現在の日本に地球規模課題の解決力があるのか

2015年10月13日

entry_body=

 言論NPOはこれから2年間にわたり、地球規模的な課題をどのように解決していけばいいのか、という視点から議論を行っていきます。そこで、今回の言論スタジオでは、近藤文化・外交研究所代表で、前の文化庁長官でもある近藤誠一氏と、東洋英和女学院大学大学院教授で、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の駐日代表を務められた滝澤三郎氏をお迎えして、現在の日本に地球規模課題の解決力があるのかと題して、議論を行いました。

 議論では、「課題把握力」の乏しさなど様々な要因を背景として、地球規模課題に対する日本の取り組みが不十分にとどまる中、議論を通じて「アイディア」を生み出して課題解決に貢献していくことの重要性について、両氏の認識は一致。また、政府間外交だけでなく、民間も重要な役割を担うべきことが指摘されました。


国際的課題に対する「課題把握力」が乏しい日本人

工藤泰志 まず冒頭で、司会を務めた言論NPO代表の工藤から、今回の議論に先立ち行われた有識者アンケート結果が紹介されました。その中で、現在の日本が、地球規模課題の解決に向けて、「役割を果たせていない」と考えている有識者が、44.8%と4割を超えていることが紹介されると、近藤氏は「果たそうとしているが不十分だ、という印象だ。これまでの日本は、政府開発援助(ODA)の展開に集中し、それなりに成果を挙げてきたが、課題が貧困や開発だけでなく、テロや気候変動など多様化したことに対応できていない」と語りました。

 近藤氏は続けて、「課題解決を担うための人材も育っていない。学生も社会人も内向き志向で海外に出ることが少なくなってきている。また、海外から戻ってきても、その経験を活かせるような社会ではないことも問題だ」と語りました。

 さらに、工藤から地球規模課題に対する日本政府の動きが、縮小傾向にある原因を尋ねられた近藤氏は、財政的な制約に加え、自身の外交官時代の経験から、「例えば、外務省が解決に向けたイニシアティブを取ろうとしても、他の関係各省や関連業界などの利害関係者から横やりが入り、なかなか政府が一体となって動けない」と解説しました。

 滝澤氏はまず、そもそも日本人には課題把握力が欠如していると指摘。その背景として、「テレビを見てもバラエティ番組ばかりで、国際問題について考えさせるような番組がない。これが地球規模課題に対する無知、無関心を生んでいる一因だ」と解説しました。

 さらに、工藤から、世界は日本に課題解決を期待しているのか、と問われた滝澤氏は、「そう思わない」と厳しい見方を示しました。その理由として滝澤氏は、「日本人は課題把握力だけでなく分析力も乏しいし、議論する文化というものがない。アジェンダ設定の力が弱く、様々な政策オプション間の競争もなくなっている」ことを指摘しました。そして、「その結果、日本は課題解決で頼りにならないと見做されている。オバマ米大統領や習近平中国主席が色々なところから声をかけられるのに、安倍首相には声がかからないのもその表れだ」と述べました。

 これに対して、近藤氏も「日本人は問われたことに対して受動的に答える力はあるが、問題を認識し、その解決のためのルールを作っていくような能動性はない」と述べると、滝澤氏は「文化、教育に起因する問題であるため根が深い」と応じました。


国際的影響力を保持するためには、アイディアを生み出す力が不可欠

 続いて、工藤が、日本の国際社会における影響力の低下の背景について尋ねると、近藤氏は、中国の存在感増大という要因に加え、「日本人自身が自信を失っている。『国内のことだけやっていればいい』という内向き志向が、存在感低下の悪循環を生んでいる」と分析しました。

 滝澤氏は、国家の国際的影響力の源泉が、「経済力」と「アイディア」であることを指摘した上で、「これまでの日本の国際的影響力は、経済力に依拠したものだった。その経済力が減退すれば、影響力も減退するのは必然」と述べました。その上で、滝澤氏は、「北欧諸国はまさにアイディアを生み出すことによって国際的な影響力を保持している。経済力がある中国にはアイディア力もある。日本もアイディア力を磨くことで活路を見い出すしかない」と主張しました。

 これを受け、駐デンマーク大使を務めた経験があるなど、北欧事情に詳しい近藤氏は、「北欧諸国のアイディア力は、独仏など欧州の大国とのせめぎ合いの中で研ぎ澄まされてきた」と解説。その上で、「日本にはそういうプレッシャーはないが、それでも自国の生活環境を良くするためのアイディアは出せていた。今後は、それを国際社会にも応用できるような力を付けることが課題だ」と語りました。

 次に、工藤が、日本から課題解決を担う人材がなかなか出てこない要因について問われた滝澤氏は、国連難民高等弁務官を務めた緒方貞子氏を例に挙げながら、「影響力のあるアイディアを出せる人は皆、実際に難民キャンプをくまなく訪問調査するなど、現場を重視している」とした上で、「ところが、日本が難民問題に関する国際会議に出してくるのは、現場に行ったこともない外務省の下級官僚であり、しかも発言することなく黙って見ているような人だ。これでは影響力のあるアイディアなど望むべくもない」と厳しく指摘しました。

