まず代表工藤は、「国際社会での日本の存在感が薄れてきていると言われて久しいが、そうした状況を変革し、世界における日本の存在感を高めるために、何を考えなければならないのか。国際社会の最前線で活躍されているお二人にお伺いしたい」と述べ、①世界の中で、今の日本はどう見られているのか、そしてその背景や原因は何なのか、②世界で存在感を持ち、未来に向かって動き出すためにどういったことが必要なのかという二点を論点に、議論が進められました。
第一の点について、外交官として193カ国を歴訪し、2009年11月までユネスコ(国際連合教育科学文化機関)事務局長を務めた松浦氏は、「国際的な問題についてどう考えているかを発信する力が全体的に下がっている」と指摘。「国際的に見て日本の存在感が完全に失われているわけではない」としつつも、「とりわけ世界の知識階級における日本のイメージはどんどん厳しくなっている」と警鐘を鳴らしました。一方、単身渡米し、15年間米国で独立した個人医師としてのキャリアを重ねた黒川氏は、外から日本を見てきた自身の経験から、80年代の"ジャパン・バッシング"、日本の「素通り」を意味する"ジャパン・パッシング"を経て、いまは「日本の発信力が極めて弱く、"ジャパン・ミッシング"の時代だ」と述べました。また、3.11を契機として世界が日本の現場の強さに感動した一方で、「リーダーとなるポストの人々が非常に頼りないことがファクトとして明らかになった」として、日本のエスタブリッシュメントに対する国際社会の評価が厳しいものであることを説明しました。 こうした現状認識を踏まえ、日本が存在感を高めるために何が問われているかについては、松浦氏は「今回の震災に日本国民が忍耐強く対応したことは国際社会でも評価されている」と述べる一方で、「それで安心せず、日本の指導者層がもっとしっかりとした対応を取るためにも、そうした層を突き上げていかなければならない」とし、私たち一人一人が危機意識をもって日本の将来を真剣に考える必要性を訴えました。また、特に若者が国際的な視野を持ち、自分がやってきたことや日本が行なっていることを英語で発信することが重要だとしました。一方の黒川氏は、震災で各分野で明らかになった「弱さ」を認識することがまずは必要だと強調した上で、国際社会におけるプレゼンスを高めるために必要な方策として、①若者が非営利組織や社会的企業家として活躍するための公的な支援システムの構築、②若者の就学中にできる限り外国に留学してもらうための「休学のすすめ」、③女性がより活躍できる環境を整えるために、企業のボードメンバーや大学総長などのポストに女性を意欲的に抜擢すること、の三つを挙げました。
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第1部:ジャパン・ミッシングまで低下した外国の日本観
工藤:こんばんは。言論NPO代表の工藤泰志です。さて、今夜の言論スタジオは、「国際社会から見た日本」というテーマで話をしたいと思います。実は、昨日、私たち言論NPOは10周年を迎えました。10年前、私たちは国際社会の中で日本の存在感が薄れているのではないか、と。姿も顔も見えない、声も聞こえないのではないか、その状況を変えて、日本が未来に向かってきちんと動き出そうということを言論の力でやろうということで、私たちは議論を始めました。さて、それから10年経って、国際社会の中で日本は今どのようにみられ、私たちは世界や、これからの未来のために何を考えなければいけないのかということについて、今日は話をしたいと思います。
まず私の隣は、かつては日本学術会議の会長も務められ、今は政策研究大学院大学の教授をされている黒川清さんです。黒川さん、よろしくお願いします。
黒川:よろしくお願いします。
工藤:そのお隣が、前のユネスコの事務局長で、今は日仏会館の理事長の松浦晃一郎さんです。松浦さん、今日はよろしくお願いします。
松浦:よろしくお願いします。
工藤:それで、今日はお二方の紹介も兼ねながら、第1セッションの議論を進めていきたいと思っております。まずは黒川さんですが、私は黒川さんのことをよく知っているのですが、東大の医学部を出て、それからアメリカに行って、留学だと思ったら、そこに住み込んで勉強されて、最終的にアメリカの大学の医学部の教授をされながら、15年間くらいアメリカにいて日本に戻ってきたのですよね。そして、日本の学術会議のトップの会長になられて、まさに世界をいつも駆け回っているのです。まさに国際社会の中のプロフェッショナルみたいな方なのです。まず黒川さんから見て、自分の経験を踏まえて、世界から今の日本がどう見られているのか、簡単に話していただけますか。
日本の学生は優秀だけど...
黒川:私は確かに今工藤さんが言ったみたいに、15年、医者としてアメリカにいました。最初は2、3年研究したら帰ってくるつもりでいたのですけれども、面白いからそのままいてしまったのです。行ってみると、自分の根元がなくなってしまうわけですから、完全に独立した個人です。そうすると競争相手は、向こうのお医者さんです。そうなると私は資格もないから、30代半ばから猛烈に勉強してというか、いろいろな書類を出して受けさせてもらう。とにかく、カリフォルニア州の医師免許、それからアメリカの内科専門医の資格とか、腎臓内科の専門医の資格を全部取りました。それで初めて本当に競争できるわけです。その間に4回場所を変わって、最終的にはUCLAの内科の教授になりました。その時ちょうど10年でした。アメリカはやはりフェアだなと思ったのは、自分が頑張り、それなりにクオリファイされれば、そいいう生き方もできる、からです。非常にハッピーでした。
アメリカに15年いて、日本でも「そういう人が必要だよ」なんて友達に誘われて、日本では教授にはしてくれないから、米国では現役の内科の教授でしたが、東大の助教授で帰りました。帰ってきて私が感じたことは、日本の学生はすごく優秀で、どこにも負けないよ、と。だけれども、社会に出て、医者でも皆そうですけど、30代半ば過ぎると、皆、眼が曇っているような、元気がなくなる。それはよくないなと思って、いろいろな教育が一番大事だと思って、そのころから、もっぱら、将来の1つとして、外を見せる、つまり私のいろいろな講義や何かもそうだけれど、できるだけアメリカやイギリスの友達とか、いろいろな人たちを呼んできて一緒にやろうというような話をずいぶんとやっていたので、東大教授にもなりました。
実際は言ってみても何も変わらないということで、定年前にちょうど良い話があったので、東海大学医学部長として移って、そこでいろいろなことをやらせてもらって、そのあと、学術会議の会長に選ばれた。ちょうど法律改正という節目の時でしたね。私は20数年前に帰ったのだけれど、やっていること、言っていること、書いていること、全てが変わっていません。世の中が変わったので、私がそういうふうな人であること、それが普通だなということになったのではないでしょうか。海外に行くと変な日本人といわれているのだけれども。
