EUの経済危機の本質と日本の財政問題(※11月4日収録)

2011年11月15日

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 11月4日の言論スタジオは、加藤隆俊氏(国際金融情報センター理事長、前IMF副専務理事)、平野英治氏(トヨタファイナンシャルサービス株式会社取締役、元日本銀行理事)、内田和人氏(三菱東京UFJ銀行執行役員・円貨資金証券部長)をゲストに、「EUの経済危機は解決できるのか」をテーマに、議論を行いました。

111104_name.jpg まず、代表工藤は、欧州経済危機の発端であるギリシャの情勢に触れ、「パパンドレウ首相は欧州首脳が決めた包括案受け入れを巡り、国民投票を実施する意向を表明したものの、それが出来るかかなり微妙になっている。ギリシャ発の世界的な金融危機を防ぐことは出来るのか」と問題提起し、今回は、①ギリシャ危機回避をめぐる現状をどう見ればいいのか、②なぜこうした危機に発展したのか、その背景は何だったのか、③ギリシャが当座の危機を回避して立ち直るために何が必要なのか、そこでの日本の役割とは何か、をテーマに議論が行われました。


 第1の点については、本日未明にも国民投票の実施是非とパパンドレウ首相の信任投票が行われるという緊迫した状況の中で、「ギリシャ国民、EU関係者には冷静な判断ができるだろう」(加藤氏)、「最後は常識が働くと期待している」(平野氏)との期待が述べられた一方で、内田氏は「根源的な問題は、政府の約束と国家の執行が別問題となっていること」と述べ、ユーロの制度的欠陥が連鎖的に危機を生む危険性に危惧を表明しました。

 また、欧州経済危機の背景について、内田氏はEU統合の歴史を振り返りながら、「通貨・金融政策は一体的になされる一方で、財政政策が各国の責任のもとで運営される」という制度的欠陥と、「産業的に競争力がある諸国と、南欧などの高インフレ高金利諸国の間の経済格差」を指摘しました。加藤氏も同様の点を指摘し、それに対するEUの対応策が正しい方向に向かっていると述べる一方で、「それが実際にワークするかどうかは仕上がりを見てみないとわからない」としました。一方、平野氏は、「ヒト、モノ、カネを自由に動かし、それを梃子に構造改革を推し進めるという計画は、単なる夢物語ではなかった」としつつも、「安易に資金が借りられるという環境のもとでは構造改革を進めるというモードにならなかった」「それを助長したのが金融だった」と述べ、ある種の巨大なモラルハザードが働く素地をユーロという仕組みが創り上げてしまったと説明しました。

 そして、最後のテーマについては、加藤氏は「公共サービスの低下や国有財産の切り売りなど、IMFが支援を行うに当たって大規模な外科手術が必要になるだろう」と述べるとともに、韓国が経験した危機と比較しながら、「(ギリシャの場合は)為替(政策)が使えないことが非常に大きい」と指摘しました。また、平野氏は、「ギリシャにはまだ、購買力が保証されている「ユーロ」がある。二度と起こしてはならないと深く反省して国民的な議論が盛り上がった韓国と比べると、ギリシャにはまだ甘えがあるのではないか」と述べました。最後に内田氏は、日本との関連について、格付け会社は日本の評価にあたって、①増税や年金支給年齢引き上げなどの財政改善オプション、②国債利払いの低さ、③経常黒字の多さ、④日本国債の国内消化率の高さなどの指標を考慮しているとしながらも、「中でも第一の点を注視しており、それが政治的に動かないようであれば大幅なアクションを起こし、非常に厳しい評価を下すだろう」との見方を示しました。


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問1.ギリシャが、ユーロ圏からの支援受け入れの是非を問う国民投票を行う意向を示しましたが、その実施に向けて混乱が広がっています。あなたは、ギリシャ発の金融危機は回避できると思いますか。

「回避できる」と回答した人の理由

・EU構成国、BRICS、日米等に救済余力あり。金融業界救済の為の国の介入もなされようし、連鎖倒産は少ない。膿を出した後の再生に期待
・EUを中心とした国際的な支援態勢で何とか持ちこたえていける。
・ユーロ圏のギリシャ以外の国の支援により解決できると思う。中国、日本国のも支援の要請が来るとかんがえます。
・良識ある国民はEUを大事にする
・ギリシャ国民は、ユーロ圏脱退(つまりEU脱退)を選択しないだろう。
・EU諸国自身のため 回避せざるを得ないと思う ユーロ圏の大義のため。
・最終的には各国が協調して対応すると思います。
・最悪、ギリシャのEU離脱となっても、今回の支援策分をEU内で実施すれば、以後のギリシャ支援も不要であり、損失は確定的、限定的なものになる。
・最終的にはギリシャ国民がユーロ圏からの支援に当たっての条件を飲み、ユーロ主要国もEU全体の経済危機を克服する動きに徹するであろうから。
・ギリシャも各国も回避(ここでいう危機とはギリシャのデフォルト回避のみ)せざるを
・回避できないようじゃEUそのものの存在を世界から疑問視されますます危機が増大することをEU諸国が知っているため、必ず回避する。
・仏独のリーダーシップ G20の共通した危機感
・ギリシアは、この段階でユーロから離脱すると、同国経済が成り立たなくなることは、明白なので、ギリシア人が正気である限りは、ユーロ離脱はありえません。ギリシアが、ユーロに留まりさえすれば、そのウエイトは小さいので、他の欧州諸国にとって、重荷にはならない
・ギリシアの首相が政治生命をかけて通すと思う。
・何をもって金融危機と言うかによるが、混乱は生じるであろう。しかし、かつての中南米、東南アジアの金融危機も最後は終息した。
・他のEU圏の財政的支援と政治的圧力

「回避できない」と回答した人の理由

・通貨統合時に各国通貨を廃止したことが間違いだから。はっきり言ってヨーロッパは無能。
・ギリシャ国民が状況を理解していないように思われ、解決方向が見えてない。
・最終的には政治統合が必要と思うが、その実現は難しいと考える。
・目先の危機は回避できても、根本的解決に至らないものだから。
・公務員削減だけで抵抗が強い。
・基本的問題は未解決
・国民が反対闘争しているが、国民から建設的な提案が出ていない。
・たとえ手段や方策があっても、現在、回避できるほどに各国が協調できるとは思えない。
・ギリシャの政治が混迷しこの危機にきちんと対処できる人がいない
・首相の進退、国民投票の撤回の可能性に見られる政治的不安定な要素と国民性の問題。
・個別事情はいろいろあるにせよ、今、この問題から発生した世界的な金融危機を回避しないと大変なことになるという危機感が共有されてきたため。
・EU諸国を始め、多くの国がギリシャのデフォルトを避けようと協力体制を見せているが、肝心のギリシャ自体の混乱が治まる様子も無い為。また、リーマンショック以降各国の体力も無くなり、特に前回大きく活躍した中国にも頼ることが出来ない状況の為。
・明らかに経済的実力に見合わない放漫財政を行なってきたため。
・財政統合なき通貨統合にはもともと無理があった

「わからない」と回答した人の理由

・ギリシャ国内の財政改革が本当に出来るか疑問
・ギリシャ自体の構造改革やユーロ体制の変革の成否にかかるところで、現状程度の対応では難しいところ。
・回避できない選択肢はギリシャを含めてEUのどの国も望まないから。
・金融危機の定義がわからない。少なくとも部分的デフォルトは確実なのである種の危機はすでに起こっているといえる。どこまで大きなものになるかは見通せない。
・国民投票で支援受け入れ可なら、破たんは遅延できるが、根本的に回避できるかはわからない
・ギリシャの首相が、ギリシャ国民に耐乏措置の受け入れに関する是非を問うことは正しいと考えるから。
・ギリシャ国民の多数決によるから。
・各国がEUの解体・再編まで視野に入れているかどうかがポイントと思う。


問2.欧州にはギリシャをはじめとして、他にも財政危機に直面している国もあります。こうしたEUの財政危機は、解決できると思いますか。

「その他」と回答した人の自由記述

・目先の危機は回避できても、根本的解決に至らないものだから。インターネット社会では、たとえ国家連携の支援策等で楽観論を演出し、市場ムードを変えようとしてもそれに多くの投資家が釣られて動くことは考え難いため。
・スペインやイタリアなどそれぞれ程度の差や原因が違う。
・EU参加国の財政政策を厳しくコントロールする仕組みが出来ないと、現在の不安定は続くことになる。しかし、しかし、これは「市場によるコントロール」という資本主義の本質と矛盾する側面を持つから、なかなか難しい。 ある意味では、資本主義という経済システムそのものを問う問題であり、簡単には解決出来ないのではないか?
・単なるデフォルト回避は回避できる(せざるを得ない)と思うが、ギリシャより問題の規模が大きくなる可能性が高いこと、これらの国の財政・政治改革とEUとしての一体の通貨・金融政策と国別の政治・財政という構造での運営継続、などのむずかしい(構造的)課題が残るため、もう少し長いレンジで対策とその結果を見ないと一概にはコメントし難い。個人的にはEUは解体ないしは一体性を維持しながらもAメンバー(協定国)とBメンバー(一般国)のような2つの構造と運営になっていかざるを得ないような気がしている(これを解決できない結果と考えれば解決できないと見ていることになる)。
・国による
・EU内で解決できないのであれば、IMF等がかつてのようにイニシアティブを発揮して解決すべき。 国際的な圧力が必要だ
・各国がEUの解体・再編まで視野に入れているかどうかがポイントと思う。ギリシャ財政に安定してもらわないと、飛び火がポルトガルや更にEUでの経済規模が大きいスペインにまで移る可能性がある。その場合、ESFSの能力を超過するものと考えられ、EUの解体と再編にまで進むことが考えられる。