 滝澤氏はさらに、安倍首相が29日、国連総会における一般討論演説で、難民対策に関する約970億円の支援を表明したことを受け、「これまで日本はお金を出して国際機関に問題解決を委託する、というやり方が主流だった。しかし、日本にも『人間の安全保障』などアイディアを生み出す力がないわけではない。お金だけでなく、理念や技術も含めた支援策のパッケージを打ち出して、アピールしていくべき」と主張しました。


課題を認識した上で、議論していく文化をつくるために

 最後のセッションではまず工藤から、アンケート結果で「日本はどのような課題に取り組んでいくべきなのか」という問いに対し、「地球温暖化防止に向けた温室効果ガスの削減」が4割超で最多となり、他には「北東アジアの平和的な秩序づくり」、「地域紛争の予防や国際的な平和秩序の構築」など平和貢献に関する取り組みや、「貧困や飢餓の撲滅」、「世界の保健医療の向上」などを選択した有識者が多かったという結果が紹介されました。

 この結果を受けて近藤氏は、地球温暖化については、高い技術力を持つ日本にとっては、課題解決に貢献できる分野との認識を示した上で、「温暖化対策では、(二酸化炭素排出量が多い)産業部門の取り組みが不可欠だが、経済情勢の悪化に伴い、推進のエンジンが弱まっている」と懸念を示しました。

 滝澤氏は、大学における地球規模課題についての授業で、貧困や難民に学生の強い関心が寄せられることを紹介。その上で、「現状を『知る』ことによって、学生の中から強い問題意識が出てくる」と説明すると、近藤氏も、「まさにそういう『気づき』から思考が生まれ、アイディアが生み出される。国民各自がそういう習慣をつけるために、政府、メディア、さらには民間の志ある団体がイニシアティブと取って、『考える場』を作る。そうして考えるカルチャーを作っていかなければならない」と応じました。

 さらに、工藤が「世界の貧困について考えていく中で、日本の中にも貧困があることに気付くのではないか」と指摘すると、滝澤氏も同意し、「世界の課題を見て、日本の課題に気づく。逆に、日本の課題を見て、世界の課題に気づく、という双方向性のあるアプローチは、課題を議論する文化を涵養していく上では実に有効だ」と語りました。


民間の果たす役割も大きい

 最後に、工藤が地球規模の課題を、政府間外交だけで解決していくことができるのかを問われた近藤氏は、「政府には『主権』という制約があるため、なかなか動けないことが多い。しかし、世論が盛り上がれば動きやすくなる。最終的に(課題解決の枠組みとなる)条約を締結するのはもちろん政府だが、そこに至るように世論を高めて、政府を突き上げ、動かす原動力となることが、民間には求められている」と主張しました。

 今回の議論を振り返り工藤は、「地球規模的な課題をどうすれば解決することができるのか。その中で日本の果たす役割について、基礎的な問題から議論」ができた。「他人事ではなくて、地球規模的な課題について私たち自身が、自分の問題として考えられるか、という点からスタートする」議論になったと締めくくりました。

議事録を読む   

[[SplitPage]]


工藤泰志 工藤:世界には様々な解決すべき課題があります。大国が相手国の主権を侵害して現状変更したり、テロ、医療、貧困、難民、地球環境などの問題があります。こうした問題はまだ解決しておらず、我々が一生懸命考えなければならない課題です。こうした課題をどのように解決していけばいいのか。そして、日本はどのような役割を果たすべきなのか。言論NPOはこれから2年間にわたって、こうした議論を行っていきます。今回はその第2回目として、「日本に地球規模の課題を解決する力があるのか」と題して議論したいと思います。

 ゲストは、近藤文化・外交研究所代表で、文化庁長官やユネスコの特命全権大使を務められた近藤誠一さん、次に、東洋英和女学院大学大学院教授で、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の 駐日代表を務められた滝澤三郎さんです。

さて、議論に先立ち、有識者アンケートを行いました。その中で、地球規模課題において、日本がどのような役割をこれまで果たしてきたのか、これからどうすればいいのか、と聞いてみました。まず、日本がこうした地球規模課題について、解決するために役割を果たしてきたのか、については、44.8%の方が、「役割を果たしていない」と答えています。逆に、「果たしている」と考えている方も31.4%と一定数いますが、相対的には低い。こうした問題について皆さんはどう思いますか。


課題解決に必要な力を、活かしていくシステムが不十分な日本社会

 近藤:私は、地球規模的な課題の解決において、日本は役割を一生懸命果たそうとしてきたが、しかし、不十分に終わっている、と考えています。戦後、国際社会に復帰して、色々な制約がある中で、様々な貢献をしてきました。主として政府開発援助(ODA)によって、途上国の支援をする、ということに集中し、一時期はODAの総額が世界トップとなるなど、それなりの成果を挙げてきたと思います。ところが、だんだん経済が傾いてきた。それから、課題が、単に貧困や開発だけではなく、テロや地域紛争、地球温暖化など色々な領域に広がってくるにつれて、日本は十分に対応できなくなっていた。潜在能力はあるのに、経済力、技術、人材はあるのに、活かしきれていない。そもそも、そうした力を国際貢献として活かしていくシステムが、政界も財界も官界も学界も含めて、日本社会の中には不十分だと思います。


