風評被害を乗り越え、食品の安心をどう取り戻すか

2011年7月03日

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 まず代表工藤から、「震災後、日本の強みとされてきた食品の安心ブランドが崩れてしまった。これを立て直すためには今後どのような課題があるのか」と問題提起があり、①今回の震災による風評被害がどれほど深刻なものなのか、②被害を解消する流れをつくるために、政府や生産者、消費者それぞれにとって何が必要なのか、③日本の食品の安心、安全ブランドを立て直すために、日本の農業や消費者に求められていることはなにか、をトピックとして、話し合いが行われました。

 第一の点について、生源寺氏は、「アジア向けを中心に農産物の輸出は落ちており、食品の輸出を農業の活路の一つにしていたが、かなり厳しい状況にある」として、被害が被災地のみならず、全国的に波及していることを指摘しました。阿南氏は、「政府の安全対策が後手後手で、どこを信じたらいいか分からなかった」と述べ、そのため消費者としては、とにかく買わないという自己防衛策を取らざるを得なかったとしました。一方、生産者の観点から、澤浦氏は、「放射能の暫定基準値で見ていけば、一部地域を除いてはすべて安全になっているが、その基準値を信用しないということになると、安全であっても安心出来ない」と述べ、安全の基準のあり方自体が揺れている現状を説明しました。

 第二の点に関しては、阿南氏は、食品安全に関する消費者庁の対応が、消費者の不安解消に対応する動きが全くとれなかった、ことを指摘し、「政府が消費者の立場に立って常時数値を測定した上で、万が一に備えて対策を明確に示す。消費者の安全を優先させる仕組みを着実に構築することでしか、信頼回復の道はない」とするとともに、消費者としても、「正確な知識を消費者自身が得ていくことが必要だ」としました。さらに生源寺氏は、専門家が言っていることに幅があることを問題視し、「科学の観点から、科学者を評価することも必要ではないか」と述べ、一般市民の科学者に対する信頼を向上させる仕組みの必要性を指摘しました。

 最後にこの状況を立て直すための方策について、「消費者が問われている」と強調する阿南氏は、「生産者からの悩みを受け止める消費者はたくさんいる。コミュニケーションをしながら、一つ一つ解決策を模索する場をつくり上げ、広げていくことが今、必要なことだ」と指摘、澤浦氏も「生産者としてみたとき、いま出荷されているものは安全。生産者にとっては、安心をどう伝えていくかが課題であり、食べていただく消費者とコミュニケーションをしっかりやっていくことが重要」と述べ、消費者と生産者によるコミュニケーションの重要性をともに強調しました。最後に、風評被害をめぐる諸外国のコミュニケーションについては、生源寺氏は、「最も説得力のあるメッセージは日本の消費者の行動。生産者とのコミュニケーションがきちんとあり、安全だから食べている、という消費者の行動が海外に伝わることが重要」としました。

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第1話 今回の事態は「風評被害」なのか

工藤:こんばんは。言論NPO代表の工藤泰志です。さて、言論NPOでは3月11日の東日本大震災以降、言論スタジオと題して、様々な議論を行っています。今日は「風評被害を乗り越え、食品の安心?安全ブランド再興のためにどう取り組むのか」ということについてみんなで考えていきたいと思っています。まずゲストの紹介から始めます。お隣が、言論NPOのマニフェスト評価にも力を貸していただいているのですが、名古屋大学大学院生命農学研究科教授の生源寺眞一先生です。よろしくお願いします。

生源寺:よろしくお願いします。



工藤:それから、群馬県の昭和村でグリンリーフ株式会社という農業生産法人を立ち上げて、野菜の生産から加工までを手がけている澤浦彰治さんです。よろしくお願いします。

澤浦:よろしくお願いします。



工藤:全国消費者連合会事務局長の阿南久さんです。よろしくお願いします。

阿南:よろしくお願いします。



工藤:今日のテーマは先程言ったように「風評被害を乗り越え、食品の安心?安全ブランド再興のためにどう取り組むのか」です。逆に言えば、今回の震災以降、風評被害というものがあったと思うのですが、日本の強みとされていた食品の安全・安心というブランドが崩れてしまっている。これがどのくらい深刻な問題になっているのかというところから、議論を進めていきたいと思います。


オールジャパンの問題という感覚

生源寺:私、4月に名古屋大学に勤務先が変わったのですが、その直前まで東京大学農学部の学部長をやっていまして、震災関連の対策について、学部の中で色々な議論をしました。もちろん、被災地の状況に比べれば、東京大学の中の被害はほとんど無かったわけですが、いくつか議論していたことがあって、その1つが留学生の問題でした。東大の農学部には200人を超える留学生がいたのですが、ほぼ半数が震災を理由に帰国してしまいました。仮に彼ら、彼女らが戻ってくる時期が遅れた場合に、単位のことも含めて、どのように対処するかという話をしていました。実は留学生の本人の意思もあるのですが、それ以上に本国の両親が心配をしているために帰国したということが多かったようです。これで、私は相当深刻な状況になっていると実感しました。つまり、国内では、福島、茨城と周辺地域の話になっているのですが、外国から見ると、オールジャパンの問題だという感覚なのだということを、改めて実感いたしました。

 日本の農業は外国から随分輸入していて、押しまくられていますが、行きつ戻りつを繰り返しながら、アジアを中心にここ10年ぐらいは、農産物の輸出は伸びています。食生活の共通項があるとか、先方の経済が成長し購買力が高くなったことが要因で、農産物なり食品の輸出を農業の活路の1つにしていたわけです。そこに大きなダメージが生じているわけです。今、聞いている範囲では、これまで地域や国との取り引きが続いていたところも、かなり厳しい状況にあると見ています。

工藤:僕も色々と聞いたのですが、農産物の輸入制限がかかったり、観光客も激減したため、地域の観光企業が倒産するなど、その影響が全国的に広がっています。特に、日本の食料が放射能に汚染されてしまっているというイメージが広がっています。。阿南さん、消費者側はどう見ていますか。

阿南:放射性物質で汚染されているという情報が入ってからは、もう本当に消費者の方はパニック状態だったと思います。最初は福島だったと思いますけれど、福島のものは一切買わないとなり、お店に行ったら、山積みになっていて、安売りされて、しかし、誰も手を出さないという大変な状況でした。生産者側も売れないということで、余り出荷をしませんでしたので、西の地域からの農産物が店頭に並ぶという状況が続いていました。