問3.国の財政赤字が世界経済にとって大きな懸念材料となるなか、日本の債務残高は1000兆円を超えました。日本の財政破綻は起こると思いますか。

「起こると思う」と回答した人の理由

・日本政府の借金は貿易黒字に支えられているが、円高等により貿易赤字に転落したため。
・国内経済の空洞化、少子化により、又派遣社員が多く雇用に不安がある為。
・国民のポケットにそれ以上の金がある―国民が金持ちと言われますが、いざとなると国民はその金を出しますか?!
・他国が破綻し、その現実が見えたときには、日本の財政状況に対する楽観論は吹き飛ぶため。
・実力(歳入)以上の支出(歳出)を続けていれば国家経済が破綻するのは自明の理。増税の前に(又は、最悪、同時でも)、議員/教師を含む公務員コスト(人数/経費)の大幅な削減、福祉/生活保護の費用などの大幅削減等を行い身の丈の国家経営を模索しなければ、国家財政は確実に破綻すると思う。
・今の政治の力では、国民に辛抱を強いる政策決定は出来ないだろう。今すぐ破綻ということにはならないだろうが・・・。
・金融危機の根源である投機資金の規制など全く取り上げられていない
・国民が自分の問題と考えていないから
・個人金融財産の正味財産額(資産ー負債)はすでに1000兆円程度しかないから
・日本の財政破たんに対する政治家の認識が甘く、きちんとした解決の構図が描けていない
・財政再建はもはや不可能。どこかで市場による暴力的な大きな調整が起こることは確実。
・Sovereign CDS及びFUTUREJGBでは、外国勢の売りが引鉄金を引くであろう。
・借金を返せる可能性が全くない段階に既に来ている
・既に対GDP比は破綻経験のあるアルゼンチン、ロシア、ギリシャ等を超えている。現在の国内政治情勢では、国債を国内の金融資産で賄えなくなった時に危機が訪れる可能性が高いと判断する。

「起こらないと思う」と回答した人の理由

・消費税が低くあげる余地あり。税を上げても社会保障面で信頼感がでれば、消費面での落ちこみは大きくない。経済への影響を過大視すべきでない。
・最終的には日本人の英知が働く。
・多くが国債で、また高齢者が多くの資産を所有していると聞くので高齢者福祉を充実させることのより国債の元本割れを許容すれば最悪のシナリオは避けられると考える。
・最終的には国民に負担をかけておさめる。
・日本国民の叡智と忍耐強さが発揮されると思うため。大戦後の"国破れて山河あり"の状態よりも回復した力がまだ存在している。
・政治さえマトモになれば大丈夫だと思います。
・なお国際収支は破綻に到らず、日本国債も国内持合の比率が大きいと思うから。
・破たんする前に何らかの手立てが講じられると思うので。
・但し、国民が危機を共有化し、痛みを伴う改革を政府が主導的な役割を果たすことが第前提
・財政健全化のための消費税導入など具体策をきちんとかかげ実行すると思うので。(野田内閣にはそういう期待感がある)
・日本人の国民性から、今の財政状況に対応するはずである
・国、個人の「貯え」が債務残高以上にあるうちは信用低下も「早急に、大きく」招くことは無く、即座に財政破綻が起こるリスクは少ない為。
・大多数の日本国民は消費税等の引き上げはやむなしと考えていると思う。
・過去10年程度の国民の政治的財政的学習から、何らかの方策に行き着くと希望している

「わからない」と回答した人の理由

・厳しい財政改革と増税以外の歳入増加政策の両方を行うことにより、破綻を回避できるが、先行き不透明である。
・今度の対応次第ではあるが、今の政治の姿からすれば絶望的かもしれない。
・日本にとっては、貿易のボリュームを考えれば、EUの財政危機の影響が米国や中国の実態経済にどう及ぶかの方が重要であるが、読めない。

「その他」と回答した人の自由記述

・このまま推移すればいずれは破たんする。単に増税だけでは解決せず、国の構造とくに官僚機構を根本的に改革しなければならない。
・当面は起こらないと思う。国債の引受け状況などユーロ圏とは大きく異なるため
・国の基本にかかわる問題は判断を逃げて解決をすべて先送りし、選挙基盤の分野や団体の利益(特に農協(農業ではない))のことしか頭が回らず総合政策の見識が全く感じられない多くの政治家、定まった見識もなく問題を扇情的にあおってワイドショー化するだけの多くのマスコミ、せいぜい「これでいいのか」程度のことしか言わない学識経験者など、が幅を利かせている間は問題解決は進展せず、破たんは避けられないと思う。期待するのは程度の差はあれこの問題を認識し場合によっては負担増や改革の苦しみも甘受する必要がある、と思っている多くの国民がこの問題を、程度の差はあれ認識し場合によっては負担増や改革の苦しみも甘受する必要があると思っているかなり多くの国民の良識しかない。その他の課題も含め論点を明確にし、早めに総選挙を実施し、国民的議論課題とすることを望む。
・直ぐに財政再建に取り組まなければ破綻する。首相が表明した消費税アップを具体的に実行できるかが鍵。このまま無策を続ければ財政破綻を起こすから。
・破綻がおこらないようにしなければならないと。消含む税体系の抜本的な見直しが不可欠である。
・財政危機に対して、大胆な戦略により破綻を避けるしかない。消費税の上げ幅があるから。


問4.その他、ご意見・ご質問がございましたらご記入下さい

・Open-Ended Response Open-Ended Response
・EU/日米等先進国の経済力は相対的に低下。
・現在、ユーロが崩壊に向かっているが、冬にはドルが、来年春は日本が、夏は中国バブルが崩壊する。
・所詮マスコミで流される情報でしか判断できてないので正しい判断が出来ているかいつも不安です。
・私が学生の時のように、明日が今より良くなるという希望があると良いですね。
・日本型の民主主義が限界にきていると思う。過度の弱者救済は止めて、或る程度の競争原理を回復しないと、日本という国が滅亡してしまうと思う。最早、ポピュラリズム(大衆迎合)に陥った民主主義制度では、中長期的には国家破綻を起こすだけという気がする。
・ギリシャは勝手すぎる印象はぬぐえない。ある条件下では脱退するあるいはさせる条項は無いものかともおもいます。
・ニコニコ動画の生放送など、ネット上のさまざまなチャネルを利用し、もっとたくさんの方に見て欲しいと思います。
・グローバル化が成熟してくると、それぞれの国や国民性が より顕著になるように思う。それには良くも悪くも寛大であらねば時代の逆行を招くのかも知れない。
・破たんする前に何らかの手立てが講じられると思われるが、その手立ては問題の本質を解決するものではなく、日本のプレゼンスは益々低下することになろう。しかし、それも日本国民が選択したものゆえ甘んじて受け入れるしか無かろう。
・NYのWall Streetで起きている99%デモの行方をどう見るか?
・松下政経塾出身の政治家では日本の将来ビションは描けない
・消費税等の引き上げのためには、政治家の意識変革と不平等な議員定数格差是正が必要だ
・世界的に債権債務関係を帳消しにする「徳政令」の実施が不可避の状態に来ている

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第1部:ギリシャ危機の本質は何か

工藤:こんばんは。言論NPO代表の工藤泰志です。さて、言論NPOでは、私たちが解決しなくてはならない課題をみんなで考えようということで、議論を行っています。
今夜は、新聞紙上で話題になっていますが、「EUの経済危機は解決できるのか」と題して議論して、みなさんと一緒に考えてみたいと思っております。
まず、ゲストの紹介です。お隣が、国際金融情報センター理事長で、前のIMF副専務理事の加藤隆俊さんです。よろしくお願いします。

加藤:よろしくお願いします。

工藤:トヨタファイナンシャルサービス株式会社副社長で、前の日本銀行国際担当理事をなさっていた平野英治さんです。平野さん、よろしくお願いします。

平野:よろしくお願いします。

工藤:最後に、三菱東京UFJ銀行の執行役員で円貨資金証券部長の内田和人さんです。よろしくお願いします。

内田:よろしくお願いします。


ギリシャ発の金融危機になっていくのか

工藤:金融危機に向けたギリシャの情勢が非常に混沌としています。まだ、状況がどうなるかわからないのですが、少なくとも、この前、欧州が出した枠組みに対して、ギリシャの首相は国民投票をすると言い出し、すぐにそれを撤回。首相の信任が問われる事態になっています(その後、首相は交代)。このギリシャの状況が、ギリシャ発の金融危機になっていくのか、ということが非常に気になっています。この辺りについて、みなさん、どのように考えているのか、というところから話を始めたいと思います。まず、加藤さんからお願いします。

加藤:お話しのように、状況は時々刻々と変わっていますので、確定的なことは申し上げられませんけれど、cool heads would prevailということを言っていましたけれども、やはりうまくいかないことのショックというものは、非常に大きなものがあるので、ギリシャ国民、EUの関係者、それからG20の関係者、そういう人たちが相談をして、最後には冷静な判断ができるように期待しています。

工藤:平野さん、どうでしょうか。

平野:私も、今、加藤さんがおっしゃったように、最後は常識が働くと期待していますが、最近のギリシャの混乱を見ていますと、何か突発的におかしなことが起こらないとも限らない、という意味で、大変心配をしています。ただ、世界危機が回避できるかどうか、ということにつきましては、確率としては回避できるほうが高いと思っています。今も、滑った、転んだ、していますけれども、一応、事態の改善に向けて、あるいは時間稼ぎかもしれませんが、そちらの方に少しずつ進んでいるように見えますし、私は、ヨーロッパの問題が他にも波及するということはあり得るけれども、後で話に出ると思いますが,ヨーロッパ以外のアメリカや日本、エマージングカントリーも危機回避能力という意味では、それなりにしっかりしていると思っています。そういう意味で、今回の事柄が、直ちに世界危機に陥る確率は低いという風に思っています。