課題解決策を提案する前段階の、問題把握力が低い日本

 滝澤:私は、まず課題解決策を提案する前に、日本人は課題の把握力が足りないと思っています。そもそも何が問題なのか、ということの認識が非常に浅いのです。問題が分からなければ、どうするべきか、ということも出てこない。ですから私は、まず課題解決力の前に、問題を問題として認識できないことが問題だと思います。例えば、日本のテレビ番組を見ていると、バラエティ番組ばかりで、国際的な問題について考えさせるような番組がほとんどない。海外へ行きますと、ホテルではCNNやBBCが無料で視聴できる。日本ではわざわざお金を払わないと見られません。国際社会に対する関心が低い。低いどころかほとんど無知です。ですから、問題があっても疑問がわかない。すると、問題の原因を探ることもありません。当然、解決策など出てきません。ですから、私は、日本の問題解決力が非常に低い原因は、そもそも、問題把握力が低く、それに伴って分析力も低い、というところにあると思いますね。

工藤:かなり中核的な論点が適されましたので、これをもう少し掘り下げていきたいと思います。私も国際的な会議によく出るようになったのですが、世界にはものすごく大きな課題がある、と知って驚いています。ただ、そういうところに日本人が参加していないのかというと、参加しているわけです。その皆さんは個人としての資格で参加して、必死に発言していますが、日本に戻ってくると、それが一般化されない。なぜなら、そうした議論の舞台がないからです。だから、国際問題についての関心が低い。この状況を解決しなければならない、という問題意識があります。

 近藤さんみたいに、国際社会の中で活躍されている人もいるわけですが、今、不十分な理由は何でしょうか。それとも昔はよかったものの、特に最近になって駄目になったのでしょうか。

近藤:理由は2つあります。1つは、滝澤先生がおっしゃったように、国民一般が、問題を十分に認識していない。良くも悪くも島国で、平和で安全で、良い暮らしをしてきた。したがって、中東やアフリカなど世界で起こっている問題を、自分の問題として捉えておらず、ごく一部の人のみの問題意識にとどまっているということです。

 もう1つは、政府に45年間いて感じたことですが、日本としてもっと貢献しなければならない、こういうことをしなければならない、という意識は、政策担当者にはあります。しかし、それを実施する上で、日本がイニシアティブを取ろうとすると、当然、そこには利害関係者、つまり、得をする人と損をする人がいるわけです。その損をする人が、そんなことをやられたら困る、となると、コンセンサス社会ですから物事が進まなくなる。私が外務省にいて一番苦労したのは、何か外交的なイニシアティブを取ろうとしても、結局、関係各省に相談をすると、「いや、それはやめてください、うちの業界が困ります」と反対されて、できなくなる。強いイニシアティブを取って総理がやれ、とおっしゃったケースもありますが、そういう意味で私が、システムが不十分と申し上げたのは、国民の認識の問題と、具体的なアイディアを政策として打ち出すプロセスの中に問題がある、ということです。

工藤:今の話は、政府として、国際的な課題に対して戦略的にどのように取り組んでいくか、ということでした。省庁横断的に決まる仕組みがあればまた違っていたのかもしれませんが、昔は確かにODAをベースに、初めの段階では、ある程度課題認識ということに関しても合意を形成できたと思うのですが、それが廃れてしまった。

 私が気になったのは、その後、だんだんお金も人も、日本から世界へ出なくなってきた。近藤さんはユネスコにも行かれましたが、世界で活躍している国際機関のトップに、日本人が減ってきていて、全体的に、政府部門の動きも縮小しているような感じがするのですが、いかがでしょうか。

近藤:やはり、学生の頃から、世界に出る人が少なくなった。企業や官庁に勤めている人も海外に出ていきたがらない。戻ってきても、国際的な経験を活かせるシステムが、国内にはない。だから、どうしても国内に残っていないと主流になれないという悪循環があります。しかし、潜在的な人材は少なくないと思います。ただ、そういった人を活かすようなシステムが、企業にも政府にもない。ですから、そのミスマッチは非常に惜しいと思います。日本民族のレベルが低ければ諦めもつきますが、素晴らしい方はたくさんいるのに、それを活かし切れていない点は、非常にもどかしく感じています。

工藤:有識者アンケートを始めて分かったのですが、日本の有識者は色々なテーマで議論ができるわけです。しかし、自由記述回答を見ると、総論的な議論が多くなってしまっている。それは滝澤さん指摘にも関連しますが、世界的な課題が、一般市民レベルだけではなく、専門家の間でも、日常的に議論される局面ではないのだと思います。一方で、アンケート結果を見ると、近藤さんがおっしゃるように、日本には潜在的な力があるのに、それを活かし切れていないのは残念だ、という声があります。