工藤:今はどうなのですか。
阿南:今は大分戻ってきていますね。
工藤:阿南さんも買う時に被災地銘柄を気にして買いますか。

阿南:どこの産物かということはしっかり見ますけれども、被災地だからということで買わないということは無いです。

工藤:澤浦さん、どうでしょうか。風評被害で農産物の安心というブランドが傷ついているのではないかといわれていますが。


情報をオープンにすることの意味

澤浦: 澤浦:今、生源寺先生が言ったように、うちにも、タイから研修生が来ていまして、震災の後、帰ってこいということでタイの実家から電話が鳴って大分騒ぎになりました。その時にいち早く、タイの研修生を集め、通訳を通じて、今の状態で最悪になった場合、すなわち、仮に福島原発がチェルノブイリのように爆発してしまったという場合に、過去のデータを全部引っ張り出してきて、200キロ圏内にある群馬はどういう状況になるかということを、具体的に話しました。それによって、彼らはすごく落ち着き、誰も帰りませんでした。ただ、タイ本国で流されているニュースは非常に過激なもので、日本全国が放射能でいっぱいになっているという内容でした。ですから、やっぱり正しい知識で、コミュニケーションをしっかり取れれば安心してもらえるのだなと感じました。

 後は、農産物の安全についてなのですが、安全の基準がどこにあるのか。私はそれがいますごく揺れているのかなと感じています。放射能の暫定基準値で見ていけば、一部地域を除いては、ほとんど全部が安全になっているわけです。ただ、その暫定基準値を信用しないということになると、安全であっても、安心できないということになってしまうので、ここもコミュニケーションをとっていくということが必要なのかなと思っています。1つ群馬の例を挙げますと、3月の18日か19日にほうれん草の放射能のレベルが高くなって出荷制限を受けました。その後、群馬県の対応が良くて、毎日検査をしてそれを毎日公表して、4月8日に解除されました。ですから、そういう意味で、情報をオープンにしたことで、今のところ、私たちの地域の野菜は安定して販売ができているのかな、という感じはしています。

工藤:澤浦さんの発言の中で本質的というか、今日考えなければいけない問題が出ていたので、その流れで議論を続けていきたいのですが、やはり情報公開という問題に今回の震災以降、政府も含めて非常に不熱心で十分ではなかったのではないか。それで、消費者も含め、不安が加速したということがあったと思います。消費者庁というのがあって、ホームページをみると、Q&Aもあって、良くできています。ただ、これができたのは最近ですね。

阿南:そうです。5月30日です。


政府の安全対策は後手後手だった

工藤:3月11日に震災があって、その時に燃料棒はメルトダウンしていたわけです。そういう状況になると、消費者に対して、正確に情報を発信するというところに大きな問題があったと思いますが、阿南さんはどう見ましたか。


阿南:本当にその通りで、情報が無くて、だからみなさん買わないという自己防衛をしたのだと思うのですね。とにかく、政府の安全対策が後手後手だったと思います。事故が起きた、計ってみたら放射性物質が出てきた。そこで慌てて基準をつくった。全て後手後手です。

工藤:すぐに影響はない、と。

阿南:そうです。だからどこを信じたら良いか分からないし、どこを探したらいいかもわからない状態でしたから、とにかく買わないという防衛手段を取ったと言えると思います。

工藤:そうです。だからどこを信じたら良いか分からないし、どこを探したらいいかもわからない状態でしたから、とにかく買わないという防衛手段をとったと言えると思います。

阿南:私は風評被害ではないと思いますけど。


これを「風評被害」というのか


工藤:政府対応のまずさに基づく実害ですね。今、色々な問題で風評被害という言葉がかなり使われるのですが、風評被害とは何なのか。生源寺先生はどうお考えですか。

生源寺:なかなか難しいと思うのですけれど、ここまでは安全である、あるいは言葉の性質上、白黒ではなくグレーはここまでであるということがはっきりしていれば、今、阿南さんがおっしゃったようなことは、基本的には起こらないというか、起こらないようにすべきだと思います。基本的に風評被害というのは、本来の正確な情報とは違う情報が発信源となって、それがぐっと広がって、無関係の商品や財を全く買わないということが起こるのですが、今の話というのは、風評被害というよりも、情報そのものが混濁していたり、事後的というか、後から基準をつくるというようなことになりますと、そもそも情報の発信源そのものの信頼性が揺らぐわけですよ。そういったことを、目の当たりにしたときの防衛のための行動というのは、風評被害とは少し分けて考えなければいけないと思います。

工藤:僕たちも現実はしっかり知りたい訳です。でも、誰かが厳しいことを言うと、君の発言は風評被害をもたらすと言われて、何となく発言ができないような状況がありました。澤浦さんは情報公開をすることの大切さを、先程指摘していましたが。


繰り返し学習していくしかない

澤浦:自分は、情報公開はすごく大事だと思っています。うちでは毎週、簡易測定器で、出荷する野菜の値を調べて、変化が無いか確認しています。ただ、その数値を外から求められた時に出すかどうかというのは、正直躊躇します。安全の確認はできていても、簡易測定ですから、実際の数値ではない訳で、中には、理解力が無い人がその数値を見た時にパニックを起こしてしまうことが実際にあるのですね。だから、何回も何回もみんなで学習していくしかないと思うのですが、生産者がやっていることに対して、危険だとか、調べていること自体が怪しいからやっているのだろうとか、疑いの目で見られてしまう現実はあります。

工藤:それは、時間軸と言いますか、初めの時はそうでも、その後はよく出してくれたという変化は無いですか。


澤浦:最初の頃と今では違ってきていて、最初の頃はそれに賛同してくれる人はすごく多かった。今もよく知っている人は、「そこまでよくやってくれているね、ありがとう」と言ってくれるのですが、ただ、知識が無かったり、そもそも数値や基準を信用していない人、疑ってかかっている人は、こちらが何を説明しても、どう情報をオープンにしても、あんた達がやっていることは危険なのだというレッテルを貼るのですよ。ですから、一部の方の大きな声が、例えばマスコミに取り上げられたり、一部のそういった人たちの声がツイッターであったり、そういうところに出ていったりするということは、自分たちにとっては非常に怖いなと感じます。

工藤:阿南さんどうですか。今の生産者側の苦悩について消費者側として。

阿南:生産者のみなさんの中には、自分で測定したりできない方たちの方がほとんどです。だから、政府は暫定基準というものを定め、それを上回るものには出荷制限をかけることにしています。ただ、自分はどれくらい被曝しているかということは分からないので、できるだけ少なくしたい、あるいは、子供にはできるだけ食べさせたくないという思いの人たちは大勢いらっしゃると思いますが、そういう方達が判断をするための情報というのは、今ありませんね。

澤浦:ないですね。

阿南:食べるものだけではなくて、空気中からも吸っているわけですし、外部被曝もありますが、そこの情報がないので、自分で把握し、コントロールすることができないのです。そこの怖さというのはあると思います。


