日本人留学生はなぜ減ったのか

2011年11月11日

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 11月11日に行われた言論スタジオでは、「日本人の留学生はなぜ減ったのか」をテーマに、 鈴木寛氏(参議院議員、前文部科学副大臣)、丸山和昭氏(福島大学総合教育研究センター特任准教授)、村上壽枝氏(東京大学政策ビジョン研究センター特任専門職員)、脇若英治氏(クリントン財団気候変動ヨーロッパ担当)の4氏と工藤が討論を行い、単なる留学生の減少という現象から、日本の高等教育の課題、社会構造の問題点まで議論が及びました。

 まず、代表工藤から、2004年以降日本人の海外留学生が大幅に減っていることが問題提起され、留学生の増減について研究してきた丸山氏、村上氏からは、2004年からの4-5年で米国への留学生が半減している点、また中国・韓国の留学生数が増えている中で,日本の留学生の減少が顕著である点などが補足されました。

 工藤は言論NPOが事前に有識者200人を対象に行ったアンケート結果を報告し、そこでは回答者の約9割が、日本人留学生が減っていることに対して「深刻な影響がある」または「ある程度ある」と答えており、今回のアンケートには様々なコメントが寄せられるなど、この問題に対して深刻にとらえていることが分かりました。

 

議論は、留学生が減少した原因から 日本の高等教育の課題、社会構造の問題点まで

 留学資金の負担、就職活動でのデメリット、若者の内向き姿勢や能力の点が主に挙げられました。資金の面では、資金の面では08年のリーマンショック後経済が悪化した点、就職については就職活動のサイクルが合わない、留学しても企業にプラスの評価をされないなどの原因についてパネリスト間で意見が交わされました。

 留学生の減少の原因の中で一番議論になった若者の内向き志向や能力の低さについては参加者間でさまざまな議論がなされ、新興国の若者に比べ海外に出たいという意欲が低い、親も子も安定志向に走りがち、条件を選り好みをしすぎるなどの意見が挙げられました。また、能力の面では、脇若氏から小学校の早い段階から英語教育を徹底する必要性について語られました。

 その後、留学生を増やすための対策について議論がなされ、前文部科学副大臣の鈴木氏は、学費負担の面、就職の面をサポートするための政府の取り組みについて説明され、国が負担する資金の拡大や政財界の協力とともに進めている採用スケジュールの改正もありここ数年で大幅に環境が改善されたと強調しました。その一方で、鈴木氏は、今後の課題は、子供を海外に行かせたくない親の姿勢やリーダー、エリート層を尊敬しない社会の風潮であると指摘しました。

 アンケートではこの他にも様々な対策案が寄せられており、日本の大学を国際レベルに引き上げるべき、留学経験の活かし方を考えるべき、など様々な意見がありました。

 工藤は、日本、世界で、社会が大きく変わり、既存の仕組みに対する嫌悪感や信頼の低下が原因となり、自分の将来像を描けないのがそもそもの原因ではないかとの見方を示しました。しかしその一方で世界では社会の課題解決のために一生懸命取り組む若者の例を挙げ、世界では大きく価値観が変わっていると述べました。

 今回は、留学生の減少の原因と対策案の議論から、日本の教育での問題から、現代の若者の傾向、そして社会が求める人間像についてまで議論が及びました。

議論の全容をテキストで読む    

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第1部:学生の留学熱は高いが、男性の留学生数は減少

 工藤:こんばんは。言論NPO代表の工藤泰志です。さて、今日の言論スタジオでは、「日本人の留学生はなぜ減ったのか」をテーマに議論を行いたいと思っています。日本全体が未来に向けて非常に閉塞感がある中で、これからの日本を背負うはずの若者が内向きになっているとよく言われます。調べてみると本当に海外への留学生がかなり減っています。この問題を今日は皆さんと話し合って、これからの日本を考える1つの契機にしたいと思います。さて、ゲストを紹介します。まず、私の隣が、前は企業経営者で、今はロンドンのNPOの、クリントン財団で働いている脇若英治さんです。脇若さん、よろしくお願いします。

 脇若:よろしくお願いします。


工藤:続いては、おなじみだと思うのですが、参議院議員で、前文部科学副大臣の鈴木寛さんです。鈴木さん、よろしくお願いします。

 鈴木:よろしくお願いします。


工藤:その隣が、東京大学政策ビジョン研究センター特任専門職員の村上壽枝さんです。村上さん、よろしくお願いします。

 村上:よろしくお願いします。


工藤:そして隣が、福島大学総合教育研究センターの特任準教授の丸山和昭さんです。丸山さん、よろしくお願いします。

 丸山:よろしくお願いします。


工藤:さて、私もデータも見たのですが、2004年以降、日本人の留学生がかなり減っています。特にアメリカへの留学生は特に半分近くになっています。留学生に何が起こっているのか、ということを真剣に考えてみたいと思います。丸山さんから簡単に説明してもらいます。


米国への留学生が大幅に減少

丸山:それでは、初めに、日本から海外の大学等に在籍している学生さんがどのくらい減ったかです。2004年がピークですが、このとき8万人ほどいました。これが、2008年の段階では6万6833人ということで、1万3000人ほど減ってしまったということになっています。もちろん18歳人口や高等教育在籍者の比率とかを合わせて考えなくてはいけないのですが、高等教育在籍者比率で見ても、海外の大学に在籍する学生が占める割合は2004年の段階では3%弱ほどあったのですけれど、2008年の段階では2%強ということで、これも減ってしまっているということが明らかになっています。

この比率よりも、非常にショッキングなのは、海外にいる日本人の学生と、日本に来ている海外からの学生のギャップではないかと思います。受け入れの学生は、日本に来ている留学生の数ですが、2004年の段階では11万7302人いました。これが2008年になると、12万3829人となっています。日本人の学生が海外にいる数と、日本に来ている学生の数のギャップは2004年の段階では3万7000人でした。これが2008年には6万人ということになります。この現象がなぜ起こったのかということを細かく見ていきますと、大きくはアメリカに留学する学生が減ったことによります。日本の留学生の一番多い留学先はアメリカなのですが、このアメリカの留学生は、2004年の段階では4万5000人でした。これが2009年の段階では2万5000人になりました。約半数まで減ってしまったということです。この約半数に減った内訳を見ると、学部レベルでの留学生が減っていることになります。学位を求めない留学生というのは、実は徐々に増えてはいるのですが、この学部の減りというのが非常に大きくて、結果的に日本人の留学生の減少につながっているということがデータから見てとれます。

工藤:村上さん、何か付け加えることはありますか。

村上:UCバークレーですと、海外留学生の受け入れが、2004年から2011年の間で、中国は、420名から1004名に、そして韓国は、279名から853名に、日本ですと139名から120名になっていて、日本からは横ばいもしくは減少というような結果になっています。

工藤:脇若さんはロンドンにいらっしゃいますが、何か感じていましたか。

脇若:ロンドンでは逆で、特に早稲田の学生がいっぱい来ていますし、だから、あまり人が減ったという感じはしないのですが、今、アメリカの話ですよね。だから、今、少し驚いていますけれど。ただ、新聞等で「日本の学生が減っている」というのは知っているので、そういう意味で驚きはないのですが、ロンドンで生活する限りでは、そんな感じはありません。もともと日本人が5万人くらいしか住んでいないロンドンの中で、人も減っているわけではないし、だから、あまりそういう印象はないです。