工藤:内田さん、マーケットを担当されてどのようにご覧になっていましたか。


政府の約束と国の実際の執行とは別問題

内田:流れとしては、ギリシャに関しては非常に難しい、と。今回の第2次金融支援とか、あるいはそれに伴います包括的なEUの銀行資本注入の枠組みとか、色々なものがパッケージでまとまるのは難しいとマーケットは見ていたのですが、意外に各国首脳の意思が固いということで、悲観的な見方が一旦、楽観的なほうに振れた。それを、いきなりちゃぶ台をひっくり返すような状況が起きた、というのが今の状況です。今回のソブリン危機の出発点のギリシャが最後に非常に危ない判断をしている、というのが現状だと思います。

その危ない判断をする背景なのですが、ここはソブリン問題の難しいところで、政府の約束と国家の実際の執行は別問題である、ということです。今回のEUサミットで決定されたギリシャへの金融支援については、一段の公務員給与引き下げや増税などを受け入れるということが前提になっていますので、これをどうしても通さなければいけない。ところが、国内については、6割か7割の人たちがこれに反対しているということで、パパンドレウ首相としては、自分の政治生命をかけて、この第2次金融支援を通すために、国民投票に打って出た、ということだと思います。ただ、現状を申し上げると、ドイツ、フランスの首脳から「非常に危険な賭けである」ということで、基本的には国民投票に対しては手を引くような形になっています。野党の新民主主義と暫定的な政権、つまり統一政権をつくるという合意が受け入れられれば、国民投票は撤回すると言っています。

実は、今日(11月4日)の未明に、国民投票をするかどうかの決断と、パパンドレウ首相の信任投票の2つがかかることになりました。この信任投票と、国民投票を実施しないということは連関しています。というのも、今、与党であるパソックというパパンドレウさんの社会党は、152議席あり、このうち国民投票を否定している人たちは5議席あります。300議席が総議席数ですから、この5議席の方々が、信任投票で不信任に回ってしまうと、パパンドレウ首相は辞任をしなければいけなくなります。ところが、国民投票を実施しないのであれば、信任をするということになるかと思いますので、その場合には、何とか、パパンドレウ首相が信任を受けるという形になります。仮に、こういう極めて危険な状況の中で、パパンドレウ首相が辞任するという観測が、マーケットの中には出ています。

その場合は、パパンデモスさんという、元ECBの副総裁の方がいるのですが、この方を総裁に上げて暫定政権をつくるという事になります。これは非常に可能性が高い、とマーケットは見ています。

なぜかというと、いずれにしろギリシャが破綻しないためには、12月に大体80億ユーロの第6次金融支援を受け入れるわけですが、1回のギリシャの国債利払いが12月19日にあり、それまでに支援を受けないと、ギリシャは自動的にデフォルトするという状況になります。総選挙に打って出ると、準備に大体4週間から6週間ぐらい時間がかかりますから、総選挙になった瞬間にギリシャはデフォルトになってしまいます。ですから、暫定政権をつくって、何とか今の支援のスキームを受け入れるということを進めていかなければならない。こういう局面になっていると思います。

最終的に、私は、今回、ギリシャが国民投票をやるのであれば、対象にユーロ離脱を入れる、と思います。ユーロからの離脱については、ギリシャの7割の国民がそれを望まず、ユーロの中にいたいと回答しています。なぜかというと、ユーロから離脱すると、デフォルトになりまして、ギリシャの銀行預金がもの凄く減少する、要するに、モラトリアムみたいに預金者の方々の預金が返ってこない状況になってきます。それから、関税がかかったり、ヨーロッパの支援が受けられないなど、色々なことがありますので、ユーロからの離脱、ということをギリシャ国民は選択しない。そうすると、どのような形になるにせよ、今のスキームを受け入れる形で何とか進むのではないか、というのが、今、一番マーケットで観測されていることだと思います。

工藤:加藤さん、今、内田さんが言っていたのですが、とにかくギリシャは欧州の包括案を受け入れるしか方法はないわけですよね。12月19日までに受け入れないと、お金的には回らないと。ただ、おっしゃったような、政府の約束と実際の執行という問題、その中に国民がいるということで、いつもこういう問題が起こりますよね。今まで、IMFの頃にも色々とやられていたと思うのですが、こういう問題はどういう風に解決していくものなのでしょうか。

加藤:やはり時間がかかる、ということではないでしょうか。例えば、私が担当したジャマイカも債務のレベルがサステナブルではない、ということが政府関係者はわかっているのですが、労働組合はなかなかそれを受け入れないということで、ジャマイカ政府は、かなり時間をかけて労働組合と対話をして、最終的にはデフォルトにいかず、かなり返済期間を長期化したり、金利の引き下げなどを行い、しのいだわけです。だから、民主主義のプロセスは時間がかかる、ということなのではないかと思います。

工藤:僕たち、この番組の前にアンケートをやりました。回答者はそれなりの知識層の人たちなのですが、今回の問題は、「ギリシャ危機は回避できる」という回答が40.5%で一番多いという結果でした。ただ、「回避は難しい」と思っている人も37.8%位いました。回避できるという人は、さっき内田さんがおっしゃったように、やはりEU離脱も含めて、冷静に考えて、金融支援を受け入れないとう選択は結果としてできないだろう、と。しかし、「回避できない」という人たちは、国民が政治に対して納得できない、という不安定要素があるので、判断ができない状況になっているのですね。平野さんはどう思われますか。


当面の破綻を免れても、「競争力回復」の本質的な課題は残る

平野:ここで回避できる、回避できないという回答の対象となっている質問は、当座の破綻を免れるかどうかということですよね。もちろん、私も回避できるほうに賭けたいなと思います。ただ、今回の包括支援策の前提となっているリストラ案をギリシャが受け入れたとしても、抜本的な問題は残っているわけです。

2つあって、1つは、そもそもこのギリシャの約束が果たされるかどうか、ということです。仮に果たされたとしても、問題の本質は残ってしまう。なぜかと言うと、最終的には、ギリシャの問題というのは、ギリシャの競争力をどのように回復していくかということで、そこは手つかずのままなのです。つまり、ユーロに加盟して、為替の切り下げという手を縛られたまま、リストラをしながら、国の競争力を回復させて、税金でもって借金を返せるような能力が回復できるかどうか、ということは全く別の問題としてあるわけです。したがって、今回、仮に破綻が回避できたとしても、この問題は今後繰り返し起こる。そのたびに、こうしたことが問われるということを覚悟しなければいけない。今、加藤さんが言われたように、ある種、それは、民主主義のコストだと言われればそうだし、そういう経過を経ながら、最終的には抜本的な解決策に向かって事態が動いていくことを期待したい。多分、何年もかかる問題だと思います。

加藤:うまくいかなかった場合のことを考えると、まず、ギリシャには資金が入ってきませんから、デフォルトということが、かなりの確率であると思います。そうなった場合に、イタリアの国債の金利、10年債の金利は6%をかなり超えていますけど、それが更に跳ね上がる。あるいは、ポルトガルはどうなのだ、ということにも波及しかねないし、域外の国にとっては、株価が下がるということで、大きな影響を受ける。

だから、破綻したときの世界経済、あるいはヨーロッパ経済への影響というのはもの凄くマイナスです。それから、平野さんの意見に同感で、包括支援策を受け入れて、今はしのいだとしても、3カ月ごとにプログラムのレビューが出てきますし、第2次支援プログラムも相当な規模のものが必要になってきます。

では、本当にギリシャが1次支援、2次支援を返済する能力があるのか。返済するためには成長率が高まっていかないと、基本的な解決にはならないので、そこのところが今の仕組みの中で本当に可能なのかどうか、ということについて、もう少し、ギリシャ自身が努力をしないと、とても間尺が合わない。そうなっていくリスクが、半年後、1年後、2年後と繰り返していく可能性はあると思います。

工藤:内田さん、さっき聞き忘れたのですが、EUから離脱するということが起こるということはあり得ないのですかね。


ユーロを守る意思はかなり強い

内田:今のヨーロッパの条約は、かつてはマーストリヒト条約、今はリスボン条約になっているのですが、ユーロからの離脱についての規定は明確には定められていません。なので、新しく条文の規定を設けてくるということと、ユーロ離脱ということは、政治的な判断ではできないので、やはり国民投票が必要になってくると思います。その引き金になるのがデフォルトです。要するに、国債の利払いができないというような状況が起きるということが、1つのきっかけになると思います。

ですから、整理して申し上げますと、12月19日に初回の利払い、要するに今回80億ユーロの第2次トランシュの金融支援というのは、今、ギリシャがこの金融支援を受けるための財政緊縮策を受け入れるということが前提条件になっています。それまでは、ずっと資金は出てきません。ですから、それが結果的に、ギリシャが今のような状態が続いて、あるいは今回の第2次トランシュの金融支援策について否定的な答えを出した場合には、12月19日にデフォルトになって、それが引き金となって様々な動きが出てきて、ユーロ離脱という結果になる可能性はないわけではありません。ただ、全体的な動きとしては、ギリシャ自身もユーロからの離脱は選択肢に入れておりませんし、今のヨーロッパの首脳も、今回のEUサミットを見ていても、ユーロを守るという非常に強い意思はドイツを始め、かなりあると思います。あと、次のテーマになるかもしれませんが、あくまでギリシャの問題はユーロの制度的な欠陥の一部に過ぎないわけでして、ここで大きな穴を空けると、これまでのユーロの政治や経済、金融などの様々な制度欠陥が広がってくる。それこそ、大きな金融危機に発展してしまう可能性がありますので、双方において、何とか食い止めて、ユーロ離脱を阻止するということが、政治的にはこれから進んでいくのではないかと思います。

