まず代表工藤は、「東日本大震災から8ヶ月が経ち、多くの支援が被災地に集まった一方で、多くの義援金の使われ方が適切だったのか、支援金も一部の団体に集まり,寄付の偏在が明らかになっている。またどこに寄附をすればいいかわからなかった、という声も聞く。こうした状況をどう考え改善に結びつけていけばいいのか」と問題提起、今回は、①東日本大震災に対する支援の実態はどのようなものだったのか、②義援金や支援金の使われ方や、寄附の偏在に関する問題、③こうした状況を改善するにはどうすれば良いのか、についての議論がなされました。
第一のこれまでの支援の実態について、田中氏は寄附の動向を大きな流れで見ると、今回の震災を機に一気に寄付額は増加したと指摘しつつも、「被災地への見舞金となる赤十字等を通す義援金は3,500億円ほど集まったが、NPO等への支援金は300億円でその9割が3団体に集中している」と義援金と支援金、そして支援金内に大きな隔たりがあると説明、義援金や支援金を受け入れた中央共同募金会の阿部氏は、義援金が377億円、支援金が30億円との募金実績を明らかにすると同時に、義援金はそのまま被災地に渡しているもので、募金会の人件費などは一切使われていない、などその経緯を詳細に、説明しました。
また、山岡氏は、日本NPOセンターは「支援先を十分判断するためには一億円程度が対応の限界と判断した」と語り、数十億円単位の支援金が3団体に集中していることに問題を投げかけながら、「ただ共感を集める団体に寄付が偏在するのは当然」と語りました。
また、この間明らかになった問題として、「義援金の遅配。被災者のみならず、寄付者からも声が上がった」(田中氏)、「義援金と支援金の違いが分かるのに非常に時間がかかった」(山岡氏)などが挙げられました。
第二の点の義援金や支援金の使われ方に関して、阿部氏は義援金が罹災証明に基づいて行政が被災者に送金する仕組みになっていることを説明、しっかりとした検証が今後必要であることを前提とした上で、「震災規模があまりにも大きく、自治体自体が被害を受けていた」として、迅速に対応することの難しさを述べました。一方、募金側/助成側の課題として、田中氏が「災害対応に際しての募金に経費や管理費が含まれることもあらかじめ説明し、最初にきちんと伝えるべきではないか」と述べると、山岡氏もこの点について「責任をもって資金を配分するとなると、現地にも赴いて調査するといったことも必要。きちんとした助成にはそれなりの管理費が不可欠だ」と主張しました。
偏在に対しては、工藤から再度、「今の現象は共感以前の問題ではないのか、つまりNPOの活動の姿が市民に見えておらずその努力も怠ってきた。選ばれた団体も名前が日本を代表している名前になっている程度でその活動内容を知った上での判断なのか。事実,市民はどこに寄付すればいいの、分からない、という声がかなりアンケートでもあった」と問題提起がなされ,これに対して参加者からは、「支援金というのは今回初めての問われたものでまだ十分ではないが、それがどのように使われたの、か、十分に吟味する必要がある」「NPO自体の日頃の活動が問われており,残念ながら多くのNPOが報告書も出せるのか、そのレベルにある」などの厳しい意見も出ました。
さらに山岡氏は、そうしたNPOを見分ける資金仲介組織には平常時から仲介のプロが育っていなければいけないと述べると共に、「資金仲介組織を通さない支援金については、メッセージを発していない組織にはどうしても出せない。組織自身にも発信力が必要」と資金を受ける側の課題も強く指摘しました。
最後にこうした状況を改善するための方策について議論が及ぶと、山岡氏は「瞬間的に集まったものを瞬間的に使うべきという考えだと、使い方がどうしても雑になってしまう」と述べて、時間の偏在を慣らす文化を醸成していく必要があるとしました。資金仲介組織の当事者としての阿部氏は、「今後は、地元の皆さんが作ったグループをいかに支援していくかが課題となる。被災者と寄付者の間になんとか循環を作っていきたい」と述べました。
そして最後に田中氏は、今回議論になった課題が震災に始まったものではなく、寄付を集めるということに対して慣れていない日本の市民社会組織に根本的な課題だと指摘。この課題を乗り越えるための一つの内発的な試みとして「エクセレントNPOを目指す市民会議」が提案している評価基準を紹介し、「非営利セクターを取り巻く制度が整備されてきた今、今度は自らが自らを磨き上げて社会に対する発信力を高める段階だ」と述べ、非営利組織自信の変革が急務との認識を示しました。
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第1部:寄付金にまつわる疑問を解きほぐす
工藤:こんばんは。言論NPO代表の工藤泰志です。言論NPOでは私たちが直面する課題をみんなで一緒に考えようということで、このスタジオでさまざまな議論を行っています。今夜は「東日本大震災における寄付金の偏在」という問題について、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
まずゲストの紹介です。僕たちのNPOの理事でもある大学評価・学位授与機構准教授の田中弥生さんです。田中さん、よろしくお願いします。
田中:よろしくお願いします。
工藤:その隣、日本NPOセンター代表理事の山岡義典さんです。山岡さん、よろしくお願いします。
山岡:よろしくお願いします。
工藤:その隣が中央共同募金会広報企画副部長の阿部陽一郎さんです。阿部さん、よろしくお願いします。
阿部:こんばんは。よろしくお願いします
義援金と支援金との違いは
工藤:東日本大震災から8ヵ月も経ったのですが、被災地の問題は、まだまだ解決しなければならない課題がたくさんあります。しかし、この間、全国から多くの支援が被災地に集まりました。今回はこの問題を考えてみたいと思っているわけです。
各団体で、義援金・支援金という言葉を使っていて、義援金というのは現金のお見舞金なのですが、約3000億円以上集まった、と。NPOなどへの支援金も300億円集まったと聞いています。被災地に多くの人の寄付が集まっている一方、どこに寄付したらいいかわからない、という人もいらっしゃったと思います。その中で、多くの人に知られている団体には寄付金がたくさん集まり、知られていないけど活動していて、本当はお金が欲しい団体にはなかなか集まらなかった、という話も聞いています。
こういう問題を今後どのように改善していくかというのが、今回の話し合いのテーマです。言論NPOは言論スタジオの開催前に、緊急アンケートを行っています。今回も50名ほどの回答をいただきました。前回の留学生の減少についてのアンケート同様、皆さんすごく色々な意見を書いてくださいました。やはり多くの人がこの問題に関心があるのだな、とわかったのですが、「東日本大震災では多くの寄付金が寄せられました。あなたは、今回の震災で寄付を行いましたか。」という問いでは、90%近い方が「寄付をした」と答えています。この番組を見ている、アンケートに回答くださった方のほとんどが寄付をしたということです。