工藤:鈴木さんは、副大臣時代にこの問題に取り組み、政府でも留学生をとにかく送り出そうという動きを、やっていましたよね。つまり、それくらい、結構少なくなってしまっているという認識があったということですね。


男子大学生が海外留学したがらない

鈴木:そうですね。今、村上さん、丸山さんからご紹介いただいたように、減っています。これは国家戦略上も、きちんと考えていかなくてはいけないテーマだということで、文部科学大臣、外務大臣、厚生労働大臣、経済産業大臣、この4大臣でグローバル人材育成推進会議というものをつくって、そこに幹事会をつくり、その幹事会の座長を私がやらせていただいて、今年の夏に中間報告をとりまとめたということです。もう少し中身をフォローすると、女子の日本人留学生と男子の留学生の比率は、今は2対1です。ですから、特に男子大学生が留学しないということが問題であります。それと、アメリカの比率は下がっているということは、行き先が増えているということですから、それは1つの現象として、それは望ましいことだと思います。アメリカももちろん増えてほしいと思っていますけど。

それから、背景はやはり経済的な理由と、就職活動との兼ね合い、それに、そもそもの内向き志向ということがあります。特に2008年から、さらにリーマンショックで、いわゆる留学資金の経済的負担ができる学生が減っているということがあります。ここは、23年度予算でショートビジットの補助金を出すようにしました。そうしたら、まず試みでやってみようと思って、2万人くらい用意していたのですけれども、これがもう瞬く間に売れてというか、手を挙げる人が続出して、本当に残念ながらお断りした方が大分いて、やはり経済的な支援をすると、そこは少し戻るなということはよくわかりました。

就職活動については、これは留学のみならず、そもそも大学3年生の途中から就職活動が本格化してしまうので、留学というのは大学2年生の秋から3年生の夏くらいが一番集中する時期なのですけど、そうしていると就活に乗り遅れてしまうと心配して留学をためらうという傾向もありました。留学への影響のみならず、就活の早期化というのは問題なので、ここは経済同友会とか経団連とかにかなり働きかけをさせていただいて、日本貿易会がその先頭に立ってくださったのですけれども、就職活動は4年生に戻すというメッセージも伝わって、就活上は問題なくなってきたということは、今、学生に伝わっているので、少し戻りつつあると思います。一番厄介なのは、内向き志向問題であって、先ほどの韓国とか中国の学生に比べると、留学したいと思わないという人の方がはるかに大きい国ってもう日本くらいです。ここは相当問題で、特に男子学生の保護者問題というのも背景にあるということです。


アンケート結果は留学生減少を憂慮

工藤:言論NPOの関係者に急遽アンケートをやってみたのです。「留学生の減少が日本の将来に大きな影響を与えると思うか」と質問したところ、「大きな影響があると思う」と回答した人が77.4%ですから、8割くらいが「大きな影響がある」と。それで、「それほど大きくないが、必ず影響がある」が9.4%ですから、9割がこの「留学生の減少が日本の将来に対して影響がある」という風に回答しています。それから今回びっくりしたのが、アンケートのコメントが多いこと。つまりいかに留学生の減少問題に強い関心があるかというのが、非常にびっくりなのですが、どうですか。脇若さんは非常に大きな問題だと思っていますか。

脇若:僕も同じ意見で、やはり問題あると思っていて、急にではないと思いますが、じわじわと影響が出てくると思います。ですから、皆さんが言われているように、日本ではこの間TPPの議論があったようですけれども、やはり国際社会の中で日本がこれから生きていくためには、単なる経済活動だけではなくて、人の交流とかいうことをやっていかなくてはいけない。そのためにはそういう人間が必要だということで、皆さんもそれは分かっていると思います。

工藤:脇若さんは、日本の企業経営者だった人で、そこからNPOに行くというのには、かなりびっくりしました。ただ、それよりびっくりしたのが、帰国された時にうかがった話。クリントン財団にいる若い人たちは世界から集まった優秀な人たちで、グローバルアジェンダを解決をしたいという若者がどんどん活躍している、と。そこに日本人がどうかということもあると思うのだけど、やはり世界はそういう風に変わっているわけですね。

脇若:そうですね。日本の場合は、色々と政府が施策を打つのはいいのですけど、基本的に成功例というのは、いい大学に行って、いい会社に行って、最後まで勤めるというものです。社会のシステムがそうだから、NPOにいくとか、そういうことをやるのは、マイナスになってしまう。鈴木先生がおっしゃったように、留学もその一部ということです。そういう社会を変えていかなくてはいけない。これはかなり時間がかかる話だと思うのですけれども、その辺のところをインフラ、バックグラウンドがそういうことを助長させているというのです。

私が留学したのは1976年から2年間、アメリカにMBAを取りに行ったのです。その当時は企業が海外に行かないといけないというので、ハングリーな企業はいっぱいあったわけで、その先兵隊として、我々団塊の世代は行ったのです。ところが今の世代の人間というのは、日本で、ものが何でもあるし、海外までわざわざ行って、できない英語を話してやるよりも、日本でネットでも見られるし、食べるものもあるし、みんな「ステイハングリー、ステイフーリッシュ」でなくてもいいわけです。ただ、そういう世代だから、やはり行かないのではないかなと思うのです。

工藤:鈴木さん、この現象は日本の将来にとってどうですか。。


20歳代前半でバイリンガルを同世代の1割に

鈴木:これは大問題だと思っています。私たちは18歳段階で1学年バイリンガル3万人。それから20歳代前半でプラス8万の計11万人、要するに同一世代の中で1割を20代前半でバイリンガルにしようということです。そのためにも、やはり半年とか、1年とか、とにかく留学するのが一番いいわけです。それは語学の面だけではなくて、これから語学ができることは当然というか、とにかく、そういう人材が1割とか2割必要だと思っています。また、製造業にしても、交通産業とか住宅産業にしても、日本のいろいろな良い付加価値というのがあるわけです。日本の中では、これは成熟産業になってきているけど、アジアもアフリカも本当に必要としているのに、こういう日本の良いものを外に出していく人材とか、あるいは世界の人たちと一緒に無から有をつくっていく人材とか、こういう人材はやはりあるボリュームを養成して行かなくてはいけないということでやっています。

ただ、私はやりようによってはすぐ戻ると思います。というのは、この報告書を書くため、秋田にある国際教養大学の中嶋嶺雄先生とか、元国連の明石さんとか、あるいは日本貿易会の槍田会長とかにご尽力いただいたのですけれど、今、国際教養大学は全員留学します。今や国際教養大学卒業生のための、あるいは在学生のために、企業は特別の採用スケジュールをつくっているぐらいで、就職率もどこの大学よりも良いです。このことは実は色々なところで言いまくっていて、そういう情報が学生に非常に伝わっています。企業も留学している経験をポジティブに評価すると。これは私とのコミュニケーションの中で、留学した人向けの採用スケジュールを別途組んでくれるということを、もうすでに約束してくれています。これは日本貿易会の大変多大なるリーダーシップのお蔭なのですけど、そういうことがもう学生に伝わり始めているので、ビヘイビアは相当変わっていくというふうに思います。ただ、あとは、保護者の問題。

工藤:村上さん、丸山さん、若者が内向きになっていて、昔と今は違うよと言われていますが、それについてはどうですか。教育の現場なりについて。実際、おふたりは僕たちよりも若い感じがするので。


留学に対する学生の関心は非常に高い

村上:若手に加えていただいて、ありがとうございます。私の方から申し上げますと、昨年ちょうど就職支援、なおかつ留学にかなり力を入れている大学に聞いてみました。そうしたら、留学の説明会をすると、部屋が満員になるほど、立ち見が出る程留学についてすごい関心があるという学生さんが多い。実際、私も見にいったのですけれども、果たして学生は内向きなのだろうか、本当に確認したくなるくらい満員でした。