工藤:今の話を聞いていると、結果としては暫定政権で、とにかく今の枠組みの包括案を受けて、12月19日に間に合わせないと、ということですね。

内田:当座は、それしか選択肢がないと思います。それ以外の選択肢は、先程も申し上げた通り、ユーロの制度的欠陥がイタリア、ポルトガル、スペイン、そこまでくるとフランス、ドイツ、ベルギー、そしてアメリカといった形で、どんどん連鎖してきます。ですから、世界の政治がそれを食い止めるという状況になると思います。

ただ、中長期的に考えると、先程、平野さんが、あるいは加藤さんがおっしゃったように、ギリシャをユーロの中でどういう扱いにするのか。これはおそらく、これから色々な財政の統合のシステムとか、そういう枠組みの中で、少しずつ形態を変えてくると思います。ただ、今この局面で、ギリシャをユーロから離脱させるということは、ある意味で、金融危機のトリガーを引くようなことになりかねないので、非常に危ない状況だと思います。

工藤:しかし、その運命はまさに、ギリシャの政治にかかっているわけですね。つまり、民主主義のプロセスと市場の調整、この問題をどういう風に整理していけばいいかという問題があります。平野さん、今のところについてどうですか。

平野:今回の問題というのは、ギリシャの国民投票の話がでた時に、かなりの人が虚を突かれたと思います。

工藤:そうですよね、マーケットも急に悪化しました。

平野:こういうことが四半期ごとに繰り返されるのかと思うと、暗澹たる気分になる。これは、相当、道のりは遠く、事態が長引く。多分、長引けば長引くほど、解決のコストが金銭的にかさんでくる。それは相当なものだと思います。それも含めて、民主主義のコストはやはり重いのかな、と思います。

工藤:わかりました。ここでひとまず休憩を入れて、次はこの問題の根源的な問題に話を進めていきたいと思います。

報告   

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第2部:ユーロの制度的欠陥を乗り越えられるか

工藤:議論を続けていきたいと思います。今回のギリシャの問題は、ギリシャだけの問題ではなくて、イタリアや、ポルトガル、スペインなど、EU自体の問題もあります。では、どうしてこういう事態になってしまったのか、というところを、皆さんで話してもらって、どうしたら解決できるのか、について話を進めていきたいと思います。内田さん、どうしてこういう状況になったのでしょうか。

金融面でドミノ式のリスクを抱える西欧

内田:私見を含めて申し上げますと、今回のギリシャの危機、あるいは欧州ソブリン危機というのは、ユーロ統合の制度的な欠陥とか、矛盾が突かれているのではないかと思っています。ユーロ統合は、第1次、第2次世界大戦の後に、それまでの紛争問題であったはずの鉄鋼関係のところの共同管理から入っていって、関税同盟、あるいは1970年代以降は、欧州共同体(EC)という形から通貨をある程度統合させていくような動きに入ってきたという背景があります。

その後、1980年代前半には、欧州が構造的な経済の停滞局面に入っていた。いわゆる、ユーロペシミズムと言われていますが、日米の経済が急激に成長する中で、欧州は取り残されるということで経済統合、市場統合という方向に入っていった。更に、1989年にはドイツが統合、統一されて、このドイツを強大化させないために、欧州の中に取り込むために市場統合、経済統合をかなり促進させた。そういう色々な軌跡の中で、ユーロが誕生していくわけです。が、いくつかの制度的な欠陥、それはよく言われていますが、第1に、通貨と金融政策、および市場は統合しているけれども、政治については一応、欧州議会というものがありますが、財政政策は一致していません。要するに、財政政策については、各国の責任の下で運営されるという状況です。

第2点目は、ユーロというのは本来、最適な通貨圏であれば、要するに、それが1つのベンチマーク化した形で、経済が安定的に不均衡もなく推移すればいいのですが、かなり経済構造が違う国、例えば、ドイツやベルギー、オランダのように、かなり産業的な競争力があって、経常収支が黒字の国と、南ヨーロッパのように、非常に産業競争力が弱くて、比較的高インフレ、高金利という国々の通貨を統一させると、通貨は統一するのですが、結果的にそこでの経済格差というのがかなり巨大に生まれてしまう。本来であれば、それは労働の移動や財政政策の収斂化という形で構造改革をしなければいけなかったのですが、ユーロの統合直後に、南の方のヨーロッパで、金利が大きく低下して、インフレ率が低下したことによって、経済が活発化して、住宅とか設備投資などに、中枢のドイツやオランダ、ベルギー、フランスからかなり資金が流れ込んだ。その結果として、経済が拡大するので構造改革が非常に遅れた、という矛盾があります。

また、それによって金融が巨大化して、レバレッジがかかっている構造になっています。例えば、各国の銀行の総資産の規模を見ると、大体GDPの3、4倍ぐらいというのが平均値になっています。日本やアメリカと比べると、ヨーロッパは、預金に対しての貸出の比率、これはいわゆる、どれだけ信用創造が起きているか、という比率をみると、日本とアメリカは大体1倍、ないしは0.8倍という数字なのに対して、ヨーロッパは1.4倍になっています。要するに、かなり信用創造が起きてしまっている状態になってきている。こういったような状況で、ヨーロッパ全体が持ち合いになっているのですね。

その一端がギリシャということで、ギリシャが崩れてくることだけではなくて、これから、スペインやイタリアなど、また、矛盾が突かれてくると、コア国のフランス、ドイツにも影響がある。このような、非常にドミノ的なリスクを抱えているという中の一端がギリシャで起きたということで、大騒ぎになっている状況だと思います。

工藤:元々は、ギリシャだけではなくて東欧諸国でもありましたよね。つまり、リーマンショック以降、各国が経済破綻を防ぐために国家財政で埋めていった結果、色々なところで矛盾が出てきて、今、内田さんがおっしゃった構造の問題とつながっていると。

内田:そうですね。ただ、もう少し正確に申しますと、中東欧の場合は、財政が非常に健全化しています。中東欧の場合の危機は、民間の住宅ローンなどがユーロ建てであるとか、そういった民間の部分の債務危機だったのですね。ところが、南ヨーロッパの場合は、財政が構造的に赤字の国が多いので、南ヨーロッパの場合は、ソブリン危機というところで、区分けがされると思います。

工藤:加藤さん、こうした危機の構造を、これまでどのように直そうとしてきたのでしょうか。


ユーロ圏は正しいことをやろうとしてはいるが......

加藤:内田さんの発言に多少付け加えますと、平野さんもご経験があると思いますが、ベラジオグループという実務家と学者の集まりがありまして、そこでEUの単一通貨の是非を議論しますと、アトランティックディバイドと言って、ヨーロッパの人とその他の人たちの意見が完全に違ってしまいます。ヨーロッパ勢は、単一通貨と単一の金融政策の下で、経済パフォーマンスを段々コンバージする、再編されていく、と。しかし、その他の国はそうは簡単にいかず、むしろ、ダイバージェント(異なった)のままではないか、ということになります。今のギリシャの問題、ポルトガルもそうですが、単一通貨の下で、経済的なパフォーマンスより、もっと格差が広がっている。ドイツのような非常に強い国と、ギリシャやポルトガルのように成長余力が乏しくて、ギリシャの場合は債務負担が非常に大きい、そのような国がバラバラのままである、ということが一番の問題であるように思います。
そういった中で、どのように対応しようとしているのか、ということについて、3本の柱で対応しようとしています。それは正しいと思いますが、1番目の柱がギリシャの債務負担の軽減で、50%の債務削減をギリシャの債権者に求めるということです。2番目の柱は、そうなってきた場合、ギリシャ国債を持っているヨーロッパの金融機関が資本不足にならないかという心配が出てくるので、来年の6月までにTier 1キャピタル(銀行の自己資本比率)を9%まで引き上げるということも正しい対応だと思います。

3番目の柱は、欧州安定化基金(EFSF)の資金力を強化するということで、EFSFから部分保証するとか、あるいは特別目的会社(SPC)をつくって、そこに資金拠出を仰ぐという案が出ています。正しい方向だとは思いますけれども、まず、それが本当にワークするのかという具体的な中身をもう少し見てみたいと思います。仮に具体的な中身が固まったとしても、それで十分なものか、ということについて改めてテストされると思います。だから、今、ユーロ圏がやろうとしていることは正しい方向ですけれども、仕上がりを見てみないと何とも言えない、ということだと思います。

工藤:平野さん、どうですか。今のままで枠組みが十分かという問題と、それがワークしない場合はどうなっていくのかという問題なのですが。

平野:先程、内田さんが言われた、今回の問題は、そもそもユーロの制度的矛盾が表面化したということでしたが、私もそう思います。それから、加藤さんが言われたように、ユーロペシミズムという、ユーロに対して非常に悲観的に捉えた多くの人たちは、元々こういう矛盾があるではないか、ということを古くから指摘していました。ただ、私自身は、当時、アトランティックディバイドの議論に即して言えば、ヨーロッパが言っているように、この統合する結果として、人・モノ・カネがより自由に動くようになり、かつ、経済的に遅れた国も低利の調達ができるようになれば、それをテコに構造改革を進めて、全体として経済の格差が縮まっていく、ということは単なる夢物語ではなかったという風に思います。


もし、色々な前提がクリアすれば、そういう方向に進んだかもしれない。しかし、現実にはなかなかそうはいかなかったというのが問題です。

それはなぜかという風に考えますと、これは日本への教訓でもあるのですが、例えば、南欧の国からすると、安易にお金が借りられるという環境の下で、構造改革を進めるということは難しいことなのです。国が、これまでと違って、もの凄く安い金利で資金調達できるようになりました。すると、それをベースに痛みを伴う改革を進める、というモードになかなかならない。これは、国家も人間も同じです。それを助長したのが、金融なのだと思います。では、金融がなぜそうなったのかというと、多分、巨大なモラルハザードが働いていたと思っています。つまり、世界的な金融緩和の状況が、随分長いこと続いたわけです。そうすると、金融としては少しでも高いイールド(支払い)、少しでも高いリターンがあるところに、どうしても投資をせざるを得ないというプレッシャー。