工藤:僕は黒川さんと10年前にお会いしたのですけれど、全然、見かけが変わっていませんよね。何でこう若いのだろうと思うのですけど。またあとから聞きます。
続いて、松浦さんにうかがいます。著書『国際人のすすめ』を私も読みました。大使を含めて15年間パリにいて、ユネスコの事務総長にもなった。まさに競争と投票ですよね。日本のスタッフを連れて行かなくて、まさに1人でというか、ユネスコの改革をやって日本に戻ってきた。これもまたすごいと思ったのですが、日本に帰ってきて、国際社会から見た日本、どんなふうに思っていますか。
過去10年、日本の海外への発信力は下がっている
松浦:非常に残念ですけれども、最初、工藤さんが言われたように、言論NPOの立ち上げ以来から、本当にいいタイミングで立ち上げられたと思うのですが、日本の発信力は、この10年、いろいろな方のご努力にもかかわらず、下がってきています。
日本社会で今、大きな、いろいろな問題を抱えている。政治家も、経済界の人も、申し訳ないけれど学者のかなりの方も、そういう国内の問題をどう解決するかということに重点を置いています。もちろん、それぞれの国内の問題は外国の問題と関連があるわけですけれども、それを国際社会に発信する、それも単に日本が色々抱えている問題について発信するのではなくて、国際的な問題について日本がどう考えているかということをしっかり発信しなくてはいけない。それに加え、残念ながらこの10年、全体として発信力が下がっている。10年間、私はユネスコの事務局長として世界中を飛び回って、190か国以上見ましたけれども、残念ながらこれが私の結論です。
ただ、それに付け足したいのは、日本の一般的なイメージはまだまだ良いです。私はユネスコの10年の前に、外交官を40年勤めましたけれども、1960年代にさかのぼれば、日本の国際的なイメージは残念ながらよくなかったです。日本はそういう意味で、先進国の仲間入り、それを象徴するOECDに入りましたけれども、当時はまだまだ実態は先進国ではなくて、イメージとしても日本製品というのは「安いけど、質が悪い」、と。いろいろな意味で日本はまだまだ今の言葉でいえば、途上国の一員という感じでした。そうだというふうには当時は言われていませんでしたけれども。ところが色々な方の努力によって、日本の所得倍増、2回の石油危機の克服等で、日本の躍進はGDPでもドイツを追い越して、イメージが非常によくなって、それで90年代はそのイメージで非常に助けられていました。
ところが実態はどんどん悪くなって、発信力も国際的意識も下がっている。イメージは幸いにして残っているのですけど、このイメージはそう長続きするとは思いません。ですから、国内の問題もしっかりと解決してほしいと申しました。ただ、一つひとつ大変ですから、全ては解決できないでしょうけど、そういう国内の問題に取り組みながら、やはり国際問題については、地域の重要な問題も含めてですけれども、日本が自分の考えをしっかり海外に発信していくことにもっと力を入れないといけないと思います。
工藤:松浦さんが日本に戻ってきたのはいつですか。
松浦:日本に戻ってきたのは、2010年の初めです。ユネスコの事務局長が終わったのが2009年の終わりです。
工藤:黒川さんはもっと前から日本にいましたよね。
黒川:そうです。1983年の暮れ。大昔です。
工藤:10年前、日本が素通りされたり、日本が地図から消えたとか、そういうことが海外のメディアで言われていました。発信力なり、存在が見えない、と。そのときにこれはまずいと思ったのですが、それから10年、日本はどんどん内向きの、改革が逆にできなくなって後退していたのですが、黒川さんはまさにその時に日本に戻っていらっしゃった。日本はどうですか。変わったというのは、どんどん逆にまずくなったってことですか。
最近はジャパン・ミッシングに
黒川:会社の出張で10年いても、それは常に本社を見ているわけです。個人の資格で海外に長く生活している人が少ないのです。個人の資格というのは、他の競争相手と比べられるわけだから、そうすると、突然みんな日本人だから日本のことが外からよく見えるのです。僕が行っている頃は、ベトナム戦争が終わったとか、ボートピープルを何で日本人は受け入れないのか、向こうから見ていると、どう見たって日本はアジアの一部なのに、何でアジア人に対してこう冷たいのかって思うではないですか。日本に帰ってきてみると、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」になっているでしょ。だから、それで、ジャパン・バッシングが起こったわけです。デトロイトで車を叩き割ったりとかして。
だけど、90年になって冷戦が終わって、91年、いまからちょうど20年前、インターネットが「www(ワールド・ワイド・ウェブ)」で皆つながり始めた。その時、日本はコンピュータをつくっていたのだけど、その変化に気がつかなかったのです。それまで成功していたので、だんだん90年代から工藤さんの始めたころまでの間に、ジャパンパッシングになったのです。新しい技術が出てきて、どんどんアジアも成長してきて、特に台湾とかが上がってきたのが90年代。21世紀になったらば、もう大きく世界が変わって、その初めに9.11が起こった。日本ではいったい何が起こったかというと、相変わらず保守的というか、それで良いと思って、今までの成功物語に何となく傲慢になってしまった人達がだんだん年功序列で上がってきて、ジャパン・オールモスト・ナッシングになってしまった。イスラムとかクリスチャンとか色々あったけれど、そのあとのここ数年は、日本は世界で2番目のGDPにもかかわらず、ほとんど発信がなくて元気がない。最近は、「どうしたの」と聞いても返事が出てこない。「ジャパンミッシング」になったなと私は思っています。実を言うと数年前に、私は書いたのだけど、こういう状況ですよ、ミッシング。言っても返事がない。
工藤:松浦さん、僕はこの本を読んで、正確には覚えていないのですが、何か日本では「長話をするな」とか、「自慢するな」とか、何か3つくらい先輩に教わった教えがあったと、告白していました。逆に国連、国際組織に行ったら、その反対だとか。つまり日本で松浦さんみたいなサムライの言っていたことが国際社会で通用した。非常に尊敬されたというのがあったではないですか。
日本の官僚の3原則と逆のことをやらねば
