第1部 原子力の全面停止で電力危機は起きるのか
工藤:こんばんは、言論NPO代表の工藤泰志です。さて、言論NPOでは、3月11日の東日本大震災以降、言論スタジオと題して、様々な議論を行っております。今夜は5月末に1回目を行ったのですが、「原子力に依存しない電力供給は可能なのか」と題して、第2回目の議論を行いたいと思います。まず、ゲストの紹介です。お隣が、言論NPOのマニフェスト評価で環境問題もやって頂いている、京都大学大学院教授の松下和夫先生です。宜しくお願いします。
松下:よろしくお願いします。
工藤:次に、地球環境産業技術研究機構(RITE)の理事で研究所長でもある山地憲治さんです。宜しくお願いします。
山地:よろしくお願いします。
工藤:それから、最後に東北大学教授で地球環境戦略研究機関のディレクター、明日香壽川さんです。宜しくお願いします。
明日香:よろしくお願いします。
電力の安定供給と原子力の安全性は両立できるか
工藤:さて、電力の安定供給と、原子力の安全性というこの2つの問題をどう両立していくかということが、今、非常に大きな問題になっています。政府も、一時は安全宣言を出して、原子力の再稼働を地方に要請してきた海江田経産大臣が辞任を表明するという話までありました。最終的には、政府は原子力の安全性をきちんと確認するというところで一応、統一感を出したのですが、そうなってくると、点検中の原発の再稼働なり、今稼働中の原発がどうなるのかと。来年5月には54基ある原発が全部停止になってしまうという可能性が出てきているわけです。こういう状況をどう考えるのか。もしくは、そうなった場合に、電力供給は大丈夫なのか、というところから議論をしたいと思います。まずは、松下先生、この前の議論を踏まえて電力の安定供給を、どのように思っていらっしゃいますか。
松下:前回の議論では、福島原発事故によって、これまで安全性と経済性と気候変動対策に寄与するという観点から進められてきた原発の根拠が崩れてきている、ということが明らかになりました。それで、個人的には、原発は段階的に廃止、もしくは縮小していって、将来的には、より分散型で、再生可能エネルギーを中心としたエネルギーシステムに移動できないかという風に考えています。今、工藤さんからお話しがあったように、現実の問題として、原発の再稼働が非常に難しい状態である。私自身はストレステストといったような、新しい形の安全性を確認する仕組みが必要だと考えています。しかし、現実には来年5月ぐらいには、全ての原発が停止していくということが予想されているので、そういう中で、現実的にソフトランディングで徐々に原発の依存を減らしていくことが可能かどうか、ここが問題になっています。そこのあたりをできれば山地先生にお聞きしたいと考えています。
工藤:では、山地先生、早速なのですが、この前の議論も1年に1基や5基ずつ減っていくのだったらまだ何とかなるけど、一気に何十基も無くなってしまうと電力危機が起こってしまうのではないかという声がありました。山地先生は今どういう風にお考えですか。
ストレステストとは何なのか
山地:まず、福島の原子力事故で、あれだけの過酷事故を起こして、安全確保に失敗して、国民の信頼を失ったわけですね。その信頼回復ということがなければ、今後、原子力は選択肢として生き残れないと思います。そのためには、今の段階が非常に大事です。政府は3月30日に緊急安全対策を出して、それをチェックして、一応ちゃんとやっているねということになって、経済産業大臣としては、安全対策を確認しつつ、点検が終わっている原子炉を順番に立ち上げていくつもりだったと思います。最初の玄海原発については、本当に7月中旬にも立ち上がろうか、というところまで持っていっていたわけです。ところが、首相と調整していなかったのか、非常に不思議なのですけれども、最後のステップでストレステストというのをやらないとだめだと言われて、混迷してしまったのが現状です。
これは、信頼回復という点からみても非常に困ったことです。私個人は、ストレステストは当然やるべきだと思っていました。ストレステストっていうのは、設計時に想定した以上のストレスをかけて、そういう条件下でどこまで耐えられるのか、安全性確保の余裕をチェックするということなのです。これは、信頼回復にすごく効果があると思うんですけれども、それがなければ動かせないのかというと、現在動いている原子炉もあるわけです。そことの関係でいうと、非常に慎重に扱うべきで、やっぱり余裕は確認しないといけないのだけど、それが全部終わらないと立ち上がれないのかというと、そこまで形式的に考える必要はない。問題の鍵は信頼回復だと私は思っています。
それは浜岡原発の時も同じで、私は、結論から言うと、浜岡原発を止めるというのは、賢明な判断だと思います。しかし、浜岡原発は止めて、他の原子力発電所を動かしていいのはなぜか、ということ同時に言わないといけませんよね。当局はその難しさを避けているのではないかと私は思っています。要するに、絶対安全、ゼロリスクというのはないわけですから、リスクの高いもの低いものがあるわけですよね。リスクの高いものはちゃんとチェックして、対応してから動かしましょう。そうでないものは、受け入れられるリスクであれば、受け入れましょう。ただ、あの事故を見て、みなさんが原子力を非常に不安に思っている状況の中で、受け入れられるリスクというのを言い出せない状況なのではないか。ここのところが一番の問題だと思います。
今までは、東京電力、東北電力という東日本が問題でしたが、色々な企業が東から西に移動したり、また節電努力で需要そのものが低下しているので、今年の夏は何とかなりそうです。しかし、今度のように、定期検査に入ったらもう立ち上がれないっていう状況になると、最悪の場合、来年の5月末くらいまでにぜんぶ止まってしまうかもしれません。そうすると、問題は全国レベルの話になり、一番厳しいのは来年の夏です。日本全国で電力不足が起こるので、石油、天然ガス、石炭という火力発電所を動かさざるをえないでしょう。するとまず、値段が上がります。それから、供給の不安定さが増し、信頼度が落ちます。そういう中で、家庭も大変だけど、東から西に逃げていった産業が、今度は日本の中から外に逃げていくのではないか。それが一番心配です。
工藤:明日香さんは前回に続き二回目の発言になりますが、その後の政府の動きをどうごらんになっていますか。
政府部内ではまだ勝ち負けがついていない
明日香:菅首相のコミュニケーションの問題なり、タイミングの問題なりがあると思いますし、実際そのようなことによって混迷しているように見えています。裏で起きているのは、政府の中で原発を推進したい人たちと、もうちょっと立ち止まって考えようという人たちの闘争なのですね。その勝ち負けがなかなかつかないので、外から見ると、何をやっているのかなという風に見えるのだと思います。少なくとも、菅さんは個人的には原発の問題をどうにかしないといけないと思っていて、でも菅さんの周りの人がそれに対して付いていっていない、または、菅さんを方向転換させようとしているのが現状かと思っています。原発が止まった時に電力がどうなるかということなのですが、物理的には、電気は届くことになると思います。というのは、設備容量というものでは、火力発電所がありますし、今まで計算していなかった、揚水発電所なり、自家発電もある。プラス、省エネが10%、15%くらいいけば、少なくとも夏場の数日を除いて、供給は問題ないのかなと思います。そういうような議論は、アエラという雑誌にも載っていました。ただその時に、どういう風な経済的なインパクトが国民、国民にも色々な人がいますので、家庭なり、企業に影響を与えるのか、ということになると思います。で、家庭に関してはいくつか計算があるのですが、平均家庭の1カ月の電気料金は6000円ぐらいなのですが、そのうち一番高いところですと1000円くらい上がるという計算をしています。その計算はおかしいという別の計算もありまして、まあ100円ぐらいではないか、というような計算もあります。そこは、その計算の前提はどうなっているかとか、その辺りをクリアにしないといけないのかなと思います。
工藤:山地さん、今の話なのですが、結局、さっきの原発が無くなることによって、今後かなり電力の供給は厳しくなるのかというところなのですが。
来年の夏が一番厳しい状況