工藤:危ないところほど買いになる。

平野:そうです。みんな、ユーロの中でもドイツの国債は一番金利が低く、ギリシャの国債の金利は、今ほど高くはなかったけれど、元々高かった。だから、どうせ買うなら、イタリアの国債を買った方が少しはましではないか、ギリシャの国債を買った方が少しでもましではないか、という気持ちが働いていたに違いないと思うわけです。これは、ある種のモラルハザードなのですね。

そういうものが生まれる素地を、ユーロシステム自身がつくり上げてしまったということと、金融緩和のある種の影の部分として、ここでも発生してしまった。そういう意味では、アメリカの住宅バブル、信用バブルと、今回のギリシャ危機というのは何の縁もないようだけれども、共通する部分があるなと思っています。

それから、支援策が十分かということですが、当座のギリシャの破綻を乗り切るためには、ともかくこれをやっていかざるを得ないと思います。ただ、これ自身を取ってみても、問題はもの凄くあります。例えば、ギリシャの民間債権者の借金の5割を棒引きするわけです。しかし、これはデフォルトではないと言っています。つまり、ボランタリーで、自発的に債権放棄すればデフォルトではないという理屈を立てているわけです。しかし、常識的に考えて、5割も債権を放棄させられて、それは本当にデフォルトではないのですか、ということがあります。

これから、どういうことになるかというと、この支援策が仮に通ったとしても、ソブリン危機、つまり国家の借金に対して、市場の見る目がもの凄く厳しくなるだろうと思います。もちろん日本にもインプリケーションがありますけれども、ユーロシステムの中で、どのようなメカニズムが働くかわからないな、と。そういう波及効果は怖ろしいものがあるなという風に思っています。

それから、ESFSの資金力強化について、加藤さんも指摘しておりますが、これもやらざるをえないのだけれど、イタリアまで危なくなったときにこれで足りるのか。あるいはフランスまで、という話になってくると、今の資金力では話にならないわけです。ですから、十分かと言われれば、あり得るべきリスクに対しては、不十分です。でも、とりあえずこれが通らないことにはどうにもならないな、ということです。
それから、もう1つは、この中でSPCなど、色々な議論がありましたが、個別・具体的にこれをどうやって使っていくか、ということについては、何も詰まっていません。これは、結構、技術的にも難しい問題があると思いますので、仮に、これが通ったとしても、色々な問題がある。ただ、これが通らなければ、どうにもならないというのが現在の状況だと思います。

工藤:最終的に、どのような形になったら解決するという道筋が見えるのですかね。


財政統合しかユーロの制度的矛盾を解決できない

平野:さっき内田さんが言われたように、論理的には2つしかなくて、いわば財政統合か、ユーロ崩壊ということです。但し、ユーロ崩壊は誰の得にもならないと思えば、色々経ながらも、何年かかけて財政統合の方向に向けて進んでいくのではないか、ということを私は期待します。財政統合へ向けた動きがない限り、ユーロの制度的矛盾というのはいつまでも残るわけだから、解決できません。論理的にはそれしかないと思います。


アジアも影響を受けているから、ユーロ圏にものを言うべき

加藤:先週のサミットで合意されたことが、完全に実行されたとして、ユーロ圏の先行きがすっきりするかと言ったら、多分、すっきりしなくて、色々な節目、節目でマーケットから試されるということが起きてくる。ただ、それをみんなが協力して、その都度対処していかないと、もっと大変なことになる。だから、一度ユーロという仕組みができてしまった以上、潰れないようにみんなで努力していくしか仕方がない。日本も傍観者ではなく、これだけ影響を受ける。アジアの国もヨーロッパの金融機関が手元流動性のために資金を引き揚げて、それで通貨安になったり、株が下がったりしていますから、アジアの国も影響を受けているので、もう少し主体的にユーロ圏にものを言っていく必要があるのではないか、という気がします。

工藤:内田さんは本質的な解決をどのように描いていますか。

内田:今、おふたりがおっしゃったように、本質的に解決するためには、EUの制度をもう一度設計し直さなければなりません。いずれにしても、それは1年、2年の話ではない。これまで欧州の経済、あるいは市場統合に向けて、古くから言えば50年以上、市場統合に向けては30年かかっているわけです。だから、10年単位で考えなければいけない話です。但し、より重要なことは、短期的な解決に向けて、あまりにもドラスティックな政策をとりすぎると、かえって危機を増幅させるおそれがある。具体的に言うと、合成の誤謬とよく言われていることなのですが、先程、加藤さんがおっしゃった3つの政策を進める上で、2番目の銀行への公的資本注入については、健全であることを証明するために、ストレステストというのをやります。これはかなり高いハードルになっています。これを無理矢理、強制的にやるということになると、今の状況で銀行の自己増資はなかなか難しい環境にあるので、結果として、貸し出し、ローン、市場性資産とか、こういうものを売却して、そういうテストに合格しようとする。そういうことが起きやすい。


無理に財政緊縮すると、恐慌になる可能性も

それからもう1つは、ギリシャ自身、あるいはポルトガル、スペインでも一部出ているのですが、先程、平野さんがおっしゃったように、経済がこれから加速度的に悪化する中で、無理矢理財政を緊縮すると、これは1930年代のアメリカのような、ちょっと大きな経済のクラッシュになる可能性がある。どこかで現実的な選択肢に引き戻すということをやっていかなければいけない。ですから、こういうことを3カ月ごとにあるいは、首脳会議ごとなどの政治的日程に合わせてやる。おそらく、一喜一憂していくと思うのですが、最終的に落ち着くのは、5年、10年という形でみなければいけない。世界経済はまだ、何とか拡大をしているわけですが、いずれ失速という状況になりますので、その前に、全体的に持続性のあるパッケージをつくって修正していく、ということも必要なのではないかと思います。

工藤:ギリシャに今問われていることは、かなりドラスティックな改革になっていますが。

内田:ギリシャもそうですし、EU全体、イタリアもポルトガルもそうです。ここで重要なことは、経済構造改革が必要なのです。例えば、イタリアで言えば、非常に硬直的な労働を解放するとか、ギリシャで言えば、民営化を進めるとか、こういうことはどんどんやっていただいたほうが、競争力が上がっていいのですけれども、例えば、需要を無理矢理押さえつけるような政策、年金制度改革はやらないといけないのですが、年金や賃金、人の雇用を切っていくような政策を無理矢理推し進めたり、先程申し上げた銀行の金融収縮を早めるような政策を進めると、かなり危険な状況になると思いますので、そこをうまくコントロールできるような状況になってくると、落ち着いてくるのではないかと思います。

工藤:わかりました。それでは、ここで休息を入れます。

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第3部:ユーロ危機の先に日本の財政危機が見える

工藤:最後のセッションなので、本音ベースで色々と聞いていきたいのですが、今までの話を聞いて、少しわからなくなってきたことは、ギリシャが短期的に今の枠組みを受け入れて、当面の危機を回避する。その後、ギリシャが立ち直るためには、どういうことがギリシャに求められているのでしょうか。それは、以前、アジア通貨危機があった時に、韓国がかなり大変な手術をしました。それとどう違うのか、という事を説明してほしいのですが、加藤さんいかがでしょうか。

加藤:ギリシャが求められていることは、とにかく単年度財政赤字の対GDP比が2桁に上がっているわけですから、これをもう少し切り詰めなければいけないということで、公務員の数を減らし、給与を抑え、年金をカットする。

工藤:つまり、公共サービスをかなり低下させなければいけないということですね。

加藤:そうです。それに、国有財産を切り売りするという事と共に、銀行部門も整理し、資本も入れなければいけない。

工藤:かなりの大手術ですね。

加藤:そうですね。だからこそ、ギリシャ国民があれだけデモをやっているということでしょうし、IMFが資金を出すにあたっては、かなりの外科手術を求めることになります。


ギリシャを「韓国」と比べると

工藤:韓国の場合はIMFも入ったと思うのですが、ギリシャに関してはそれを管理して、遂行するということは、どういう枠組みでできるようになるのでしょうか。それが、国民に理解されるのか、という問題もあります。

加藤:ギリシャの場合は、ともかく財政赤字の程度が韓国と比べものにならないぐらい大きいですから、正常に持っていくために必要とされる外科手術の程度が大きい。そうなってくると、さらに景気が落ち込んで、税収も上がらないという悪循環に陥っているように感じます。韓国との違いはやはり、為替が使えないということが非常に大きな違いのように感じます。

工藤:そうすると、国民がある程度覚悟して、次の自分達の国の未来に対して本気でやらないと、ただデモをやるだけではダメだという状況ですよね。平野さんどうでしょうか。

平野:加藤さんがおっしゃったことと同じ事なのですが、ギリシャにはまだユーロがあるのです。ですから、ユーロがある限り、ユーロの購買力は保証されていて、ユーロで支援を受けるわけだから、韓国と比べると、ギリシャの危機感というのは小さい。相当なことをやらなければいけない、ということでデモが激しくなっていますけれども、ある意味で、韓国の方が危機感はあったのではないか、という感じがします。というのは、韓国は外資が急速に流出して、国の資金繰りが持たなくなってしまった。

工藤:流動性が失われたということですね。


ギリシャ国民は危機感を共有していないのでは

平野:それでIMFが入ってきて、もの凄く厳しい財政再建案で、徹底した構造改革を韓国に強いたわけです。韓国は真面目ですから、それを受け入れたわけです。受け入れたけれども、二度とこういうことはやってはいけない、という思いから、一念発起して競争力をつけるべく頑張って、もの凄くウォン安のフォローの風はあったけれども、サムスンとか現代とか売るものがあったことも事実です。ただ、彼等自身が深く反省して、国民的にこういうことは二度と起こしてはいけないという議論が盛り上がった、ということがあったと思います。