松浦:私自身はまさに日本の外交官で、日本の官僚の一員ですから、「長話はするな」、それから「自慢話はするな」、「責任から逃げるな」と、こういう3原則を先輩から教わった。日本の官僚組織ではその通りで、おそらく民間会社もそうだと思いますけど、ともかく国際社会に行くと、話は逆になる。逆に、「長話をしろ」と。長話というのは、本当は表現として適切ではないですけど、やはりしっかりとしたプレゼンテーションをするということが非常に重要になってくる。簡潔に言うのではなくて、自分のポイント、言いたいことをしっかりと言う。もちろんそれは英語なり、外国語でやらなくてはいけませんけど、言いたいことは言う。それから「成功した自慢話をする」となる。これも、裏返しで自慢話をしろということではないけど、やはりしっかり自分がやってきたこと、あるいは日本がしっかりやっていることを説明しなくてはいけない。最後の「責任から逃げるな」も「責任を認めるな」となる。これも私自身も非常にひっかかったし、これはユネスコでは責任をとるということをやって、これは逆に国際社会の一般で言われていることと反することをやったけれども、これは良かった、と。
私の部下が、幹部が責任を取らないことを言うのですよ。私はそこを徹底的に追求しましたけど。とにかく教育担当の事務局長を辞任に追い込んだりしていますけど、私はやはり、責任はしっかりとらせないといけないと思います。
日本に帰ってきて困るのは、今度逆のことをやらなくては、元に戻らなくてはいけないけれど、なかなか元に戻れないという、そこが難しいところです。
工藤:責任をとるというのは、日本の社会でもあまりしませんよね。
3.11で世界がわかった日本の強みと弱み
黒川:実は東日本大震災と福島の原発というのは、特に福島の話は世界に大きなインパクトを与えた。問題は、これにどう対応したかですよ。今のネットの時代も、テレビの時代も、世界中が皆コミュニケートしているときに、あんな大事件に日本の対応、テレビに政府のコメントが出る、日本語でしゃべったってすぐに訳されて、すぐに外に出ますから、世界はそれをみている。その時の国の評価です。そこに出てくる人は皆、政・産・官のトップの人たちでしょう。これで、「ああ、そうなのだ」ということが皆に分かってしまった。日本の強さと弱さがくっきり世界に分かったということです。
工藤:ということは、松浦さんはその意味では、しっかりとした日本の強みを体現された方で...
黒川:強みを体現したというか、ユネスコの事務局長なので、アメリカをユネスコに入れるということをやった。こういう話は国の背景もあるかもしれないけれども、本人の能力ですよ。いったい何が大事かという交渉力を示した。1期の松浦さんがそれを達成された後に再選されたのは、そういう大きなインパクトがあったのだと思います。
工藤:はい、わかりました。これでなんとなく、お二方の人となりが分かったので、次からしっかりした議論に進めたいと思います。
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第2部:問われる日本のエスタブリッシュメント
「存在感を失っていない」63%、「失っている」30%
工藤:議論を続けます。この議論の前に、「国際社会の中で日本は、その存在感を失っているのではないかと言われているけど、どうですか」ということを、言論NPO関係者500人くらいに質問してみたのです。まだ今、回答が来ている最中なので、そこから一部取ってきたのですが、意外に「存在感を失っていない」という声が多く、63%です。「存在感を失っている」というのは、30%なのです。3割が「失っている」と。それからもう1つ設問があって、「あなたは30年後の2041年に日本の国際的な存在感・影響力はどうなっていると思いますか」ということで質問してみました。一番多いのが、「中程度の国だが、影響力の非常に強い国」で33.3%です。「経済大国だ」というのが14.8%でした。そして、「中程度の国だが、何の影響力もない国」というのが18.5%なのです。
僕は少し驚いたのは、この認識は私たちが行っている昨年までの世論調査とは異なる、ことです。私たちは日中対話で世論調査を毎年やっているのですが、昨年、一昨年、圧倒的に多かったのは、「中程度の国だが、影響力のない国」というものでした、日本の国民レベルの認識は。なぜ傾向が変わったのか。
気になって理由を見てみると、やはり皆さんが日本の存在感に幻滅しているのは、やはり政治の問題なのです。「なにも意思決定ができない」とか、「世界の中で外交方針が見えない」とか、やはりそういう声が出ていています。
ちょっとだけ紹介すると、「中国に代表される新興国の経済成長によって、相対的に日本が落ちている」とか、「政治家の政権運営のまずさ、発信力の欠如」ということで存在感を失っているように見えるけれども、やはり「日本の経済力は依然強大」だ、と。それから「日本国民の勤勉性もあるので、発信力を高めれば日本の存在感を示すことができるのではないか」と。あとは、「EUその他が苦悩しているという状況の中で、相対的にそういうふうに思い始めた。これをどう思いますか。黒川さんから。
エスタブリッシュメントは頼りにならないことが明らかに
黒川:私は今度の3・11で日本のいろいろなことが衰退していくような気がしています。この20年間GDPが増えていないのは日本だけで、リーマンの後は世界中がファイナンシャル・クライシスになって、エコノミー・グロウス(経済成長)が出てこない。それで、中国とか、BRICsの話があるにしても、例えば3年前、4年前に今の様なアメリカとEUのファイナンシャル・クライシスが来るなんて、だれも思っていなかったと思います。突然こうなったのは一体なぜかというのは、皆考えているとは思うのだけど。ただその時に、今日本が円高になったり、色々なことがあって、それも色々なことを評論家が言っていたのだけれど、実を言うとこの3・11ということで、世界が一気に日本のことをたくさん見たわけでしょう。
その時明らかに見えたのは、まず政府の対応のまずさ。何も決断できない。もう1つは、原発問題というのがあるのに、東京電力が記者会見をしても、言っていることが支離滅裂というか、何を言っているのか分からない、隠しているのではないか。最初の2週間は、テレビに専門家としてインタビューに出てくる人が言っていることは、日本語で言っていても、官房長官の言っている以上のことは出ていない。ということで、日本のエスタブリッシュメント、政治だけではなくて、財界のリーダーと言われる人が、東京電力について何かコメントしましたか。パブリックに向かって言わないでしょう。そういうことを皆見ています。ジャーナリズムが記者クラブだということも皆知っている。そこで学の世界もそうだけれど、皆、エスタブリッシュメントを何か「鉄のトライアングル」のままではないかと思う。