情報の拡散は、現代的な問題

澤浦:先日、日曜日のテレビ番組を見ていたら、東京でも近隣よりも放射線量が高いホットスポットというのがありますよね。そういうのが心配で、消費者の人たちがガイガーカウンターをもって調べて自己防衛しているというニュースを流していました。その中で、東京では今空気中に0.06マイクロシーベルトの放射線が検出されている、と。こういった放射線の中で、どうやって自分を守っていくのかという議論をしていました。しかし、0.06マイクロシーベルトというのはどういう値かというと、平常値の値なんですね。ですから、情報が間違って報道で流され、真実がまた歪められてしまう。こういうことが続くと、本当に大変なことになるなと思いますね。

工藤:生源寺先生、お二人のお話を聞かれてどうでしょうか。

生源寺:情報そのものが、放射能、放射性物質に関して、非常に難しいということと、澤浦さんがおっしゃったように、一種の拡声器的な機能を果たすようなツイッターなどの媒体で一気に広がるということは、過去には無かった、まさに現代的な状況だろうと思いますね。

工藤:放射能の被害が難しいのは、不確実性があることで、被曝における被害というものが、癌の発生率とかですね。どこまでいったら安全で、何が危険かということも自分でどう判断すればいいかわからない。すると、みんなはゼロのほうが良いと思いますから、段々潔癖になっていく。そうなると、グレーはもうだめだっていう風になってきて、買わなくなるという状況になるのですね。この話は次に続けていきたいと思うので、一回休息を入れます。

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第2話 食品の安全で政府の役割はどこにあるのか

工藤:それでは引き続き議論を行っていきたいと思います。今、休憩中にも議論が進んでいたのですが、結局、これはかなり複雑というか現代的だし、構造的な問題が結構あるのですが、少なくともこの風評被害、風評被害ではない要素もかなり見えてきたのですが、それをどういう風に解消していけばいいのか。解消するというか、解消に向かうサイクルに入らせるかということだと思うのですが、その流れをつくるために何が必要かということについて議論したいと思います。


 まず政府の問題から考えないといけないと思います。さっき、消費者庁の動きがかなり遅れていたと。つまり、消費者に対して一番必要な食物の汚染とか被害ということについて、誰もが知りたい時にほとんど何もしなかった。暫定基準が出され、その範囲内では安心だという話があった。千葉で出荷制限になったホウレン草が出回っていたことがわかったとか、色々な話が出てくる。そうなってくると、まず政府側の行動に対する信用力の回復ということをどう考えていけばいいのかということが1つあると思います。政府が何を言っても信用しないとなってしまうと、これはかなり厳しい事態だと思います。そのあたり、阿南さんはどうお考えですか。

政府は行動の順番が逆<

阿南:そうですね。今までの政府の政策を見ていますと、まあ、信頼されない土壌がつくられてきたと思います。今回の放射性物質汚染についても先程お話しました通り、後手後手の対策がとられてきたといえますので、信頼を回復するためには本当にどうしたらいいのか。これはもう至難の業だと思いますけども、やはり、安全を優先させる仕組みに変えていくしかないのではないか。例えば、日本では原発が全国に50基以上ありますが、その近くには必ず測定スポットを設けておいて、常に監視・測定していて、いざという時にはすぐに対策がとれるようにしておくとかです。

 要するに行動の順番が逆でしたね。これは政策と呼べるようなものがなかったということではないでしょうか。事故が起こってから、基準値を決めて対策をとるのではなく、あらかじめそれは危険なのだから、最悪の事態を想定して、こうなったらこうするということをはっきりとさせておくことが重要だと思うのですね。それでしか信頼回復の方法はないと思います。

工藤:生源寺さんはどうですか。

生源寺:まず、政府自身もそうですけど、政府の役割を改めてきちんと認識することです。これは今、阿南さんもおっしゃいましたけど、例えば、ある産業の利害を忖度して手心を加えるとか、そういうことをしない存在である。あるいは、利益相反というか、こちら側につくかあちら側につくかと迷うようなことはしないとか。実はそういう意味では、食品安全基本法だとか食品安全委員会をつくったというのは、まさにそういうことをするためにやったはずなのですね。それで、個々の事例についてはいわゆるリスクコミュニケーションだとか、あるいは、リスクを評価する側と管理する側を分けるとかいうことを個々の部分についてはある程度進めてきたと思っていたのですけど、今回の深刻な事態に向き合った時に、実はそれが脆くも崩れてしまったということがあると思いますね。だから、まさに国民の安全を守る立場からの政府の役割をもう一度確認する。本当に、いわばそれが崩れてしまっていることが今の問題なのです。
 もう1つ、非常に深刻なのは、私は放射能のことについてはまったく素人というか専門外ですが、専門家の方がおっしゃっていることを聞いていると、どうもかなり幅があるわけですね。そういう意味ではこれは7、8年前に『エコノミストは信用できるか』(東谷暁氏著)とか確かそんな本があったと思うのですね。マクロ経済学を専門としている人を、過去に色々おっしゃっていることを点検して、この人は信用できるとかできないとか。まあ、槍玉に挙がった方はかわいそうだったかもしれませんけど。だけれども、やはりこの科学者は信用できるかどうかということを、科学の観点から評価することも必要という感じがします。もちろん、何年か前に言っていたことと、今おっしゃっていることが違うというのは論外ですけど、今の政府はわりと何か行き当たりばったりで人をリクルートしているような印象があって、尚更そういうことを感じます。


消費者行政の立ち位置を再認識すべき

工藤:はい、今のお話は本質的なテーマなので、それ自体後日、議論したいと思うのですが、まず、政府というのは消費者の安全のために全力を尽くすという立場、立ち位置を鮮明にして、それを信用してもらう努力をしなければいけないということですね。消費者庁なり消費者行政が、そのような立ち位置になっているかということです。もう1つは科学のアカデミアの分野に、それを評価する仕組みがない。本来であれば、本だって書評というものがあったり、それだって読者、ある意味、顧客から厳しいチェックがあるわけですね。その顧客の民度というか市民の強さが社会の強さを決めていくという流れがあるのですが、どうもそのあたりを僕たちは軽視したのではないか、という問いかけです。澤浦さんどうですか。さっき消費者庁をあまり知らなかったと言っていましたけど。