ギリシャについては、本来、構造改革をして競争力を回復しなければ、この国は破綻するといった危機感が、本当に共有されているかどうかというと、実はそうではないような気がします。まだまだ甘えがあるような感じがする。それが、ああいうデモにつながっているという面もあるのではないか。ただ、さっき、内田さんがギリシャ国民の70%がユーロ離脱を望まないと言っていることには、希望が持てるかなという気がします。ただ、そもそも働かなければ、我々の生活水準は維持できないという当たり前のことを、どの程度分かっているかというと、必ずしも多くの国民が納得しているとは思わない。それが、国際公約をしても、執行のところでひっかかってしまう大きな問題だな、と思います。ですから、少し内田さんと違うかもしれないのですが、ギリシャの場合は、やはり大手術が必要なのではないでしょうか。今の包括支援策の前提となっているリストラ案も相当な外科手術を伴うものです。でも、そのぐらいはやらないと、為替という手段が使えない以上、どうにもならない。


国家が破綻する、とはどういうことか

工藤:内田さん、、国家が破綻する、デフォルトするというのとはどういうことなのでしょうか。つまり、今回も可能性があるわけですよね。

内田:定義づければ、国家の支払い、つまり国債の支払いが不能になる、というのがデフォルトです。

工藤:そうなると、どうなるのでしょうか、その国は。

内田:次に日本の話になってくると思うのですが、例えば、日本の場合、国家が支払い不能になる前に、増税をするとか、あるいは年金の支給年齢を引き上げるとか、色々な手段があり、対応することが可能です。ですから、より正確に言うと、対外的な支払いが不可能になる、ということが現実的だと思います。要するに、ギリシャにしてもそうですが、過去に債務危機に陥ってデフォルトになった国には2つの要件があって、対外債務国と経常収支赤字国なのですね。なので、この2つの条件が揃って、かつ国債が支払い不能になると言った場合には、そこに対して、債権を持っている海外の投資家、こちらの投資家が、50%ぐらいの損失を負担して、IMFが厳しいコンデンショナリティと言う条件を課して、経済構造改革をやって立て直させる、というのが通常のパターンだと思います。

工藤:それが、50%というのは、さっきの枠組み案と同じですね。


外国からの借金も国債発行もできなくなり、税収も減る

平野:だから、50%というのは破綻ではないと言っているけれども、常識的に言えば、破綻なのです。しかし、これを破綻と認定すると、技術的な話になりますけれど、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)だとか、そういう色々な市場に大きな影響が出てしまうので、自発的な債権放棄ならば破綻と認定することはやめましょう、ということで擬制しているというだけの話なのです。問題は、外から見たらそうなのですが、ギリシャ国民に何が起こるのかというと、対外的には信用を失ってしまったわけなので、借金はできないわけです。だから、国際的な市場からは閉め出されます。ギリシャはもう破綻ということになりますと、対外的な借金はできない。では、国内で国債を発行できますかと言っても、返してくれるかどうかわかりませんから、極端に言えば国内での発行もままならない。そうすると、政府が何の借金もできないとなると、入ってくる金の範囲内でしか払えなくなる、という話になってきます。

元々ギリシャというのは税金を払う人が少ないのですが、更に税金を払うということはないと思うので、更に税金が少なくなる。そうなると、元手がないわけですから、払えるものも払えなくなってしまうということで、結果として国家破綻、財政破綻ということになり、そうなると、今、包括支援策の前提となっているリストラ案よりも、はるかに厳しい生活を国民は強いられるだろうと思います。それは、ユーロ離脱ということになるかもしれない。だから、他への影響もさることながら、ギリシャの国民生活も相当厳しいものになる。

アルゼンチンは破綻しましたが、今のアルゼンチンの経済は安定しています。これはなぜかというと、1つは通貨安という手段が使えたということです。昔は、1ドルに対してアルゼンチンペソは1対1でした。今は、1ドルに対して、4分の1ペソになって、ものす凄く輸出競争力が付いてしまった。加えて、アルゼンチンはアメリカ、ブラジルに次ぐ世界第3位の穀物輸出国で、中国に対する穀物の輸出が劇的に伸びました。つまり、通貨安で価格的にもよくなり、量的にも伸びた、ということがアルゼンチンの経済を何とか潤して、経済安定化の方向に向かったということです。アルゼンチンは通貨安という手段を使えたということと、穀物という輸出するものを持っていたという、ある種の幸運に恵まれたということです。


加藤:要するに、外からの支援を受けられなくなりますから、本当に縮小清算になるか、アルゼンチンのように資源国として輸出ができる。それから、世界的なブランドを持っていて、どんどん輸出が伸びるということでもないと、非常に難しい。国民は、耐乏生活を長い期間強いられるということになりがちですね。

工藤:IMFというのは、何をする係になるのでしょうか。

加藤:IMFは欧州委員会、それから欧州中央銀行(ECB)と共に、ギリシャの経済再建策をきちんとつくって、それが機能するまでの間、資金的に支援をするという役割ですね。

工藤:それを強引に迫ったり、監視したりするのは欧州の方になるのですか。
加藤:トロイカと言いますか、3つの機関で行うことになると思います。


日本の財政破綻の可能性

工藤:今までの話を聞いていると、やはり国民がきちんとそういう状況を考えながら、デモだけでは済まされない、自分達の未来に対して考えなければならない局面になってくる。ということになると、日本はどうなのか。この番組の前に,言論NPOでは有識者のアンケートをやってみたのですが、驚いたことに、日本の財政破綻をするのかという質問に対して、日本の財政破綻の可能性を指摘する声が半数を上回りました。このままいくと、間違い無く財政破綻は訪れる、と。でも、それを変える力が、日本の政治にあるかとか、そこまで国民が覚悟を固めているのかとか、結構、今の話に近いようなことを日本の将来に対して指摘する人が多いのです。日本の問題を世界の現象と置き換えた場合に、日本に何が問われているのか、ということをお聞きしたのですが、平野さん、どうでしょうか。

平野:財政破綻の定義にもよりますが、日本の政府が内外で発行する国債の元利払いができないという事態は、色々な理由がありますが、考えにくいと思います。ただ、問題は、財政再建ができるのかということに置き換えると、ハードルは非常に高いし、やらなければいけないのですが、そう簡単ではない、というのが私の結論です。政治のことが色々と言われていますけど、やはり、基本的に国を動かしていくのは国民の意識ですよね。このアンケートを見ていると、起こると思うという人が4割近くいるというのは衝撃の数字なのですが、

工藤:警告的な意味がありますよね。


日本は財政再建策を実行しなければ、国債暴落、大円安のリスク

平野:ありますね。でも、普通の人は、あまりそういうことを考えていないのではないかと思います。年金は何だかんだ言ってももらえるし、国債買っていれば安全だしという風な人が圧倒的にまだ多いのではないかと思うので、日本の財政が危機的な状況になるという認識が共有されていない、共有されていないところで政治がどこまで何ができるのか、非常に難しいと思います。これは、ある意味で、日本の財政事情を詳らかに説明すると同時に、非常に粘り強い努力が求められていると思います。

それで、あり得るべき事態として何が起こるのかというと、今のところ、財政赤字については、国債を発行して、その国債の97%、96%ぐらいが国内で消化されている。内田さんのところの銀行も、日本銀行も大量に国債を買っているわけです。こういう状態がいつまで続くのか、これは貯蓄の中から買うわけですから、問題はあるわけです。今の日本の貯蓄率の動向だとかを見ると、こんな状態では、いずれ国債を国内で消化できないから、海外の方々にも国債を買って頂かないと財政は回らないという事態に多分なるでしょう。その時が大きな境目で、海外の投資家は日本の投資家と比べれば、はるかに日本を厳しく見ます。だから、そう簡単に国債を売れませんね、と。あるいは、一旦買ったとしても、何か起こると、すぐ国債を売られてしまうというようなことになります。そうすると、その部分で市場のプレッシャーが日本、及び日本政府にかかってくることになる。その段階で日本に何ができるのかということなのですね。それは当たり前で、信頼される財政再建策をつくって、それを着実に実行していくという意思と能力を示さないと、そういう事態は収まらない。それがいつくるかは、私には分かりませんけれど、そんな遠い将来ではなく、数年以内にそういう事態がくるのではないか。それに対して、日本が手を打てなければどういうことになるかというと、国債価格の暴落と大円安というとんでもない事態になるリスクは残るな、と思います。

加藤:今回のギリシャなり、イタリアの経験からすると、大丈夫と思われていたところも、ある時点から急な坂道を転げ落ちるような事態が、どんどん加速度的に悪化していきますから、日本もギリシャなり、イタリアのことを他山の石と考え、やはり相当、前広に手を打っていかないと、ある時点から制御不可能なことになりかねない、そういうリスクを、今回の事件から十分に学ぶべきじゃないかと思います。