山地:ここ当面は、もしこのまま検査に入ったものが再稼働できないということになると、来年の夏が一番大変な状況だと言いました。来年の夏は、最悪、原発が全然動いてないという状態ですよね。そうすると、明日香さんは楽観的に言ったけど、僕はキロワットね、設備容量的にもバランスがとれないと思いますね。大体、供給力というものは、ギリギリあればいいというものではないのですよ。供給力は予備率を持っている必要があり、それも大体8%くらい持っているのが健全なのです。ぴったり合ったから間に合うと言っているのは危険です。つまり機械は故障するのです。これから緊急に立ち上げる火力発電所というのは、今まであまり長い間動かしてないものを今から動かしますから、関西電力でもありましたけど、ある程度の故障というのは常に勘案して、それでも供給力を維持していく必要があるわけです。それから自家発電から調達すると言っていますが、自家発電も最近の燃料費上昇で動かしていなくて、そんなに簡単ではないと思います。東京だけではなくて、他の地域、特に原子力の比率の高い関西電力、九州とか四国かな、その辺りは電事法(電気事業法)の27条を発動しないといけないぐらいの状況に追い込まれるかもしれません。
工藤:27条というのは使用制限ですか。
山地:使用制限です。そうじゃないと、電力会社自身の責任になってしまいます。それと、コスト上昇については色んな試算があるのですけど、原子力が全部止まって火力で代替するとして、燃料費の安い順番でいくと、石炭、LNG、石油という順で動かすのですが、エネルギー経済研究所が計算したところによると、原子力が全然動かないと、多分3兆円くらいかかるということです。電力全体の売り上げは、年間15兆円です。で、3兆円増ですから、5分の1、20%くらい上がることになります。
工藤:松下先生、結局、原子力に対する安全信頼が戻らないと、なかなか原発の再開はできない。この安全性と電力供給の2つを可能とする方法はあるのでしょうか。
原子力の停止で、腹を固めたわけでない
松下:私自身に明確な答えは無いのですが、いずれにしても、丁寧に住民及び国民の合意を得ていく。それから、安全性に関して説明をしていく。その1つの方法として、やはりストレステストというのがあると思いますね。で、さきほど、来年の夏が一番厳しいということに関してですが、非常に厳しいという前提としていわれているのが、最大需要ですね。非常に高く見積もっているという面もあるかもしれません。それから、もう1つが、省エネルギーがどこまでできるか、それから再生可能エネルギーをどこまで拡大できるか。それから、代替となる火力発電の稼働率自体はまだ余裕があるわけですから、その中で、できるだけ気候変動に対する影響が小さいLNGが増えるように、政策的に誘導するということで、状況は非常に厳しいと思うのですが、政策として取るべきものはいくつかあるわけですね。現在やっている省エネをさらに制度化することとか、再生可能エネルギーを拡大する法律制度を導入するだとか。それからLNGなどを活用できる仕組みをつくっていく。そういうことが必要だと思います。安全性については、これから多いに議論が必要だと思います。
工藤:今の話は、政策としてやることがあるという話なのですが、例えばもう来年原発が止まるということを前提にして、政策的にこういうことができる、という風に腹を固めている状況とは思えませんよね。
山地:全然、そうは思えません。どうなっていくのが分からないから、みんな不安に思うわけですね。
工藤:ということはある意味では、止まってしまうということが決まるのであれば、それに対して政策の可能性はあるということですか。
キロワットとキロワットアワー
山地:止まると決まったら、コストはともかく、答えは出るでしょう。需要を下げて供給量をできるだけ確保していくということです。ただ、今、松下さんの話を聞いて、ちょっと違和感があると思ったのは、問題はキロワットという設備容量が足りないと言っているのにキロワットアワーを問題にしているところです。例えば、稼働率がまだ余裕があるといっても、ピークのときはみんな稼働しているので、設備容量の不足というのをもう少し念頭に置いた方がいいですね。その時に、再生可能エネルギー、太陽電池とか風力というのは自然変動電源で、設備容量としてのカウントは全くゼロとは思わないが定格容量分を期待することはできません。沢山入ってくると定格容量の幾分かはkW供給力としてカウントできるようになると思いますが、1000万キロワットの太陽電池が入ったら、1000万キロワットの他の設備がいらないのかといえば、そういうことでは無くて、多分、100万キロワット分くらいは削れるかもしれないという程度でしょう。そういう感じですから、キロワットの問題とキロワットアワーの問題はごっちゃにしない方が良いと思います。
工藤:一番問題なのは、安全性はちゃんと確保しないといけないのですが、それはどうやったら、安全といえるのかまだよく分からないわけです。政府としても、こういう風な形でやるので、国民のみなさん理解してください、という形にはまだなっていない。だから、結果として、今の状況でいけば、止まってしまうと。政策的に目指して何かを動かしているという状況ではないのですよ。それが不安を高めているような感じがするのですが、明日香さん、それについてどうでしょうか。
明日香:実際、国民からすれば不安なのですが、その政権内部では、血みどろの戦いがあって、ストレステストを宣言するのは遅かったのですが、そういうストレステストが不要だという人たちがいて、なるべくそういう宣言をさせないように菅さんに働きかけて、菅さんはそこらへんを無視して...。
電力供給ではまだ議論が足りない
工藤:明日香さんはやっぱりストレステストはやるべきだと思いますか。
明日香:やるべきだったし、もっと早く判断をするべきだったと思います。やはり、安全なり、安心という意味では、今の原子力の安全を判断する体制に国民側の信頼性はもう無いと思います。もちろん、全ての安全審査について国民が理解しているわけではないと思うのですが、例えば、ブレーキを踏むべき保安院が経産省の下にいたということ自体がおかしいのですね。そういうもとでは、とても信頼できる検査っていうのは、普通の目から見るとおかしいので、それを直して、ストレステストをして国民はその間にみんなで議論をする。先程のキロワットの話も、価格の話も、コストの話も、まだまだ共通認識というのはないと思います。先程3兆円という数字を出したと思うのですが、そこは省エネをしない前提だと思うのですね。かつ需要はリーマンショック前の非常に高い消費の時の数字を使っていると思います。そこも含めて、もっともっと議論をするべきだと思います。まだまだ時間はあると思います。
工藤:わかりました。ちょっと休憩を挟んでまたやります。
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第2部 原子力に対する信頼は回復できるのか
工藤:議論を再開します。休息中も議論をしていたのですが、電力不足が、どれぐらいのダメージとなるのか、これから各機関がシミュレーションをしてくるという話を伺ったので、それを踏まえながら議論を後日、進めたいと思います。ただ、さっきの議論の中で、もう少し深めたいと思ったことが、安全性の事なのです。原子力の安全性については、ある程度、納得しないといけないと。ただ、きちんとした納得感のある安全性の確認というのは、どういうことを意味しているのか、ということがイマイチ見えないところがあります。この辺りを議論したいのですが、山地さんどうでしょうか。
不確実な被害と対策に伴う現実の被害
山地:よく安全・安心と言いますよね。安全はともかく、安心というコンセプトが難しいと思っています。安心についての議論を始めると、泥沼の議論になるのですね。つまり、安心の逆は不安ですよね。個人が不安に思うことを、安心させるというのは、そんなに合理的にできるものではないのです。一方、安全とかリスクについては、ある程度科学の対象になります。安全と安心をつなぐところ、そこが一番難しいところです。
