されています。ですから、ボランティアの仕事としては復興になると思います。誤解を恐れずに言えば、できるだけ東北地方に旅行に行って、沢山お土産を買って帰ってくるみたいに、地元の経済力をつけていくような仕事に関わってもいいと思います。


矢野:私たちは復興のステージに入れば、2つのことが究極の課題になると思っています。1つは生業の再建と家の再建です。その2つが何とかなると大体は大丈夫です。男の人の人生の大半は仕事ですから、家と仕事と家族がいなくなってしまうと、もうがっかりという人が多いと思います。

仕事は稼ぐということだけではなくて、同時に自分の人生の一部ですから、そこのところを何とかしないと、自殺などが色々と起こってくるだろうなと思っています。そういう意味で、復興コミュニティビジネスというのが必要だと思います。阪神淡路大震災の後、3年ぐらいコミュニティビジネスのブームがありましたよね。それを今の段階から、ボランティア団体、NPOが一緒になってつくっていくことですね。例えば、炊き出しにも色々な議論があって、最初の頃は必要なのですが、いつまでもやっていると、元気が無くなってきます。本来は、自分でつくっていた食べ物を、誰かにもらってしまう。ですから、本当は一緒につくってくれだとか、食材は提供するからやりましょうという話があるわけです。そういう話の延長に、業者が沢山きますから、自分達がつくっているもので弁当を作って売ればいいのですね。あるいは、仮設の避難所に出される弁当を自分達で作るから、それを役所が買い取る形で、弁当を支給して頂戴よ、という話があります。

実は、それらは中越地震の時にも既にやられている話です。そういうものが今からでもできるし、山古志村でも弁当を作っているおばちゃん達がいたわけです。そういうことを被災地にパッと広めていく仕掛けがないといけないと思います。

工藤:なるほど。そうすると、雇用を意識した形と、今の救済というか、同時で動くということが必要だという話ですよね。

早瀬:被災者自身が主体にならないといけない。今、仮設住宅の中で営業を行うことは禁じられているわけですが、戦災復興の時は許されているわけです。だから、仮設住宅の中で営業ができるようにした方がいいと思います。そうして、物を売る。やはり、少しでも自分で経済的な力をつけていくことと、人の役に立っている経験が自分の元気にもなっていきますから。

工藤:今のお話と、全国から市民がボランティアを集めて、それを送り出していく、そして受け皿が必要だという問題は、どうつなげながら、大きな流れをつくらなければいけないのでしょうか。


ボランティア参加のハードルを引き下げる

田中:まだ8月まで時間があります。被災地の課題を解決することが一番大事ですが、同時に、これだけ多くの人が、当事者意識を持とうとしているこの熱意というものを、もっと活かす社会であってほしいと思っています。

それにしては、今回は、物理的にもコーディネーションの問題にしても、ボランティアとして参加するハードルがもの凄く高いのですね。しかも、自粛ムードも出てきてしまっていて、そのままずっと来てしまっている。ですが、意外と困難の中に色々な工夫が生まれているみたいです。先程申し上げた、ユース311というのは、学生は自分達では何にもできないけど、現地で活躍しているNPOやNGO、社協にコバンザメのようにくっついて、自分達が得意なのは学生を集めることだということで、1800人を集めています(2500人が登録)。でも、学生はお金が無いし、寝袋も持っていないのであれば、自分達がかき集めて学生に支給して、4000円の交通費を出しながら、学生の参加のハードルを低くしながら、どんどん送りこんでいます。

では、学生がどのぐらい役に立ったのかといえば、役に立っていない子もいるし、喧嘩をして仲裁にいかなければいけないような子たちもいましたが、ちゃんとケアすることによって誰もギブアップしません。先程、受援力の話がありましたが、これは若者の役得で、若者が行くとお爺ちゃん、お婆ちゃんには喜ばれるそうです。

矢野:そう、若いだけで。

田中:それで、行った子たちも色々な感銘を受けて帰ってきているわけです。それで帰って来てから、その子たちが話したいことを動画などで流す。そういう循環があって、若者の中で凄い当事者意識が高まっています。私は、そこの力というのは、今後の社会を担う力につながっていくと思うので、ぜひ大事にしたいし、その参加のハードルを低くすることは、今でもできると思います。ボランティアバスもそうだと思います。