丸山:では、私はデータで捕捉させていただきます。社団法人のKIP知日派国際人育成プログラムが学生約1000人にアンケートを実施したのですが、「留学に行きたいと思うか、過去に思ったか」ということを尋ねました。実に86%が「はい」と答えていますので、若者の留学に対する関心は実は非常に高いということが分かっています。

工藤:若者は内向きになったと思いませんか。僕も何となくそういう気がするのですけど。
丸山:僕もこのアンケートの結果を見るまでは、内向きになったと思いこんでいました。

鈴木:ただ、一方で商社の若い社員などは、商社に入ってきているにもかかわらず、「海外勤務がいやだ」とかいう人が増えていることは事実なので、内向きはあると思います。

脇若:それは昇進のためですよね。多分。

鈴木:だけど、昇進は海外に回らないとできないよね。それでも、日本にいたい人が増えている。

工藤:国内にいた方が昇進できやすいのですか。

脇若:意外とそうですね。意外と。ちょっと分からないでしょうけど。私も商社出身ですから、我々の時代は先ほど言ったように、経済成長がすごくあるときには、外に行くというのは重要だったのですけれども、こういうような成熟した世界になってきて、やはり日本国内に良いポジションをとっていた方が、上に行きやすいというところも出てきているので、そういうことを考える人が出てきているのではないですか。

工藤:そうですか。わかりました。休息をちょっと入れて、次の話に移りたいと思います。

報告   

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第2部:国内の諸問題が鏡写しになっている留学生減少

男が海外に行けないのは親や嫁が反対するから

工藤:では議論を続けます。なぜ留学生が減ったのか、という原因の話になってきていますが、休憩中に会場にいらっしゃる企業経営の方にも話を伺ってみました。やはり企業の中で昇進のために国内に残るというわけではなく、海外の赴任先を選り好みしているという傾向にあるようです。嫁さんが反対する、という話もあれば、鈴木さんからは親が反対する、という話が出ました。つまり、若いうちは親が反対し、結婚してからは嫁さんが反対する、こういう事情があって、男は海外に行けなくなると。その点については鈴木さん、どうですか。

鈴木:女子学生は何の問題もなくて、僕のゼミ生などは1年ぐらいいなかったので「どうしたんだ」と聞いたら「アフリカに行って、子供たちの教育ボランティアをやっていました。卒業するにあたり戻ってきました。」と。4年生だったので「就職どうするの」と聞いたら「マレーシアの会社に行きます。」と、それぐらい素晴らしい女子学生が僕の周りにいくらでもいるのですよ。他にはケニアに行って児童図書館を作ってきた子とか、本当に素晴らしい。ただ、男と女を分けすぎるステレオタイプな議論は良くないのですが、少子化で次男がほとんどいなくなってしまったのですよね。2人いても、長男、長女で、1人っ子だと長男。そこで、男の子が、何か外に出て危ないことをするということに対して、保護者はものすごい反対をする。ベンチャー企業に行くことすら、あるいはソーシャル・アントレプレナーになることすら反対しますから、まして命のリスクがある海外に行くなんてことは母親が止めます。昔も親は反対したものなのですけれど、親を突破できない。

工藤:中国も一人っ子政策ですが、中国の親は止めないのですかね。
鈴木:だって中国は国内が危ないじゃないですか。
工藤:そういう話ですか。

鈴木:だって、中国とアメリカ、どっちが安全かといったらアメリカでしょう。日本とアメリカ、どっちが安全かといったら日本のほうが安全ですよね。

工藤:今の話を脇若さんはどう思われますか。

脇若:中国人の富裕層のかなりの人は将来的には海外に行きたいそうです。逆に日本人で海外に住みたいという人はほとんどいない。日本がいいから。日本は恵まれているから、外に出なくていいということになっているのではないですか。

工藤:それがガラパゴスってやつでしょ。


人生のデザインがない多くの高校生

鈴木:生活するには最高ですが、成長することも考えないと。もっと言うと、問題は高校時代からあって、高校生の8割がそもそも学ばないのですよ。それはメディアの影響があるのですが、ある進学校で、高校2年生で、なりたい職業が決まっている学生は5割しかいない。5年前から比べても2割ぐらい減っちゃっていて大問題だと思っています。さらにブレイクダウンしてみると、進学校が48%で、中堅校55%、これは進学校「すら」なのか「だからこそ」なのか、とにかく、親と予備校と受験の偏差値で引いたラインを、ただ単に素直に行く、という子が多いのです。そうなると将来の職業も決まっていなくて、将来を考えた時に海外と全く無縁の職業なんてほとんど無いので、そうするとバイリンガルとか見据えないといけないのですが、自分の人生デザインというものが無いので、とにかく行ける大学に行きました、という話になります。それで、もういまや、親は基本的にはB to B産業もダメです。コマーシャルでよく見る企業に入って欲しい。それで、日本で勤めて欲しい。なるべく東京で。地方勤務もイヤ。

工藤:なんだか、非常に前途が暗澹となっていますね。僕は、なるほどと思いましたが、今の話について村上さんどうですか。

村上:そうですね、かなり囲い込んでしまっているのではないかと思います。昨年、就職実績のある大学にインタビューした時に、まず入学の時点で理事長さんが保護者の会を設けられ、その会で留学を推奨しているというお話を伺いました。ですので、そういったところが功を奏して、結局、留学に行かせてもらえるということと、就職もそこそこ支援をしてもらっている、といったところで実績を上げているのではないかと思います。

工藤:なぜ若者が海外の留学に行かないのか、その原因もアンケートで聞いています。先ほど脇若さんから選択肢がおかしいとの指摘があり、落ち込んだのですけれど、基本的に1番多かったのが、「日本の若者が海外留学に魅力を感じず、内向きになっているから」で57.7%です。で、これは、原因ではなくて現状を言っているだけだとのご指摘でそのとおりだと思うのですが、2番目に多いのが「海外の大学に留学しても日本の就職に有利にはならないばかりか不利だから」で46.2%。3番目は38.5%の「留学には多額のお金がかかるから」です。少し下がりますが21.2%の方が「海外の大学の授業についていけるほど日本の若者の学力が高くないから」を選んでいます。「その他」で自由記述された方の書き込みが今回とにかく多くて紹介できないのですが、この結果についてどうお考えですか、脇若さんからお願いします。

脇若:お金と学力が正しいと思います。そして先ほど言われたとおり、就職です。私は今ロンドンにいて、早稲田の学生の会の会長もやっているものですから、いっぱい学生さんは来るのですけど、みんな海外に来て1年間で帰る、帰ると就職のことで頭がいっぱいで、皆さん大変だと言っています。特に競争が激しくて、正社員になるのが大変だと。先ほどお話に出た国際教養大学は受け入れ態勢があっていいですけれど、早稲田の国際教養学部の学生は本当に就職が大変だと話しています。こういう実情が学生さんに広まると、やっぱり海外に行くのはやめよう、ということになってしまうと思います。実際に海外に来ている若者はすごく勉強していますし、色々な経験を積んでいる。自分たちでサイトを作ってネットワークを広げたり、と頑張っています。しかし、日本の良い会社にはなかなか入れない。そういうパラドックスが今あります。