 世界は、日本は地球規模の課題を解決していく潜在的な力はあるのに、それは活かしていないと見ているのでしょうか。


国際的な課題を考えていく上で必要なのは、アジェンダ設定能力

滝澤:私はそう思いません。現状では、問題を問題として把握できないということもありますし、その次のレベルで、問題の分析能力がありません。地球規模課題はすべて複雑な要素で成り立っていますが、そういった複雑な問題を分析して、みんなで議論するという文化がないわけです。外国に出す前に、例えば、政府の中で、大きな議論をして、また、民間で議論をして、その中で優れたものを出して持っていく。そうした議論を行い、アジェンダセッティングをする、というプロセスがあると思うのですが、その議論のところが非常に弱い。お役所でも「そんなことを言うなよ」と出る杭は打たれ、なあなあで済まそうとする。議論を避ける、ということから、様々な政策オプションの間で、切磋琢磨するということがない。したがって、提案もインパクトがない。ですから、外国から見て、何か問題が起きたら日本に頼ろう、とはならない。国際問題が起こると、アメリカの大統領や、最近では中国のリーダーに注目が集まりますが、安倍首相に助けを求める声が来るかと言われたら来ないわけです。アジェンダ設定能力がないので、そもそも国際社会から期待されていないというのが現状だと思います。

工藤:それがまさに言論NPOが議論を開始した大きな理由でもあるのですが、やはり、市民がアジェンダをちゃんと理解して、それを分析していくためには、言論界、日本の知識層そのものが問われている。その中で、切磋琢磨があることで、それを多くの人々が見ることができ、さらに参加していく、という好循環を作ることができる、と思っているのですが、そういう流れは昔からないのですか。


議論して原因を探り、解決策を提示していくためには様々な議論の場が必要

近藤:極論すれば、日本人は昔から、他人から何か問われたら答える、与えられた条件の中でベストを尽くすことは得意です。しかし、問題を見つけて、解決するために、自分から環境やルールを変えていこう、という意識はかなり乏しい。これは日本の歴史を見ても、一般の市民、政界、財界、学界、官界にかかわらず同じです。こうした根底にある考えを変えるためには、有識者、あるいは政治家が相当頑張って、色々な場を設けて、議論をさせる。当然、複雑な問題ですから、賛成もあれば反対もある。コンセンサスを作ることは難しいですが、それでもお互いに意見の違いを理解し合う。議論をすることで、考えも進んでくる。そういうプロセスをもっとつくらないといけない。そうすることで、日本人の潜在力はもっと活かされるようになると思います。

工藤:私も同意見です。言論NPOは、国際社会のためというよりも、日本の民主主義を強くしようと立ち上げた団体だったのですが、世界のシンクタンクの会議に選出されて、その中で国際課題に触れるきっかけを得ました。なぜ、私たちを選んだのか、主催者に聞いたところ、「今後の国際的な課題解決において、オピニオンが非常に重要な役割を果たしていくと考える。あなた方は、日本の市民社会、デモクラシーの中で、政策論議をしていこうとしているからだ」ということでした。そこで、私も日本のことだけではなく、世界のことを考えなければならないと考え始めました。

 今までも色々な取り組みがあったと思いますが、そのシーズを活用して、世界課題に向かっていくというサイクルが作れるのではないか、と思うのですが、そういう可能性はないのでしょうか。

滝澤:言論NPOのような団体は、非常に良い試みだと思います。こうした試みは、まさに1つのアジェンダセッティングです。こうした動きがたくさん出てくれば、可能性はあると思いますが、私が悲観的なのは、議論し徹底的に突き詰めて原因を探り、解決策を考え出す、という知的な作業は、日本の学校ではできないのです。若い人たちはまじめに勉強しています。与えられた課題で答えを出すことはできる。また、答えがあるものに対して、答えることは得意です。しかし、答えのない問題、答えを探さなければならないような課題には非常に弱い。これは小学校、中学校、高校、大学を通じて見られる現象だと思います。したがって、問題が認識できないし、議論の仕方もできないし、発信力もない。さらに、政治的なリーダーシップもない。色々な違うアイディアを1つにまとめて、コンセンサスを作っていく、という力が弱い。これは文化の問題でもあり、教育の問題でもあるので、根が深く、遺憾的にならざるを得ないですね。

報告を読む / 議事録を読む 1  

[[SplitPage]]


工藤:今回の有識者アンケートの自由記述欄に様々な意見が寄せられました。滝澤さんもおっしゃったように、日本そのものに課題発見能力とか分析能力がないという問題がありますが、一方で日本のハードパワーを含めた経済的な力が相対的に落ちているのではないか。中国などの新興国の台頭があるなかで、ハードパワーの低下をソフトパワーで埋めることがなかなかできないという問題が、さらに日本の存在感を希薄にしているのではないか、という意見です。こうした意見について、どのようにお考えですか。


地球規模課題の解決にむけた努力を怠れば、日本は傍観者になってしまう

近藤:経済的な地位が相対的に下がったことは明らかです。しかも中国が昇る龍の勢いで成長し、中国の存在感や発言力が増している。その毛化、中国が使うお金の量、ODAなど増えていっています。一方で、日本人自身も自信を失っている。その結果、世界の問題は世界に任しておこう、自分たちの出番じゃないだろう、という意識が何となく広がって、「自分たちのことだけやっていこう」と日本国民全体が内向きになっている。当然それにメディアとか政治家も影響されるという悪循環がある気がします。