今回、国民は不安になっているのですが、私はこれを原発への信頼を失っていると捉えたい。だから、安心とは言わずに、信頼を回復するという言い方をいつも私はしているのですね。この問題は、今、もっと根源的に考える場面だと思う。私は、この問題は、科学と社会との関係という大上段な話とも関係してくると思うのです。科学的に言えば、100ミリシーベルト以下で、健康影響というのは観測されていないわけです。被曝のリスクについて、リニアでしきい値がないという仮定を置くと、100ミリシーベルトのところで、発がん率が0.5%ぐらい上がるだろうと言われています。しかし、実際の疫学調査の結果を見ると、100ミリシーベルトではこのようなリスクの上昇は出ていないのですよ。それも、急性で被曝する場合と、1年、2年かけて被曝する場合とは違っていて、ゆっくり被曝すると特に出ない。癌になるリスクは、600ミリシーベルトぐらいまで、あるいはもっと高くても出ていない。しかし、一方では、放射線被曝は、できるだけ合理的に避けましょうという原則がある。
現実には年間20ミリシーベルトという基準を使って避難をして、残された家畜が死に、職を失ったり、子どもが転校したり、リアルな被害が起こっているわけです。サイエンス上の不確実な領域が起こした、リアルな被害ということが、今回、鮮明に出ていると思います。そういう状況は、ちょっと話が飛ぶようだけど、温暖化問題にも似たようなところがあって、温暖化が人為的な温室効果ガスの濃度上昇で起こっているということについて、科学はその可能性が高いと言っているけど、断定はしていませんよね。しかし、そうらしいということで対策をうち、その対策に巨額の費用がかかるわけです。そういう科学上の不確実さの下で対策をどう考えるのかということが問われていると思います。
温暖化の場合は、科学的に被害が起こりそうだというのだから対策を打つべきだと思っていますが、放射線被曝のリスクに関しては、科学的には観測されていない水準なのに、現実にこんなに被害を起こさなければいけないのか、という根本的な疑問を私は持っています。合理的な負担でリスクを避けられるものなら避けるというのは分かる。だから、平時は1ミリシーベルトの規制でいいのですが、20ミリで避難すると決めるときには、その合理性をよく考えた方がよい。100ミリシーベルトでは何故いけないのかということについて、もう少し議論をした方がいい。これは、安全の議論、受け入れられるリスクの議論になります。この議論が安心につながるかどうかは、私は分かりません。ただし、100ミリシーベルト以下のところでは今までは科学的には何も有意な被害が観測されていないという事実は伝えるべきでしょう。あるいは、私は61歳ですが、子どものころに体験した原爆実験による人工放射能のホールアウトの量は今と比較して年千倍も大きかったという事実も伝えておいた方がよいと思います。そういうことを伝えておかないと、今後、原子力を再稼働させるとかいう議論をしても、多分、今回の事故による不安な記憶が残っている限り、信頼回復はできないと思います。
工藤:どうですか、今の話を聞いて。
国民が納得しない限り、再開は現実的に難しい
松下:そうですね。安全性ということで、今、山地さんが言われたリスクの問題ですね。このリスク評価については、色々な研究がされています。しかし、それも、国民からすると安心できるものではないということはおっしゃる通りです。ただ、原子力ということを全体で考えると、原発の発電のコストは安かったわけですね。それが、政府の財政支出を考えると、決して安くないと。あるいは、廃炉処理だとか、バックエンドコストを考えると、安くないということが1つ分かってきたということでもあります。それから、福島の廃炉にしても、これから数十年、あるいは数百年、場合によっては何万年かの単位で、後の世代が管理して、リスクを下げていくということを考えると、やはり、トータルで言うと、原発に依存し続けるということは経済的でもないし、安全でもないと私は考えます。したがって、どうやって当面の危機を乗り越えながら、将来的には原子力のリスクを避ける、それから、温暖化のリスクを避ける。そういうエネルギーシステムを作っていくか、ということを考えて、現在から色々な対策の手を打っていくこと必要があると考えています。
安全性については、国民が安心だと考えられる状況にならないと、政府が考えているような早期の再稼働だとか、新規立地は当面難しいと現実的には思います。ただ、先程、明日香さんが言われたように、安全性を審査したりする仕組み作り、きちんと独立した評価できる委員会や国際的な知見を取り入れるとか、あるいは、住民ときちんと対話するとか、そういう仕組みをつくっていて、信頼を回復していくということは、非常に必要だと思います。
工藤:今のお二方の話を聞いて思ったのですが、山地先生は、原発から脱却したエネルギー政策は難しいと思っているのでしょうか。それとも、ある程度使いながら、安全性をベースにしてやりましょうという形なのでしょうか。
リスクは完全には避けられず、絶対的な安全もない
山地:まず、安全性、あるいは逆のリスクにしても、言葉尻をとるようですけど、リスクを避けると言うけど、リスクは完全には避けられない。安全も絶対的な安全はない。黒か白か、ではない。受け入れられるリスクがあるだけ。そういう風に考えないと、問題は解決しません。それから、コストの問題についても、色々なところで精査した方がいいと思います。計算の仕方は様々ですが、今までの政府の検討でも、廃炉やバックエンドコストというのは入れて経済性を評価しています。ただし、立地交付金とか税金で賄っている部分はカウントしていませんが、それを入れるのは割と簡単なことです。私も自分で検討していますし、最近では大島先生の本も読みましたけど、立地交付金というのは年間2000億円弱で、原子力は1年間に3000億キロワットアワーぐらい発電しているので、割ると1円以下になります。また、大島先生は揚水は原子力とワンセットだと言うのだけど、私、最適電源構成問題とかを扱っていましたが、原子力という選択肢がない場合でも、揚水発電所が最適解に入ってくる場合があります。つまり、負荷を平準化して電源を動かした方が、全体として安いから。だから、揚水が全部原子力のためというのは、極端な主張だと思います。少し、横道に逸れました。このようなコストも考慮した上で、私は、原子力は選択肢としては残した方がいいと思っています
工藤:すると、その中で、100%リスクフリーということはないわけだから、ある程度コントロールできるような状況でやっていくという考え方なわけですよね。明日香先生はどういう風な立場で、この安全性を考えていますか。
でも、原子力は確率は小さくとも被害は大きい
明日香:もちろん、リスクは、受け入れなければいけない場合もあるのですが、受け入れなくてもいいリスクは、受け入れない方がいいと思うのですね。かつ、原子力というのは確率が小さくても、何か起きれば非常に大きな被害を受けるものです。それは、まさに、先程の科学という大きな枠組みで考えると、科学技術の宿命だろうと思います。原子力の開発の歴史というのは、40年、50年前に始まったと思うのですが、その頃というのは、非常に安全で安いというイメージがあったと思います。ですが、今、それほど安くなくて、リスクもそれほど低くはないという新しい状況になって、今、色々と改めて考えるべきだと思います。日本の場合は、そこから抜けられない、変えられない、止まれないというのが日本の原子力行政だったと思います。先程、安心という言葉があったと思いますが、誰が言うかによっても違うと思うのですね。今の政府が何を言っても、なかなか信用されないというのが、私の見方です。そのためにも、ある程度立ち止まって、色々な選択肢を考えるべきだと思います。
工藤:つまり、松下先生も明日香先生も、原発に依存しない形の方が望ましいと思っているわけですよね。では、ストレステストはなぜ必要なのでしょうか。これは安全性を確認しながら、再稼働をすることが目的で、稼働を止めるために行うテストではないはずですが。
明日香:それは、当然コストの問題もあります。当然、コストというのは、国民が払うことになりますので、やはりそれはなるべく少ない方がいい。かつ、再生可能エネルギーの場合ですと、時間がかかるのですね。なので、直ぐに入るわけではありませんし、地熱などは数年かかります。その時に、つなぎの電力として何を使うかということだと思います。先程も申しましたように、原子力は無くても大丈夫だと思います。ですが、前提として、先程の議論でも欠けていたのが、省エネが必ず必要です。まさに今、省エネをどうするかということが一番重要な議論で、そのための制度設計をどうするかということだと思います。