まず、こうした寄付の実態がどうであったかということについて、田中さん、簡単に報告をお願いします。
田中:まず、寄付といったときに、物による寄付とお金による寄付があると思います。今日は、お金の寄付の話をします。物の寄付の偏在は大変なことになっています。
お金による寄付の動向を20年ぐらい見ておりますと、1995年の阪神・淡路大震災の時に、寄付の額が一挙に増えました。当時の前年比で倍増したぐらいです。そのときの額が約6000億円です。翌年には半額に戻りましたが、今回の東日本大震災では、6月の時点で6000億円近くいっています。もうすでに、阪神・淡路大震災のときの額は超えているでしょう。このように日本全体で見たときに、寄付の額は増えています。先ほどアンケート調査の内容を示しましたが、日本ファンドレイジング協会がすでにもっと広い調査を行っていて、そこの結果ですと、寄付をした人の割合は少し落ちて、76.4%、つまり8割近い方が寄付をしています。言論NPOの会員の方は寄付の意識が高いのかもしれませんね。それにしても非常に多くの人が寄付をしたのですが、それは大体が募金箱か職域の募金で4割ぐらい、あと街頭募金、ネット募金は25%ぐらいでした。寄付をしたのですが、寄付の場所は一般的であったと思います。
偏在の話なのですが、偏在は大きく2つに分けて考えたほうがいいと思います。義援金と支援金という話がありましたが、赤十字を通して被災者の方々にお見舞金としていく、私たち日本人が最も慣れている寄付金の「義援金」は、いろいろな数字があるのですけれど、中央共同募金会の阿部さんのご発表になったデータですと3500億円ぐらいいっているだろう、と。そして、お見舞金ではなく、被災地で活動しているボランティアの方達への寄付を「支援金」と呼んでいるのですが、これは290億円から300億円ぐらいだと推計しています。ですから、まず「義援金」と「支援金」の間にも大きな隔たりがあるということです。さらに言えば、この「支援金」の団体への配分に関して、かなりの偏在があります。寄付を集めて自分達で使うというよりも、いろいろな団体へ配分しますという仲介団体が今回、目立ちました。その中でも、ジャパン・プラットフォームと日本財団と中央共同募金会、ここで90%ぐらい占めています。他にいろいろ団体はあるのですが、合わせても10%ぐらいで、ここにも大きな偏りがあるというのが実態です。
工藤:なるほど。山岡さん、資料から見ると山岡さんの日本NPOセンターにも寄付が集まっているのですが、どのような状況だったのでしょうか?
支援金は偏在して構わない
山岡:私ども日本NPOセンターは現地のNPOを支えるお金が必要になると考えました。全国区の団体はファンドレイジングの力を持っていますから、これから生まれ育ってくる現地のNPOをしっかり支えないといけない、と、現地NPO応援基金というのを作りました。僕らは実力から言っても年間1億円ぐらいが限度です。今回1億3000万円集まりましたが、これ以上集まっても使い切れません。僕たちとしては使える能力として年間1億円で1年続くか、2年続くかというところです。
偏在についてですが、義援金は偏在しちゃいけないというルールの下で、各自治体は苦労して赤十字や共同募金から集めたものを配分していきました。偏在は許されないのだ、と。しかし支援金について、私は基本的に偏在するから良いのでね、全体を見て、みんながバランスとってやったら、それはお役所と一緒のお金になっちゃう。だから僕は、どういうバランスが良いか、テクニックの問題はありますが、共感した団体を自分で選んで寄付をする、で良い、と。偏在するから、民間支援は良いのだと思います。「公平に」にとらわれ過ぎると、それはもうお役所と一緒になってしまうから、なにも民間でやる必要は無い。そういうのは税金でやったらいいわけですよ。そういう感じを持っていますので、むしろ、民間支援で、非常に重要な「偏在が許されている支援がある」というのが、行政とは別の支援の仕組みとして意味があると思っています。
工藤:山岡さん、偏在の話はまた後からやりますが、山岡さんのところは「実力から言って1億円ぐらいが限界」というのはどういうことですか?
資金仲介組織は寄付金の中から管理費をいただく
山岡:お金を使う能力というのがあると思うのですよ。ただ均等に配っていくだけではなくてね。我々は市民社会創造ファンドというセンターを作って10年ぐらいやってきましたが、助成するということはすごくエネルギーが必要です。きちんとしたところにきちんと出して、現地に行って会って、その後どうなったか見る、それは非常に重要な役割だと思っています。だから僕らは、募金をする時に「15%は管理費に使います」ときちんと書いてやっています。実際に助成するお金の20%ぐらいを確保しておかないと、質の高い助成は出来ません。中間団体、資金仲介組織は費用をとるか、あるいはとらないなら、自分でどこかから用意しないと、資金を運用できないと思っています。
工藤:ということは、山岡さんのようなNPOの全国的な中心的組織でも1億円ぐらいがちゃんとした支援、助成をする際の限界だ、と。
山岡:スタッフを急に増やせればいいのですが、1人や2人でやるとなるとそうですね。日本NPOセンターと市民社会創造ファンドが共同して助成しているのですが、市民社会創造ファンドで年間やっている助成金が1億円ぐらいです。そうしますと、うちのスタッフでやるのも年間1億円が限界だね、という話です。
工藤:わかりました。中央共同募金会は義援金と支援金の2つを担いましたが。
中央共同募金会は義援金と支援金の両方を集めた
阿部:そうですね。この震災が起きてから、被災された方へのお見舞金となる義援金を、最終的には日本赤十字社と同じルートで、同じように自治体に全額送金するものとして集めています。それから、支援金の中でも、さまざまな被災地で活動をしている団体に対して助成するための募金、「災害ボランティア・NPO活動サポート募金」で「ボラサポ」と呼んでいますけれど、これが今現在約30億円です。私たちは、義援金を377億円集めましたが、寄付した方々はホームページ等を見て、ちゃんと選んで募金してくださいました。これは義援金、これは支援金と。
また、先ほど、田中さんから「今回は募金額がとても多い」というお話が出ました。それだけではなく、震災が起きてから私どもの団体への電話で、もちろん「義援金の振込口座はどこですか」という問い合わせも多かったのですが、「とにかく何か出来ることはないか」「駅前で街頭募金をしたいので、募金箱を貸してくれないか」「どうすれば自分たちで募金活動できるのか」という問い合わせの電話が非常に多かった。今、私どもの方ではホームページに特製のラベルを置いています。赤い羽根共同募金としては、それをダウンロードして、箱に貼ってやっていただくことにしています。やはり、お一人おひとりが、実際にボランティアに行けなければ何が出来るかということの1つの行動が寄付なのかなと思っています。