鈴木:その点ですが、おそらくこの1、2年で早稲田大学の国際教養学部は就職戦線の採る側からすると最も魅力のある学部の1つになると思います。そこのマインドセットは、本当にこの1年で劇的に変わりました。


日本企業は日本人学生の採用を減らしている

脇若:はい。まさに今日、ここに来る前にある人と話をしたのですが、この1、2年で相当、企業側の姿勢は変わっていると聞きました。ユニクロとか楽天の話も出ました。

鈴木:既存のメーカーでも、いまやジャパン・ユニバーシティ・パッシングが起こっていて、国内の日本人学生の採用を減らしています。これは誰が聞いてもわかる日本のメーカーがやっているのですが、日本に来ている留学生、および海外での採用をどっと増やしているので、就職問題はほぼ片付くと思うのです。

工藤:本当ですかね。

鈴木:だって、それをやらなかったら、企業は生き残っていけないですから。企業はそういうところの判断は早いですよ。

工藤:一斉に企業は動かないじゃないですか。
鈴木:ここで動けない企業は、いい人材が採れないからつぶれていくわけですよ。

工藤:さっき脇若さんの話の中にもありましたが、パイがたくさんあってその中から選ぶのではなくて、経済がそもそもかなり厳しいじゃないですか。


氷河期ではない、選り好みにすぎない

鈴木:それは嘘で、今は就職氷河期じゃないのです、実は。有効求人倍率は1.3です。氷河期のときは0.98とか0.9代でしたから。結局、今はミスマッチが起きている。例えば、従業員数1000人を超える企業の有効求人倍率は確かに厳しい。0.5をさらに下回っちゃうぐらいなのですが、1000人以下の、1000人以下といってもとっても良い会社がいっぱいありますよね、でもそこは1.8とかなんですよ。だから、要するに選り好みなのです。

工藤:選り好み、ですか。

鈴木:僕はずっと大学でゼミをやっていたのですが、学生から「うちの保護者に会って下さい」と頼まれたことがあります。さすがに副大臣になってからは、大学を辞めたのでありませんが、2年前まで毎年何人かいました。昔なら、まだ一部上場だったらいいんじゃないのと言っていたのですけど、今、一部上場でも立派なB to Bの会社とかでも親は驚いちゃう。親が勉強していないってこともあるのですけどね。この会社がどれだけ素晴らしい会社か知っていますか、というところ入らないといけない。

工藤:なるほど。丸山さんはどうですか。

丸山:疑問があるのは、1000人規模の会社を留学経験者が積極的に受けるかどうかということ。あと、採用方針が変わって、日本人学生だからといって優先はされないというのはそうだと思うのですが、でも留学経験のある学生を採るとは限らなくて、海外からの、例えば中国人留学生の日本経験者というような人たちを積極的に採り始めるのではないかと思うのですが。

鈴木:後者は実績として、今年の採用方針で、そういう会社がいっぱい出てきています。前者は選り好みの問題ですよね。海外に進出している中小企業は山とあって、そういう会社は留学経験者がものすごく欲しいのですよ。だから求人はいくらでもあります。コマーシャルに出ているのがグローバルカンパニーというのは選り好みでしょう。やりがいがあって、自分の力が活かせて、いい仕事させてくれるところはあります。

脇若:それは海外云々より、コマーシャルに出ないような会社にはみんな行きたくない、ということですね。正社員、大企業、名前が売れている会社ということに親が価値を感じているから、子供もそうなってしまう。ですから、今ふと思ったのは、海外にどうして人が行かないかという理由と、日本の国内の状況が鏡写し、表裏一体になっているのですね。日本では女性が活躍できないから、海外に行ってそのままステイしてしまう。ところが男性は少子化に加えて、日本にいないと希望する企業に入りにくいので一生懸命それをやる、海外に行っている暇はない、と。

工藤:日本には男が残っていくのですね。

脇若:日本はそういう世界ですから、そうなりますね。留学生の状況は、日本の状況の鏡写しになっている。

工藤:村上さん、どうですか、今のこの男たちの話は。

村上:そうですね、菜食主義と言われているのは若干否めないかなと、女性の私は思っています。

鈴木:僕が言いたいのは、さっきの進学校の話でいうと、ある東京の進学校なのですけど、地頭は抜群に良いわけですが、もう勉強しないと。何故かと言うと、結局、社長になってもお詫び会見ばっかりだと。官僚になってもバッシングに遭う。政治家は人間以下だと。お医者さんになってもね、1000回手術に成功しても1001回目で失敗すると業務上過失致死で捕まる。努力して頑張っているというロールモデルがマスメディアからは流れて来ないということの中で、何のために努力しなきゃいけないのかという揶揄する文化がものすごくはびこっている。これは本当に高校の先生も悩んでいます。

ここの処方はわりと簡単で、本当に頑張っているテレビには出ない人はいくらでもいて、そういう人を土曜日、学校などで高校に呼んで直接学生に会わせる、そうするとボンと考えが変わります。学生もステレオタイプの二次情報の中で生きているし、保護者ももっとステレオタイプの中にいますから、そこはちゃんとリアルの、生きがいとやりがいをもって、苦労はするけれど頑張っている人と会わせると、高校生は変わる。そういう機会を今どんどん増やすために、世界で、或いは色々なところで、ソーシャル・アントレプレナーも含めて活躍することの素晴らしさを高校で一生懸命伝えようとしています。その結果、学びのぶモチベーションを高めようとしています。そこが行くとこまで行ったという結果であることは事実だと思います。

工藤:確かにそれは、かなり納得しました。みんながどういう生き方をすればいいのかということに関して、非常にわかりにくくなってきていますね。たぶん色々な仕組み、信頼が崩れている。ただその中で、留学にはお金がかかるから行けない、という原因もアンケート結果で実際にあります。そういう場合はお金があれば解決するのですかね。


留学できない最大の原因はお金

丸山:昨日、僕が担当している授業で、19人ほどだったのですけど、同じアンケートをしてみたところ、一番の原因はお金でした。その次に来るのが学力の問題だったのですが、若者にとって一番の問題はお金である、と。あとは大学のスケジュールが厳し過ぎて留学する暇なんか無いというようなことが言われていましたね。

工藤:お金に関しての仕組みはまだまだ不十分なのですか?

村上:仕組みに関しては、奨学金の支給、出来れば大学の方から貸与ではなく支給で留学資金を援助することが、結構良い効果が出るのではないかと思います。

脇若:2004年と2008年のデータをいただいていますが、では昔、1970年代、80年代はどうだったかと、1ドル360円の時代ですね、それでも行っている人は行っています。その頃は、政府とか企業が派遣している留学生が多かったと思うのです。人数が増えれば増えるほど個人のレベルで行かなければいけなくなるので、そうなると、どうやって学費を払うかという問題はやっぱり大きいでしょうね。

工藤:企業も留学って出しますよね。官僚も。

鈴木:僕は1986年卒業なのですけど、そのときは2万人しか行っていません。そこからずっと増えていって、4倍の8万人にはなった。それが減った、という話です。減っても6万人だから、我々の学生時代に比べれば3倍に増えています。ただ他の国は、ものすごい勢いで留学生が増えていますから、それと比べると低いですね。

工藤:日本に比べて、中国とかインドが増えていることに関して焦りを感じる議論があるじゃないですか。でも発展段階が違いますよね。だから増えているのは止むを得ないと思えば良いのでしょうか。

鈴木:中国とは比べなくていいと思います。逆にヨーロッパなんかは、EUというものもありますが、色々なところで学ぶことで、多文化共生、カルチャリズムの中で生きていくという良い経験を積む機会が多いです。