工藤:今の話を聞いて、すこし紹介したい話があります。言論NPOが地球規模の課題の議論をしているということで、世界の巨大な大手シンクタンクのトップにアンケートをしました。そのうちの1人、ブルッキングス研究所のリチャード・ブッシュが「冷戦が終結する前ですら、日本は非常に善き地球市民であり色々な課題に関する問題意識や取り組みを真摯にしていた。その努力を継続してほしい。継続しなければ、日本が主戦場から離れて傍観者になってしまう」と回答してきました。他にもフランスやカナダなどの人たちも「日本には可能性・力があるのに、色々な発言が弱くなっている。これを何とかしたほうがいいのではないか」という声を寄せてくれました。相対的な力の問題だけではなく、リップサービスではない日本への期待というものもあります。


日本と北欧諸国との相違は、地理的な問題と歴史が背景にある

滝澤:国際的な問題、世界的な問題は公共財をもって解決するということです。私が最初に留学したのは1978年で、アメリカに行きました。当時の日本は今の中国のような勢いでした。しかし、今のアメリカのビジネススクール行くと日本人はほとんどいなくて、代わりに中国人がたくさんいる。国の影響力はお金とアイディアだと思いますが、この30年40年を見ていると、日本はお金があったから注目を集めていた。しかし、ここにきて、かつてあったお金が、日本には無くなってきた。そしてもう1つのアイディアは元々なかった。つまり、今はお金もアイディアもないという状況だと思います。

 私が、国際機関で働いていて一番印象に残るのが北欧諸国です。北欧諸国は小さな国ですが、アイディアがたくさん出てくる。日本のお金で、彼らがアイディアを売り出すのです。日本はお金だけ出して、成果はスウェーデンなり、ノルウェーなり北欧が取っていってしまう。今、日本が議論を行い、アイディアを出していかないと、経済的に小さくなっていく中で中国にアテンションが行ってしまう。中国にはお金があり、意外にアイディアもある。中国は、10年20年先を見据えて、良くも悪くも国の方向がハッキリしていますが、日本は、国のレベルでも個人のレベルでも方向性が見えてこない。アイディアと金が国のスタンスを決めるのであれば、これからはアイディアの勝負ということになるべきだと思います。

近藤:先ほどリチャード・ブッシュさんの「日本人は善き地球市民であった」という意見は、ある意味事実で、日本は治安の面でも安全保障の面でも安全を保ち、豊かな経済力を持ち、教育程度が高くて、犯罪が少ない、すばらしい国をつくりました。そして、自分の国をよくすることには努力して石油ショックも乗り切った。しかし、それを世界に広める、世界の問題を自分のこととして捉えるという習慣がなかったわけです。自分の国を良くするためのアイディアはある。それを応用して世界の問題を解決するために使おうと、思えば使えるはずなのに、そこに思いが行かない。

 私もデンマークにいた時に、北欧見て回りました。いま滝澤さんがおっしゃったように、彼らに色々なアイディアがあり、世界の問題について発言するのは、イギリスやアメリカだけでなく北欧諸国です。なぜなら、北欧諸国はドイツやフランスやイギリスなど、ヨーロッパの激しい抗争の中で、生き延びるために常に問題を早く見つけて、自分でどう解決するかを大国の人たちに提示してきた。そういうことをやむを得ずやってきたという歴史があるのです。DNAというよりも、歴史が彼らに先進的で、リベラルな発想をさせている。幸いにも日本は、そういうことがなかった。プレッシャーを受けて、なんとか生き延びねばという局面が多くなかったために、アイディアを絞り出して、なんとか世界のルールを変えていこうという発想に中々向かってこなかった。そういう歴史があるのです。


国際社会で活躍した人が、日本のアジェンダセッティングで活躍できる仕組みを

工藤:海外のかたがたと議論していて感じるのですが、そうは言っても日本には色々な強みがあった。例えば皆保険制度を真っ先に作りました。ただ非常に気になったのは、皆保険制度だとか色々な強みがあり、今も強みだと言うのですが、世界の人たちがもう強みだと思っていない。ワシントンで議論したときに「日本には強みがある」と言っても「それは高齢化社会に適応しないシステムでしょ」と逆に言われてしまいました。ではなにが日本の強みなのかと訊くと「母子手帳が非常にいい」と。日本が発言すると、馬鹿にするのではなくて期待されることが多くあります。アイディア力がないというのは一般的にそうなのですが、しかし政府だったら政府なり、それぞれの人たちがそのアイディアをつくる仕組みが日本にはあるのか。この点について聞きたいのが、医療の問題です。

 先日、世界保健機関(WHO)の問題で、日本は今まで事務局長を取っていてましたが、その後、中国の人に選挙で負けてしまいました。1994年、エボラが旧ザイールで流行したとき、当時のWHOの事務局長は中嶋宏さんでしたが、しっかりと対応し240人の死者で済みました、しかし、今回のアフリカでは1万人の被害者を出してしまいました。ということになると、日本は当時の経験から色々なことができたのかもしれない。しかし発言力が弱い。それは、そもそも強みが活かせないのか、それとも強みに対して自信を失っているのか、もしくは、実行するような新しい仕組みが作れなくなっているのか、色々なことを感じてしまうのですが、近藤さんいかがでしょうか。