工藤:義援金の仕組みをもう少し解説していただきたいのですが、集まったものは、どうやって配分するのですか。
阿部:これまでも、もちろん阪神・淡路大震災のときもそうですが、基本的に義援金を募集する団体は、赤十字社、私ども中央共同募金会、また地元のメディア、マスコミの皆さん、また、被災した県庁、行政のみなさんが受け皿の口座を作ります。ここで、赤十字社も私どもも、直接、被災者の方に配分は出来ません。何故かというと、その個人情報を持っていないからです。ですから、必ず被災した県庁、市町村役場で、お一人おひとりに罹災証明といって被害状況、例えば全壊であるとか半壊であるとか、証明が出ますから、それに基づいて被災市町村の役場が被災された方々に振り込みなり送金をするという形になっています。
工藤:つまり、集まったお金を役場に流すということになるわけですね。
阿部:そうですね。
工藤:そうすると、赤十字と同じスピードで動くという感じになるのですか。共同募金会だけ先に動くことは出来るのですか。
阿部:これは、赤十字、共同募金会、被災した県庁に来た分を合わせて、被災した県庁ごとに1人当たりいくらという割合が決まっているのですが、3つ合わせたものをお渡ししています。
工藤:その分配はどこが決めているのですか。政府ですか。
義援金の配分は「割合決定委員会」で
阿部:義援金については、割合決定委員会が作られています。これは、厚生労働省が入って作っているのですが、赤十字社と私ども共同募金会に寄せられたお金を、全額必ず被災自治体に送金するにあたり、各自治体でおおよその被害状況を発表していますから、それに基づいて是非これだけお渡し下さいという額を決めます。それに、先ほどもお話した被災した県庁・市町村役場で直接集めたお金が上乗せされ、最終的に被災された方々に届けられます。
工藤:共同募金会は377億円、赤十字はどれぐらいだったのですか。
阿部:圧倒的ですね。もう3000億円近い。赤十字社は頻繁に今の義援金の額を更新しています。
工藤:今も増えていますか。もう募金は終わりという感じですかね?
阿部:ピークと比べるとだんだん落ちていますね。
工藤:わかりました。今、お話を伺っていると、義援金と支援金を分けながら議論しないといけない感じがしました。まず田中さん、義援金の問題は、どういうところにあるのでしょう。
メディアが取り上げた義援金「遅配」をどう考えるか
田中:義援金の問題に関しては、メディアがこんなに頻繁にとりあげたことはなかったと思いますが「遅配」ですね。私たちが寄付した義援金が、なかなか被災者の方々に届かない、こういう声が寄付者からもあがりましたけど、メディアが5月以前から義援金の遅配ということをとりあげて、では、義援金はどういうメカニズムで分配されるのかを話題にしていました。それから夏ごろになってくると、自治体によって配り方が違うとかですね、家の全壊は罹災証明で認められても店の全壊は認められないというような、末端の分配の仕方に関しては自治体の中での判断、裁量がありましたから、そこでの不公平感について、かなりメディアが議論をしていたと思います。
工藤:阿部さん、今の遅配なのですけれど、これまでと比べて今回は遅れたという認識でしょうか。
阿部:今回は、これまでの災害に比べてあまりにも規模が大き過ぎます。被災者の数が、今までの比較にならない。被災した市町村の自治体職員の皆さんも大きな被害をうけている。
工藤:届ける人たちが被害に遭っていると。
阿部:はい。ですから、確かに被災された皆さんにとって分配は早いほうがいい、寄付した人も早く届けて欲しいというのはわかっているのですが・・・。
工藤:山岡さん、時間が無いのですが、義援金の問題に一言お願いします。どういうところに問題を感じていましたか?
山岡:遅配の問題は、行方不明の人は死亡が確定しないと払えないですからね、ある程度やむをえないと思いますが、配れるところから配っていって、増えたらプラスアルファで配っていく仕組みですとか、そういうのはあっていいと思います。あと、義援金を知らないで、いろいろなところから相談がありました。義援金を集めて配りましょう、と。ですから、義援金と支援金は違うのですよと説明するところから始めることになる。阪神淡路大震災のときは義援金しかありませんでした。今回は義援金と支援金の違いがわかるのに、少し時間がかかったということがありましたね。
工藤:わかりました。義援金募金総額の9割の3050億円が今、都道府県に送金されているそうです。ではちょっと休息を挟んで、次の議論をしたいと思います。
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第2部:寄付者の思いに応えた使われ方をしているか
寄付金は適正に使われたのか
工藤:それでは、引き続き議論を行っていきたいと思います。今、状況を皆さんにも理解していただきたいということで、説明してもらいました。
私たちのアンケートでは、この偏在問題を含めて、皆さんからの意見を集めました。その意見を簡単に紹介します。基本的には偏在の前に、義援金を含めて適切に使われたのか、ということに関する意見がかなり多くありました。あと、偏在というのは、先程、山岡さんがおっしゃられたように、ある意味では当然なのだけど、本当に寄付をしたいこところが見えない。だから、共感を呼ぶ以前の問題で、何となく分からないから、という状況があるということを書いている人もいました。ほかに、寄付者に対する説明があまりない、と言っている人が多くいました。今回、ちょっと注文を出される方が非常に多くいました。いくつか紹介しておくと、まず、義援金のところについてはかなり意見があるので、皆さんから、説明をしてもらいたいと思います。
50代のNPO関係者から「個々に良い活動をしているNPOがたくさんあるにもかかわらず、名前が知られていないため、結局、赤十字などに寄付した方が多い。しかし、赤十字の対応は「一日でも早く」という市民の要請にこたえるものではない」というご意見でした。あと、メディアの問題もありました。市民社会に対する知識や認識がメディアを通じてもあまりないので、結局、ユニセフや赤十字に出してしまう。それから、「寄付金が本当に有効に使われているか、システムとお金の動きをわかりやすく公開する必要がある。赤い羽根共同募金のように肥大化し過ぎた組織では、運営費に相当使用されてしまうのではないかとの疑心暗鬼も感じる」と、60代の経営者の方の意見です。
赤十字に対しても、かなり硬直的で、寄付は人件費に使われてしまっているのではないか、と。半分ぐらい使われているのではないか。やはり、ちゃんと公表すべきだし、お金集めというところも既得権益化されているのではないかなど、そういう声がかなりありました。海外からどこかに寄付をしたいといっても、どこがいいか分からないということで、赤十字に相談したところ、赤十字に、受け取れないと言われた、と。それから、拒否されたという声がありました。