工藤:脇若さん、世界の若者は結構色々な課題解決のために海外に行きますよね。僕は先ほどの鈴木さんの学生さんで世界で活躍する女性達の話に、おっ、と思ったのですが、そういう若者たちと、日本の若者層はちょっと違うと感じるのですがどうですか。

脇若:そうですね。女性もそうだし、海外生活経験があり、英語で教育を受けている人も、私たちの子供たちの世代には増えています。そういう人たちをどういう風に活かしていくかという問題は非常に重要です。

工藤:わかりました。ちょっと休憩を挟んで最後のセッションにいきます。

報告   

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第3部:頑張る人が評価される社会への転換をめざせ

工藤:最後のセッションなのですが、今度は対策です。具体的に、この状況をどう改善していけばいいのか。事前にアンケートをやったのですが、本当に記述回答への記入が多かったです。2、3紹介してみたいと思います。

60代の学者さんから、「奨学金の充実をやるべきだ。現在の奨学金というカネを貸す方法ではなくて、完全給付を導入するべきだ」という意見をいただきました。

続いて、メディアの方から「アメリカやイギリス、フランス、スイスなど、大学間の履修を相互に認める環境をつくって、2年か3年の時に海外の大学で1年間勉強することを必修にしてはどうか」という意見です。

あと、「新学期を9月にする」とか、「留学して帰国しても不利にならないような採用制度を取るべきだ」、「学歴優先から実力優先の就職採用制度」、「再チャレンジが何度でもできるような社会に移行できないか」、「海外留学経験者を就職の際に明示的に有利に取り扱うことを企業は行うべきだ」、「国費給付の留学制度を充実させること」、「海外への留学生を増やすよりも、むしろ日本の大学を世界レベルに引き上げる方が先決だ」という意見もありました。

全体的に見て言えることは、留学後の経験の活かし方をどう考えればいいか、ということの方が大事だということでした。基本的に色々な論点が入っていて、「なるほど」という意見ばかりでした。これらの意見について、脇若さんはどうお考えでしょうか。


小学1年から英語の勉強を

脇若:さっきの話の続きで、3つ理由があって皆さん留学に行かなくなってきたと。1つはお金の問題、2つ目は就職活動関連の問題、3つ目は学力というか学生の実力の問題。お金の問題は、先程言ったように奨学金を給付制にすればいい話でしょうし、就職活動の問題は、企業にどういう風に合わせていくかということですよね。最後の実力というか、力の問題はかなりあると思っています。ヨーロッパ、特にオランダやノルウェーなどに行くと、英語と自国語の2カ国語を常に使っているわけですよ。そういうところまでいくには時間がかかるけど、英語はどうしても必要になってくるし、それを言葉だけではなくて文化も分かるようなレベルまでやっていかないと、いけないのではないかと思います。さっき言った問題は、かなり解決すると思いますよ。だから、小学1年生から英語の勉強をする。今、やろうとしているのか、既にやっているのかはわかりませんが。

丸山:いいのか悪いのか分かりませんが、学生からの意見として、留学先が怖いので集団で留学、グループ留学をやってほしいというものがありました。一番多いのは、情報が足りないということでした。何の情報かというと、留学したらこんないいことがあるのですよ、というエンカレッジしてくれるような情報がないから、それをとにかく知りたいということです。もう1つは、僕も感じたことなのですが、留学したいと言いながら、そういう情報があるということを自分から探しに行っていないのですね。だから、探しに行くまで持って行くような対策がきっと必要で、それが何なのかということを考えないといけないかもしれません。情報を提供するだけではなくて、何か底上げの部分も必要なのではないかということも感じています。

村上:先程の丸山さんのお話にもあったのですが、2005年に日本学生支援機構が留学した人たちの追跡調査を行っているのですが、それ以降、更新されたデータがありません。私たちも実際に学生が何を思っているのか、留学ができない理由がなんなのか、ということをもっと正確に知りたいという気持ちがあります。

工藤:色々な意見を聞いて、どうですか。


高等教育に対する財政支出も企業寄付も少ない

鈴木:給付型はおっしゃる通りで、これまでの悲願でして、来年度の概算要求に給付型奨学金というのを出しています。しかし、財政当局の抵抗もあり、相当苦戦しています。その理由は財政問題なのですが、この国で高等教育を受けることに対する理解が、経済界すら二分しています。要するに、大学なんて行っても仕方がない、だから留学なんかに行っても仕方がない、という人がいます。もっとよくある話は、同じ18歳で社会に出た人は税金を払い、その税金で給付型奨学金をあげるのか、ということがもの凄くあって、これまでやらなかった理由です。

それに対して、我々はマニフェストに掲げて、いよいよ来年度の概算要求に入れたわけですが、苦戦しています。その更に裏側には、我が国は、高等教育に支出する財政支出、要するに税金はGDPの0.5%で、企業からの寄付はGDPの0.25%です。ヨーロッパなどはGDPの2%ぐらいで比べようもないのですが、アメリカですら、大学に投じている税金はGDPの1.0%です。それから、企業からの寄付がGDPの0.9%ぐらいあります。つまり、日本はGDPの0.75%しか社会が応援してくれないのですが、アメリカは1.9%応援してくれています、と。つまり、原資が全く違うのであって、大学での学び、留学という多様な学びに対して社会が応援するのか。結局、受益者負担というのが強くなってしまうので、親が出すという話になる。そうすると、親が認めない留学には行かないとか、親が認めない学部には行けないということが起こってしまう。大学になっても親が負担しているというのは、日本と韓国ぐらいですよね。ここは相当、しっかり変えなければいけない。

それから、相互履修はかなり進んでいて、キャンパスアジア構想というのが始まりました。具体的な採択も始まってきているので、これは日中間で単位互換ができるし、日米のジョイントディグリーとか、ダブルディグリーもこの1、2年間で進みつつあります。それから、9月入学は東大がディスカッションをしているところで、色々なことが急速に変わりつつあると思います。

次に、学力問題ですが、この国の15歳の学力、特に上位レベルは世界1位です。例えば、OECDの調査で数学的リテラシーは、1学年で25万人がレベル5です。アメリカは人口が倍以上、特に若年人口なんかは、3倍弱ぐらいあるにもかかわらず、40万人しかいません。だから、世界で2番目に数学的リテラシーがあります。科学的リテラシーも20万人ぐらいいます。そして、読解力も16万人ぐらいいるので、15歳では抜群にできるトップ層がいて、これは韓国よりもはるかに多い数字です。

にもかかわらず、高校と大学で彼等をディスカレッジしている。学力問題というのは、学力と学ぶ意欲の問題があります。むしろそっちなのです。文部科学省の中で、英語力の中の定義に、積極的にコミュニケーションをとる態度というのを入れました。これは、プロスポーツプレーヤーとか、商社マンなどに入ってもらった懇談会で英語力の再定義をしたのですが、まさにそこなのですね。ブロークンでもコミュニケーションをしているうちにできるようになるわけです。引っくるめて言うと、日本の高校生や大学生をいかにアクティブラーナーにするか、という割りと深刻な問題があって、どうやってアクティブでない人間をアクティブにするかという、禅問答みたいな話で、外からのにんじんや、外からの脅しでやっているのはアクティブではなくて、パッシブラーナーなわけです。