工藤:こうしたドラマがどんどん広がって、伝染していってほしいと思います。

矢野:それは思います。栃木では、私は送り出すだけではなくて、気仙沼の隣の一関に50人規模の宿泊拠点を作っています。これから必要なのが、学生が夏休みになったときに、1週間単位でワークキャンプとかをやり始めると、現地のおじいさん達と仲良くなっていくということを定期的に繰り返して、「また来たね」、「また行くね」ということだけで、現地はもの凄く元気になると思います。
そういう若さの利点と共に、学生である利点だとか、色々な利点を組み合わせていったほうがいいかと思っています。大変なことも沢山ありますが、ボランティアはある意味で労力の贈与ですから、そういうものの価値を見直す、あるいは自分達が役に立った感じを見直す、そういうことに若者は飢えているし、自分達の人生にとってももの凄く重要だと思います。


工藤:阪神淡路大震災の時は、ボランティアのエネルギーをどう形にしていくかということで,NPO法成立の大きな動きに発展していくのですが、今みたいに、被災地を救おうということで若者を含めて一緒に当事者として何かをして、何かを変えていくということに参加していく。この流れも、これからの日本にとって必要です。

早瀬:阪神淡路大震災の時には慣れていないというか、災害ボランティアのコーディネーション自身も、あの時初めて始まったわけです。阪神淡路大震災の時よりも、根本的にはボランティアの厚みは数段増していると思います。

田中:そうですよね。

早瀬:実際には、非常に被災地が広いので、阪神淡路大震災と比べると、密度が凄く薄いのですよ。だから、全然ボランティアがいないという形になるのですが、冒頭に言ったように、これだけ熱い思いでお金をかけてボランティアに行っている人が、これだけいるということは、凄い力ですから、この力を広げていくことは大切だと思います。

工藤:矢野さんが冒頭で、ニーズから入るとこんなにボランティアが必要だ、という話から始まりましたよね。でも、質の問題もあると思うけれど、そのボランティアという数を維持しながら、復興に向けた動きを実現することはできるのでしょうか。


ボランティアに関する目標設定をして取り組む

早瀬:泥出しが終わっている地域もありますから、これは、地域差が凄いと思います。

矢野:私は、大枠ではNPOやNGOがやってこなかったことは、ある意味での数値目標みたいなものを示して、例えば、ボランティアが人口の20%になる社会だとか、そういうことを目指して、自分達の努力目標をそこに決める、そういう在り方が、なかったと思います。これからは電力の制約とか色々なことが起こってきて、これまでの経済の構造が成り立たなくなるような問題もあります。むしろ助け合いとか、市民が課題に取り組むような流れが必要になってきます。そのためには今からでも数値目標を掲げながら努力をしないと、いけないのではないかな、と勝手に思っています。

工藤:田中さんどうですか。その数値目標は、かなり大きい数字ですよね。
田中:184万人ですよね、さっきの数字では。
早瀬:概算。
矢野:福島県とか放射能の問題で入れない地域もありますから、目標は難しいでしょうけど。

田中:阪神淡路大震災の時に、何を根拠にしていたのか不思議な数値ではあったのですが、138万人という数字が報道されていますよね。

早瀬:あれは、後から数えたのですよ。
田中:どうやって。
早瀬:うちにもアンケートがきましたが、何人ボランティアが来ましたか、と。ですから、色々なNPOに聞いているから、今の数字よりも多く数えていると思います。あの数字も、ホンマかいなと思いますけどね。

田中:でも、私は、数字の目標を掲げてもう少しドライブをかける。とにかく、今は元気が無くなってしまっているので、何か目指すものがあったほうがいいと思いますし、それから、現地に行くということ以外のプログラムもできつつあります。例えば、難民を助ける会は、お年寄りの支援者が多いのですよ。そうすると、トートバッグや雑巾を作る。それから、この前、茨城にお邪魔したときも、避難していたお婆ちゃん達が自分で炊き出しをやっている姿もありました。現地に行かなくてもできるものも含めて、何か身近なところでできるプログラムをつくっていく、そういうみんなで頑張ろう、という目標があってもいいと思います。