私たち言論NPOで一緒にやっている、ドクターヘリの理事長の国松さん(元警察庁長官)も、友達にどこかに寄付したいと相談されても、本当にどうすればいいかわからなかった、と。赤十字だけは紹介したくない、と彼は言っていましたけど、ただ、困ったと言っていました。この辺りについては、阿部さん、いかがでしょうか。
阿部:共同募金に関して、肥大化しすぎているとか、人件費に半分以上使っているとかという意見に対して回答いたします。まず、今回の東日本大震災に関しては、赤十字も私ども共同募金会にしても、経費については、義援金でいただいた寄付金の中からは1円もいただいていません。では、どこからその経費が出るのかというと、海外の友好団体とか連携団体の方から、運営費にも使えますよ、ということで、その国の寄付者の皆さんから集めた寄付金の一部を使わせていただいています。ですから、運営費で50%使っているということは私たち共同募金会ではありません。説明不足もあるのかもしれません。
工藤:たまたま、共同募金会のことが目についてしまったので取り上げたのですが、赤十字への批判はかなり強くありました。つまり、急いでいるときに公平と言って、時間がかかってしまっていて、硬直的ではないのだろうかという声が結構あるのですが、これについてはどうでしょうか。
募金時に、管理費を明示すべきだ
田中:先程、山岡さんから、寄付や募金をされるときに、募金団体も助成をするためにこれだけの管理費がかかります、ということをあらかじめ説明して募金をされているとおっしゃいました。さっきの、管理費に半分は使ってしまうだろう、という風におっしゃっている方は、逆の見方をすれば、寄付を集めて適正なところに助成をしたり、自分達で使うためには、経費がかかるということを理解されている方だと思います。そうであれば、これだけの寄付を集めますけど、それも効果的に、効率的に使うためには、この分は、管理費として10%はいただきますとか、最初に募金するときに説明するべきだと思います。
寄付を集めるほうでは、それを言ってしまうと集まらないのではないかと思って言わないことがあるのですが、それは結局、集まった後にトラブルの元になると思います。
工藤:山岡さん、今の話を聞いてどうでしょうか。
山岡:僕らは、かなり戦略的に書きました。どこも書いていないけど、実際に経費として使っているところは沢山あると思います、当然のこととして。運営費として指定された寄付があればいいですが、そうあるものではないし、保証されませんから、私たちは15%と初めから書いています。最初のうちは、15%もとられるのなら、寄付しないよということもありましたけど、色々と話をしていたら、そのことが明確になっているから、出しましょうという人も多くいます。
工藤:それは説明しているからですよね。
山岡:やはり、責任を持って配分するとなると、人件費が必要で、現地にも誰かが行くことになるわけですよね。そうすると、その旅費等はどうするのか、と。私たちは手弁当で、ボランティアでやりますよ、と言って年間1億円の助成金を配分するということは不可能に近いです。だから、きちんとした助成をするには、経費はいる、その経費は、皆さんの寄付の中から頂く、ということをきちんと明文化する、そういう文化を作っていくことが、本当の寄付の文化をつくる上で重要だと思います。ですから、我々はあえて書いたのです。
工藤:今の説明に関する意見とともに、皆さんのアンケートにある意見は、こういう緊急時には、赤十字などのルートは硬直していて配分に非常に時間がかかってしまう。結果的に、間に合わないのではないか、という声がありました。今回も、結果として被害がかなり大きかったということがありますが、一方で、寄付をした人は一刻も早く届けたいという意識ですよね。ヘリコプターからお金をばらまくのなら直ぐにできるのかもしれないけど。その辺りに対する、疑心暗鬼がまだ残っているような感じがするのですが、その辺りはどういう風に改善できるのでしょうか。
阿部:今の話は、お見舞い金である義援金の話だと思います。やはり、検証をしっかりとしていく必要はあるのかな、と思います。それを前提に話をすると、その上で、早い、遅いという問題が1つ。それから、これまで阪神・淡路大震災以降を考えても、これまでの災害や地震と同じようなルートで、被災者の皆さんに届ける方法がこれでいいのか、あるいは、もっと早く届けるためにはどうすればいいのか、ということは検証していく必要があると思います。
工藤:今回も、民間の損害保険金の支払いはかなり早かったのに、何で義援金は遅いのかと、よく言われましたよね。
阿部:但し、寄付する方々も、確実に被災されている皆さんに届けてくれということで託しているわけです。
工藤:変なところに流されたら困ると。
阿部:あとは、なるべく公平にしてくれ、という話もあると思います。それを、どのようにすり合わせていくのか。そこはどうしても時間は必要になってくると思います。
義援金は税金ではない、民間の寄付である
田中:1つだけ、義援金に関しては以前から疑問に思っていることがあるのですが、義援金は税金ではありませんね。私たち民間人の寄付なのですよね。ただ、義援金というかたちで赤十字に入った途端に、地方自治体から分配されますから、あたかも税金のように扱わなければいけない、というようなことがあります。でも、それは法律的には何も定められてはいないのですよ。慣習なのだと思います。その辺りも、抜本的に変えて、これは民間の寄付なのだという点について、私たちの常識も、一度覆して考える必要があるのではないかと思います。
工藤:民間の寄付だからこそ、官ではなくて何かができる、ということはあり得ないのですかね。
阿部:結局、お届けする被災者となる対象をどう決めていくのか、という話と絡むと思います。その被災情報は、行政のみなさんしか持っていないし、個人情報の問題もありますから、ここをどう考えるのか、ということが一番重要だと思います。
田中さんがおっしゃる通り、本当に慣習なのですね。税制に関して言えば、国への寄付金と同じ扱いをしていますが、実は慣習です
工藤:この問題は課題として、これをこういう風に変えたらいいとか、既に議論が始まったりはしていないのでしょうか。
阿部:今、現在、始まっていないと思います。
田中:メディアの中で気がついているところは非常に少なくて、あたかも税金のように考えるから不平等だ、という話の記事になるのです。その辺りを、きちんと突いて記事にしたのは1社ぐらいですね。
工藤:今の田中さんの話は、どういうことですか。税金ではないから、あまり平等とかは考えなくてもいい、ということですか。
田中:分配の仕方が、こっちの自治体と、そっちの自治体で違うのは不平等だ、という記事がかなり出ました。もし、自治体にお任せします、あるいは、配分機関が自治体であるか別の団体であるかに関係なく、民間のお金ですから、裁量に任せますというのであれば、Aという自治体と、Bという自治体で分配の仕方が違っていても当然なわけですよ。その辺りが、公的資金と同じように考えられてしまっています。