チャレンジする人をちゃんとリスペクトする社会に

そこのアクティブというのは、結局、何かを学んだ先に希望が見えない、あるいは本当はいるのだけど、凄く学んで、世界で活躍して、色々な国との架け橋になっているのだけど、そのリアリティというのが、やはり若者に伝わってはいないということ。そして、そのことが、保護者にも全然シェアされていないというところをどうするか。情報環境の問題なのですが、アクティブラーナーになれば、これだけインターネットがあるのだから、我々の頃に比べれば、いくらでも情報はあるのだけど、アクティブラーナーになれるかどうか。自分の人生は自分でデザインをするのだ、というところが、さっきの学力というか学ぶ力というところなのだろうなと思っています。これは、本当に社会全体でがんばった人は、ちゃんとリスペクトする。凄くがんばっても1度だけミスをすると、ボロクソに叩くじゃないですか。これをやっている限り、若者達はリスクを賭けてがんばろうとはしないですよ。何かチャレンジをして失敗すると凄く叩くし、一方で、不作為の姿勢は叩かない。これは、日本のサッカーチームも同じで、いいセンタフォーワードが出ないのは、シュートして外すと色々と言われるから、みんなシュートしないのですよ。今回の留学問題が象徴的だけれども、日本の社会全体としての悪循環の犠牲者だと思います。

工藤:さっき、鈴木さんは、若い教え子がアフリカとかに行ってボランティアをしたりし、帰ってきて海外の企業で働くということがある、と言っていましたが、僕は凄くかっこいいと思います。この前、脇若さんもおっしゃっていましたが、世界の若い人達が来て、アフリカの医療支援のプログラムをつくっていく。つまり、課題解決に取り組んでいく姿はかっこいいと思うのだけど、そういう認識にはこの国はまだなっていないのでしょうか。


親などは20世紀の価値観にとどまっている

脇若:社会通念という言い方がいいのかわかりませんが、親を中心とした価値観が、20世紀の価値観で留まっているので。

工藤:昔は、東大に行って官僚になる、ということを親はエリートだと思ったのでしょ。それに代わるエリートではないけど、目指すべき人物像が見えないのですね。

脇若:さっき少しおっしゃったように、何かのリサーチで、中国とアメリカ、日本で、将来リーダーになりたい人のパーセンテージでは、日本が一番低いのですよね。中国なんて80%とか、凄く高いし、アメリカも高いのですね。日本はリーダーになるということが、必ずしもいいことではない、と若者に思われているのですね。

鈴木:だって、リーダーになってもリスペクトされないし、リスクしかないでしょ。苦労ばかりあっていいことが何もないじゃないですか。

工藤:でも、課題解決をしたら凄いね、ということは合意するよね、多分。

鈴木:でも、メディアは失敗したリーダーを叩くだけで、がんばったリーダーを讃えていないでしょ。それは本当に出てるんですよ。

工藤:つまり、がんばった人を褒めるということですね。

鈴木:別に褒めなくてもいいけど、がんばった人をリスペクトするということですね。だから、そういうのを子供たちに伝えていく。だけど、若者はテレビや新聞に出なくても、がんばっている大人とダイレクトに会わせれば直ぐに変わります。だから、男子学生でも、僕らの回りはどんどん留学します。また、面白いことに、その留学した人が時々帰ってきたときに、その説明会には延べ2000人とか集まったりします。だから、関心はあるのでしょうね。それはかっこいいと思うから。

丸山:身近な成功例がない。だから、海外に留学して成功している人の情報をテレビでみるのですが、学生達には遠い存在なのですね。

工藤:身近には感じない。


情報提供よりは成功の道筋をみせて

丸山:それが、自分の大学の卒業生だったり、説明会にきてくれたりすると、一気にやる気が起きるのですよね。その後、継続しないという問題もあるにはあるのですが、単に情報提供するというよりは、そういう成功のルートを見せる。自分は元々日本の片田舎から出てきたのだけど、この大学でこういう留学の情報を知って、留学して活躍してという還元を十分にできていないのだと思います。それが十分にできるようになれば、鈴木先生がおっしゃったようなサイクルが回り始めるのかな、という希望が持てます。

鈴木:今や、地方出身者と都会出身者で、留学に差はないと思います。だから、別に都会の人間が留学したいと思っているかというと、もっと安住していて、逆かもしれないですね。

工藤:脇若さんが出会っている世界の若者で、かっこいいというのはどういう人ですか。

脇若:よく日本の話をすると、格差社会とか色々なことをいうけど、お金だけで人を判断するわけです。私はイギリスに住んでいますが、イギリスの社会は、お金のあるなしでは人間の判断はしません。そういう社会全体の問題なので、解決に時間がかかるかもしれませんが、親の考え方も変えていかなければいけないだろうし、先程から、みなさんがおっしゃっているように、きちんとしたメッセージを伝えていかなければいけないだろうし、社会全体の問題が留学生の数にだけ焦点が当てられているように思います。

工藤:対策という点では、さっきの雇用環境はある程度大きく変わり始めているということですよね。そして、奨学金や助成についても動き始めてはいるけど、財源的には大きな課題があるという状況だということですね。

鈴木:ですから、来年は世界に雄飛する人材というのは、総量枠で増えるのですよ、500億円ぐらい要求ではつけています。多分、大分付くでしょう。それぐらいは増えます。留学するときのお金、つまり給付型にすると対象者は減ってしまうし、そこを半分とかにすれば広がるし、それはポートフォリオでニーズを見ながら設計していけばいいと思うのですが、本当に留学生を大量に支援していこうと思ったら、500億円では足りません。

工藤:さっきのアンケートでも、そうやって答えている人がいました。高校生を年間1万人送ったらどうかという意見がありました。1人200万円で1万人だから、200億円で毎年1万人送れるのではないかと。


高校での留学経験を大学入試で評価して

鈴木:それが、グローバル人材育成会議で決めたことなのですよ。だから、18歳人口で3万人をバイリンガルということだから、1年に1万人ずつ。本当の目標は3万人なのですが。今、大体数十人なのですが、来年度要求は2000人分を出しています。これをステップ・バイ・ステップで近い将来、そのオーダーにしていこうと思います。

もう1つ大事なことは、入試改革ですね。これは大きいです。留学経験が評価されない就職戦線は急速に変わりつつあります。もう1つは、高校での留学経験が評価されるような大学入試選考ということも相当お願いをしています。それから、5月に全大学に副大臣通達を出したのですが、TOEFLなどの使える英語ですね。国際教養大学はそれを英語の試験に代えているわけです。そういうのをどんどん積極的に活用してくださいという入試の取り組みとか、今、受験して一般入試で入ってくるのは半分なのですね。残りの人たちは推薦とかAO入試なので、その中で海外経験とか国際交流の実績などを加味してくださいということも言っていて、少しずつ変わっていくと思います。

工藤:わかりました。かなり対策のメニューは出ていて、動き始めている。それが、アウトカムベースで成果に、どういう風な形でつながっていくのか、という次の問題が出てくると思うのですが、とりあえず時間になりました。

今日は、留学生の減少の問題から、若者像とか、期待される人間像というか、かなり大きな問題になりました。また、多くの人から意見が寄せられたということは、皆さん、非常に関心があるテーマなのだな、ということを感じました。

最後に、一言ずつ、こうやったらいいのではないか、ということを皆さんに言っていただいて、終わりにしたいと思います。丸山さんからどうでしょうか。

丸山:ぜひ、集団留学の仕組みを取り入れていただければと思います(笑い)。

工藤:本当ですか(笑い)
村上:海外留学生の就職支援の予算をもう少しつけていただければな、と思います。
工藤:鈴木さん、どうでしょうか。

鈴木:僕は集団留学にはあまり賛成ではありませんが、やはりチャレンジすることを応援する、それが奨学金の充実にもつながるし、チャレンジした結果ではなくて、チャレンジしようと、し続けようということをリスペクトしたり、応援したりする社会に変えていかないといけない。チャレンジして失敗したやつを、更に叩くという社会を変えないといけないですね。