近藤:WHOの例でいえば、事務局長として活躍されていた方が日本に帰ってこられて、知見を活用し日本のイニシアティブへ繋げていくというものがない。これは非常に寂しい限りです。国際的に活躍した日本人を政府が活用して、積極的にアジェンダセッティングをしていために活躍してもらうことが十分でないのか、非常に不思議です。


現場感を持つことで、課題解決に向けた認識、取り組みは変わる

工藤:例えば、国連難民高等弁務官で日本人というと緒方貞子さんの名前が出ます。そして、国際的な発言力があるのは彼女ではないかと今でも言われています。もっと新しい人たちが出てこなければいけないのですが、課題解決やアイディア力もあるのでしょうが、その他にも人材、たくさんいる必要はありませんが、何人かでもキラリと光る人がいれば、その中で日本のイメージも出てくると思います。そうした、国際的に活躍している日本人の中にも、今試練というか困難はあるのでしょうか。

滝澤:国際連合難民高等弁務官事務所(UNHCR)には、緒方さんを慕って入った女性が30人から40人くらいます。そういう点では、緒方さんは国際機関における日本人材の育成に非常に大きな役割を果たしてきた人です。緒方さんに影響力があった1つの理由は、これは日本的といってもいいのですが、現場主義だったということです。現場に行き、物事を自分で考え、感じることができた。だから彼女の言う事は迫力があります。

 難民問題について言うと、例えばUNHCRの執行委員会というのが毎年10月から始まるのですが、そこに行くアメリカの代表団はまずどこかの難民キャンプに全員が行った後に、UNHCRの本部の会合に出ます。そこで「我々は実はこの間南スーダンのキャンプに行ってきた」とスピーチをする。これは迫力があります。日本の代表団はというと、外務省から三等書記官か二等書記官、後はジュネーブの人が座っていてほとんど発言しません。予算委員会には出ますが、プログラムをやるときには出てこない。現場で問題を把握して、そこから出てきた課題を国際社会にぶつけるという点でアメリカは非常に長けています。日本はその感覚がないという点が残念です。

 日本にアイディアがないかというと、実はそうではない。例えば、人間の安全保障というのは日本が売り出しました。これは素晴らしいと思います。そういったものをもっと使い、もっと売り出すことで難民問題についてもいいアイディアが出てくると思います。例えば昨日(215年9月29日)、安倍首相がシリア・イラク難民支援に900億円、周辺の平和構築のために700億円を拠出と表明しました。これはすばらしいニュースですが、国際的には「日本は金持ちだから出してくれる」で終わってしまう。そうしたお金をさらに利用して、色々な工夫をするという点で弱い。ほとんどの場合、国際機関に出して解決策を頼んでしまう。それはそれで、UNHCRからすると非常にありがたいことですが、日本が拠出したお金を利用して、北欧諸国がアイディアを出し、解決方法を作り出していってしまう。ですから外務省なら外務省として独自の発想を持ってもらいたい。

 そういう点でもう1つのアイディアは、先程、工藤さんもおっしゃいましたが、母子手帳です。これは非常に単純ですが、効果が上がるということで、中東で非常に流行っています。こうしたことは、日本初のアイディアとして素晴らしいもので、そういったものをもっと使っていく。同じようなことで、マラリアをなくすための蚊帳も挙げられます。そうしたテクニカルな、技術的なものも上手く国民の安全保障に繋げるパッケージの仕方がもっと上手になると、存在感が強くなると思います。

工藤:今のお二方の話を聞いていて、課題に挑んで解決しようという意志を持っていかないと多分ドラマは始まらないと感じました。

滝澤:日本の難民問題に対する議論について、私たちからいうと現場感がありません。ほとんどが法律の議論であって、彼は難民かどうかということで延々と議論している。現場で苦しんでいる難民の姿を見れば、そんな議論はどうでもいいとなると思います。緒方さんの迫力はそこにあって、そこにいる人をどうして助けないのかというパッションがある。それに加えてもちろん政治力やコミュニケーションもありますけども、やはり現場にいることで何かしたいという問題意識や気持ちが湧いてくるのだと思います。

工藤:まさにそういう力を日本政府の官僚一人ひとり、また民間の人たちが持ってくれると、何か流れが変わるきっかけをつくれるような感じがしました。

近藤:政治的なリーダーシップと、国民側からの問題意識・社会的な議論。その両方でやっと社会が動き出すわけです。官僚機構というのは与えられたことを着実に遂行するのが最初の役目なので、かつ人は減らされる予算は減る仕事は増えるということで、中々ゆとりがないのが事実で、あまり官僚を責めるのは気の毒だとは思います。

報告を読む / 議事録を読む  2 

[[SplitPage]]


日本が地球規模課題の解決に貢献していくには「人材」と「言論」が重要

工藤:ここでは有識者のアンケート結果をベースにしながらお話を伺っていきます。

 まず何が地球規模課題で、日本は何を取り組むべきか、ということを聞いてみました。一番多かったのは「地球温暖化防止に向けた温室効果ガスの削減」(44.0%)で、日本は先進性というリーダーシップが発揮できるのではないかという声でした。2番目に多いのが「地域紛争の予防や国際的平和秩序の構築」(26.1%)、そして「北東アジアの平和的な秩序づくり」(23.1%)でした。最後の回答は、ひょっとしたら言論NPOがアジアの問題をやっているということと連動している可能性もありますが、ただ「平和」ということへの関心が非常に強いと感じました。あと貧困や飢餓の撲滅、経済的グローバル化まで様々な回答がありました。つまり経済的な危機が注目を集め、世界中に広まる中で、経済的なガバナンスを維持することができるのか、という問題がありました。