つまり、リーダーとなるようなポストの人が全く頼りないのだということがまず分かってしまった。それから2番目には、「現場の人は素晴らしい」と、そういうことですよ。それで日本の信頼は現場だ、現場は素晴らしいね、と。何の騒動も起こらない、と。すごいじゃないの、それは良いのだけど、全てのヒエラルキーの上の人は全部だめだね、ということがばれたということでしょうね。
工藤:確かにそうですね。「そこはもうどうしようもないな」ということで、そこに期待してもしょうがないから、意外に市民も含めて自分の問題として考えている人が出てきた、とと思います。そういうことに将来の可能性を感じているということはあるかもしれません。松浦さんはどうですか。
忍耐強いだけでなく、行動で指導層を突き上げよ、との指摘も
松浦:今、黒川先生が言われた広い意味でのエスタブリッシュメントのリーダーたちの対応に外国の方々、外国のリーダーのみでなく一般の方が非常にがっかりした。これはその通りだと思う。私もこの3月11日以降、諸外国にずいぶん行きました。そして、いろいろな方とお話ししました。皆さんそこでは異口同音です。ただそこで注意しなければいけないのは、確かに諸外国のマスコミは日本国民、特に被災地の日本国民が非常に秩序正しく対応した、しかも忍耐強く対応したということを褒めてくれています。これは非常にいいことに思うのです。ただ、考えなくてはいけないのは、まさに忍耐強く対応するということは、本来はそういった人たちは、「アラブの春」みたいになれとは言わないけれども、もっと日本のエスタブリッシュメントを突き上げなくてはいけない、と。逆にそれが足りないのではないか、と。ですから、余りにも被災地の方々が秩序正しく忍耐強く対応するから、リーダーたちが安心してしまうわけです。外国からは批判されるけど、国内では批判されない、という格好です。
工藤:僕、青森なのでよくわかります。みんな純粋というか。
外から見た日本のイメージは下降線たどる
松浦:「アラブの春」みたいに、チュニジア、エジプト、ああいうふうに騒ぐ必要があるとは決して思わないけれども、もうちょっとエスタブリッシュメントに対して不満をぶつけていくべきではないかと思います。
そうしないとエスタブリッシュメント側は安心してしまって、しっかりした対応をしないのではないか。こういう不安を私は持ちます。それから、もう1つ申し上げると、このアンケート調査について「存在感を失っているか、いないか」という質問よりも、「日本の存在感が国際的に見て減少しているのか、横ばいなのか、増えているのか」という質問であれば、おそらく減少しているということに異論を唱える人はいないと思います。日本の存在感が失われているというのは、正直に言って、私も言いすぎだと思います。それは、まさに今おっしゃったように、アメリカの一連の危機、EUの一連の危機を見て、それからアラブに火の粉が行っているけど、それでもそういう中で通貨が強くなったのは円だけです。ですから日本は引き続き、政府は大借金だけれども、日本の国としては世界第一の債権大国ですよ。だから、そこで円が強くなっているわけですから、そういう意味で存在感は残念ながら減少している。失っているというのはいくらなんでも言い過ぎだと。ある程度、とり方にもよるのではないかと。
工藤:そうですね。これは設問の失敗があったかもしれません。ではお聞きしますが、 基本的に国際社会から見て、海外に行ったときとか、黒川さんも世界を飛び回っていますけど、日本の顔というか、日本の存在ということが、どんどん小さくなっているなという感じの印象ですか。それとも、まだそれなりですか。
松浦:私の感じは日本の戦後、時間をかけてエスタブリッシュして、一時は「21世紀は日本の世紀だ」といわれて、これはもちろん明らかに間違っていたのだけれども、1回良いイメージができると、結構長続きするのです、幸いに。悪いイメージも、それができると変えるのが大変ですけど。それが続いているけれども、いつまでもそれが続くかといわれれば、疑問があります。いずれにせよ全体として日本は良いイメージがあるけれど、残念ながら下降線であるし、知識階級における日本の評価は残念ながらどんどん下がってきている。ですから、私がイメージしている一般人のイメージは良いけれども下降。それから知識階級の日本を見る目はどんどん厳しくなっている。
工藤:次に、原因なのですけれど、どうしてこういう状況になったと思いますか。また、この状況をどういうふうに私たちは考えなくてはいけませんか。
新卒一括採用や正社員という発想にとらわれている
黒川:それははっきりしているのではないでしょうか。つまり普通の人達は頑張っている。一方で、上に行くほどダメになる。それには理由があるわけで、元々皆頑張る人だったわけですが、エリートになっている人は、今でもそれが続いているのが不思議だけど、大学新卒一括採用でしょう。横に動かないわけでしょう。三菱に入ったら三菱。それで、年功序列、終身雇用だと思っている。そんなことはあり得ないのだけど。だから、そういうメンタリティできていると、中間くらいのポスト、課長から上に行くには、上の人のいうことを聞く。そういう人たちがたまたま上がってきて、それが先に言ったグローバリゼーション、91年に冷戦が終わって、インターネットがつながり始めた後に変われないできたわけでしょう。唯一大きく変わったのは、銀行だけですから。そこでガーンとなったから、皆ショックを受けてしまって、今の40代から50代の人はぐんと身がすくんでいるからでしょう。
工藤:ただ、会社に永久就職というよりも、自分のことで社会のために生きたいとかいう人は結構多い。そうなのだけど、最近また就職が難しいから、多くの若者が正社員をめざすようになっていますね。
黒川:正社員なんて言葉自身が大体ないのです。ふつうはフルタイムかパートタイムです。だけど、正社員や非正規雇用なんてあること自体が戦後の高度成長で作ってきた法律で、それが本当だと思っているから変なのです。
工藤:今の政権はそういう正社員化にこだわっていますが。。
自らの弱さを認識することがすごく大事
黒川:今の政権というか、メディアも含めたエスタブリッシュメントはそういうのを常識だと思っているからおかしいわけです。今度のことでもう1つ見えたのは、「現場の強さ」と、私企業のいろいろなところのサプライチェーンがものすごく頑張ったことです。例えば、ローソンもものすごく頑張ったし、イトーヨーカ堂もそうだけれど、色々な企業がそれなりにすごく頑張りましたよ。だけど、頑張ったところはものすごく皆を感動させて、「これで日本のサプライチェーンは良いのだ」とか言い出したけれど、弱さを認識することはすごく大事なのです。