工藤:加藤さんがIMFから帰られたときにお会いしたら、もう議論の段階ではなく、アクションの段階だとおっしゃっていましたよね。

加藤:そう思います。

工藤:内田さんはどうですか。まさに、国債を担当しているポジションにいらっしゃるのですが。


ここ3、4年ぐらいの間に財政構造改革のメドを

内田:その点については、あまりお話しできないのですが、私も、おふたりがおっしゃったように、時間的な問題という点では、差し迫った状態にあると思います。もう1つ重要なことは、今は経常黒字なので、そういった危機が封印されていたり、あるいはそういう危機を感じないような形での政策が採られている。しかし、これから高齢化国家になる、あるいは産業の空洞化という形の中で、経常収支の黒字がどんどん減っていく。それが減ったときに、財政のリスクというものが顕在化するのです。この時には、もちろん国債の問題と同時に、為替が円安になる、この2つが同時に来るわけです。その時に、インフレになるわけです。インフレになった時に、高齢化国家になっていると、年金生活の方々が非常に苦しむことになりますので、時間的な問題としても、ここ3、4年ぐらいで、財政構造改革に目処をつけて、将来的に10年、20年のある程度のプロアクティブな、要するに、予測を取り入れた形で、日本経済の姿を示していかないと、10年後にはインフレで高齢化という極めて危険な状態に進んでいくというリスクが高いと思います。

工藤:海外の投資家は日本をどう見ているのでしょうか。

内田:格付け会社が4つのオプションを見ていますね。その内の1つが、日本はまだ、消費税の増税とか、社会構造改革など財政の改善オプションを持っているということ。2つ目は、国債の利払いが低い、3番目は経常収支が黒字だと。4番目はホームバイアスと言って、日本の国債の95%は国内で投資化されているということで、日本の国債については、短期的な危機はないと見ています。ところが、2番目から4番目は、さっきも申しましたけど、経済の構造転換によって、いずれ変わってくる可能性がある。1番目の財政改善オプションを投資家とか世界の格付け会社は本当に注視して、ここがかなり弱いとか、遅れるということになると、2番目から4番目の条件が変わった時に、大幅なアクション、非常に厳しい評価といいますか、動きをしてくる可能性があるので、そこも注視していかなければいけないと思います。

工藤:加藤さん、日本みたいに巨大な国が財政破綻となった場合に、どうなるのですか。日本がちゃんとやらなければいけないのですが、誰が、どういう形で立て直すのですかね。

加藤:やはり、日本が自分達で支えていくということが一番基本になると思います。それから、日本の国債価格が暴落した時には、日本の問題のみにとどまらず、他の国の国債価格が暴落するというリスクがあるということを、IMFは言っていますし、全く同感ですね。

工藤:なるほど。すると、僕たちはそろそろ覚悟を固めて、日本のためのことを考えないといけないな、という段階に来たということですね。今日の話を踏まえて、今回のEUの危機をベースにして一言ずつ何かありますか。内田さんからお願いします。

内田:ユーロの制度欠陥というのが今日の議論であげられましたが、日本の色々な課題と類似している部分もありますので、やはり、一つひとつ構造改革を進めて、財政の再建に向けて動いていくということを、私を含めて、国民一人ひとりがしっかりと信念を持って、やっていく必要があるということですね。

工藤:今、twitterで、「日本がこのEUの危機に対して何ができるのか」という質問がきているのですが、平野さんどうですか。

平野:EUだけの問題ではなくて、世界全体の問題ですから、その世界の協調行動に対してはきちんとした役割を果たすということと、日本の貢献は日本自身の国を守っていくということが最大の貢献なのですね。その1つは財政なのです。だから、危機が表面化してからでは遅いので、表面化する前にきちんと手を打つということに尽きる。これは、政治的には非常に矛盾した話で、危機が表面化していないと危機感は共有されないから、政治的には非常に難しいのだけれども、そこを乗り越えて行くのが政治ではないか、という風に思います。

工藤:野田さんはG20で消費税を上げると話をしていますよね。

平野:それは、そういう方向に向けた1つの意思表示であるという風に考えたいですね。消費税だけの問題ではありません。消費税が10%で足りるかどうかという問題もあります。だけど、そういう方向に向けて努力を重ねていくことは大事だと思います。

工藤:加藤さん、最後に一言。

加藤:日本が足下の景気を支えていくということが、世界経済から見て必要なことの1番目ですし、2番目はやはり、ユーロ圏に対して注文をしながら、ユーロ圏が進歩すれば、それに応じてESFS債の買い増しとか、そういったチャンネルを通じて支援をしていくということは可能だと思います。是々非々で臨むということではないでしょうか。

工藤:ということで、時間になりました。今日は、EUの危機の問題、その構造、という問題だけではなくて、僕たち日本がこの問題を考えて、自国の未来につなげられるかということまで話が発展しました。皆さん、今日はありがとうございました。

一同:ありがとうございました。

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放送に先立ち緊急に行ったアンケート結果を公表します。ご協力ありがとうございました。

2011年11月4日(金)収録
出演者:
加藤隆俊氏(国際金融情報センター理事長、前IMF副専務理事)
平野英治氏(トヨタファイナンシャルサービス取締役、元日銀理事)
内田和人氏(三菱東京UFJ銀行執行役員)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)


第2部:ユーロの制度的欠陥を乗り越えられるか

工藤:議論を続けていきたいと思います。今回のギリシャの問題は、ギリシャだけの問題ではなくて、イタリアや、ポルトガル、スペインなど、EU自体の問題もあります。では、どうしてこういう事態になってしまったのか、というところを、皆さんで話してもらって、どうしたら解決できるのか、について話を進めていきたいと思います。内田さん、どうしてこういう状況になったのでしょうか。

金融面でドミノ式のリスクを抱える西欧

内田:私見を含めて申し上げますと、今回のギリシャの危機、あるいは欧州ソブリン危機というのは、ユーロ統合の制度的な欠陥とか、矛盾が突かれているのではないかと思っています。ユーロ統合は、第1次、第2次世界大戦の後に、それまでの紛争問題であったはずの鉄鋼関係のところの共同管理から入っていって、関税同盟、あるいは1970年代以降は、欧州共同体(EC)という形から通貨をある程度統合させていくような動きに入ってきたという背景があります。

その後、1980年代前半には、欧州が構造的な経済の停滞局面に入っていた。いわゆる、ユーロペシミズムと言われていますが、日米の経済が急激に成長する中で、欧州は取り残されるということで経済統合、市場統合という方向に入っていった。更に、1989年にはドイツが統合、統一されて、このドイツを強大化させないために、欧州の中に取り込むために市場統合、経済統合をかなり促進させた。そういう色々な軌跡の中で、ユーロが誕生していくわけです。が、いくつかの制度的な欠陥、それはよく言われていますが、第1に、通貨と金融政策、および市場は統合しているけれども、政治については一応、欧州議会というものがありますが、財政政策は一致していません。要するに、財政政策については、各国の責任の下で運営されるという状況です。

第2点目は、ユーロというのは本来、最適な通貨圏であれば、要するに、それが1つのベンチマーク化した形で、経済が安定的に不均衡もなく推移すればいいのですが、かなり経済構造が違う国、例えば、ドイツやベルギー、オランダのように、かなり産業的な競争力があって、経常収支が黒字の国と、南ヨーロッパのように、非常に産業競争力が弱くて、比較的高インフレ、高金利という国々の通貨を統一させると、通貨は統一するのですが、結果的にそこでの経済格差というのがかなり巨大に生まれてしまう。本来であれば、それは労働の移動や財政政策の収斂化という形で構造改革をしなければいけなかったのですが、ユーロの統合直後に、南の方のヨーロッパで、金利が大きく低下して、インフレ率が低下したことによって、経済が活発化して、住宅とか設備投資などに、中枢のドイツやオランダ、ベルギー、フランスからかなり資金が流れ込んだ。その結果として、経済が拡大するので構造改革が非常に遅れた、という矛盾があります。

また、それによって金融が巨大化して、レバレッジがかかっている構造になっています。例えば、各国の銀行の総資産の規模を見ると、大体GDPの3、4倍ぐらいというのが平均値になっています。日本やアメリカと比べると、ヨーロッパは、預金に対しての貸出の比率、これはいわゆる、どれだけ信用創造が起きているか、という比率をみると、日本とアメリカは大体1倍、ないしは0.8倍という数字なのに対して、ヨーロッパは1.4倍になっています。要するに、かなり信用創造が起きてしまっている状態になってきている。こういったような状況で、ヨーロッパ全体が持ち合いになっているのですね。

その一端がギリシャということで、ギリシャが崩れてくることだけではなくて、これから、スペインやイタリアなど、また、矛盾が突かれてくると、コア国のフランス、ドイツにも影響がある。このような、非常にドミノ的なリスクを抱えているという中の一端がギリシャで起きたということで、大騒ぎになっている状況だと思います。

工藤:元々は、ギリシャだけではなくて東欧諸国でもありましたよね。つまり、リーマンショック以降、各国が経済破綻を防ぐために国家財政で埋めていった結果、色々なところで矛盾が出てきて、今、内田さんがおっしゃった構造の問題とつながっていると。

内田:そうですね。ただ、もう少し正確に申しますと、中東欧の場合は、財政が非常に健全化しています。中東欧の場合の危機は、民間の住宅ローンなどがユーロ建てであるとか、そういった民間の部分の債務危機だったのですね。ところが、南ヨーロッパの場合は、財政が構造的に赤字の国が多いので、南ヨーロッパの場合は、ソブリン危機というところで、区分けがされると思います。

工藤:加藤さん、こうした危機の構造を、これまでどのように直そうとしてきたのでしょうか。


ユーロ圏は正しいことをやろうとしてはいるが......