工藤:EUも使っているストレステストを導入したらいいのではないかという話があるのですが、これを使うことは、安全性を確認するためにどういう意味があるのでしょうか。素朴な質問なのですが、山地先生、どうでしょうか。
ストレステストは安全性確認でどんな意味があるのか
山地:ストレステストも中身は色々です。ヨーロッパでやっているのは、みなさん調べられているとは思いますが、想定される脅威が異なります。つまり、日本だと地震、津波等ですが、ヨーロッパだと洪水とかです。その脅威のシナリオに対して、どういう対応をして、どの程度の耐性があるのか、ということをテストするのがストレステストです。僕も、ストレステストをすることについては賛成で、前から指摘していたのに、何で今ごろになって急に言い出したかということが非常に不思議なところです。明日香さんも言ったように、首相の言ったストレステストの中身がはっきりしないというのはひどい話です。これだけストレステストと言っていたのだから、もっと中身を詰めているのかと思っていたのですが、今頃、ストレステストという言葉だけを持ち出して、地元の人も、ほぼ同意に近い所までいっていたものを止めるということは、非常に理不尽な感じがしますね。
工藤:原発問題を技術的に見ている人たちの安全性に対する考え方には2つあって、こういう被害があったときのマネジメントというか危機対応をちゃんとできるのか、もう一つはこの前はメルトダウンが起こった要因が、津波という話だけだったのですが、震災に対する対応がまだまだ不十分だったのはないかと。その原因はまだわからないではないか、それがわからない状況の中で、安全性ということを言うのは、まだまだ早過ぎるのではないかという議論があるわけですね。
これは耐震対応が十分かという問題であり、その時に、ストレステストという話は今問われている安全性ということと繋がっているのか、という疑問もあります。
明日香:私、東北大学で仙台なのですが、余震というのが大きなリスクとしてあるのですね。
工藤:その時、余震でも外部電源が止まりましたよね。
明日香:そうです。なので、余震が起きる可能性は現実的に感じるのですね。仙台は時々、今でも揺れます。そういう状況で、ストレステストも何も無しに、原子力発電所を稼働するということは、少なくとも仙台にいる人にとっては、非常にリアルに危ないと思います。
工藤:ということは、今の余震対応というのは、ストレステストの中に含まれるということですか。
明日香:色々なテストがあると思うのですが、ストレステストに限らず、余震なり、これから起きる可能性が高い地震に対して、どういう対応をとるのかということは、もうちょっと系統的に政府がテストを実施して、その結果を公表して、それをみんなで議論するというステップは必要かと思います。
工藤:その基準として、そのストレステストということが、この前大変な事件があった中で、再開の基準としては適切だと判断してよろしいのでしょうか。その辺りも、よくわからないところがあるのですが。
松下:本来であれば、福島原発が起こった後に、きちんと安全基準を見直して、その見直しの中の一貫として、非常に危険とされている浜岡原発は停止するとか、それ以外の古い原発は順次ストレステストをするとか、そういうことをきちんと公表した上で、色々な人の意見を集めて、順次やっていけばよかったのですが、その順序が行ったり来たりしたことによって、今度、政府に対する信頼自体が失われてしまったということだと思います。
工藤:政府の中には、定期検査中の原発をなるべく早く再開したいという思いがあるわけですよね。
明日香:だから、そこは政府の中に2つのグループがあって、闘っているというのが現状だと思います。だから、理不尽でも再開するかどうかも、ストレステストが終わったら再開してもいいかということも、まだ決まっていない状況だと思います。もちろん、止めたいという人はいますので、そういう人たちはずっとストレステストの時にも稼働させないで、終わったとしても、もう少し吟味するべきだという議論はこれからもあると思います。そこは、国民が決めることですし、国民感情がその時にどうなっているのかということだと思います。
山地:少なくとも、今回の過酷事故を経て、やらなければいけないことであることは確かなのだけれど、定期検査後の原子力発電所の再稼働の条件とするべきか、ということは、政府がきちんと決めればよかったのですね。そこが曖昧だったことが、みなさん心配されていることだと思います。私は、基本的には専門的知見による評価が大切で、みんなで決めるということには、なかなかいかないと思います。専門性を持つ組織によって、リスク論としてきちんとリスク評価をした上で、安全目標をクリアしているとか、受け入れられるリスクのものは動かすということが基本だと思っています。ただ、それが、みなさんに理解され、安心していただけるかは別の問題で、これは別の視点から対応すべき問題だと思っています。ですが、専門家としてやるべきことは、安全目標、受け入れられるリスクを決めて、この原子炉はそれをクリアするけど、この原子炉はダメだということをはっきりさせるということが大事だと思います。
工藤:なるほど。そういう形を専門家がやって、政府としてはきちんと方針を決めて、やることのほうが大事なわけですね。でも、今、そういう風になっていない状況の中で、ストレステストを入れながら、やるという状況になってきた。一方で、その結果、電力がどうなるのか。だから、話があちらこちらにいっているというか、色々な問題が出てきて、混迷しているという状況です。
それでは、休息を挟んで、もう1回基本に戻って、原発に依存しないエネルギー政策は可能なのかということも含めて、議論したいと思います。
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第3部 原子力に依存しない電力供給は可能なのか
工藤:さて、休息中も議論がかなり進んでいるのですが、基本に戻ってみたいと思います。菅さんは、2030年までに原子力を電力供給の中で50%ぐらいまで持っていくというエネルギー基本計画を全面的に見直そうという話です。どう見直すのか、分かりませんが、原子力からの脱却も視野に入っているように思います。もう一度、ここについて議論して、それは可能なのかという問題に戻したいのですが、まず松下先生、どうでしょうか。
新設が無理なら、老朽化で廃炉が視野
松下:最終的には国民が原子力をどう受け止めるかということですが、私の現実認識としては、現状では、現在のエネルギー計画の2030年までに、新規に14基を立地して、原発の依存を50%に上げるということは無理だと思います。一方で、新設が無理で、なおかつ現在ある原発が、段々と老朽化していく。従来も大体40年ぐらい経ったら廃炉という風に言われていたことを当てはめると、長期的には2030年ぐらいまでには、今回のように原発の再稼働が難しいという状況が無くても、徐々に廃炉になっていくという状況だったので、できるだけスムーズに、原発から移行できるような取り組みをしていくべきだという風に思っていました。そういう意味で、現在、国会で審議されている再生可能エネルギー推進法案をきちんと制度化する。それから、あまり議論には出ていませんが、温暖化対策基本法をきちんと議論する。
工藤:あれも、鳩山さん以降、何もできなかったわけですよね。
松下:衆議院は通ったわけですけど、鳩山さんの後で廃案になってしまいました。参議院ではほとんど議論されていないという状況です。ですから、そこに掲げられている、環境税や排出量取引制度といった制度をきちんと導入していくということについて、今は議論されていませんが、合わせて議論をするべきだと思います。
工藤:山地さん、エネルギー基本計画をどのように見直すかということが、まだ見えていないのですが、ただ、黙っていたら原発はどんどん老朽化していきますし、今の基本計画は実現できないという状況になりますよね。これについて、首相が言ったことは可能なのでしょうか。
温暖化対策と基本計画は同時に解を出すしかない