 こうした地球規模課題の解決に貢献していくために、日本に必要なことは何かを尋ねたとろ、「国際機関への人材の輩出、人材の育成」との回答が70.1%で最多となりました。続いて、「国際的な課題に関する国内の議論環境の構築」(61.2%)と「非政府(民間外交)による課題への挑戦」(56.7%)が並んでいるという結果でした。

 最後に、日本の世界的発信力が非常に弱いことについてどうすればいいのか、との設問には、「世界に取り組む人材の育成」が37.3%、「世界の課題について議論する『言論』の舞台づくり」(21.6%)、「地球規模的課題に伴う日本初の議論の世界への発信」(21.6%)の2つが、同率で続きました。今回のアンケート結果をごらんになって、どのようにお考えになったかお聞かせください。

近藤:このアンケートによれば、まず温暖化、その次が平和。この順番が面白いのは、まさに日本に住んでいる人が日々感じていることだということです。例えば、「温暖化」について言えば、近年、温暖化が原因で異常気象が続いていますが、これはまさに自分たちの生活に近い問題だと感じているわけです。続く「平和」ですが、中国や北朝鮮の問題が出てきて、やっと自分の問題として感じてきたわけです。一方で、「地域紛争」や「貧困」はニュースなどで聞いて知ってはいるものの、自分は体験しておらず、危機意識を覚えず、アジェンダ設定もできなくなってしまう。その典型だと思いますね。

 では、実際日本に何ができるのかと言えば、温暖化対策というのは、日本にすばらしい技術があり実績がある、そして、日本は世界で最もエネルギー効率が高い国です。そういう意味で最も貢献できる国だと思います。しかし、主権国家どうしの平等の問題がありますから、平和に貢献していくことはなかなか難しい。しかし取り組まなければならないことは間違いない。日本に東アジアの平和について工夫してほしいという期待はあると思います。

工藤:先程の温暖化の問題ですが、昔は京都議定書を主導する等、日本の役割が非常に高かったのですが、その後、化石国というか、環境問題を解決していくための阻害要因になっているのではないか、という議論が国際社会で出てきました。現在、米中が環境問題に取り組むようになった中で、日本がリーダーシップを発揮できていないのではないか、という問題意識があります。ただ、アンケートでは、政府はダメかもしれないけど、民間でいろいろな動きが始まっているという指摘があるのですが、どのように考えればいいのでしょうか。

近藤:経済が下向きになり、グローバル化が進むことで競争が厳しくなり、財界に余力がなくなったことで、長期的な温暖化のために投資をするという体力がなくなってきた。確かに技術は民間にもありますが、それを実際に実施していくという力が弱まってしまったのだと思います。COP3で大きなイニシアティブをとりましたが、最近の日本はそうしたイニシアティブを取れていない。そこには、経済の体力の問題が大きく関係していると思います。


貧困や紛争、難民問題は、若い学生が国際的な課題に目を向ける気づきとなる

滝澤:私は今、問3にあるようなテーマを授業で教えているのですが、貧困や紛争、それに連動した難民問題などは、学生にとって比較的分かりやすく、印象に強く残るテーマのようです。学生たちは、半径2メートルのことだけで、外国のことは知らないままこれまで生活してきたのですが、世界ではそうしたことが問題になっているということを知り、非常にショックを受けます。例えば、1日1ドル以下で暮らしている人たちがいること、学校に行けない人がいること、あるいは、家を追われたり国を脱出するということを想像できないわけです。そうしたことを学ぶことで、学生たちも凄く変わります。自分たちは当然のように豊かな生活を楽しんできたけれど、それは例外的なことであって、国際的には特権階級的な暮らしです。そういうところから国際的な課題について、私には何ができるのか、私は何をすべきなのか、という問題意識を持つことに繋がり、学習にもつながっていきます。ですから私は、難民問題や貧困問題を教育のツールとしては非常に分かりやすいテーマだと思います。

 もう1つ、難民問題の関係でいえば、少ないですが日本にも難民はいますが、彼らの話を聞くことで、日本は素晴らしい国だということを再認識し、学生たちに大きなインパクトを与え、愛国心まで生まれるわけです。安倍総理に申し上げたいのは、愛国心を育てていくためには、道徳の教科書よりも難民を数人連れてくることで、愛国心も育てられるし、平和教育もできるということですね。そうしたこともあり、私は難民の人たちをもっと受け入れるべきだと思います。

 それから、障壁は英語だと思います。アイディアはあっても、発信をするためには、やはり英語が欠かせません。いかに英語をつかって海外に発信していくか、ということは重要だと思います。