加藤:内田さんの発言に多少付け加えますと、平野さんもご経験があると思いますが、ベラジオグループという実務家と学者の集まりがありまして、そこでEUの単一通貨の是非を議論しますと、アトランティックディバイドと言って、ヨーロッパの人とその他の人たちの意見が完全に違ってしまいます。ヨーロッパ勢は、単一通貨と単一の金融政策の下で、経済パフォーマンスを段々コンバージする、再編されていく、と。しかし、その他の国はそうは簡単にいかず、むしろ、ダイバージェント(異なった)のままではないか、ということになります。今のギリシャの問題、ポルトガルもそうですが、単一通貨の下で、経済的なパフォーマンスより、もっと格差が広がっている。ドイツのような非常に強い国と、ギリシャやポルトガルのように成長余力が乏しくて、ギリシャの場合は債務負担が非常に大きい、そのような国がバラバラのままである、ということが一番の問題であるように思います。
そういった中で、どのように対応しようとしているのか、ということについて、3本の柱で対応しようとしています。それは正しいと思いますが、1番目の柱がギリシャの債務負担の軽減で、50%の債務削減をギリシャの債権者に求めるということです。2番目の柱は、そうなってきた場合、ギリシャ国債を持っているヨーロッパの金融機関が資本不足にならないかという心配が出てくるので、来年の6月までにTier 1キャピタル(銀行の自己資本比率)を9%まで引き上げるということも正しい対応だと思います。

3番目の柱は、欧州安定化基金(EFSF)の資金力を強化するということで、EFSFから部分保証するとか、あるいは特別目的会社(SPC)をつくって、そこに資金拠出を仰ぐという案が出ています。正しい方向だとは思いますけれども、まず、それが本当にワークするのかという具体的な中身をもう少し見てみたいと思います。仮に具体的な中身が固まったとしても、それで十分なものか、ということについて改めてテストされると思います。だから、今、ユーロ圏がやろうとしていることは正しい方向ですけれども、仕上がりを見てみないと何とも言えない、ということだと思います。

工藤:平野さん、どうですか。今のままで枠組みが十分かという問題と、それがワークしない場合はどうなっていくのかという問題なのですが。

平野:先程、内田さんが言われた、今回の問題は、そもそもユーロの制度的矛盾が表面化したということでしたが、私もそう思います。それから、加藤さんが言われたように、ユーロペシミズムという、ユーロに対して非常に悲観的に捉えた多くの人たちは、元々こういう矛盾があるではないか、ということを古くから指摘していました。ただ、私自身は、当時、アトランティックディバイドの議論に即して言えば、ヨーロッパが言っているように、この統合する結果として、人・モノ・カネがより自由に動くようになり、かつ、経済的に遅れた国も低利の調達ができるようになれば、それをテコに構造改革を進めて、全体として経済の格差が縮まっていく、ということは単なる夢物語ではなかったという風に思います。


もし、色々な前提がクリアすれば、そういう方向に進んだかもしれない。しかし、現実にはなかなかそうはいかなかったというのが問題です。

それはなぜかという風に考えますと、これは日本への教訓でもあるのですが、例えば、南欧の国からすると、安易にお金が借りられるという環境の下で、構造改革を進めるということは難しいことなのです。国が、これまでと違って、もの凄く安い金利で資金調達できるようになりました。すると、それをベースに痛みを伴う改革を進める、というモードになかなかならない。これは、国家も人間も同じです。それを助長したのが、金融なのだと思います。では、金融がなぜそうなったのかというと、多分、巨大なモラルハザードが働いていたと思っています。つまり、世界的な金融緩和の状況が、随分長いこと続いたわけです。そうすると、金融としては少しでも高いイールド(支払い)、少しでも高いリターンがあるところに、どうしても投資をせざるを得ないというプレッシャー。

工藤:危ないところほど買いになる。

平野:そうです。みんな、ユーロの中でもドイツの国債は一番金利が低く、ギリシャの国債の金利は、今ほど高くはなかったけれど、元々高かった。だから、どうせ買うなら、イタリアの国債を買った方が少しはましではないか、ギリシャの国債を買った方が少しでもましではないか、という気持ちが働いていたに違いないと思うわけです。これは、ある種のモラルハザードなのですね。

そういうものが生まれる素地を、ユーロシステム自身がつくり上げてしまったということと、金融緩和のある種の影の部分として、ここでも発生してしまった。そういう意味では、アメリカの住宅バブル、信用バブルと、今回のギリシャ危機というのは何の縁もないようだけれども、共通する部分があるなと思っています。

それから、支援策が十分かということですが、当座のギリシャの破綻を乗り切るためには、ともかくこれをやっていかざるを得ないと思います。ただ、これ自身を取ってみても、問題はもの凄くあります。例えば、ギリシャの民間債権者の借金の5割を棒引きするわけです。しかし、これはデフォルトではないと言っています。つまり、ボランタリーで、自発的に債権放棄すればデフォルトではないという理屈を立てているわけです。しかし、常識的に考えて、5割も債権を放棄させられて、それは本当にデフォルトではないのですか、ということがあります。

これから、どういうことになるかというと、この支援策が仮に通ったとしても、ソブリン危機、つまり国家の借金に対して、市場の見る目がもの凄く厳しくなるだろうと思います。もちろん日本にもインプリケーションがありますけれども、ユーロシステムの中で、どのようなメカニズムが働くかわからないな、と。そういう波及効果は怖ろしいものがあるなという風に思っています。

それから、ESFSの資金力強化について、加藤さんも指摘しておりますが、これもやらざるをえないのだけれど、イタリアまで危なくなったときにこれで足りるのか。あるいはフランスまで、という話になってくると、今の資金力では話にならないわけです。ですから、十分かと言われれば、あり得るべきリスクに対しては、不十分です。でも、とりあえずこれが通らないことにはどうにもならないな、ということです。
それから、もう1つは、この中でSPCなど、色々な議論がありましたが、個別・具体的にこれをどうやって使っていくか、ということについては、何も詰まっていません。これは、結構、技術的にも難しい問題があると思いますので、仮に、これが通ったとしても、色々な問題がある。ただ、これが通らなければ、どうにもならないというのが現在の状況だと思います。

工藤:最終的に、どのような形になったら解決するという道筋が見えるのですかね。


財政統合しかユーロの制度的矛盾を解決できない

平野:さっき内田さんが言われたように、論理的には2つしかなくて、いわば財政統合か、ユーロ崩壊ということです。但し、ユーロ崩壊は誰の得にもならないと思えば、色々経ながらも、何年かかけて財政統合の方向に向けて進んでいくのではないか、ということを私は期待します。財政統合へ向けた動きがない限り、ユーロの制度的矛盾というのはいつまでも残るわけだから、解決できません。論理的にはそれしかないと思います。


アジアも影響を受けているから、ユーロ圏にものを言うべき

加藤:先週のサミットで合意されたことが、完全に実行されたとして、ユーロ圏の先行きがすっきりするかと言ったら、多分、すっきりしなくて、色々な節目、節目でマーケットから試されるということが起きてくる。ただ、それをみんなが協力して、その都度対処していかないと、もっと大変なことになる。だから、一度ユーロという仕組みができてしまった以上、潰れないようにみんなで努力していくしか仕方がない。日本も傍観者ではなく、これだけ影響を受ける。アジアの国もヨーロッパの金融機関が手元流動性のために資金を引き揚げて、それで通貨安になったり、株が下がったりしていますから、アジアの国も影響を受けているので、もう少し主体的にユーロ圏にものを言っていく必要があるのではないか、という気がします。

工藤:内田さんは本質的な解決をどのように描いていますか。

内田:今、おふたりがおっしゃったように、本質的に解決するためには、EUの制度をもう一度設計し直さなければなりません。いずれにしても、それは1年、2年の話ではない。これまで欧州の経済、あるいは市場統合に向けて、古くから言えば50年以上、市場統合に向けては30年かかっているわけです。だから、10年単位で考えなければいけない話です。但し、より重要なことは、短期的な解決に向けて、あまりにもドラスティックな政策をとりすぎると、かえって危機を増幅させるおそれがある。具体的に言うと、合成の誤謬とよく言われていることなのですが、先程、加藤さんがおっしゃった3つの政策を進める上で、2番目の銀行への公的資本注入については、健全であることを証明するために、ストレステストというのをやります。これはかなり高いハードルになっています。これを無理矢理、強制的にやるということになると、今の状況で銀行の自己増資はなかなか難しい環境にあるので、結果として、貸し出し、ローン、市場性資産とか、こういうものを売却して、そういうテストに合格しようとする。そういうことが起きやすい。


無理に財政緊縮すると、恐慌になる可能性も

それからもう1つは、ギリシャ自身、あるいはポルトガル、スペインでも一部出ているのですが、先程、平野さんがおっしゃったように、経済がこれから加速度的に悪化する中で、無理矢理財政を緊縮すると、これは1930年代のアメリカのような、ちょっと大きな経済のクラッシュになる可能性がある。どこかで現実的な選択肢に引き戻すということをやっていかなければいけない。ですから、こういうことを3カ月ごとにあるいは、首脳会議ごとなどの政治的日程に合わせてやる。おそらく、一喜一憂していくと思うのですが、最終的に落ち着くのは、5年、10年という形でみなければいけない。世界経済はまだ、何とか拡大をしているわけですが、いずれ失速という状況になりますので、その前に、全体的に持続性のあるパッケージをつくって修正していく、ということも必要なのではないかと思います。

工藤:ギリシャに今問われていることは、かなりドラスティックな改革になっていますが。

内田:ギリシャもそうですし、EU全体、イタリアもポルトガルもそうです。ここで重要なことは、経済構造改革が必要なのです。例えば、イタリアで言えば、非常に硬直的な労働を解放するとか、ギリシャで言えば、民営化を進めるとか、こういうことはどんどんやっていただいたほうが、競争力が上がっていいのですけれども、例えば、需要を無理矢理押さえつけるような政策、年金制度改革はやらないといけないのですが、年金や賃金、人の雇用を切っていくような政策を無理矢理推し進めたり、先程申し上げた銀行の金融収縮を早めるような政策を進めると、かなり危険な状況になると思いますので、そこをうまくコントロールできるような状況になってくると、落ち着いてくるのではないかと思います。

工藤:わかりました。それでは、ここで休息を入れます。

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放送に先立ち緊急に行ったアンケート結果を公表します。ご協力ありがとうございました。
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