エスタブリッシュメントのオーガニゼーションでは、皆、強さは言うけれど、「私たちはこれが弱いね」、例えば、「インディペンデントで、海外でキャリアを積んだことがないのだから、よくわからないな」という話を認識すると、初めて、そこで自分がどうやったらいいのかということが分かってくる。だけど、オリンパスみたいなことが起こると、「やっぱりそうだったのか」と皆思うわけではないですか。そういうところが日本の一番問題なのです。
工藤:松浦さん、この前もここに来た方が、日本企業のトップだったのですけど、辞めてイギリスのクリントン財団というNPOに再就職したのです。そうしたら、そこに世界の何千人の優秀な若者が、アフリカの医療支援の設計をしたいとかいうことで、若者も含めて給与が安くても働いて、エリートが社会のために動いている。そういう変化が世界で起きている。その裏側には、統治とか、さまざまなエスタブリッシュメントに対する不信の構造がある、と。それは日本も同じですよね。日本の若い人も含めて、日本にはそういう変化は感じませんでしたか。
国内にいると、居心地がいい日本
松浦:今度15年半ぶりに帰ってきて、まだ2年経ちませんけど、外から見ていると、日本は本当に問題を抱えて大変だ、と。少子化、高齢化、人口減少をはじめとして社会福祉システム機能、政府の赤字は否応なしに増えていっている、と。これに加えて大震災。ところが、帰ってきて生活してみると、居心地がいいのです。15年半前に比べるとマクロの数字は横ばいだけれども、生活の中身は良くなっている。だから日本の人たちが内向きになるというのは、この2年近く生活してみてわかるのです。つまり、私どもが、例えば1950年代に戦後、日本は貧しいし、これからこの日本を良くしなくてはいけないのだという、日本全体を良くする、それが1人ひとりの生活を良くする、そのためには皆が一生懸命働かなくてはいけないのだという危機意識を持っていました。それから、1970年代は石油危機が2回あって、ニクソンショックも2回あり、円高もあり、これを乗り越えるためにみんなが動いていました。しかし、今は、今のままで居心地が良いから、今さら身を粉にして働いて、さらに言えば家庭生活を犠牲にして働こうという気持ちを若い人がもう持たないというのは、分からないでもないですけど、皆がもっと日本の将来について危機意識を持って、世界全体のことももちろん考えてほしいのだけど...。
工藤:だって、危機ですよ。大変ですよ、本当は。
松浦:これを何とかしないといけないのだということを真剣に考えてほしいと思うのです。
工藤:今の松浦さんが言われていることは、かなり当たっているところがあるのだけど、日本は未来に向かっているようには見えませんよね。この国をどうするか、と。そこの問題が非常に見えない状況が続いている。
松浦:そこはさっき東北の大震災に被災地の方が忍耐強い対応、と申し上げました。それ自体は結構だけれども、余りにも日本人は今も結構生活しやすいし、忍耐強いものだから、数字では色々と言われているけれど、今の少子化とか、高齢化とかの問題は、まだ目に見えないです。
工藤:確かに忍耐強いのですけど、しかしお年寄りを含めて確かに復旧・復興が遅れたために、亡くなられた方が結構いらっしゃいますよね。それをかなり深刻に考える風潮もない。
自然災害への危機意識が足りない日本国民
松浦:私は今度の東日本大震災みたいに、もちろん原発は重要ですけど、原発では1人も死んでいないのですが、津波では2万人死んでいるのです。1万5000人なくなって、5000人行方不明ですから、残念ながら全体で2万人。それから、津波対策を今一生懸命やっていますけれど、私はもっと広く震災対策、原発対策もしっかりやってほしいけども、他のところでもこれから起こると言われているのだから、津波対策、地震対策をやる。そういうことで動いていますから良いのですけれど、もっと日本国民が危機意識を持つ。原発は危機意識を、マスコミも、各界も私も持っていますから良いのですけど、どうもこの自然災害に対する危機意識が、2万人も死者・行方不明がいる割には、少し足りないのではないかと思います。
工藤:分かりました。少しまた休息を挟んで、最後のセッションに行きたいと思います。
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第3部:日本の存在感をどうやって高めるか
工藤:最後のセッションの議論を始めます。つまり、日本が今後、存在感をきちんと持って、未来のために動くためには何が必要か、ということなのですが、これについてもアンケートをとってみました。つまり、日本の存在感を高めることは可能なのか、ということで聞いてみたところ、やはり、「可能だ」と回答する人がかなり多くて81.5%でした。それは危機感の問題か、やる気の問題なのか、どちらかはわかりません。その理由をいくつか紹介したいのですが、「当たり前のことをちゃんとやれるような政権になってほしいし、国民もそれを支えるだけの知恵を持つ」という意見とか、「今の「他人任せ」は止めにして一人一人が知恵を出し、発言し、または汗をかかなければ2位、3位どころか、10位とずるずる後退し続け」るだけだとか、「国際的に活躍できる人材をつくっていくしかない」とか、「30年後を見据えて教育システムを改革する」とか、「もともと経済規模だけで、理念を持たない国家で、存在感がなかったということを再認識した上で、これからどうしていくのか、ということを考える段階にきたのではないか」といったように、ポイントをついた意見が、かなり寄せられました。
さて、どういう風にして、日本の存在感をさらに上げていくことができるか、ということをお聞かせください。
学部生のうちに海外に出て、世界を実体験せよ
黒川:多分3つぐらいあると思うのですが、今回、明らかに出てきたのは、そういう動きがあったのですが、やはり社会企業家と言われるような若い人が、NPOをつくりながら、それをサステイナブルにしていこう、ということが東北でもたくさん出ているし、さっき言ったクリントン財団でも若い人が随分出てきています。そういう人たちを、もっともっと支援する。パブリックが、偉いよね、という支援システムをつくっていく。言論NPOもそうなのだけど。2番目は、若い、大学にいる内に、半年でもいいから海外に出ること。これは、グローバルになってきているから、アメリカもイギリスも、元々、リーディングユニバーシティーということで、学部にいる間に海外に出そうということをしています。というのは、世界の問題を実体験として学ばせようということです。そうすると、突然、自分のことを外から見出すので、愛国心も出てくるわけです。この経験があまりにも少ないので、私は授業料を4年分払ったら、5年で自分のカリキュラムをつくろうという、休学の奨めというのをやっています。