工藤:昔、NGO団体と議論をしたことがあります。確かに、世界の貧困を解決していくことは重要だと思いますが、日本も山間地などに行くとお年寄りばかりで、生活ができない人たちが大勢いるわけです。そうした課題になぜ取り組まないのか、ということを議論したことがあります。その時に、東日本大震災が起きて、NGOは国内の課題にも取り組みました。つまり、日本の中にも世界的な課題と共通する課題がある。そうした課題について、何かの形で築くチャンスが出てきているような気がしています。

近藤:そういうチャンスは増えていると思います。世界だけではなく、中東やウクライナだけではなくて、国内にもこうした課題があるということを国民も気づき始めてきた。そうした問題意識、気付きをいかに日常的な議論、思考の場に持っていくか、という仕組みを意図的につくらないと、結局、考えてもよくわからないので、明日も平和だろうから先送りにしてしまう。そうしてずるずると日にちが過ぎていってしまう。そこは政府やメディア、そして民間の志ある団体が思い切ってイニシアティブをとっていく、そういう場を作っていくことが必要だと思います。そしてそれを学校や家庭、職場、地域で反映させていく。つまり、難民の議論は外務省と法務省だけがやっているのではなく、全ての家庭で、職場で議論をしなければいけない。時間はかかりますが、意図的にそうしたカルチャーを育てていくことが必要だと思います。

工藤:私は、課題を解決しようという考え方がかなり広まっていて、課題を感じられるような人が増えてきていると思います。一方で、気候変動などの問題で、日本の外務省や政府の人がCOPに参加して発言しているのですが、あまり報じられず、「そんなことを言っていたの、誰も知らなかった」というような状況があります。つまり、国民が国際的な課題を知ったり、考えるチャンスや空間が非常に少ない。こうした状況がある以上、世界的な課題については、他の人がやっている問題で自分には関係ない、という風になってしまうと思います。

 先程紹介したアンケートで共通しているのは、日本の中に世界的な課題に関する議論の舞台をつくったり、発信したりして人材を育成していかなければいけない、という話があったのですが、いかがでしょうか。


国内的な問題と国際的な問題を同時に議論できる人材を育てることの必要性

滝澤:私の授業では、国際的な問題から始めて、実は貧困問題は日本の中にもある、というアプローチをします。もちろん、その逆のアプローチの場合もあって、日本の国内問題を学ぶことで、国境を越えた国際社会においても、そうした問題があるという場合もあります。いずれにしても、双方向性といいますが、日本の問題と世界の問題が連動しているという意識を若い人たち、特に大学生や高校生に持ってもらいたいと思います。やはり、若い人たちは素直に反応してくれます。高校生は受験も忙しい中で、国際問題についてだけ考えることはできませんが、頭の隅に世界的な課題があったということを覚えておいてもらいたいし、私は豊かな生活をしているけれど、タイのスラムでは貧しい人が暮らしている、そうしたことを念頭に置いてもらって、大学でそうした問題を勉強してもらいたいと思います。そうすることで、今の若い人たちが日本国内だけではなくて、世界に目を開いた世代になる可能性は十分あると思います。

 私が40年、50年前に大学にいた当時の大学生よりも、今の大学生の方がはるかに、世界に目が開かれています。今、スタディーツアーで途上国に行ったりしますが、かつては考えられませんでした。そういう人たちを励ますことで、若者の間に、国内的な問題と国際的な問題を同時に議論できるような人たちを育てることが必要だと思います。

工藤:今日の議論の中で足りなかったことを1つ聞きたいのですが、政府外交や政府の協議体である国連だけで、COPや貿易体制など世界の課題を解決することができるのか、という問題があると思います。ノンステートの人たちの課題解決に対するチャレンジというものが、単なる啓蒙的な意味ではなくて、本当の意味で大事になってきているような気がするのですが、近藤さん、いかがでしょうか。


政府にプレッシャーをかけることで政策提案を実現していく

近藤:領土問題が典型的ですが、主権国家にとってはやはり建前があって、自国内の経済界を守らなければいけない、という大前提があるために思い切ったことができず、限界があります。確かに実行する能力はありますが、いいアイディアを出して、長期的な改善を進めていくことには限界があります。今の時代は、マスコミを含めた言論界と一般市民がどんどん議論をし、政府を突き上げていく。そうすることで、政府も国民の声に気付き、課題実行力を持って政策提案がなされていくと思います。ですから、潜在的に国家には解決能力がありますし、条約を作るのも国家です。しかし、条約を作らせるためのプレッシャーをもっと下から上げなければいけないと思います。

工藤:今日は地球規模的な課題をどうすれば解決することができるのか。その中で日本の果たす役割について、基礎的な問題から議論を始めてみましたが、私たちの挑戦にかかっているなと感じました。他人事ではなくて、地球規模的な課題について私たち自身が、自分の問題として考えられるか、という点からスタートするしかないというのがお二方との議論の結論だと思います。皆さん、今日はありがとうございました。


報告を読む / 議事録を読む   3 


[[SplitPage]]

entry_more=

2015年10月13日(火)
出演者:
近藤誠一(近藤文化・外交研究所代表、前文化庁長官)
滝澤三郎(東洋英和女学院大学大学院教授、元国連難民高等弁務官事務所(UNHCR) 駐日代表)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)

1 2 3 4 5