工藤:メディアの議論も一度やってみたいと思います

脇若:さっき言ったように、英語の教育をやるということによって、みんなの行動を変えていくということは重要だと思います。

工藤:次週は、11月14日(月)18時から、震災時の寄付金の偏在という問題がありました。この問題について議論したいと思います。
皆さん、今日はありがとうございました。

一同:ありがとうございました。

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放送に先立ち緊急に行ったアンケート結果を公表します。ご協力ありがとうございました。

2011年11月11日(金)収録
出演者:
鈴木寛(前文部科学副大臣、参議院議員)
丸山和昭(福島大学特任准教授)
村上壽枝(東京大学特任専門職員)
脇若英治(クリントン財団気候変動ヨーロッパ担当)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)


第2部:国内の諸問題が鏡写しになっている留学生減少

男が海外に行けないのは親や嫁が反対するから

工藤:では議論を続けます。なぜ留学生が減ったのか、という原因の話になってきていますが、休憩中に会場にいらっしゃる企業経営の方にも話を伺ってみました。やはり企業の中で昇進のために国内に残るというわけではなく、海外の赴任先を選り好みしているという傾向にあるようです。嫁さんが反対する、という話もあれば、鈴木さんからは親が反対する、という話が出ました。つまり、若いうちは親が反対し、結婚してからは嫁さんが反対する、こういう事情があって、男は海外に行けなくなると。その点については鈴木さん、どうですか。

鈴木:女子学生は何の問題もなくて、僕のゼミ生などは1年ぐらいいなかったので「どうしたんだ」と聞いたら「アフリカに行って、子供たちの教育ボランティアをやっていました。卒業するにあたり戻ってきました。」と。4年生だったので「就職どうするの」と聞いたら「マレーシアの会社に行きます。」と、それぐらい素晴らしい女子学生が僕の周りにいくらでもいるのですよ。他にはケニアに行って児童図書館を作ってきた子とか、本当に素晴らしい。ただ、男と女を分けすぎるステレオタイプな議論は良くないのですが、少子化で次男がほとんどいなくなってしまったのですよね。2人いても、長男、長女で、1人っ子だと長男。そこで、男の子が、何か外に出て危ないことをするということに対して、保護者はものすごい反対をする。ベンチャー企業に行くことすら、あるいはソーシャル・アントレプレナーになることすら反対しますから、まして命のリスクがある海外に行くなんてことは母親が止めます。昔も親は反対したものなのですけれど、親を突破できない。

工藤:中国も一人っ子政策ですが、中国の親は止めないのですかね。
鈴木:だって中国は国内が危ないじゃないですか。
工藤:そういう話ですか。

鈴木:だって、中国とアメリカ、どっちが安全かといったらアメリカでしょう。日本とアメリカ、どっちが安全かといったら日本のほうが安全ですよね。

工藤:今の話を脇若さんはどう思われますか。

脇若:中国人の富裕層のかなりの人は将来的には海外に行きたいそうです。逆に日本人で海外に住みたいという人はほとんどいない。日本がいいから。日本は恵まれているから、外に出なくていいということになっているのではないですか。

工藤:それがガラパゴスってやつでしょ。


人生のデザインがない多くの高校生

鈴木:生活するには最高ですが、成長することも考えないと。もっと言うと、問題は高校時代からあって、高校生の8割がそもそも学ばないのですよ。それはメディアの影響があるのですが、ある進学校で、高校2年生で、なりたい職業が決まっている学生は5割しかいない。5年前から比べても2割ぐらい減っちゃっていて大問題だと思っています。さらにブレイクダウンしてみると、進学校が48%で、中堅校55%、これは進学校「すら」なのか「だからこそ」なのか、とにかく、親と予備校と受験の偏差値で引いたラインを、ただ単に素直に行く、という子が多いのです。そうなると将来の職業も決まっていなくて、将来を考えた時に海外と全く無縁の職業なんてほとんど無いので、そうするとバイリンガルとか見据えないといけないのですが、自分の人生デザインというものが無いので、とにかく行ける大学に行きました、という話になります。それで、もういまや、親は基本的にはB to B産業もダメです。コマーシャルでよく見る企業に入って欲しい。それで、日本で勤めて欲しい。なるべく東京で。地方勤務もイヤ。

工藤:なんだか、非常に前途が暗澹となっていますね。僕は、なるほどと思いましたが、今の話について村上さんどうですか。

村上:そうですね、かなり囲い込んでしまっているのではないかと思います。昨年、就職実績のある大学にインタビューした時に、まず入学の時点で理事長さんが保護者の会を設けられ、その会で留学を推奨しているというお話を伺いました。ですので、そういったところが功を奏して、結局、留学に行かせてもらえるということと、就職もそこそこ支援をしてもらっている、といったところで実績を上げているのではないかと思います。

工藤:なぜ若者が海外の留学に行かないのか、その原因もアンケートで聞いています。先ほど脇若さんから選択肢がおかしいとの指摘があり、落ち込んだのですけれど、基本的に1番多かったのが、「日本の若者が海外留学に魅力を感じず、内向きになっているから」で57.7%です。で、これは、原因ではなくて現状を言っているだけだとのご指摘でそのとおりだと思うのですが、2番目に多いのが「海外の大学に留学しても日本の就職に有利にはならないばかりか不利だから」で46.2%。3番目は38.5%の「留学には多額のお金がかかるから」です。少し下がりますが21.2%の方が「海外の大学の授業についていけるほど日本の若者の学力が高くないから」を選んでいます。「その他」で自由記述された方の書き込みが今回とにかく多くて紹介できないのですが、この結果についてどうお考えですか、脇若さんからお願いします。

脇若:お金と学力が正しいと思います。そして先ほど言われたとおり、就職です。私は今ロンドンにいて、早稲田の学生の会の会長もやっているものですから、いっぱい学生さんは来るのですけど、みんな海外に来て1年間で帰る、帰ると就職のことで頭がいっぱいで、皆さん大変だと言っています。特に競争が激しくて、正社員になるのが大変だと。先ほどお話に出た国際教養大学は受け入れ態勢があっていいですけれど、早稲田の国際教養学部の学生は本当に就職が大変だと話しています。こういう実情が学生さんに広まると、やっぱり海外に行くのはやめよう、ということになってしまうと思います。実際に海外に来ている若者はすごく勉強していますし、色々な経験を積んでいる。自分たちでサイトを作ってネットワークを広げたり、と頑張っています。しかし、日本の良い会社にはなかなか入れない。そういうパラドックスが今あります。

鈴木:その点ですが、おそらくこの1、2年で早稲田大学の国際教養学部は就職戦線の採る側からすると最も魅力のある学部の1つになると思います。そこのマインドセットは、本当にこの1年で劇的に変わりました。


日本企業は日本人学生の採用を減らしている

脇若:はい。まさに今日、ここに来る前にある人と話をしたのですが、この1、2年で相当、企業側の姿勢は変わっていると聞きました。ユニクロとか楽天の話も出ました。

鈴木:既存のメーカーでも、いまやジャパン・ユニバーシティ・パッシングが起こっていて、国内の日本人学生の採用を減らしています。これは誰が聞いてもわかる日本のメーカーがやっているのですが、日本に来ている留学生、および海外での採用をどっと増やしているので、就職問題はほぼ片付くと思うのです。