山地:まず、今のエネルギー基本計画は、2030年が目標年になっています。非常に温暖化対策を意識しているのですが、しかし、目標を少しずらしているのです。温暖化対策で中期目標といっていたのは2020年目標で、鳩山さんは90年比25%減と言っていました。その25%の内、真水がいくらかという議論が詰まっていなくて、そこが詰められないものだから、2020年をエネルギー基本計画では議論がしにくかったのですね。ですから、2020年を飛ばして、2030年にしました。しかし、2030年で90年比30%減ですから、間を取れば、2020年の大体の削減目標が分かるという形になっています。でも立て付けは悪いですよね。私は、原子力を比較的によく知っている方ですけど、電力の53%を原子力発電に頼るということは難しい目標だと思います。再生可能エネルギーも二十数%なのですが、両方とも非常に難しいことになっているのは、温暖化を意識しているからなのです。今度エネルギー計画を見直すときには、真水の目標の調整を含めて、温暖化対策とエネルギー基本計画を一体として見直すということは、非常に大事だと思います。
もう1つは、さっきからよく言われている、2030年までに14基の原子力の増設を行い、電力の5割を原子力が賄うというのは、これは最早できません。その点でも見直さなければいけません。ただ、難しいと思うのは、現行の見直さなければいけないエネルギー基本計画の中でも、省エネルギーについては、住宅の断熱なども含めて、実は目一杯入っているわけです。一次エネルギーは、確か、現在よりも十数%低くなっています。電力はほぼ同じぐらいですけど、電化して効率を上げようということが入っています。それから、再生可能エネルギーも、菅さんが1000万軒の家の屋根に太陽電池をと言いましたけど、あれは現行エネルギー基本計画の2030年目標に入っているのですね。
工藤:入っているのですか。
山地:入っています。だから、あれを2020年代の早い段階へ前倒しをしようとしているわけです。現行のエネルギー基本計画でも、5300万キロワットという太陽電池導入を目標にしていますし、風力は1000万キロワット。風力は洋上での発電なども考えると、もっと拡大してもいいかもしれません。それから、最近、地熱が言われていますが、地熱も165万キロワットと、今の3倍以上が入っています。ですから、省エネも相当織り込んでいて、再生可能エネルギーも沢山入っている。その中で、原子力が目標未達になることは確実なので、これをどうしろと言われたら非常に難しくて、ここでも、化石燃料は増えざるを得ないと思います。もちろん、再生可能エネルギーは、私も増やせばいいと思いますけど、原子力で空いた穴を埋めるだけの力はないと思います。そうすると、多分、天然ガスでしょう。世界的にも需給が安定しているし、化石燃料の中で相対的にクリーンです。そうすると、益々、温暖化対策と一体的になった見直しを進めなければいけない。これが課題だと思います。だから、温暖化対策目標を緩和して、緩和と言っても2030年目標は持っていないのですが、それとセットにすれば、エネルギーの需給計画はつくれると思います。ただ、そこを議論せずに、温暖化目標も高いのを維持しながら、というのだと、それは解がないということになるかもしれません。
工藤:今ある、この検討はどこの部署がやっているのですか。
山地:今までは、エネルギー基本計画というのは、経済産業省の総合資源エネルギー調査会という審議会がつくっていたのですが、今回は、政治主導ということになっていて、新成長戦略実現会議の下の環境・エネルギー会議が方向性を決めることになると思います。この会議では、玄葉大臣が委員長で環境大臣と経産大臣が副委員長を務め、政治家が中心メンバーになっています。これは名前も環境・エネルギーだから、私が指摘した温暖化対策とエネルギー基本計画が一体となった、ある種のフレームワークというか、方向性がでるのではないかと期待しています。それを受けて、エネルギー基本計画がつくられ。同時に、温暖化対策もつくられるのだと思います。今は、民主党の政治主導の元で、そういう体制でやっている。また、総合資源エネルギー調査会もそれに対応する準備をしようとしているところです。
工藤:ということは、2つ動いているということですか。
山地:政治主導のものが動き出していて、それを受けて具体的な作業をする審議会が動くだろうと思います。
工藤:その玄葉さんのところは、いつまでに、どういうスケジュールで動いているのですかね。
松下:一応、6月に第2回が開催されました。それで、8月とか9月だと思いますが、革新的エネルギー環境戦略策定に向けた中間整理をするということで、年末を目標として革新的エネルギー環境戦略の基本的な方針を出すというふうに言われていますね。
工藤:それがその通り動くかという問題はありますね。
現在の政府検討が現実的に機能するかは、不透明
松下:仕組みとしては、従来はエネルギーは経産省、環境については環境省、経産省がそれぞれ審議会で議論するという仕組みだったのですが、一応、新国家戦略の検討の中で、分科会として国家戦略担当大臣を長とし、経産大臣と環境大臣を副委員長とする仕組みができたということで、仕組みとしては従来よりいいと思います。これが、現実的にうまく機能するかという問題はありますが。
工藤:これは、事務局はどこに置かれるのですか。
松下:事務局は内閣府になります。
明日香:先程、原子力に関しては、なかなか増設は難しいと。国民感情からもそうだとは思うのですが、今まで推進してきた経産省なり、他の省庁の方々というのは、多分、そう思ってはいないと思います。国民は、もう少し経てば忘れてしまうだろうと思っている人も、私は多いと思います。一段落つけば、忘れてしまうだろうと。そういう意味でも、国民が本当に自分達で議論して、数字を出し合って、まさに本当の政治主導を考えるきっかけとなるような議論を巻き起こさないといけないと思います。
工藤:今、再生可能エネルギーの法案が出ていますよね。この話は、この議論と連動しているのですか。
松下:連動しています。
再生可能エネルギー法案の民主党の対応は元々遅かった
山地:この議論より前から始まっています。大体、太陽電池の余剰買取り制度は自民党・公明党政権時代につくられています。また、エネルギー基本計画をつくる作業と並行して、今の全量買取法案の仕組みの審議をしました。
私は民主党はもの凄くスピードが遅かったと思います。政権交代後、2009年11月から審議会で検討を始め、2010年3月にパブリックコメントをやってからも1年以上経っているのですが、まだ国会で審議中です。よく言われますが、この法案は丁度、あの3月11日の午前中に閣議決定された。これまでの経緯から考えると、この法案の中身には自民党も強い反対はないはずなのです。私は、制度設計の審議会などに関係していました。骨抜きにするとかいう人たちがいると、また色々な議論が出てくるのですが、一応、全量買取りという仕組みの中では、負担も含めてできるだけ合理的なものをつくったつもりです。法案自体には事細かな数値とかは載っていませんが、これが通らないと、現行エネルギー基本計画の再生可能エネルギーの実現だって難しい。今の計画よりももっと大量に再生可能エネルギーを入れようとするのであれば、この法案の運用だけでは、なかなか難しいのではないかと思います。
工藤:さっき、山地さんがおっしゃいましたが、少なくとも、原発については、この基本計画通りは進まないだろうと。しかし、温暖化対策を重視してかなり目一杯色々計画していたために、それがうまくいかなくなってくると、それをどういう風にやっていけばいいのか。温暖化の目標を緩和しない限りかなり至難の業になる、ということを言われたのですが、この原発に依存しないという形と今の地球環境の問題、それからその中での電力供給のミックスみたいな形の解は、十分可能なのでしょうか。
再生可能エネルギーの高い可能性をどう具体化するか
松下:短期的には、先程、山地さんが言われたように、天然ガス(LNG)を増やすということと、また再生可能エネルギー推進法案なども早く通すことが前提となる。環境省が今年の4月頃に出した調査報告によると、自然エネルギー、再生可能エネルギーのポテンシャルは、原発の現在の発電量の40倍ぐらいのポテンシャルがあるわけです。あくまでも、ポテンシャルですが、今度は、地域から、地域ごとに色々な取り組みが始まっていますから、国がきちんした制度を作りながら地域でそれぞれの特色を活かせば、それが動き出してくる。