新卒にこだわる大企業などはどうしようもないのですが、この間、東京大学が秋卒業を検討します、入試も見直しますというと突然、企業も焦り始める。僕は、東大総長機関説というのを言っているのだけど、言うことが大事なのであって、それだけで動き出すから。そうすると、会社も4月に採用した人と、9月に採用した人の給料をどうするのか、みんな考え出します。でも、それ自体が変革だと思います。もう1つ大事な事は女性です。日本は、あまりにもジェンダー・エンパワーメント・インデックスが、世界の100の国だと半分以下です。やはり、社内重役をつくるにしても、女性をもっと積極的に、意欲的に抜擢することが大事で、世界中はこの10年で猛烈に変わっています。日本は公務員、国会議員は12%ぐらいだと思いますが、明らかに相当遅れています。しかも、企業のボードなんて、ほとんどいません。やはり象徴的な人事をするべきですね。例えば、大学のトップに女性をもってくるとか。私は、東大はそれをやればいいと言っています。
工藤:それ、10年ぐらい前から言っていませんでしたか。
黒川:やれないの。だから、それが1つ。それから、もう1つ凄く大事なことは、こういうムーブメントはあるのですが、リーダーが言っているだけでエグセキュートしないのですよ。だから、企業にしろ、今までのルールだと言って、それが一番問題です。さっき松浦さんが言った通りで、今、これだけの色々なことがあるにもかかわらず、若い人達はもっと怒るべきです。
若い人達が怒ると言うと、インターネットやFacebookやツイッターというけど、なぜチュニジアやエジプトみたいなことが起こらないのか。今、ロンドンでもアメリカでも起こりました。起こらないのは日本だけですよ。このオキュパイ・ウォールストリートというのは10月17日から始まったのですが、これは意外に凄い広がりを持っています。非常にピースフルです。これから、オキュパイ・何とかというのがどんどん出てきて、いずれ「オキュパイ・霞ヶ関」とか、「オキュパイ・国会議事堂」みたいな運動になってくるかと言えば、みんな横並びで、回りを見てから行動するという癖がついてしまっているから多分ならないと思います。ただ、女性の方が早く動き始めるかもしれないな、ということを、私は楽しみにしています。
工藤:松浦さんはどうでしょうか。
国際的な視野で考え、議論せよ、そして発信を
松浦:今、黒川さんがおっしゃられたことには、みんな賛成ですから、ダブらない形で申し上げれば、私は、日本の人々、特に若い人達がもっと国際的な視野を持つという努力をしなければいけないと思います。もちろん、教育は重要ですから、教育でもやっていただきたいけど、これから何年もかけて教育していく、というのでは間に合いません。ですから、既に社会で働いている人も含めて、もっと色々なことについて、国際的な視野で考える。そして、日本語でいいから、みんなで議論をする。どうも、日本の社会は、議論するという慣習が少ないと思います。特に、東大の法学部というのは、大学の先生が講義して、それを一方的に聞いてノートをとっていれば、いい点をとれます。ところが、それではダメなのです。日本の教育も昔に比べれば変わってきていますが、もっと先生と議論するのみならず、学生同士でもしっかりと議論するということが必要だと思います。
官庁もそうですが、大会社などはしっかりとしたヒエラルキーができているから、今度のオリンパス事件がいい例ですが、上が決めたことは、下は変だと思っても矯正しない。矯正したら、社長でもクビになってしまいます。ですから、ヒエラルキーに入ってしまうと、なかなかできないけど、自由に議論をする雰囲気をつくって、ハイランクの上の人たちも、そういうことを認めていく。私はユネスコ時代によく言ったのは、「私が言ったことに対して、反対でもいいから、どんどんチャレンジしてこい」と。ただ、私が最終的にみんなの意見を聞いて決めたら、それは実施して、不満のある人は去ってください、と。その代わり、私が決めたことが間違っていたら、私は責任をとりますということをはっきりと言っていました。そのプロセスでは、みんなで議論をする。だから、会社のトップにしろ、もっと議論をさせなければいけないのに、今度のオリンパス事件は典型的で、上の言ったことをその通り受け入れちゃうというのは、非常に残念です。
日本の国民は忍耐強く、秩序を重んじるという良い面があるのだけど、それが悪い形で出てしまった。それから、3番目は、今は、英語が国際用語になっています。よく言われるように、日本の人たちの英語力は世界でも最低です。しかし、国際的に発信するという時には、英語を使う。具体的に言えば、話して、ディスカッションをする。英語の能力は150カ国中、135番目。アジアでも、韓国は60番台ぐらいですが、中国、ベトナム、インドネシアよりも下です。私は、これは日本人が従順であるということを反映していると思うけど、英語教育の在り方、つまり、重箱の隅をつつくような文法を勉強するのではない。そんなことは、実際に社会に出ると役に立たないのですよ。英語というのはコミュニケーションの手段だから、自分の言いたいことをしっかりと言い、議論し、国際的にも発信するということをやっていかないといけないと思います。
工藤:日本でも、原発問題などを見ていると、これまで当たり前だったということを、生活の視点から、これは違うのではないか、ということに気づき始めていますよね。しかし、自己主張するということに関して、なかなかできない。本来なら、これはちょっとまずいのではないか、という段階にきています。なぜこれが起こらなくて、どうしたら起こってくるのでしょうか。
世代間闘争が若者の芽をつんでいる
黒川:1つは、政治が悪いとか言って、5年間で6人目の首相というのは、とんでもない話だということは、みんな思っているわけです。そういうことを言うけれど、メディアは必ず、それは国民が選んでいるのだと言いますよ。だけど、普段メディアは何をしているのか。今回でわかったことは、あれだけの大事件が起こっているにもかかわらず、メディアはみんな権力の方にすり寄っているだけだ、ということがよくわかりました。しかも、記者クラブという形で、他の人を入れないというのはとんでもない話です。だから、記者クラブのいいところ、ということでディフェンシブに言うけど、大手メディアは本当にみっともないということが分かってしまった。今回のオリンパスの時も、ネットを見ると直ぐにわかるのだけど、ウォールストリートからもどんどんインタビューが出ていました。その時に、「何をやっているの。あなたたちは書かないのか」とある新聞社に電話したら、「何の話です」と言うわけです。そうしたら、あなたたちはオリンパスが記者会見するからその場に行って、言われたことを書いているだけでしょ。それは共同通信がやることで、あなたたちの仕事ではない、ということを言いました。そして、経済紙でも出始めたのは3日後ですよ。そういうセンスでやっていること自体が、ジャーナリストなんていなくて、結局は、みんな会社員だということです。そういう人が辞めずにどんどん仕事ができるというのは、終身雇用という今やない制度にこだわりすぎているということですよね。だから、上の人は、今、逃げ切ろうとしているだけの話で、下の人たちはそれを押しのけようとしているのだけど、そのエネルギーがなかなか大きなものにならない。確かに、日本はグローバリゼーションの経済活動が広がっているのは確かですが、それより世代間の闘争の方がはるかに大きくて、若者の芽を摘んでいるなと私は思います。