澤浦:消費者庁ができたのはよく知っています。最初に取り上げたのが例のこんにゃくゼリーを喉に詰まらせたというやつでしてね。あれを見ていて、消費者庁というのは怖い所なのかなという風に思っていたのですが、消費者を守る、そういう正しい情報を出して消費者に安心してもらえるような材料をちゃんと出していくという視点での動きをするというところだという考えは、自分にはなかったです。消費者庁は、あくまで生産者を監視することにずっと力を注ぐところなのかなという誤解をしていました。今日の話を聞いてそれは誤解だとわかったのですが。実際、今の状態、自分は学者ではありませんが、日本って過去に原爆を2回経験していますし、それから1960年代に世界各国が核実験をして、その放射能を浴びているという経験があるわけですよね。その時の事実と比べて、今がどういう状態なのかということも検証してみると、今がどのくらいの危険度にあるかということも、これは事実としてわかるような気がしています。

 数字だけ出た、出ないで話をしていると、出ない方がいいに決まっています。そうするとどういうことが起きるかというと、実は私の身体から7000ベクレル、体重が重いですから私は10000ベクレルくらいの放射能を発している。そうすると、一番危険なのはうちの女房で、一番被曝しているわけです。それをブログに書いたら、外部被曝と内部被曝は違うと書き込まれちゃって、確かにそうだなあと。でも、よくよく考えてみると、どこにでも放射能はあって、自分自身も発している。少しその辺を冷静に比べる必要があるかなと思います。先日、ある会合でいただいた資料なのですが、国立がん研究センターが調べた資料で、広島・長崎の原爆で1000ミリシーベルト被曝した人と被曝しない人のがんの発生率を比べた場合、1.5倍だったそうです。それと比べて、喫煙者と喫煙者でない人のがんの発生率が1.6倍という風に考えると、何かそこに安心できる材料があるのではないか。そういう判断をするための情報というのも今だからこそ必要かなと思います。完璧を目指すということでいったら、みんな精神衛生上よくなくなって、逆に危険になると思うのですね。


消費者意識の転換はどうしたらできるのか

工藤:ある意味で、マーケットでいうところの底を打つというのがあるじゃないですか。ここまで来たらもういいというみたいな。消費者の気分が大きく変わるという転換にはまだなっていないですよね。

生源寺:なかなか難しいかもしれませんけども。私、今ちょっと頭に浮かんだことですが、96年にイギリスでBSEの騒ぎが再燃したことがありました。要するに人間にもという話です。その時の当初の発表が、いわばサイエンスをベースにしていたものですから、「人間が牛肉を食べて感染する危険はきわめて小さいもののようである」。直訳するとそんな書き方なのですよ。何言っているかわからないのですね。しかし、「ゼロである」とは言っていない。そうすると、これはもう危険なのだということで、ワァーと騒ぎが広まってしまった。1週間後に当時のイギリス政府が、1週間前に出したステートメントは科学的な言葉で書いてあって、普通の言葉で言うならば安全だと説明した。私は、これはやはりまずいと思うのですよ。やっぱり、情報は情報としてきちんと出した上で、ゼロのリスクはないのだけども、しかし、これはもうほとんど考えなくてもいいくらいのものであるということを、きちんと粘り強く説得することも大事だと思います。普通の言葉で言えば「安心だ」とただ、言い切ってしまうというのは、ある意味で消費者を馬鹿にしている話だと思います。そうすると、その時は収まっても、もう一度また同じことを繰り返すような気がします。

工藤:この前、中国と韓国の大統領が来て、被災地のものをおいしく食べている姿を見せて、安心だとか言っているけど、それで、消費者は安心だと思うのでしょうか。

阿南:その方が、なおさら怪しく思ってしまう。

工藤:では、どうやったらこの安心感が出てくるのでしょうか。


水産庁は水産物の汚染を調べていた

阿南:私たちはこの間、放射性物質汚染問題について何回か学習会をしています。消費者として正しく行動できるようにちゃんと学ぶことがという目的です。その学習会に水産庁の方に来ていただいた時に、実は水産庁は研究機関で、ビキニの水爆実験があった頃から、水産物の検査をしているということを聞きました。アメリカや中国などが何度も核実験をしましたがその影響についてもフォローしてきたそうです。また、放射性物質が魚の体内に入った時の移行の仕方や排出、筋肉や骨への溜まり方についても詳しく聞くことができました。

工藤:やっているのではないですか、ちゃんと。

阿南:ええ、そこで初めて、やっていることがわかったのです。そういう情報って大事で、そういうことを聞くと、何となく安心できる気がします。消費者自身が正確な知識と情報を得ていくということが重要だと思うのです。

工藤:今回の農産物汚染に関しては、もう4ヶ月くらい経ちますが、消費者の意識は変わってきているのでしょうか。

阿南:最初に放出されたヨウ素は半減期が短いのでもうほとんど影響が出なくなっています。今はセシウムのような、半減期の長いものが問題になっていて、実際にお茶などから検出されているわけです。ですから、今後は海域の検査を充実させていくとともに、土壌や河川の汚染の影響も考えていかなければなりません。

工藤:そっちが今度不安になっているのですね。

阿南:はい、葉物だけではなくて根菜類もちゃんと検査していきましょうということです。やはりどういう検査体制を敷いて、何を検査するのか。消費者にその情報をどうやって出していくのか、ということをはっきりと示すことが必要だと思いますね。

工藤:毎回、スポークスマンがちゃんと説明したらどうですかね。1週間に1回でも。誰も説明する人はいないのですか。

生源寺:農林水産省にも報道官が。
工藤:いるでしょ。
生源寺:個人的にも立派な方がやっておられますけども。
工藤:その人、発言しています。多分出ていないですよね。
阿南:出ていないですね。


消費者は納得しないと買わない

工藤:でも、最終的に消費者は納得しないと買わないですよね。

阿南:買わないです。

工藤:だから、安心と言われても、その安心ということに信用を持つとか、何かをしない限り変わらないわけですよね。それをどういう風に作っていくかという状況だと思うのですが。

澤浦:そうですね、まず、現状はもう変わらないわけです。ですから、解釈の仕方だと思うのですよね。まず1つは正しく現状を伝えていくということ。これは生産者としても、正しく現状を伝えていくという努力をしていくということも大事だと思います。できる限りのことはやって安全を担保していくような行動をとっていくということも必要だと思います。今は群馬とか茨城でもどこでも、自分が群馬だから群馬の話になってしまうのですが、ほぼ1週間に数回サンプリング調査をして、それをどんどん公開しているのですね。それで今、群馬県内ではほぼ検出はもうないのです。ですから、そういう情報をどんどん出しながら、それであとは自分たちのお客さんとコミュニケーションを取って、これについてどう考えるというのを議論したり、意見のやり取りをしたりするしかないのかなという感じがします。