東北の復興の中でも、太陽光や風力、地熱や小水力など、ポテンシャルはあるわけですから、集中的に投資をする。投資をすればするほどコストは下がりますから、それを広げていく。地域自立型で、分散型の仕組みをこの機会につくっていく、というようにポジティブに取り上げていく、ということが必要になると思います。
工藤:松下先生は、つまり原発がゼロになっても、今の再生可能エネルギーか何かをベースにして、集中的に投資をすることで、エネルギーの計画は可能だということですか。
松下:その時々で、うまく解が出るかわかりませんが、長期的にはそれを目指して、進めていく必要があると思います。
工藤:さっき、山地先生は、原発はある程度必要だろうし、残すべきだとおっしゃっていましたよね。エネルギー基本計画の最終的な着地で、原発を残さなければいけない意味を、もう一度、おっしゃっていただけますか。
可能性を期待しての過度の楽観は禁物
山地:再生可能エネルギーのポテンシャルということを言い出したら、もの凄く大きいのですよ。要するに、太陽が地球に降り注いでいるエネルギーは、世界のエネルギー需要の約1万倍あるわけです。だから、ポテンシャルで計算すると多いのは当たり前のことです。ただ、密度が薄いとか、間欠的だとか、そういう問題があるわけです。僕は、基本的には再生可能エネルギーはどんどんやるべきだという主張なのですよ。ただ、あんまり安易に考えて、楽観視すると実現不可能な間違った方向にいくと思うのです。
一例を挙げると、菅さんの1000万軒の家の屋根に太陽光電池を取り付けるという話ですが、1軒当たり3キロワットとか、4キロワットですから、3000万キロワットから4000万キロワットの太陽電池になります。キロワット単位の設備容量としては大きそうですが、夜は動かないし、設置角度が固定されていますから、朝とか昼は、あまり出力はでませんし、雨の日も出ないわけで、実際に発電する電力量は小さくなります。設備容量の100%で年がら年中動いた時の発電量に対する、実際の発電量の比率を設備利用率といいますが、わが国の太陽電池の場合は約12%です。これは、自然条件でそうなっています。そうすると、3300万キロワットの太陽電池が出せるキロワットアワー単位のエネルギー量は、原子力でいうと、福島第一原発の1から4号炉は確実に廃炉でしょうけど、5、6号炉を入れると470万キロワットなのですが、この原子力470万kWが出すエネルギーとほぼ同じなのですよ。つまり、非常に大きく見える1000万軒の屋根の太陽電池といっても、福島第一原発が出す電力量と同じぐらいです。それを考えると、原子力無しで、再生可能エネルギーでわが国のエネルギーの主要部分をカバーすることは、もの凄く難しいことだいうことが分かると思います。お金もかかるし、技術的なこともあります。だから、やはり選択肢としての原子力は維持するべきだというのが、私の考えです。
ただし、原子力に電力の50%以上を依存することは、最終的にも高すぎる目標だという気がしています。やはり、原子力も今回みたいに、システマティックに多くが止まる可能性もあるわけです。原子力政策については、原子力政策大綱というものがあって、福島事故があって今は中断していますが、これも見直しが進んでいるところです。現在改訂中の原子力政策大綱には、原子力の目標比率として、電力の30%から40%程度以上、という曖昧な書き方をしています。この30%から40%という比率は参考になるかな、と思います。
工藤:最終的な2030年ということですか。
山地:そうですね。2030年以降もという目標になっていたと思います。
工藤:今が、30%ぐらいですか。
山地:昨年の実績では30%を切っています。しかし、世界の平均的な設備利用率でわが国の原子力が稼動すれば、30%を少し上回っていたはずです。ですから、需要をもう少し頑張って抑えれば、今回の事故で失った福島の原発も含めた現在の日本の原子力規模程度で、世界の平均的な稼働率で動けば、大体、30~40%を実現できるのではないかと思います。
工藤:明日香さん、時間が短くなってきましたが、どうですか。
何が一番安全で安くて、温暖化対策にも繋がるのか
明日香:今日の原子力の議論には、やはり原子力の廃棄物の議論が抜けていたかと思います。廃棄物の話も含めて、全体的に原子力のことは考える必要があるかと思います。あと、25%との関係ですが、私はCO2の25%の削減目標も達成して、かつ、エネルギーもみなさんが必要な量を供給できるようなシステムを作れると思います。
結局はコストなのですね。原子力についても冒頭に言いましたけど、安いというのがメリットだったのですね。ですが、現実的には安くないですし、かつ、その安さも誰にとって安いのかという話なのですね。逆に言えば、誰が儲かるかという話だったと思います。その辺りを、具体的にクリアにして、我々にとって何が一番安全で、安くて、かつ温暖化対策につながるかという議論を始めるべきだと思います。
工藤:本当は、もう少し議論を進めたいなと思ったのですが、最終的に、原子力発電というものをどういう風な形で、今後の日本のエネルギーの供給源として位置付けるのか、つまり、無くしていくのか、それとも、ある程度必要なものだと考えるかで、最終的な絵姿が違いますよね。どちらにしても、新規を抑制するとか、安全性を重視するにしても、まだまだ議論が足りないと思いますので、今後、ここで出た論点を元に、さらに議論しながら、みんなが共通の土俵で色々なことを考えられるような議論の形成をしていかなければいけないと思いました。
最後に、みなさんに一言ずつ言っていただこうと思ったのですが、時間が無くなってしまいました。何か、本当に一言ずつありますか。山地さん、どうですか。
クールヘッドとウォーム-ハート
山地:今、震災後で皆さんホットになっていますよね。ウォームハートはいいのですが、クールヘッドにして議論をする必要があると思います。まだ、ウォーム-ヘッドだと思います。
明日香:私もクールヘッドが必要だと思います。後、数字に関しては、気候ネットワークというNGOなのですが、そこが細かく原発なしでも、CO2つの25%の削減を達成でき、かつ、今年の夏、来年の夏も乗り切れるというデータを出しています。なので、これから、色々な研究機関がデータを出すと思いますし、そういう数字を元に、オープンに議論するべきだと思います。
工藤:まだ、議論がつきないのですが、こういう形で、何回もやらなければいけないなという気持ちを新たにしたところです。今日は、みなさんありがとうございました。
一同:ありがとうございました。
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7月11日、言論NPOは、言論スタジオにて松下和夫氏(京都大学大学院地球環境学堂教授)、山地憲治氏(地球環境産業技術研究機構 研究所長)、明日香壽川氏(東北大学 東北アジア研究センター教授)をゲストにお迎えし、「原子力に依存しない電力供給は可能なのか」をテーマに話し合いました。
2011年7月11(月)収録
出演者:
松下和夫氏(京都大学大学院地球環境学堂教授)
山地憲治氏(地球環境産業技術研究機構 研究所長)
明日香壽川氏(東北大学 東北アジア研究センター教授)
司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)
第3部 原子力に依存しない電力供給は可能なのか
工藤:さて、休息中も議論がかなり進んでいるのですが、基本に戻ってみたいと思います。菅さんは、2030年までに原子力を電力供給の中で50%ぐらいまで持っていくというエネルギー基本計画を全面的に見直そうという話です。どう見直すのか、分かりませんが、原子力からの脱却も視野に入っているように思います。もう一度、ここについて議論して、それは可能なのかという問題に戻したいのですが、まず松下先生、どうでしょうか。
新設が無理なら、老朽化で廃炉が視野
松下:最終的には国民が原子力をどう受け止めるかということですが、私の現実認識としては、現状では、現在のエネルギー計画の2030年までに、新規に14基を立地して、原発の依存を50%に上げるということは無理だと思います。一方で、新設が無理で、なおかつ現在ある原発が、段々と老朽化していく。従来も大体40年ぐらい経ったら廃炉という風に言われていたことを当てはめると、長期的には2030年ぐらいまでには、今回のように原発の再稼働が難しいという状況が無くても、徐々に廃炉になっていくという状況だったので、できるだけスムーズに、原発から移行できるような取り組みをしていくべきだという風に思っていました。そういう意味で、現在、国会で審議されている再生可能エネルギー推進法案をきちんと制度化する。それから、あまり議論には出ていませんが、温暖化対策基本法をきちんと議論する。