工藤:それは、メディアだけではなくて、実際にそうだからですよね。今の赤十字や共同募金会がやっている義援金の分配の仕方は、バラツキがあったらいけないのでしょう。
阿部:例えば、過去の災害でも、災害の度に義援金募集ということをやりますから、どうしても災害の規模によって、集まるお金が違いますから、一人ひとりにいく見舞い金の額は違ってきます。ですから、今回は、3000億円とか3500億円以上の義援金が集まっていますけど、被災されている方の数が圧倒的に多い。ということは、一人あたりは当然ながら少なくなってきます。
工藤:ということは、ある地域においては、罹災証明とか、ある程度のことがわかって、配布できる段階にきても、全体的な配分方針については、その後、どれぐらいの被害規模かという実態がわからなければ決まらないから、ここは配分できるのだけど、全部が決まらないから一斉に届けられない、ということではないのですか。
阿部:それはないです。それは、自治体ごとに体制が整えられれば、1日でも早くということで、自治体の皆さんもお配りしています。
支援金の問題点はどこにあるか
工藤:この義援金の問題はこれでいいですか。義援金の話については、今後、総括をして、新しい議論が始まることを期待します。
次に、支援金の話なのですが、さっき山岡さんがおっしゃっていましたが、偏在はある意味で当然なのだ、と。それは確かにそうだと思います。でも、問題なのは、今、寄付金が集まっているところは、当然出されるべき団体だったのかと。つまり、多くの人から見れば、どこに寄付をしたらいいか、ほとんどわからないのだと思います。すると、何となく昔からやっていそうなところとか、そういうところにお金を集まってしまう。本当は、ある程度の情報があった上で、その中でちゃんとやっているという実績があるところに寄付金が集まる、ということで偏在があるというのとは少し違うような気がするのですが、どうでしょうか。
山岡:民間の支援金のお金の流れとしていくつかあります。大抵、1つの団体から1つの団体、あるいは個人から個人へいくということもありますけど、ほとんどの場合、どこか中間団体を通すわけです。資金仲介団体、我々NPOセンターとか、共同募金会とかそういう中間支援組織を通したお金が150億円から200億円ぐらいあると思います。それ以外に、企業は企業から直接、色々なところに配って歩いている、ということもあります。また、私はあの団体が大事だと思うから、その団体に寄付しますというように、仲介団体を通さずに寄付をすることがある。そのうち、仲介団体を通さないでやる寄付は、メッセージを発信していない団体に行きようがない。ですから、メッセージの発信力が強くて、その活動に対して魅力と信頼性がある、というところに行ってしまう。ですから、情報も発信していません、やっている活動も魅力的かどうかわかりません、というところの人が、どうしてうちの団体には寄付がこないのですか、と言っても仕方がないですよね。そういう意味で、直接寄付を行うものについては、僕は情報発信力の有無というのは非常に大きいと思います。
一方で、資金仲介組織は、できるだけ直接寄付が集まらなさそうなところにする。ホームページを持っていないから発信もしていない、だけど、足まめに現地に通っていると、ぶつかってくる団体があるわけです。そこは、どこからも直接寄付がされているわけではないけど、この活動は重要だなと思ったら、僕らは助成をするわけです。ですから、中間支援の団体の役割は、そうしたところを相当カバーできるかどうかだと思います。
資金仲介組織が日本では育っていない。今まで、平常時から資金仲介組織の専門性を高めるようなものが、日本にはない。コミュニティファンデーションもほとんど育っていない、ましてや、そこに専属のスタッフがいるわけでもない。平常時にきちんとした資金仲介のプロが育っていないから、非常時になかなかその機能が果たせない、ということですね。偏在というか、適切かどうかという問題はあるかもしれないけど、仲介組織は多くの場合、できるだけ直接寄付がいかないような団体を見つけ出して、そこに助成するというところに、喜びと誇りを持っているわけです。そのためには、相当な時間もかかれば、人件費もかかるということなのです。
支援金の90%が3団体に集中した背景
工藤:今の議論の前提として、言論スタジオを見ている皆さんはわからないと思うのですが、阪神・淡路大震災の時には、NPO法もありませんでしたから、今回、初めてこういう支援金という形が出た、と。そのため、支援金の使い方というのは、かなり新しい大きなテーマだと思います。さっき、田中さんの説明で気になったことがあって、それについては後から説明してもらいたいのですが、日本には4万4000団体ぐらいNPOがあります。そのNPOが全部いいかは分かりませんが、3団体で支援金の90%ということでした。これは、共感するところに集まるというレベルではない気がしています。その寄付がどういう風に使われたかということは、ちゃんと分かっているのですか。
田中:ある程度公開されているのですが、何と言っても、一番集まったのはジャパン・プラットフォームでした。そこがどういう風に使ったのか、ということは見えています。元々、ジャパン・プラットフォームというのは、メンバー団体があって、海外で救援活動をするNGOに対して、企業や外務省からのお金を集めて、すぐにお金を仲介するという仕組みです。ここにお金が集まったときに、結局、65億円集めた内の40億円以上を、そのメンバー団体の20団体ぐらいに分配しています。残りの15億円をそうではない、外の団体に助成金として公募をして、配るという形にしました。ですから、より多くのものを発掘するという、仲介のタイプとはまた違ったかな、と思います。
工藤:さっき、山岡さんが言っていたのは、仲介的な役割が必要だ、と。一方で、今、田中さんが言っているような身内で分配するような話は、いいのですか。
田中:ですから、今言ったように、色々な団体を発掘して、そこに助成をするというよりは、既存の知っているメンバーの団体に10億円という単位で分配していますから、もう少しやり方があっただろうし、特に、緊急救援の場合には、短時間のうちに使ってください、という条件付きになってしまいます。そうすると、慌てて使わなければいけないということで、そこはもう少し有効な使い方があったのではないかと思います。
工藤:わかりました。今の話は重要なので続けますが、その前に休息をいれます。
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第3部:市民社会が大きく根付く転機になるか