工藤:そう考えると、若者の将来はかなり大変ですよね。
黒川:彼等の将来はないかもしれない。凄くまずいですよ。特に女性は。
松浦:私も、まさにそう思います。先程から話題になっている、日本が抱えている諸問題。少子化、高齢化、人口減少、政府の大借金、それからエネルギー問題、元々ある食料問題、こういう一連の問題を一番感じるのは、次の世代、次の若い人達ですよ。私たちの世代は、4人で1人の老人を支えればよかったけど、3人になり、2人になり、将来は1人で2人の老人を支えなければいけないことだってあり得るのです。そういうことは、実際には起こりえないのですね。私よりも今の中年の世代がもっとしっかりしてほしい。そして、今の若い世代ももっと怒りをもって、自分達の抱えている問題をしっかり分析して、それを表現してほしいと思います。
工藤:さっきのアンケートでも、そういうのが2つありました。1つは、「最近の政治は議会闘争ばかりで、年金、医療も費用の負担の話はしているけど、20年、30年後の姿を何も示しておらず、全く、有権者の立ち位置に立っていない」という意見でした。それはまさにそうで、選挙の時にはどうだとか、今の話だけですよね。もう1つは、「私は、この頃思うようになりました。自分は、未来の日本人のために働きたいです」と、40代の人からの意見でした。なので、そういうところから日本の変化が始まりながら、その時々に、我々は自分達の将来と同時に、世界のグローバルアジェンダに、こういうことを考えたいとか、その中で行動するとか、そういう循環が始まれば存在感が上がっていくわけですね。
黒川:それは始まりつつあるのだけど、そのスピードがないと、今まであまりにも変わっていないというか、その抵抗勢力が潰されていたので、そこのところが、急成長する。世界の先進国はみんなファイナンシャル・クライシスでダメになっている。ここを、どういう形で日本が埋められるか、ということです。今、GDPで3位になったけど、インドが急成長しているから、そのうち抜かれると思います。この前、日本で原発関連の6万人のデモがありましたが、あの時に、外国のメディアで20~30人理由なく拘束されたらしいです。後で調べてみてください。そういうことをちょっと聞いたので、調べてみようと思っています。
工藤:メディアの報道も分かれましたよね。
黒川:そういうことは絶対に書かない。
工藤:書かないだけじゃなくて、デモそのものを書かないところもありました。
黒川:この前のデモはさすがに大きくて、NHKのニュースでも出したけど、新聞社がどこ見ているかわかるでしょう。
工藤:そろそろ時間がなくなってきたのですが、この中で若い人達を始めとして、色々な人の成長が問われるのだけど、世界的に国際社会で通用する人物を育てていくためにはどうしたらいいか。体験も交えながら、最後に語っていただければと思います。
その前に、松浦さんに聞きたかったのですが、ユネスコでは、日本の若い世代の人たちがどんどん入って、競争をしているという現象はないのでしょうか。
松浦:それはありました。国連のシステム全体で言えば、日本人の職員は非常に少ないです。分担金に応じた日本人の職員がいないとよく言われます。ところが、幸いにして、ユネスコだけは私がトップになったこともあり、日本国内でビジビリティがあがったこともあったし、多くの人が手を挙げてきて、ユネスコでは分担金に応じたレベルの日本人職員の数になっています。ただ、中身を見ると、ユネスコの場合は英語だけでダメで、フランス語もできないといけません。これが、日本人にとっては厳しいのですが、帰国子女とか若いときから外国でまず英語を学んで、その後フランス語を学んだという女性が圧倒的に多いです。国連本部や他の国連の機関だと英語だけでいいのですが、ユネスコの場合はフランス語ということがあるものだから、入り口の敷居が高いです。ただ、それでも、それを乗り越えて入ってくる日本人の女性、中には何百人との競争に打ち勝って選ばれることがあります。これは非常に嬉しいことです。
工藤:最後に、世界で通用する日本、日本人になるためには何が大事でしょうか。
もっと女性を活用すべきだ
黒川:今の所、女性は終身雇用、単線路線という言葉を信じていないでしょ。だから、女性ははるかにグローバルなパー・キャピタバリューが高い人が沢山いて、非常に能力の高い人が多いですね。しかも、自分でお金を貯めて留学しているから。一方の、男の人は会社か役所に払ってもらって行っているわけです。
工藤:すると、女性に期待しろという結論ですか。
黒川:当たり前ですよ。
松浦:しかし、男性もがんばってほしいですね。
黒川:だから、女性をもっと活用するべきなのですね。ゴールドマンサックスでは、女性をエンパワーメントするだけで、15%GDPが増えると言っています。それは、オランダぐらいのGDPですよ。
工藤:さっき黒川さんがおっしゃった、1年間休学して海外に行くという事は、1つの大きな方法ですね。
黒川:それはもの凄く愛国心を感じるし、日本のいいところと、悪いところ、弱い所が見えてきて、凄くがんばろうとしています。非常に素晴らしいです。
英語でコミュニケーションできる能力を
工藤:松浦さん、一言で、国際社会で通用する日本人になるためには何が大事ですか。
松浦:私は、コミュニケーション能力だと思います。英語でしっかりとコミュニケーションできる能力をつけてほしい。それは、もちろん、さっき申し上げたような一連のことを対応した上での話で、まっさきに英語ありきではありません。やはり、しっかりとした色々な見識を持ち、しっかりとした考えを持っていても、それを英語でコミュニケートできなければ、国際的な発信はできません。
工藤:わかりました。今日の議論はかなり面白かったのですが、明日もこの言論スタジオがあります。明日は、「COP17で問われる課題」ということで、地球温暖化について議論します。明日は、15時半からやりますので、よろしくお願いします。黒川さん、松浦さん、今日はありがとうございました。
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2011年11月22日(火)収録
出演者:
黒川清氏(政策研究大学院大学教授)
松浦晃一郎氏(日仏会館理事長、前ユネスコ事務局長)