工藤:あれも、鳩山さん以降、何もできなかったわけですよね。
松下:衆議院は通ったわけですけど、鳩山さんの後で廃案になってしまいました。参議院ではほとんど議論されていないという状況です。ですから、そこに掲げられている、環境税や排出量取引制度といった制度をきちんと導入していくということについて、今は議論されていませんが、合わせて議論をするべきだと思います。
工藤:山地さん、エネルギー基本計画をどのように見直すかということが、まだ見えていないのですが、ただ、黙っていたら原発はどんどん老朽化していきますし、今の基本計画は実現できないという状況になりますよね。これについて、首相が言ったことは可能なのでしょうか。
温暖化対策と基本計画は同時に解を出すしかない
山地:まず、今のエネルギー基本計画は、2030年が目標年になっています。非常に温暖化対策を意識しているのですが、しかし、目標を少しずらしているのです。温暖化対策で中期目標といっていたのは2020年目標で、鳩山さんは90年比25%減と言っていました。その25%の内、真水がいくらかという議論が詰まっていなくて、そこが詰められないものだから、2020年をエネルギー基本計画では議論がしにくかったのですね。ですから、2020年を飛ばして、2030年にしました。しかし、2030年で90年比30%減ですから、間を取れば、2020年の大体の削減目標が分かるという形になっています。でも立て付けは悪いですよね。私は、原子力を比較的によく知っている方ですけど、電力の53%を原子力発電に頼るということは難しい目標だと思います。再生可能エネルギーも二十数%なのですが、両方とも非常に難しいことになっているのは、温暖化を意識しているからなのです。今度エネルギー計画を見直すときには、真水の目標の調整を含めて、温暖化対策とエネルギー基本計画を一体として見直すということは、非常に大事だと思います。
もう1つは、さっきからよく言われている、2030年までに14基の原子力の増設を行い、電力の5割を原子力が賄うというのは、これは最早できません。その点でも見直さなければいけません。ただ、難しいと思うのは、現行の見直さなければいけないエネルギー基本計画の中でも、省エネルギーについては、住宅の断熱なども含めて、実は目一杯入っているわけです。一次エネルギーは、確か、現在よりも十数%低くなっています。電力はほぼ同じぐらいですけど、電化して効率を上げようということが入っています。それから、再生可能エネルギーも、菅さんが1000万軒の家の屋根に太陽電池をと言いましたけど、あれは現行エネルギー基本計画の2030年目標に入っているのですね。
工藤:入っているのですか。
山地:入っています。だから、あれを2020年代の早い段階へ前倒しをしようとしているわけです。現行のエネルギー基本計画でも、5300万キロワットという太陽電池導入を目標にしていますし、風力は1000万キロワット。風力は洋上での発電なども考えると、もっと拡大してもいいかもしれません。それから、最近、地熱が言われていますが、地熱も165万キロワットと、今の3倍以上が入っています。ですから、省エネも相当織り込んでいて、再生可能エネルギーも沢山入っている。その中で、原子力が目標未達になることは確実なので、これをどうしろと言われたら非常に難しくて、ここでも、化石燃料は増えざるを得ないと思います。もちろん、再生可能エネルギーは、私も増やせばいいと思いますけど、原子力で空いた穴を埋めるだけの力はないと思います。そうすると、多分、天然ガスでしょう。世界的にも需給が安定しているし、化石燃料の中で相対的にクリーンです。そうすると、益々、温暖化対策と一体的になった見直しを進めなければいけない。これが課題だと思います。だから、温暖化対策目標を緩和して、緩和と言っても2030年目標は持っていないのですが、それとセットにすれば、エネルギーの需給計画はつくれると思います。ただ、そこを議論せずに、温暖化目標も高いのを維持しながら、というのだと、それは解がないということになるかもしれません。
工藤:今ある、この検討はどこの部署がやっているのですか。
山地:今までは、エネルギー基本計画というのは、経済産業省の総合資源エネルギー調査会という審議会がつくっていたのですが、今回は、政治主導ということになっていて、新成長戦略実現会議の下の環境・エネルギー会議が方向性を決めることになると思います。この会議では、玄葉大臣が委員長で環境大臣と経産大臣が副委員長を務め、政治家が中心メンバーになっています。これは名前も環境・エネルギーだから、私が指摘した温暖化対策とエネルギー基本計画が一体となった、ある種のフレームワークというか、方向性がでるのではないかと期待しています。それを受けて、エネルギー基本計画がつくられ。同時に、温暖化対策もつくられるのだと思います。今は、民主党の政治主導の元で、そういう体制でやっている。また、総合資源エネルギー調査会もそれに対応する準備をしようとしているところです。
工藤:ということは、2つ動いているということですか。
山地:政治主導のものが動き出していて、それを受けて具体的な作業をする審議会が動くだろうと思います。
工藤:その玄葉さんのところは、いつまでに、どういうスケジュールで動いているのですかね。
松下:一応、6月に第2回が開催されました。それで、8月とか9月だと思いますが、革新的エネルギー環境戦略策定に向けた中間整理をするということで、年末を目標として革新的エネルギー環境戦略の基本的な方針を出すというふうに言われていますね。
工藤:それがその通り動くかという問題はありますね。
現在の政府検討が現実的に機能するかは、不透明
松下:仕組みとしては、従来はエネルギーは経産省、環境については環境省、経産省がそれぞれ審議会で議論するという仕組みだったのですが、一応、新国家戦略の検討の中で、分科会として国家戦略担当大臣を長とし、経産大臣と環境大臣を副委員長とする仕組みができたということで、仕組みとしては従来よりいいと思います。これが、現実的にうまく機能するかという問題はありますが。
工藤:これは、事務局はどこに置かれるのですか。
松下:事務局は内閣府になります。
明日香:先程、原子力に関しては、なかなか増設は難しいと。国民感情からもそうだとは思うのですが、今まで推進してきた経産省なり、他の省庁の方々というのは、多分、そう思ってはいないと思います。国民は、もう少し経てば忘れてしまうだろうと思っている人も、私は多いと思います。一段落つけば、忘れてしまうだろうと。そういう意味でも、国民が本当に自分達で議論して、数字を出し合って、まさに本当の政治主導を考えるきっかけとなるような議論を巻き起こさないといけないと思います。
工藤:今、再生可能エネルギーの法案が出ていますよね。この話は、この議論と連動しているのですか。
松下:連動しています。
再生可能エネルギー法案の民主党の対応は元々遅かった
山地:この議論より前から始まっています。大体、太陽電池の余剰買取り制度は自民党・公明党政権時代につくられています。また、エネルギー基本計画をつくる作業と並行して、今の全量買取法案の仕組みの審議をしました。
私は民主党はもの凄くスピードが遅かったと思います。政権交代後、2009年11月から審議会で検討を始め、2010年3月にパブリックコメントをやってからも1年以上経っているのですが、まだ国会で審議中です。よく言われますが、この法案は丁度、あの3月11日の午前中に閣議決定された。これまでの経緯から考えると、この法案の中身には自民党も強い反対はないはずなのです。私は、制度設計の審議会などに関係していました。骨抜きにするとかいう人たちがいると、また色々な議論が出てくるのですが、一応、全量買取りという仕組みの中では、負担も含めてできるだけ合理的なものをつくったつもりです。法案自体には事細かな数値とかは載っていませんが、これが通らないと、現行エネルギー基本計画の再生可能エネルギーの実現だって難しい。今の計画よりももっと大量に再生可能エネルギーを入れようとするのであれば、この法案の運用だけでは、なかなか難しいのではないかと思います。