阿南:生産者の皆さん方も大変頑張っていらっしゃって、そういう情報をちゃんと消費者に出していこうと、消費者とのコミュニケーションを図っていこうという取り組みが今、進められています。

工藤:それは農水省とか、政府とか関係ない話なのですか。

生源寺:まあ、関係あってももちろんいいのですけど、むしろ、政府も学ぶべきかもしれない。情報の発信という意味ではですね。私はそう思いますけどね。

工藤:なるほど、確かに今の生産者と消費者とのコミュニケーションの蓄積が圧倒的に大切ですね。一方で、政府としては政府としての信頼、安全。自分たちの立ち位置を含めて、それを国民に信用してもらう。というところからでないと再スタートを切れないかな、という感じがしました。もう一回休憩入れます。

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第3話 食に対する「安心」をどう回復させるか

工藤:それでは、話を続けます。今日はかなり重いテーマになってきているのですが、こういう風な信頼へのダメージを回復するために、具体的に何をすればいいのか、ということです。

阿南:やはり、食品について、農産物についての検査体制をしっかり充実させていくことが何よりも重要で、出荷制限をかけるなら、しっかりとかける。出荷制限がかからないものであっても、どのような検査をして、どういう数値だったのかということをしっかりと公表していく、ということが重要だと思います。


民の参加で、政府の機能を鍛える

生源寺:さっきも申し上げたのですが、食品の安全、今回の問題も広い意味での食品の安全だと思いますが、これは、政府がきちんとした体制でもってやるもので、そのための法律もつくり、あるいは府省の再編もしたわけです。ただ、阿南さんのお立場もそうだと思うのですが、参加型というか、絶えず消費者がチェックをするような、そういう目が光ってくる。あるいは、場合によっては、非常に鋭い指摘が飛んでくるような、そういう関係の中で、やはり政府の機能そのものを鍛えていく、ということが必要だと思うのですね。政府だって失敗するわけです。それは、率直に認めて、改めればいいと思うのですね。

工藤:今、話を聞いて、阿南さんにもう一度聞きたくなったのですが、何か消費者は、静かじゃないですか。動きが低調な感じがするのですが、どうでしょうか。

阿南:消費者団体の多くが、政府にそういう要請を出し続けています。
工藤:メディアが取り上げないかということですか。
生源寺:メディアが取り上げないのではないか、ということは私自身感じています。

工藤:澤浦さんどうでしょうか。具体的に、このダメージを回復するために、生産者側として何をすべきでしょうか。

澤浦:1つは、安全であるということを、常に証明できるような検査体制をつくっていくということなのですが、ただ、実際にセシウムとか、ヨウ素を直接測れる機械というのが、自分の聞いたところによると、各県で2台とか3台とか、そういうレベルしかないのですね。ですから、1台の機械で、1日5検体とか、それぐらいしか測れないという話を聞いているので、そうすると物理的に無理です。今、生産者でもガイガーカウンターやサーべイメーターを持って、簡易的に測って傾向を見ていて、後は、行政が調べた数値と照らし合わせながら、安全性を担保して出荷していくという方法を採っているところが増えています。そういうことを愚直にやっていくことが、まず重要かなと思います。そして、安心してもらえるような材料を提供し続けることと、生産者として見れば、食べていただく方とコミュニケーションをしっかり取っていく、ということしかないかなと思います。

工藤:今回の問題は、いずれ解消されると見ていますか。時間の問題だという認識でしょうか。それとも、傷として構造の中に残って、それに基づいて、何かが変わる契機になっていくとか、どんな風な事態だと思っていますか。生源寺先生、どうでしょうか。

生源寺:この頃は人の噂も7.5日ぐらいになっているような状態だと思いますけど、今回の問題は、もの凄く深い傷を残していると思いますし、現に、まだ、最悪の状態から逃げるというプロセスが続いていますから、これはそう簡単に忘れるということにはならないと思います。そうしてはならないとも思います。


一番説得力のあるメッセージは消費者の行動

工藤:完全な風評被害というのがあります。全く根拠のない形で、例えば、沖縄でも観光客がいなくなるというのはダメなので、それに関しては、実態を正確に海外に説明したりする必要がありますよね。

生源寺:海外との関係では、もちろん広報は大事ですし、情報の開示も大事です。それから、そもそも政府は信用できないという感覚だってあるわけですから、そこは大事なのですが、一番説得力のあるメッセージは、日本国内の消費者の行動だろうと思います。今、政府を中心に、あるいは農協系も被災地のものを食べようと色々とやっています。これはこれで大事なのですが、同時に、とにかく感情的に、情緒的にとにかく買えばいいというのは、少し気になるわけですね。

工藤:支援で買うのでは何も変わらない。

生源寺:私、経済の人間なのですが、昔、マーシャルという経済学者が、ウォームハートとクールヘッドという言い方をしました。それは消費者の行動でも同じだと思います。ウォームハートは大事だけれど、やはり、同時にクールヘッドも必要だと思います。安全だから食べていますよと。そういう行動が海外に伝わることが、一番説得力があることになると思います。下手に政府が宣言するだけでは、逆のメッセージになることだってある。ですから、私は日本の消費者の行動が外に向かっても重要だと思います。

工藤:阿南さん、どうですか。決め手は、消費者の行動だということですが。

阿南:そう思います。この放射性物質汚染問題は、今後しばらく続いていきます。この影響は、かなりのものだと思います。今、若い人達の間に、どういう動きが起こっているかと言いますと、自分で情報を集めて、学んで、自分で線量計算したりしています。被曝線量というのは蓄積されていくのですね。だから、子どもを持つ若い親ごさん達は、これを食べたらどのぐらい被曝して、外で遊んだらどれぐらい被曝をするのかというところに、大変関心を持っているわけですね。私は、これは当然のことだと思います。そういう消費者をバックアップするような政府のサポートがあれば、いいと思います。/p>

工藤:消費者の動きがそうなっていくことになってくると、生産者側との対話もうまく進みますね。

澤浦:日本って、何か分析して検出されたらダメという、完璧を求める習性というのがあって、以前の農薬なんかでもそうです。ちょっと農薬が検出されたら、そんなことはダメだということがあるので、それよりも自分達が体験してきたこと、経験してきたことと比べて今がどうなのだという、これは疫学というのですか、そういう中から、今のレベルをざくっと知るということも、私は大事だと思っています。生産者として見たときには、やはり今、出荷されているものは安全なのです。全部そういった基準などを調べて、危険なものは出ていないわけです。だけど、安心をどう伝えていくかということで、コミュニケーションが色々と必要です。噂がどこまで続くかという視点で言うと、ちょっとお二方と違う視点で申し上げると、実は、農産物は放射能だけではなくて、今年の夏は去年よりも梅雨明けが早くて暑くなりそうですね。そうすると、突然9月辺りに、野菜などの農産物が無くなるという可能性も無きにしもあらずです。