工藤:今、本質的な議論になりかけたのですが、この問題でもアンケートをやってみたので、少し紹介してみたいと思います。「寄付者が寄付を受けた人から、このように使いましたという明確な反応があり、役立ててもらえたという実感が伝わると、良いと思います。寄付者が寄付を受けてどこにどのように使われたか分からない、いつになっても自分たちの寄付が寄付者に渡らないし、被災者が困っている状況が長く続くと、不信感が出て、寄付をしてもどう使われるのかわからないという気持ちになる」という意見でした。つまり、寄付者からみると、被災地のために使ってほしいわけです。それが、ちゃんと使われたかどうかわからないけど、仲間内だけでやるみたいな話でもいいのですが、その場合は、何のためにやっているか、ということが、ちゃんと寄付者には説明されなければいけませんよね。
田中:そうですね。個別の攻撃をするわけではないのですが、ジャパン・プラットフォームって、名前が分かりやすいのですよ。私の友達も、随分寄付をしているのですが、元々この仕組みが、メンバーとして登録している団体に対して分配をするという団体でしたから、それに則って40億円以上を20団体で分配したのですが、多分、寄付をした人は知らないと思います。
工藤:確かに、ジャパン・プラットフォーム、日本財団、中央募金会とか、日本を代表しているようなところに集まるというのは、その実績があるからだとは思うのですが、誰が、本当に、被災地のために何をするか、ということがなかなか見えない状況にあるのかな、と。今回、初めての先例かもしれませんが、そういう段階において、今の偏在という問題が生じてきているような気がするのですが、その辺りはどうなのでしょうか。阿部さん、いかがでしょうか。
助成金に寄付者のメッセージを添える
阿部:先程の山岡さんの話ではないのですが、私たちも、最初に申し上げた通り、NPOサポート募金ということで、被災地で活動しているボランティアの皆さんとか、NPOの皆さんのための活動のための支援金の募集を初めて行いました。それから、助成をするというのも初めてなのですね。本当にこれは大変なことだな、と実感しています。先週、第4回目の助成を決定して、今、ホームページに掲載していますが、8カ月間で4回の助成というのは、2カ月に1回助成を決めていっているのですね。やはり、一番気をつけているのは、皆さんに情報をどれだけガラス張りにしてお届けできるか、ということですから、配分委員会でどのような議論があったのかということを公表しています。それから、当然、どの団体に幾らの助成額で、その団体はどこで活動しているのか、本部はどこなのか、という情報も全て公表しています。
もう1つ気をつけていることは、教えてもらいながら実践していることですが、助成先の団体に色々なお知らせをしていきますが、その時に寄付者の思いも感じていただきたいなということで、寄付者からのメッセージも付けて助成先に一緒に届けるわけです。ですから、中間組織の機能としては、単に助成を決めるだけではなく、寄付者の皆さん、被災地の皆さん、それから活動する団体の間に、何とか循環をつくっていければなと思っています。
工藤:山岡さん、3つの団体に90%ぐらいの支援金が集まっているという現状がありますよね。山岡さんのところは7番目で1.3億円位なのですが、さきほど、本当にきめ細かく見て助成していくのは、1億円ぐらいが限界だとおっしゃっていましたよね。でも、3団体に90%ぐらい突出して集まるというこの構造をどう思いますか。
寄付が集まるのはいい、ただ配り方に問題あり
山岡:義援金に比べたら、150億円と言っても、10分の1以下の額でしょ。だから、その中で偏在しても、みんなが100億円位集めてもいいわけで、集まってはいけないということではないと思います。おそらく、ジャパン・プラットフォームも、こんなに集まるとは思っていなかったと思います。わかりやすかったから、企業からの寄付が多く集まった、たまたま集まってしまったわけです。集まったらいけないというと、寄付文化は育たない。僕は集めるところは大いに集めて、今度何かあった時は、うちも100億円ぐらい集めるぞということでいい。集めたからいけなかった、ということではないと思います。ただ、配り方の訓練がされていませんから、その問題は重要だと思います。
工藤:多分、私が言っている意見は、1人、2人ではなくて、ほとんどの人がそういう指摘をしています。先のアンケートでも、「寄付金が集まらなかった団体は、寄付をする側が信頼するに足る団体かどうかの判断ができないことが大きなネックになったのではないでしょうか。日ごろの活動や活動報告を通じて胡散臭い団体でないと認識してもらう努力が必要だと思います」という意見もありました。
山岡:そこは難しくて、何をもっていいことかというのは難しいですよね。僕らも助成はしたいのですが、ここはアカウンタビリティがあって、本当に報告書を書いてくれるかな、と。応募書類も書けないぐらいの団体は沢山あるわけです。だけど、そこはお金が必要なのですね。だから、本当は、アカウンタビリティを厳しく問うとなると、一定の団体に限られてしまう。そこまでアカウンタビリティが問われると、こんな100億、200億円のお金は使い切れません。
工藤:今の話は凄く本質的な話なのですが、その話にしてしまうと、NPOそのものの話になってしまうので、まず話を分けてみますと、お金をもらった団体のアカウンタビリティというのは、これまでを評価して、適切だと判断していますか。
山岡:僕らは助成を決定したというアカウンタビリティは出せるわけです。大体、半年か1年経って報告書が送られてくるわけです。本当に助成をもらった団体が何をしたか、というのは半年後か1年後と、活動期間が終わらないとわからないわけです。だから、我々がどこに助成をしたか、ということははっきり出しています。その団体が、どういう団体で、どういうプロジェクトに出したのか、ということは、ジャパン・プラットフォームにしてもはっきりしていると思います。ただ、出した先がきちんと使ったどうか、ということは、まだ報告をもらっていないから、今後の話になります。
工藤:今の話について、田中さんどうでしょうか。
寄付を受けたら、1週間後には返事を出す
田中:今、仲介の話をされたのですが、私は、難民を助ける会の監事をやっているのですが、ここも10億円単位で寄付を集めましたが、ここは、寄付を頂いてから1週間でお返事を書く。そして、毎月、1枚でも短くてもいいから、何にいくら使いましたという報告書を必ず出すことを鉄則にしています。それは、私たちというか、メンバーの中では、寄付をいただいたのだから、それが当然というか、義務だと思っています。
工藤:それは、今回の為だけではなくて、日常的にやっていたわけでしょ。
田中:ですから、そういうことが組織の中でルール化されていますから、今回も大変な額が集まっていますが、そこはボランティアが総動員で手紙を書き、送るということを必ずやっています。
工藤:そういう形でみなさんのところもやっているのですか。
山岡:私どもは月例報告ということで、毎月出しています。
工藤:共同募金会のほうはどうですか。
共同募金会は5名以上のグループを対象に助成