工藤:さっき、山地さんがおっしゃいましたが、少なくとも、原発については、この基本計画通りは進まないだろうと。しかし、温暖化対策を重視してかなり目一杯色々計画していたために、それがうまくいかなくなってくると、それをどういう風にやっていけばいいのか。温暖化の目標を緩和しない限りかなり至難の業になる、ということを言われたのですが、この原発に依存しないという形と今の地球環境の問題、それからその中での電力供給のミックスみたいな形の解は、十分可能なのでしょうか。
再生可能エネルギーの高い可能性をどう具体化するか
松下:短期的には、先程、山地さんが言われたように、天然ガス(LNG)を増やすということと、また再生可能エネルギー推進法案なども早く通すことが前提となる。環境省が今年の4月頃に出した調査報告によると、自然エネルギー、再生可能エネルギーのポテンシャルは、原発の現在の発電量の40倍ぐらいのポテンシャルがあるわけです。あくまでも、ポテンシャルですが、今度は、地域から、地域ごとに色々な取り組みが始まっていますから、国がきちんした制度を作りながら地域でそれぞれの特色を活かせば、それが動き出してくる。
東北の復興の中でも、太陽光や風力、地熱や小水力など、ポテンシャルはあるわけですから、集中的に投資をする。投資をすればするほどコストは下がりますから、それを広げていく。地域自立型で、分散型の仕組みをこの機会につくっていく、というようにポジティブに取り上げていく、ということが必要になると思います。
工藤:松下先生は、つまり原発がゼロになっても、今の再生可能エネルギーか何かをベースにして、集中的に投資をすることで、エネルギーの計画は可能だということですか。
松下:その時々で、うまく解が出るかわかりませんが、長期的にはそれを目指して、進めていく必要があると思います。
工藤:さっき、山地先生は、原発はある程度必要だろうし、残すべきだとおっしゃっていましたよね。エネルギー基本計画の最終的な着地で、原発を残さなければいけない意味を、もう一度、おっしゃっていただけますか。
可能性を期待しての過度の楽観は禁物
山地:再生可能エネルギーのポテンシャルということを言い出したら、もの凄く大きいのですよ。要するに、太陽が地球に降り注いでいるエネルギーは、世界のエネルギー需要の約1万倍あるわけです。だから、ポテンシャルで計算すると多いのは当たり前のことです。ただ、密度が薄いとか、間欠的だとか、そういう問題があるわけです。僕は、基本的には再生可能エネルギーはどんどんやるべきだという主張なのですよ。ただ、あんまり安易に考えて、楽観視すると実現不可能な間違った方向にいくと思うのです。
一例を挙げると、菅さんの1000万軒の家の屋根に太陽光電池を取り付けるという話ですが、1軒当たり3キロワットとか、4キロワットですから、3000万キロワットから4000万キロワットの太陽電池になります。キロワット単位の設備容量としては大きそうですが、夜は動かないし、設置角度が固定されていますから、朝とか昼は、あまり出力はでませんし、雨の日も出ないわけで、実際に発電する電力量は小さくなります。設備容量の100%で年がら年中動いた時の発電量に対する、実際の発電量の比率を設備利用率といいますが、わが国の太陽電池の場合は約12%です。これは、自然条件でそうなっています。そうすると、3300万キロワットの太陽電池が出せるキロワットアワー単位のエネルギー量は、原子力でいうと、福島第一原発の1から4号炉は確実に廃炉でしょうけど、5、6号炉を入れると470万キロワットなのですが、この原子力470万kWが出すエネルギーとほぼ同じなのですよ。つまり、非常に大きく見える1000万軒の屋根の太陽電池といっても、福島第一原発が出す電力量と同じぐらいです。それを考えると、原子力無しで、再生可能エネルギーでわが国のエネルギーの主要部分をカバーすることは、もの凄く難しいことだいうことが分かると思います。お金もかかるし、技術的なこともあります。だから、やはり選択肢としての原子力は維持するべきだというのが、私の考えです。
ただし、原子力に電力の50%以上を依存することは、最終的にも高すぎる目標だという気がしています。やはり、原子力も今回みたいに、システマティックに多くが止まる可能性もあるわけです。原子力政策については、原子力政策大綱というものがあって、福島事故があって今は中断していますが、これも見直しが進んでいるところです。現在改訂中の原子力政策大綱には、原子力の目標比率として、電力の30%から40%程度以上、という曖昧な書き方をしています。この30%から40%という比率は参考になるかな、と思います。
工藤:最終的な2030年ということですか。
山地:そうですね。2030年以降もという目標になっていたと思います。
工藤:今が、30%ぐらいですか。
山地:昨年の実績では30%を切っています。しかし、世界の平均的な設備利用率でわが国の原子力が稼動すれば、30%を少し上回っていたはずです。ですから、需要をもう少し頑張って抑えれば、今回の事故で失った福島の原発も含めた現在の日本の原子力規模程度で、世界の平均的な稼働率で動けば、大体、30~40%を実現できるのではないかと思います。
工藤:明日香さん、時間が短くなってきましたが、どうですか。
何が一番安全で安くて、温暖化対策にも繋がるのか
明日香:今日の原子力の議論には、やはり原子力の廃棄物の議論が抜けていたかと思います。廃棄物の話も含めて、全体的に原子力のことは考える必要があるかと思います。あと、25%との関係ですが、私はCO2の25%の削減目標も達成して、かつ、エネルギーもみなさんが必要な量を供給できるようなシステムを作れると思います。
結局はコストなのですね。原子力についても冒頭に言いましたけど、安いというのがメリットだったのですね。ですが、現実的には安くないですし、かつ、その安さも誰にとって安いのかという話なのですね。逆に言えば、誰が儲かるかという話だったと思います。その辺りを、具体的にクリアにして、我々にとって何が一番安全で、安くて、かつ温暖化対策につながるかという議論を始めるべきだと思います。
工藤:本当は、もう少し議論を進めたいなと思ったのですが、最終的に、原子力発電というものをどういう風な形で、今後の日本のエネルギーの供給源として位置付けるのか、つまり、無くしていくのか、それとも、ある程度必要なものだと考えるかで、最終的な絵姿が違いますよね。どちらにしても、新規を抑制するとか、安全性を重視するにしても、まだまだ議論が足りないと思いますので、今後、ここで出た論点を元に、さらに議論しながら、みんなが共通の土俵で色々なことを考えられるような議論の形成をしていかなければいけないと思いました。
最後に、みなさんに一言ずつ言っていただこうと思ったのですが、時間が無くなってしまいました。何か、本当に一言ずつありますか。山地さん、どうですか。
クールヘッドとウォーム-ハート
山地:今、震災後で皆さんホットになっていますよね。ウォームハートはいいのですが、クールヘッドにして議論をする必要があると思います。まだ、ウォーム-ヘッドだと思います。
明日香:私もクールヘッドが必要だと思います。後、数字に関しては、気候ネットワークというNGOなのですが、そこが細かく原発なしでも、CO2つの25%の削減を達成でき、かつ、今年の夏、来年の夏も乗り切れるというデータを出しています。なので、これから、色々な研究機関がデータを出すと思いますし、そういう数字を元に、オープンに議論するべきだと思います。
工藤:まだ、議論がつきないのですが、こういう形で、何回もやらなければいけないなという気持ちを新たにしたところです。今日は、みなさんありがとうございました。
一同:ありがとうございました。
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7月11日、言論NPOは、言論スタジオにて松下和夫氏(京都大学大学院地球環境学堂教授)、山地憲治氏(地球環境産業技術研究機構 研究所長)、明日香壽川氏(東北大学 東北アジア研究センター教授)をゲストにお迎えし、「原子力に依存しない電力供給は可能なのか」をテーマに話し合いました。