工藤:どうして無くなるのですか。

澤浦:暑いとか、天候の影響ですね。今年の雨はスコールみたいに集中豪雨が降っているのですよ。それで、災害などが起きたときに、一気になくなるということがあります。そうなったときに、本当に少しの数値が出たものを、危険だから買わないという人たちが、それにこだわり続けていられるかどうかと思うわけです。

生源寺:量として、確保できなくなったときにはというお話ですね。

澤浦:今は、かなり生産者は精神的に辛い状況でいますので、こういう状況が続いて行くと、生産意欲というのはどんどん無くなっていくのですね。食べ物というのは徐々に無くなるのではなく、ある日突然足りないということになる。そういうことがいつ起こるかということは、今年の電気ではないですけど、自分はその視点が重要だと思いますね。

工藤:今、現実的に輸入という形が増えていたりするのではないですか。

生源寺:輸入は特段増えてはいないと思います。

阿南:わかめなどはおそらく、三陸のわかめがダメになったので、輸入品が増えていると思います。

工藤:そういう形で代替されていくわけですね。でも、今言っているのはそうではなくて、一般的に作っているものも無くなる可能性がある。そうなってくると、消費者はどう行動すればいいのでしょうか、阿南さん。

阿南:そういう情報も含めて、生産者の方からメッセージを出していただかないと、そこはなかなか理解できないと思います。


大切なのは、生産者と消費者のコミュニケーション

澤浦:だから、自分は常に、放射能のことも心配なのだけど、それだけに焦点を絞って語ってしまうと、本当に量の部分の確保というのもできなくなる可能性もありますよ、ということも伝えるのだけど、なぜかそういう話をすると、あんたは売りたいがために、そういう危険なことをあおり立てるのだ、みたいなことを言われるので、言っていいのかという風に考えてしまいますよね。

阿南:でも、やっぱりそれは、遠慮なくおっしゃって下さればいいのです。さまざまな意見を受け止めたうえで自分の行動を決めて行こうという消費者は多いと思います。ただ、私は、それでも買わないという人の気持ちもわかります。いくら、基準値を下回っていたとしても、とても心配だから私は食べない、という人がいても当然だと思います。色々な消費者がいるので、それぞれが自分自身で判断できるようにするための情報コミュニケーションが必要なのではないかと思います。

工藤:今、生産者と消費者との関係というのが、顔が見える形に、まさにコミュニケーションを通じて顧客がつながっていく。そうなってくると、益々信頼関係が重要になってきますね。。

澤浦:そうですね。
工藤:その構造というのは、信用力を回復するインフラになるかもしれませんね。

澤浦:そうですね。うちは直接販売しているお客さんがほとんどで、色々なお客さんがいるのですが、コミュニケーションをしっかり取っていると、安心して使っていただいていますし、理解してくれているし、それから実際のところ、野菜の売り上げは落ちていない。だから、コミュニケーションがとれていれば、自分達も安心して生産もできているのだと思います。

工藤:ということは、これは解決の1つのヒントかもしれませんね。つまり、消費者がそういう形で生産者の顔が見えてつながって、その中でコミュニケーションをとることによって、色々なこういう問題の時にリスクが緩和されるというか。

生源寺:ある意味では、大変難しい面があるのですが、澤浦さんのところもそうですし、阿南さんもずっと関与されていた生協などは、産直という形でつながっていますよね。そういうきちんとしたコミュニケーションが取れている生産者と消費者は、相当な厳しい状況の中にあっても、いいパフォーマンス、いい結果を残していくと思います。実は、そうではないものとの差が開いてくる可能性がありますよね。全体がいい方向に向かっていけばいいのですが、そうでないこともあります。

工藤:今、産直はどれぐらいの比率なのですか。

生源寺:これは難しいですね。品目にもよりますけど、まだまだ量としては多くはないと思います。

工藤:澤浦さん派はまだ少ない方ですか。
澤浦:少ないと思います。

生源寺:野菜とか肉、米とかでも通常のマーケット(市場)に出荷するものが多いというのは、現実的にあります。ただ、広がっていることは間違いないです。

工藤:確かに、生産者と消費者が不安の問題を軽減するためには、コミュニケーションというのは1つのキーワードですね。
 まだまだ聞きたいことが沢山あるのですが、もう時間が迫ってきたので一言ずつお願いしたいと思います。僕たちは、この問題を克服したいわけです。克服して、安心・安全の食料、それから、強い農業というのがこの国に必要だと思っているのですが、それに向けて今回の問題を、どういう風に解決していけばいいのでしょうか。最後に、一言で思いを言っていただきたいのですが。澤浦さんからお願いします。

澤浦:本当に、今回の件は、生産者も消費者も今までに経験したことのないことだと思うので、とにかく真剣に議論しながら、お互いにつくり上げていくという気持ちで、勉強しながら、汗をかきながら時間をかけてやっていくしかないかなと思います。今回のことがいい経験になって、また強くなるのではないかなと、思います。

工藤:何かその土台ができそうな感じもしますね。
澤浦:そうですね。

工藤:それを期待したいと思います。阿南さんはどうでしょうか。消費者が本当に問われていますよね。もちろん政府も問われていますけど。

阿南:生産者の側にも悩みがあると思います。それを正直に言ってほしい。それを受け止める消費者も沢山いるということです。消費者の不安はこうだ、生産者の不安はこうだ、じゃあ、コミュニケーションしながらどうやって解決していくかを考えあう。答えはその場でしか出てこないわけですよね。だから、それを大事にしていく、つくり上げていく、広げていくことが重要だと思いました。

工藤:そういうコミュニケーションがちゃんと動けば、政府は何をしていけばいいのですか。

生源寺:そうなったら、政府はいらないかもしれませんけどね。コミュニケーションということで、お二人の話を聞いていて、互いにおもねらないというか、消費者は消費者、生産者は生産者で、お互いに率直に伝えあうということが、私は一番大事だと思いますけどね。

工藤:そうですね。今回の事故はある意味で大変なことをしているわけだから、その償い、賠償は絶対に必要です。そのことを待っているだけではダメで、次に向かって動かないといけない。何とか新しい農業に向けて、この困難をチャンスとして、進めるしかないかなと思っています。今日は、みなさんありがとうございました。