阿部:私ども、Facebookでも公式のページをつくりましたし、通常のホームページにも掲載しています。また、寄付者の方からのメッセージは極力載せたいなと思っています。今のアカウンタビリティの話なのですが、例えば、山岡さんのところの日本NPOセンターですと、NPO法人や中間支援系、任意団体も含めてだと思います。私どもは、5名以上のグループからが対象で、過去のレスキュー、要するに緊急救援の活動であっても、遡って応募ができるようにしています。ですから、本当に会則も今はない、というグループがあったりするわけです。でも、そこには会則をちゃんとつくってください、とかいうことの相談にも応じながら、やらせてもらっています。ですから、少し入門的なところもあります。どうしてかというと、今回、ボランティアが行くところと、あまり行かないところというのが地域によってはっきりしていて、なるべくボランティアに行っていただきたいということで、5名以上を対象にしています。
これから、市民社会とかを考えていったときに、少しずつ、助成金を受けるときに、どんな作業が必要なのかとか、組織としては何を考えていかなければいけないのか、ということも合わせて、活動を支援する側は考えていく必要があるのかな、ということを模索しながらやっています。
工藤:今の話も重要なのですが、その前に山岡さんが言っていた話が気になりました。お金を出したくても、まともにやれる団体というのはまだまだ限られている。さっきの話でも、報告書を出すのは当たり前だと思うけど、出せるのかなというところにお金を出して、逆に大丈夫かなと思いませんか。
山岡:赤い羽根の方がもっと苦労していると思います。5人でつくった任意団体に助成して、本当に1年後に報告書がくるかどうかというのは、実際問題としてはありますよね。
阿部:信じています。
工藤:1年後にいなくなってしまうかもしれませんよね。
山岡:現地に行けば、やってみて、うまくいかなかった活動は山のようにあるわけです。だから、アカウンタビリティをあまり厳しく言ったら、大きい団体しか使いこなせないと思います。
工藤:この状況をどう考えればいいのでしょうか。NPOで言うと、4万団体以上あるのですが。
仲介団体は助成先を育てていく必要がある
田中:山岡さん、阿部さんだけではなく、私も、仲介だとか助成をやろうとしている団体の悩み、つまり、助成をしたくても、いい助成先がみつからないという話は、何度か聞いています。これは震災に始まっているという面はありますが、それ以前から日本の市民社会組織の課題があると思っています。それは、寄付を集めるということに対して、あまりにも慣れていない。今年の3月に、内閣府から出たNPOの調査では、7割が寄付金は0円だと計上しています。やはり、寄付を集めるとなると、今言ったように、寄付者に対して説明をしなければいけなくて、自ずとアカウンタビリティについて自分で考えなければいけないということになります。結局、寄付を通して、寄付者と対話をし、自分達の能力を上げていくという、鍛えられるところが、この十何年弱かった側面があると思います。ですから、私は仲介や助成の機能を育てていくと同時に、助成金や寄付金に耐えられるNPO、あるいはそういった団体が増えるよう、助成先を一緒に育てていかないと、いけないのではないかと思います。
工藤:今の話も凄く重要です。つまり、山岡さんのところは、きちんときめ細かなところまで判断していくと、1億円ぐらいが組織として限界だということですね。すると、阿部さんのところは30億円ぐらいやっているわけですから、かなり大変ですよね。確かに、寄付を使って地域の課題にちゃんと対応してやっていく動きを促進する可能性はあるのですが、うまくいかない場合もありますよね。そういう場合、寄付者と助成先の人たちを鍛えるということを、どういう風につなげていくことになるのでしょうか。
現地の被災者が望んでいる活動か、否か
阿部:短期と中長期に分かれていまして、1ヵ月未満の活動は、終わった活動のみ応募を受け付けています。ですから、必ずやっている活動なのです。ですから、そこからは、初めから活動報告のようなスタイルで応募書類がくるのです。これからやる活動に関しても、中長期で応援しています。ですから、今の話だと、これからの活動を含めてなのですが、多分、一番のポイントは、自分達が活動したいという思いと、現地の被災された皆さんその活動を望んでいるのか、このギャップがあるのか、ないのか。もしギャップがあるとしたら、どのように埋めるのか。ここが助成する側としては、一番難しいですね。
工藤:また本質的な話が出てきました。上から目線ではないのですが、こちらの視点ではなくて、被災地に本当に必要なものでないといけませんよね。
山岡:僕らは、現地NPOに限っているからいいのだけど、外から入ってくる例で言えばそうですね。7、8割は外からの団体ですからね。外からの場合は、本人はいいと思ってやっているのだけど、本当にうまくいくのかな、というのはあるかもしれません。だけど、それを全部切っていては何も起こりませんから、やってみたらいいのではないの、ということは沢山あると思うので、その塩梅をどうするかですね。
工藤:しかし、難しいですよね。寄付者は何かをしたいと思って、金持ちではない人も出しているわけですから、その寄付者の思いに応えなければいけない。つまり、大金持ちが、「あなた、これやってみなさい」というのとは違いますよね。だから、その問題をどうやって折り合いをつけていくか。
阿部:ですから、地元のみなさんが、これからグループを作り、地元の中で、地元の皆さんに対して活動をしていくのを、どうやって応援できるか、というところかなと思っています。
寄付の文化は日本に根付くか
工藤:アンケートの最後の設問で、これを機会に寄付文化が日本でも根付いていくのかということで質問してみました。やはり、意見が分かれました。サンプル数が少ないということもありますが、「根付いていく」という人が30%で、「根付かない」という人も同じぐらいです。やはり、寄付におけるルールやアカウンタビリティ、信頼性など色々な問題に関して、まだまだ疑心暗鬼な人が多い、と。同時に、社会でもう少しNPOなどの団体も知られていかないといけない。全然、姿が見えない状況で、何かの時に急にしっかりとした団体を見つけると言っても大変ですよね。その辺りはどうでしょうか。
田中:おっしゃる通りで、私は、日本の非営利セクターというのは、ある意味、非常に恵まれていると思います。制度環境についても、今回の改正で税額控除が入ったり、あるいは、公的な形で研修の機会が沢山あったと思います。ある種、外堀は埋められてきたのですが、今度は、自分達で自分達を磨き上げて、外に発信や説明をするという力を、自分達の活動の中から身に付けていかないとダメだろうと思います。
工藤:そういうNPOが出てこなければダメですよね。それで、僕らはエクセレントなNPOになるための評価基準を公表しているのですが、それを田中さん簡単に説明してくれますか。。
田中:ここにいらっしゃる山岡先生にもご参加いただきましたし、言論NPOの皆さんにも色々とご参加いただきながら、実践者と研究者で3年間かけて、優れた活動とは何なのか、信頼できる団体とは何なのか、ということを議論しまして、名前はちょっと恥ずかしいのですが、エクセレントをめざす団体になろうということで、33の基準を作っています。これも1つの見えるための仕組み、あるいは信頼を得るための1つの内発的な試みではないかなと思います。