工藤:本当ですかね。

鈴木:だって、それをやらなかったら、企業は生き残っていけないですから。企業はそういうところの判断は早いですよ。

工藤:一斉に企業は動かないじゃないですか。
鈴木:ここで動けない企業は、いい人材が採れないからつぶれていくわけですよ。

工藤:さっき脇若さんの話の中にもありましたが、パイがたくさんあってその中から選ぶのではなくて、経済がそもそもかなり厳しいじゃないですか。


氷河期ではない、選り好みにすぎない

鈴木:それは嘘で、今は就職氷河期じゃないのです、実は。有効求人倍率は1.3です。氷河期のときは0.98とか0.9代でしたから。結局、今はミスマッチが起きている。例えば、従業員数1000人を超える企業の有効求人倍率は確かに厳しい。0.5をさらに下回っちゃうぐらいなのですが、1000人以下の、1000人以下といってもとっても良い会社がいっぱいありますよね、でもそこは1.8とかなんですよ。だから、要するに選り好みなのです。

工藤:選り好み、ですか。

鈴木:僕はずっと大学でゼミをやっていたのですが、学生から「うちの保護者に会って下さい」と頼まれたことがあります。さすがに副大臣になってからは、大学を辞めたのでありませんが、2年前まで毎年何人かいました。昔なら、まだ一部上場だったらいいんじゃないのと言っていたのですけど、今、一部上場でも立派なB to Bの会社とかでも親は驚いちゃう。親が勉強していないってこともあるのですけどね。この会社がどれだけ素晴らしい会社か知っていますか、というところ入らないといけない。

工藤:なるほど。丸山さんはどうですか。

丸山:疑問があるのは、1000人規模の会社を留学経験者が積極的に受けるかどうかということ。あと、採用方針が変わって、日本人学生だからといって優先はされないというのはそうだと思うのですが、でも留学経験のある学生を採るとは限らなくて、海外からの、例えば中国人留学生の日本経験者というような人たちを積極的に採り始めるのではないかと思うのですが。

鈴木:後者は実績として、今年の採用方針で、そういう会社がいっぱい出てきています。前者は選り好みの問題ですよね。海外に進出している中小企業は山とあって、そういう会社は留学経験者がものすごく欲しいのですよ。だから求人はいくらでもあります。コマーシャルに出ているのがグローバルカンパニーというのは選り好みでしょう。やりがいがあって、自分の力が活かせて、いい仕事させてくれるところはあります。

脇若:それは海外云々より、コマーシャルに出ないような会社にはみんな行きたくない、ということですね。正社員、大企業、名前が売れている会社ということに親が価値を感じているから、子供もそうなってしまう。ですから、今ふと思ったのは、海外にどうして人が行かないかという理由と、日本の国内の状況が鏡写し、表裏一体になっているのですね。日本では女性が活躍できないから、海外に行ってそのままステイしてしまう。ところが男性は少子化に加えて、日本にいないと希望する企業に入りにくいので一生懸命それをやる、海外に行っている暇はない、と。

工藤:日本には男が残っていくのですね。

脇若:日本はそういう世界ですから、そうなりますね。留学生の状況は、日本の状況の鏡写しになっている。

工藤:村上さん、どうですか、今のこの男たちの話は。

村上:そうですね、菜食主義と言われているのは若干否めないかなと、女性の私は思っています。

鈴木:僕が言いたいのは、さっきの進学校の話でいうと、ある東京の進学校なのですけど、地頭は抜群に良いわけですが、もう勉強しないと。何故かと言うと、結局、社長になってもお詫び会見ばっかりだと。官僚になってもバッシングに遭う。政治家は人間以下だと。お医者さんになってもね、1000回手術に成功しても1001回目で失敗すると業務上過失致死で捕まる。努力して頑張っているというロールモデルがマスメディアからは流れて来ないということの中で、何のために努力しなきゃいけないのかという揶揄する文化がものすごくはびこっている。これは本当に高校の先生も悩んでいます。

ここの処方はわりと簡単で、本当に頑張っているテレビには出ない人はいくらでもいて、そういう人を土曜日、学校などで高校に呼んで直接学生に会わせる、そうするとボンと考えが変わります。学生もステレオタイプの二次情報の中で生きているし、保護者ももっとステレオタイプの中にいますから、そこはちゃんとリアルの、生きがいとやりがいをもって、苦労はするけれど頑張っている人と会わせると、高校生は変わる。そういう機会を今どんどん増やすために、世界で、或いは色々なところで、ソーシャル・アントレプレナーも含めて活躍することの素晴らしさを高校で一生懸命伝えようとしています。その結果、学びのぶモチベーションを高めようとしています。そこが行くとこまで行ったという結果であることは事実だと思います。

工藤:確かにそれは、かなり納得しました。みんながどういう生き方をすればいいのかということに関して、非常にわかりにくくなってきていますね。たぶん色々な仕組み、信頼が崩れている。ただその中で、留学にはお金がかかるから行けない、という原因もアンケート結果で実際にあります。そういう場合はお金があれば解決するのですかね。


留学できない最大の原因はお金

丸山:昨日、僕が担当している授業で、19人ほどだったのですけど、同じアンケートをしてみたところ、一番の原因はお金でした。その次に来るのが学力の問題だったのですが、若者にとって一番の問題はお金である、と。あとは大学のスケジュールが厳し過ぎて留学する暇なんか無いというようなことが言われていましたね。

工藤:お金に関しての仕組みはまだまだ不十分なのですか?

村上:仕組みに関しては、奨学金の支給、出来れば大学の方から貸与ではなく支給で留学資金を援助することが、結構良い効果が出るのではないかと思います。

脇若:2004年と2008年のデータをいただいていますが、では昔、1970年代、80年代はどうだったかと、1ドル360円の時代ですね、それでも行っている人は行っています。その頃は、政府とか企業が派遣している留学生が多かったと思うのです。人数が増えれば増えるほど個人のレベルで行かなければいけなくなるので、そうなると、どうやって学費を払うかという問題はやっぱり大きいでしょうね。

工藤:企業も留学って出しますよね。官僚も。

鈴木:僕は1986年卒業なのですけど、そのときは2万人しか行っていません。そこからずっと増えていって、4倍の8万人にはなった。それが減った、という話です。減っても6万人だから、我々の学生時代に比べれば3倍に増えています。ただ他の国は、ものすごい勢いで留学生が増えていますから、それと比べると低いですね。

工藤:日本に比べて、中国とかインドが増えていることに関して焦りを感じる議論があるじゃないですか。でも発展段階が違いますよね。だから増えているのは止むを得ないと思えば良いのでしょうか。

鈴木:中国とは比べなくていいと思います。逆にヨーロッパなんかは、EUというものもありますが、色々なところで学ぶことで、多文化共生、カルチャリズムの中で生きていくという良い経験を積む機会が多いです。

工藤:脇若さん、世界の若者は結構色々な課題解決のために海外に行きますよね。僕は先ほどの鈴木さんの学生さんで世界で活躍する女性達の話に、おっ、と思ったのですが、そういう若者たちと、日本の若者層はちょっと違うと感じるのですがどうですか。

脇若:そうですね。女性もそうだし、海外生活経験があり、英語で教育を受けている人も、私たちの子供たちの世代には増えています。そういう人たちをどういう風に活かしていくかという問題は非常に重要です。

工藤:わかりました。ちょっと休憩を挟んで最後のセッションにいきます。

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