一同:ありがとうございました。

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 7月2日、言論NPOは、言論スタジオにて生源寺眞一氏(名古屋大学大学院生命農学研究科教授)、澤浦彰治氏(グリンリーフ株式会社代表取締役)、阿南久氏(全国消費者団体連絡会事務局長)をゲストにお迎えし「風評被害を乗り越え、食品の安心・安全ブランド再興のためにどう取り組むのか」をテーマに話し合いました。

2011年7月2(土)収録
出演者:
生源寺眞一氏(名古屋大学大学院生命農学研究科教授)
澤浦彰治氏(グリンリーフ株式会社代表取締役)
阿南久氏(全国消費者団体連絡会事務局長)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)


第3話 食に対する「安心」をどう回復させるか

工藤:それでは、話を続けます。今日はかなり重いテーマになってきているのですが、こういう風な信頼へのダメージを回復するために、具体的に何をすればいいのか、ということです。

阿南:やはり、食品について、農産物についての検査体制をしっかり充実させていくことが何よりも重要で、出荷制限をかけるなら、しっかりとかける。出荷制限がかからないものであっても、どのような検査をして、どういう数値だったのかということをしっかりと公表していく、ということが重要だと思います。


民の参加で、政府の機能を鍛える

生源寺:さっきも申し上げたのですが、食品の安全、今回の問題も広い意味での食品の安全だと思いますが、これは、政府がきちんとした体制でもってやるもので、そのための法律もつくり、あるいは府省の再編もしたわけです。ただ、阿南さんのお立場もそうだと思うのですが、参加型というか、絶えず消費者がチェックをするような、そういう目が光ってくる。あるいは、場合によっては、非常に鋭い指摘が飛んでくるような、そういう関係の中で、やはり政府の機能そのものを鍛えていく、ということが必要だと思うのですね。政府だって失敗するわけです。それは、率直に認めて、改めればいいと思うのですね。

工藤:今、話を聞いて、阿南さんにもう一度聞きたくなったのですが、何か消費者は、静かじゃないですか。動きが低調な感じがするのですが、どうでしょうか。

阿南:消費者団体の多くが、政府にそういう要請を出し続けています。
工藤:メディアが取り上げないかということですか。
生源寺:メディアが取り上げないのではないか、ということは私自身感じています。

工藤:澤浦さんどうでしょうか。具体的に、このダメージを回復するために、生産者側として何をすべきでしょうか。

澤浦:1つは、安全であるということを、常に証明できるような検査体制をつくっていくということなのですが、ただ、実際にセシウムとか、ヨウ素を直接測れる機械というのが、自分の聞いたところによると、各県で2台とか3台とか、そういうレベルしかないのですね。ですから、1台の機械で、1日5検体とか、それぐらいしか測れないという話を聞いているので、そうすると物理的に無理です。今、生産者でもガイガーカウンターやサーべイメーターを持って、簡易的に測って傾向を見ていて、後は、行政が調べた数値と照らし合わせながら、安全性を担保して出荷していくという方法を採っているところが増えています。そういうことを愚直にやっていくことが、まず重要かなと思います。そして、安心してもらえるような材料を提供し続けることと、生産者として見れば、食べていただく方とコミュニケーションをしっかり取っていく、ということしかないかなと思います。

工藤:今回の問題は、いずれ解消されると見ていますか。時間の問題だという認識でしょうか。それとも、傷として構造の中に残って、それに基づいて、何かが変わる契機になっていくとか、どんな風な事態だと思っていますか。生源寺先生、どうでしょうか。

生源寺:この頃は人の噂も7.5日ぐらいになっているような状態だと思いますけど、今回の問題は、もの凄く深い傷を残していると思いますし、現に、まだ、最悪の状態から逃げるというプロセスが続いていますから、これはそう簡単に忘れるということにはならないと思います。そうしてはならないとも思います。


一番説得力のあるメッセージは消費者の行動

工藤:完全な風評被害というのがあります。全く根拠のない形で、例えば、沖縄でも観光客がいなくなるというのはダメなので、それに関しては、実態を正確に海外に説明したりする必要がありますよね。

生源寺:海外との関係では、もちろん広報は大事ですし、情報の開示も大事です。それから、そもそも政府は信用できないという感覚だってあるわけですから、そこは大事なのですが、一番説得力のあるメッセージは、日本国内の消費者の行動だろうと思います。今、政府を中心に、あるいは農協系も被災地のものを食べようと色々とやっています。これはこれで大事なのですが、同時に、とにかく感情的に、情緒的にとにかく買えばいいというのは、少し気になるわけですね。

工藤:支援で買うのでは何も変わらない。

生源寺:私、経済の人間なのですが、昔、マーシャルという経済学者が、ウォームハートとクールヘッドという言い方をしました。それは消費者の行動でも同じだと思います。ウォームハートは大事だけれど、やはり、同時にクールヘッドも必要だと思います。安全だから食べていますよと。そういう行動が海外に伝わることが、一番説得力があることになると思います。下手に政府が宣言するだけでは、逆のメッセージになることだってある。ですから、私は日本の消費者の行動が外に向かっても重要だと思います。

工藤:阿南さん、どうですか。決め手は、消費者の行動だということですが。

阿南:そう思います。この放射性物質汚染問題は、今後しばらく続いていきます。この影響は、かなりのものだと思います。今、若い人達の間に、どういう動きが起こっているかと言いますと、自分で情報を集めて、学んで、自分で線量計算したりしています。被曝線量というのは蓄積されていくのですね。だから、子どもを持つ若い親ごさん達は、これを食べたらどのぐらい被曝して、外で遊んだらどれぐらい被曝をするのかというところに、大変関心を持っているわけですね。私は、これは当然のことだと思います。そういう消費者をバックアップするような政府のサポートがあれば、いいと思います。/p>

工藤:消費者の動きがそうなっていくことになってくると、生産者側との対話もうまく進みますね。

澤浦:日本って、何か分析して検出されたらダメという、完璧を求める習性というのがあって、以前の農薬なんかでもそうです。ちょっと農薬が検出されたら、そんなことはダメだということがあるので、それよりも自分達が体験してきたこと、経験してきたことと比べて今がどうなのだという、これは疫学というのですか、そういう中から、今のレベルをざくっと知るということも、私は大事だと思っています。生産者として見たときには、やはり今、出荷されているものは安全なのです。全部そういった基準などを調べて、危険なものは出ていないわけです。だけど、安心をどう伝えていくかということで、コミュニケーションが色々と必要です。噂がどこまで続くかという視点で言うと、ちょっとお二方と違う視点で申し上げると、実は、農産物は放射能だけではなくて、今年の夏は去年よりも梅雨明けが早くて暑くなりそうですね。そうすると、突然9月辺りに、野菜などの農産物が無くなるという可能性も無きにしもあらずです。