工藤:確かに、今回はあまり批判ばかりしてもよくないと思っています。ただ、ここまで多くの皆さんの善意の寄付が集まって、その中で市民社会が大きくなる1つの転機になるような段階にきているわけです。これを機会に、寄付の問題についても考えていくことは必要だと思っています。
最後に、皆さんから一言いただいて、終わりにしたいと思います。山岡さんどうでしょうか。
山岡:やはり、時間の偏在が大きいのですよ。瞬間的に集まったものを直ぐに使わないといけない、とすると、みんなもの凄く雑な使い方になってしまう。僕らは企業からも色々な寄付をもらうのですが、1年でもらっても、これはとにかく5年間で使わせてください、と。あるいは、5年間に分けてくださいと言っています。これからは、一定程度、持続して必要になってくるわけです。だから、義捐金には、瞬間的に集まったお金を、瞬間的に使わなければいけないというところはあるのですが、支援金については、僕は必要に応じて使わせてください、と。その時間の偏在をならす文化を創っておかないといけないと思います。
阿部:さっきも申し上げたのですが、寄付者の皆さん、被災地の皆さん、それから活動団体をどうやってお伝えできるか。伝わるようにできるのか、ということが助成金を扱う仲介組織には求められていると思いますので、そこはがんばっていきたいな、と思います。
寄付は寄付者にとっては活動への参加である
田中:確かに、寄付は活動資金なのですが、寄付をする側にとっては参加なのですね。これは市民参加のとても重要な回路だということを申し上げたいと思います。
工藤:そろそろ時間になりました。今日は、義援金、支援金についてきちんと議論したいということで、ご参加いただきました。ありがとうございました。
一同:ありがとうございました。
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2011年11月14日(月)収録
出演者:
阿部陽一郎氏(中央共同募金会広報企画副部長)
田中弥生氏(大学評価・学位授与機構准教授)
山岡義典氏(日本NPOセンター代表理事)
司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)
まず代表工藤は、「東日本大震災から8ヶ月が経ち、多くの支援が被災地に集まった一方で、多くの義援金の使われ方が適切だったのか、支援金も一部の団体に集まり,寄付の偏在が明らかになっている。またどこに寄附をすればいいかわからなかった、という声も聞く。こうした状況をどう考え改善に結びつけていけばいいのか」と問題提起、今回は、①東日本大震災に対する支援の実態はどのようなものだったのか、②義援金や支援金の使われ方や、寄附の偏在に関する問題、③こうした状況を改善するにはどうすれば良いのか、についての議論がなされました。
第一のこれまでの支援の実態について、田中氏は寄附の動向を大きな流れで見ると、今回の震災を機に一気に寄付額は増加したと指摘しつつも、「被災地への見舞金となる赤十字等を通す義援金は3,500億円ほど集まったが、NPO等への支援金は300億円でその9割が3団体に集中している」と義援金と支援金、そして支援金内に大きな隔たりがあると説明、義援金や支援金を受け入れた中央共同募金会の阿部氏は、義援金が377億円、支援金が30億円との募金実績を明らかにすると同時に、義援金はそのまま被災地に渡しているもので、募金会の人件費などは一切使われていない、などその経緯を詳細に、説明しました。
また、山岡氏は、日本NPOセンターは「支援先を十分判断するためには一億円程度が対応の限界と判断した」と語り、数十億円単位の支援金が3団体に集中していることに問題を投げかけながら、「ただ共感を集める団体に寄付が偏在するのは当然」と語りました。
また、この間明らかになった問題として、「義援金の遅配。被災者のみならず、寄付者からも声が上がった」(田中氏)、「義援金と支援金の違いが分かるのに非常に時間がかかった」(山岡氏)などが挙げられました。
第二の点の義援金や支援金の使われ方に関して、阿部氏は義援金が罹災証明に基づいて行政が被災者に送金する仕組みになっていることを説明、しっかりとした検証が今後必要であることを前提とした上で、「震災規模があまりにも大きく、自治体自体が被害を受けていた」として、迅速に対応することの難しさを述べました。一方、募金側/助成側の課題として、田中氏が「災害対応に際しての募金に経費や管理費が含まれることもあらかじめ説明し、最初にきちんと伝えるべきではないか」と述べると、山岡氏もこの点について「責任をもって資金を配分するとなると、現地にも赴いて調査するといったことも必要。きちんとした助成にはそれなりの管理費が不可欠だ」と主張しました。偏在に対しては、工藤から再度、「今の現象は共感以前の問題ではないのか、つまりNPOの活動の姿が市民に見えておらずその努力も怠ってきた。選ばれた団体も名前が日本を代表している名前になっている程度でその活動内容を知った上での判断なのか。事実,市民はどこに寄付すればいいの、分からない、という声がかなりアンケートでもあった」と問題提起がなされ,これに対して参加者からは、「支援金というのは今回初めての問われたものでまだ十分ではないが、それがどのように使われたの、か、十分に吟味する必要がある」「NPO自体の日頃の活動が問われており,残念ながら多くのNPOが報告書も出せるのか、そのレベルにある」などの厳しい意見も出ました。
さらに山岡氏は、そうしたNPOを見分ける資金仲介組織には平常時から仲介のプロが育っていなければいけないと述べると共に、「資金仲介組織を通さない支援金については、メッセージを発していない組織にはどうしても出せない。組織自身にも発信力が必要」と資金を受ける側の課題も強く指摘しました。
最後にこうした状況を改善するための方策について議論が及ぶと、山岡氏は「瞬間的に集まったものを瞬間的に使うべきという考えだと、使い方がどうしても雑になってしまう」と述べて、時間の偏在を慣らす文化を醸成していく必要があるとしました。資金仲介組織の当事者としての阿部氏は、「今後は、地元の皆さんが作ったグループをいかに支援していくかが課題となる。被災者と寄付者の間になんとか循環を作っていきたい」と述べました。
そして最後に田中氏は、今回議論になった課題が震災に始まったものではなく、寄付を集めるということに対して慣れていない日本の市民社会組織に根本的な課題だと指摘。この課題を乗り越えるための一つの内発的な試みとして「エクセレントNPOを目指す市民会議」が提案している評価基準を紹介し、「非営利セクターを取り巻く制度が整備されてきた今、今度は自らが自らを磨き上げて社会に対する発信力を高める段階だ」と述べ、非営利組織自信の変革が急務との認識を示しました。