課題解決のドラマを広く伝染させる

工藤:なるほど。そういう風な気持ちをエンカレッジする仕組み、達成感とか、何かこの人たちは凄いね、というドラマが表にどんどん出てこないと、暗い話だけではボランティアのマインドを強いものにしていくのは無理ですね。東北は8月を越えると、冬の気配が高まり始めます。

早瀬:希望をうまく繋いでいかないと。
工藤:絶望になると、困る。

早瀬:絶望になりますよね。例が悪いかもしれないけど、就活で社長面接を3回落ちると精神的に危ないのですよ。希望があってダメというのは非常によくないのです。ちゃんとした着実な希望を持ってもらうようにしないと、よくない。だから、夢みたいな話ばかりしてもいけないし、だけど着実に被災者のみなさんと一緒にこういう形でやっていきましょう、ということを出さないといけない。過剰に夢みたいなことを言って持ち上げて、やっぱりダメでしたということが一番恐いので、そこだけは丁寧にしていかないといけないと思っています。

田中:課題解決をし始めると、課題にアウトリーチし始めると、物語というか、ドラマが見えてくるのですね。早瀬さんも、よく物語性があるから、人は寄付をしたりボランティアをしたりするのだとおっしゃっていましたよね。

早瀬:いかがわしいものね。元々は。

田中:いろいろ調べてみると、様々なドラマが起きています。私たちはそれをもっと拾って、伝えていく必要があると思います。

矢野:私は今まで数のことを言ってきましたが、本当は数ではなくて、個人から発せられたSOSを1つずつ解決していくということをやらないといけない。つまり、その個人の一人一人の生活の再建に寄り添うという姿勢自体が、ものすごく大切で、それはボランティアしかできないのですよ。

行政から幾らお金の支援策が出てきても、元気が出せるのは、個人の人生と人格の交流でしかありません。そのためにも、今の時期に遠隔地からでも、近場からでもいいから、被災地とつながりをつくるということが、私たちの最初の目標です。


当事者として困難に参加することで市民の力は高まる

工藤:確かに、一人ひとりに寄り添うということは、ボランティアにしかできないことです。この流れは途切れてはいけない、と思います。最後に一言ずつ、これからボランティアや市民の力を高めるためには何が必要か、ということについて皆さんにお伺いしたい。田中さんからどうぞ。

田中:ボランティアと寄付というものも、ある種同じようなものだと思いますが、もちろん相手を支援するということもありますが、私たちが当事者意識を持って成長するためのとても大事な機会だということを、もっともっと認識するべきだと思います。

早瀬:参加の力は、もっと色々なところで確認し合うことが必要だと思います。ボランティアでもいいし、寄付でもいいけど、人が参加して物事を解決するということが、参加を受け付けずに一部の人達で物事を決めるよりもいいのだ、ということを色々な場面で確認し合うことが必要だと思います。

矢野:私は、タイミングよく自分が持っているものを人にあげられる技を、個人がいっぱい身につけていただければと思います。

工藤:それ、非常に本質的で重要な指摘ですね。
矢野:難しいけど。
早瀬:凄い技。

工藤:人を助けたいときは自分が強くならないとだめ。ある程度、人に何かをできるものを持っていないと。でも、これも参加してまず動くところから始めなければいけない。その中で私たち自身が市民として成長できる、と思います。その意味でもボランティアの大きな動きを風化させてはいけないし、さらにその流れを大きなものにしていく必要があります。この議論はまだまだ継続したいと思いますので、またよろしくお願いいたします。

 さて、次回の言論スタジオは、6月14日(火)の18時から「被災地の農業をどう復興させるのか」というテーマで議論することになっています。ぜひ、またご覧下さい。今日は、ありがとうございました。

一同:ありがとうございました。

報告・動画 第1部 第2部 第3部


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 6月8日、言論NPOは、言論スタジオにて早瀬昇氏(大阪ボランティア協会常務理事)、矢野正広氏(とちぎボランティアネットワーク事務局長)、田中弥生氏(言論NPO理事、大学評価・学位授与機構准教授)をゲストにお迎えし、「被災地に向けたボランティアの動きをどう立て直すか」をテーマに話し合いました。