工藤:どうして無くなるのですか。

澤浦:暑いとか、天候の影響ですね。今年の雨はスコールみたいに集中豪雨が降っているのですよ。それで、災害などが起きたときに、一気になくなるということがあります。そうなったときに、本当に少しの数値が出たものを、危険だから買わないという人たちが、それにこだわり続けていられるかどうかと思うわけです。

生源寺:量として、確保できなくなったときにはというお話ですね。

澤浦:今は、かなり生産者は精神的に辛い状況でいますので、こういう状況が続いて行くと、生産意欲というのはどんどん無くなっていくのですね。食べ物というのは徐々に無くなるのではなく、ある日突然足りないということになる。そういうことがいつ起こるかということは、今年の電気ではないですけど、自分はその視点が重要だと思いますね。

工藤:今、現実的に輸入という形が増えていたりするのではないですか。

生源寺:輸入は特段増えてはいないと思います。

阿南:わかめなどはおそらく、三陸のわかめがダメになったので、輸入品が増えていると思います。

工藤:そういう形で代替されていくわけですね。でも、今言っているのはそうではなくて、一般的に作っているものも無くなる可能性がある。そうなってくると、消費者はどう行動すればいいのでしょうか、阿南さん。

阿南:そういう情報も含めて、生産者の方からメッセージを出していただかないと、そこはなかなか理解できないと思います。


大切なのは、生産者と消費者のコミュニケーション

澤浦:だから、自分は常に、放射能のことも心配なのだけど、それだけに焦点を絞って語ってしまうと、本当に量の部分の確保というのもできなくなる可能性もありますよ、ということも伝えるのだけど、なぜかそういう話をすると、あんたは売りたいがために、そういう危険なことをあおり立てるのだ、みたいなことを言われるので、言っていいのかという風に考えてしまいますよね。

阿南:でも、やっぱりそれは、遠慮なくおっしゃって下さればいいのです。さまざまな意見を受け止めたうえで自分の行動を決めて行こうという消費者は多いと思います。ただ、私は、それでも買わないという人の気持ちもわかります。いくら、基準値を下回っていたとしても、とても心配だから私は食べない、という人がいても当然だと思います。色々な消費者がいるので、それぞれが自分自身で判断できるようにするための情報コミュニケーションが必要なのではないかと思います。

工藤:今、生産者と消費者との関係というのが、顔が見える形に、まさにコミュニケーションを通じて顧客がつながっていく。そうなってくると、益々信頼関係が重要になってきますね。。

澤浦:そうですね。
工藤:その構造というのは、信用力を回復するインフラになるかもしれませんね。

澤浦:そうですね。うちは直接販売しているお客さんがほとんどで、色々なお客さんがいるのですが、コミュニケーションをしっかり取っていると、安心して使っていただいていますし、理解してくれているし、それから実際のところ、野菜の売り上げは落ちていない。だから、コミュニケーションがとれていれば、自分達も安心して生産もできているのだと思います。

工藤:ということは、これは解決の1つのヒントかもしれませんね。つまり、消費者がそういう形で生産者の顔が見えてつながって、その中でコミュニケーションをとることによって、色々なこういう問題の時にリスクが緩和されるというか。

生源寺:ある意味では、大変難しい面があるのですが、澤浦さんのところもそうですし、阿南さんもずっと関与されていた生協などは、産直という形でつながっていますよね。そういうきちんとしたコミュニケーションが取れている生産者と消費者は、相当な厳しい状況の中にあっても、いいパフォーマンス、いい結果を残していくと思います。実は、そうではないものとの差が開いてくる可能性がありますよね。全体がいい方向に向かっていけばいいのですが、そうでないこともあります。

工藤:今、産直はどれぐらいの比率なのですか。

生源寺:これは難しいですね。品目にもよりますけど、まだまだ量としては多くはないと思います。

工藤:澤浦さん派はまだ少ない方ですか。
澤浦:少ないと思います。

生源寺:野菜とか肉、米とかでも通常のマーケット(市場)に出荷するものが多いというのは、現実的にあります。ただ、広がっていることは間違いないです。

工藤:確かに、生産者と消費者が不安の問題を軽減するためには、コミュニケーションというのは1つのキーワードですね。
 まだまだ聞きたいことが沢山あるのですが、もう時間が迫ってきたので一言ずつお願いしたいと思います。僕たちは、この問題を克服したいわけです。克服して、安心・安全の食料、それから、強い農業というのがこの国に必要だと思っているのですが、それに向けて今回の問題を、どういう風に解決していけばいいのでしょうか。最後に、一言で思いを言っていただきたいのですが。澤浦さんからお願いします。

澤浦:本当に、今回の件は、生産者も消費者も今までに経験したことのないことだと思うので、とにかく真剣に議論しながら、お互いにつくり上げていくという気持ちで、勉強しながら、汗をかきながら時間をかけてやっていくしかないかなと思います。今回のことがいい経験になって、また強くなるのではないかなと、思います。

工藤:何かその土台ができそうな感じもしますね。
澤浦:そうですね。

工藤:それを期待したいと思います。阿南さんはどうでしょうか。消費者が本当に問われていますよね。もちろん政府も問われていますけど。

阿南:生産者の側にも悩みがあると思います。それを正直に言ってほしい。それを受け止める消費者も沢山いるということです。消費者の不安はこうだ、生産者の不安はこうだ、じゃあ、コミュニケーションしながらどうやって解決していくかを考えあう。答えはその場でしか出てこないわけですよね。だから、それを大事にしていく、つくり上げていく、広げていくことが重要だと思いました。

工藤:そういうコミュニケーションがちゃんと動けば、政府は何をしていけばいいのですか。

生源寺:そうなったら、政府はいらないかもしれませんけどね。コミュニケーションということで、お二人の話を聞いていて、互いにおもねらないというか、消費者は消費者、生産者は生産者で、お互いに率直に伝えあうということが、私は一番大事だと思いますけどね。

工藤:そうですね。今回の事故はある意味で大変なことをしているわけだから、その償い、賠償は絶対に必要です。そのことを待っているだけではダメで、次に向かって動かないといけない。何とか新しい農業に向けて、この困難をチャンスとして、進めるしかないかなと思っています。今日は、みなさんありがとうございました。

一同:ありがとうございました。

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 7月2日、言論NPOは、言論スタジオにて生源寺眞一氏(名古屋大学大学院生命農学研究科教授)、澤浦彰治氏(グリンリーフ株式会社代表取締役)、阿南久氏(全国消費者団体連絡会事務局長)をゲストにお迎えし「風評被害を乗り越え、食品の安心・安全ブランド再興のためにどう取り組むのか」をテーマに話し合いました。

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