2011年6月8(水)収録
出演者:
早瀬昇氏(大阪ボランティア協会常務理事)
矢野正広氏(とちぎボランティアネットワーク事務局長)
田中弥生氏(言論NPO理事、大学評価・学位授与機構准教授)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)


 まず代表工藤から、「震災から3ヶ月が経ったが、被災地はまだ瓦礫の山があり、一万人あまりの方が避難所で暮らしている。だが、GW以降ボランティアが減ってきているのが現状。この問題をどう捉えればいいのか」と問題提起があり、①被災地におけるボランティアがいまどのような状況にあるのか、②ボランティアはなぜ減ったのか、そして、③継続的にボランティアが参加する仕組みのために何が必要なのか、をトピックとして、話し合いが行われました。

 第一の点について田中氏は、企業や医療専門家、学生などのボランティアの動きを紹介し、「全体で見た場合、日本のボランタリズムは比較的盛り上がっていると思う」とした上で、「社会福祉協議会を通じたボランティアについては、たしかにピークだったGW中から比べると6月以降は半減している」としました。一方で早瀬氏は、「費用や時期的な点も含めたボランティアの「コスト」を考えると、阪神大震災を上回る」として、「それほどネガティブに見る必要はないのではないか」と述べました。栃木でボランティアを集めている矢野氏は、「水害に対する復興に要するボランティア数は184万人」との推計を持ち出しながら、被災地のニーズから見た場合、いまだに圧倒的多くのボランティアが不足している、との見方を示しました。

 第二の点について、工藤が「ボランティアが機能するためには、地域の人との信頼関係や受け皿が不可欠だが、この三ヶ月でそれは機能したのか、まだ課題があるのか」と提起すると、矢野氏は村的な助け合いの中でのコミュニケーションのあり方と都市的な新しい共同体の関係性の違いについて触れ、「地元の社協をベースとしたボランティアセンターではそれまでの住民との関係性を重視してしまう。逆によそ者が積極的に現地に行って新しい信頼関係をつくることが必要」と指摘しました。また、NPOがボランティアを届け、受け皿になる点でも十分な役割を発揮していない、という問題が話し合われ、矢野氏は「これまで専門スタッフや行政の受託事業だけをやってきた団体がここにきてボランティアを送り出す、というのは不可能」と指摘し、田中氏も「NPO自身がボランティアや寄付を受けることで市民とつながっていないところも多く、こうした傾向を問題だと考えてこなかったNPO側も真摯に受け止めて反省すべきだと思う」と述べました。
 早瀬氏はこの点について、「ボランティアと付き合ってきたのは、現地では社協系のボランティアセンターだったが、NPO側がボランティアとつながっていたら、もう少し違う展開だった」と述べる一方で、「地元で何かしたいという人は着実に増えているので、風向きは変わってきている」とも強調しました。

 最後に、ボランティアの動きを立て直すために今後必要なことについて、矢野氏は、「ある意味でボランティアの数値目標を設定して、それを目指して努力するような動きが大切」とし、さらに「現地のボランティアセンターが疲れており、それをサポートする動きやNPO自身が受け皿となるような多様な取り組みが必要」としました。また、田中氏は、「これだけ当事者意識をもとうとしている市民の熱意を、もっと活かす社会であって欲しい」と述べ、ボランティアにとって物理的にもコーディネーションの意味でも高いハードルを下げる努力を一刻も早くすべきとの認識を示すと同時に、多くのボランティアの課題に取り組むドラマを広く伝播させることも大切、と述べました。最後に早瀬氏は、「人が参加して物事を解決していく事のほうが、参加を受け付けずに一部の人達で決めるよりもずっといいこと」と述べ、寄附やボランティアを通じた「参加の力」を様々な場面で確認し合うことこそが必要だと指摘しました。

議論の全容をテキストで読む  第1部 第2部 第3部

 6月8日、言論NPOは、言論スタジオにて早瀬昇氏(大阪ボランティア協会常務理事)、矢野正広氏(とちぎボランティアネットワーク事務局長)、田中弥生氏(言論NPO理事、大学評価・学位授与機構准教授)をゲストにお迎えし、「被災地に向けたボランティアの動きをどう立て直すか」をテーマに話し合いました。

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