司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)
第3部:日本の存在感をどうやって高めるか
工藤:最後のセッションの議論を始めます。つまり、日本が今後、存在感をきちんと持って、未来のために動くためには何が必要か、ということなのですが、これについてもアンケートをとってみました。つまり、日本の存在感を高めることは可能なのか、ということで聞いてみたところ、やはり、「可能だ」と回答する人がかなり多くて81.5%でした。それは危機感の問題か、やる気の問題なのか、どちらかはわかりません。その理由をいくつか紹介したいのですが、「当たり前のことをちゃんとやれるような政権になってほしいし、国民もそれを支えるだけの知恵を持つ」という意見とか、「今の「他人任せ」は止めにして一人一人が知恵を出し、発言し、または汗をかかなければ2位、3位どころか、10位とずるずる後退し続け」るだけだとか、「国際的に活躍できる人材をつくっていくしかない」とか、「30年後を見据えて教育システムを改革する」とか、「もともと経済規模だけで、理念を持たない国家で、存在感がなかったということを再認識した上で、これからどうしていくのか、ということを考える段階にきたのではないか」といったように、ポイントをついた意見が、かなり寄せられました。
さて、どういう風にして、日本の存在感をさらに上げていくことができるか、ということをお聞かせください。
学部生のうちに海外に出て、世界を実体験せよ
黒川:多分3つぐらいあると思うのですが、今回、明らかに出てきたのは、そういう動きがあったのですが、やはり社会企業家と言われるような若い人が、NPOをつくりながら、それをサステイナブルにしていこう、ということが東北でもたくさん出ているし、さっき言ったクリントン財団でも若い人が随分出てきています。そういう人たちを、もっともっと支援する。パブリックが、偉いよね、という支援システムをつくっていく。言論NPOもそうなのだけど。2番目は、若い、大学にいる内に、半年でもいいから海外に出ること。これは、グローバルになってきているから、アメリカもイギリスも、元々、リーディングユニバーシティーということで、学部にいる間に海外に出そうということをしています。というのは、世界の問題を実体験として学ばせようということです。そうすると、突然、自分のことを外から見出すので、愛国心も出てくるわけです。この経験があまりにも少ないので、私は授業料を4年分払ったら、5年で自分のカリキュラムをつくろうという、休学の奨めというのをやっています。
新卒にこだわる大企業などはどうしようもないのですが、この間、東京大学が秋卒業を検討します、入試も見直しますというと突然、企業も焦り始める。僕は、東大総長機関説というのを言っているのだけど、言うことが大事なのであって、それだけで動き出すから。そうすると、会社も4月に採用した人と、9月に採用した人の給料をどうするのか、みんな考え出します。でも、それ自体が変革だと思います。もう1つ大事な事は女性です。日本は、あまりにもジェンダー・エンパワーメント・インデックスが、世界の100の国だと半分以下です。やはり、社内重役をつくるにしても、女性をもっと積極的に、意欲的に抜擢することが大事で、世界中はこの10年で猛烈に変わっています。日本は公務員、国会議員は12%ぐらいだと思いますが、明らかに相当遅れています。しかも、企業のボードなんて、ほとんどいません。やはり象徴的な人事をするべきですね。例えば、大学のトップに女性をもってくるとか。私は、東大はそれをやればいいと言っています。
工藤:それ、10年ぐらい前から言っていませんでしたか。
黒川:やれないの。だから、それが1つ。それから、もう1つ凄く大事なことは、こういうムーブメントはあるのですが、リーダーが言っているだけでエグセキュートしないのですよ。だから、企業にしろ、今までのルールだと言って、それが一番問題です。さっき松浦さんが言った通りで、今、これだけの色々なことがあるにもかかわらず、若い人達はもっと怒るべきです。
若い人達が怒ると言うと、インターネットやFacebookやツイッターというけど、なぜチュニジアやエジプトみたいなことが起こらないのか。今、ロンドンでもアメリカでも起こりました。起こらないのは日本だけですよ。このオキュパイ・ウォールストリートというのは10月17日から始まったのですが、これは意外に凄い広がりを持っています。非常にピースフルです。これから、オキュパイ・何とかというのがどんどん出てきて、いずれ「オキュパイ・霞ヶ関」とか、「オキュパイ・国会議事堂」みたいな運動になってくるかと言えば、みんな横並びで、回りを見てから行動するという癖がついてしまっているから多分ならないと思います。ただ、女性の方が早く動き始めるかもしれないな、ということを、私は楽しみにしています。
工藤:松浦さんはどうでしょうか。
国際的な視野で考え、議論せよ、そして発信を
松浦:今、黒川さんがおっしゃられたことには、みんな賛成ですから、ダブらない形で申し上げれば、私は、日本の人々、特に若い人達がもっと国際的な視野を持つという努力をしなければいけないと思います。もちろん、教育は重要ですから、教育でもやっていただきたいけど、これから何年もかけて教育していく、というのでは間に合いません。ですから、既に社会で働いている人も含めて、もっと色々なことについて、国際的な視野で考える。そして、日本語でいいから、みんなで議論をする。どうも、日本の社会は、議論するという慣習が少ないと思います。特に、東大の法学部というのは、大学の先生が講義して、それを一方的に聞いてノートをとっていれば、いい点をとれます。ところが、それではダメなのです。日本の教育も昔に比べれば変わってきていますが、もっと先生と議論するのみならず、学生同士でもしっかりと議論するということが必要だと思います。
官庁もそうですが、大会社などはしっかりとしたヒエラルキーができているから、今度のオリンパス事件がいい例ですが、上が決めたことは、下は変だと思っても矯正しない。矯正したら、社長でもクビになってしまいます。ですから、ヒエラルキーに入ってしまうと、なかなかできないけど、自由に議論をする雰囲気をつくって、ハイランクの上の人たちも、そういうことを認めていく。私はユネスコ時代によく言ったのは、「私が言ったことに対して、反対でもいいから、どんどんチャレンジしてこい」と。ただ、私が最終的にみんなの意見を聞いて決めたら、それは実施して、不満のある人は去ってください、と。その代わり、私が決めたことが間違っていたら、私は責任をとりますということをはっきりと言っていました。そのプロセスでは、みんなで議論をする。だから、会社のトップにしろ、もっと議論をさせなければいけないのに、今度のオリンパス事件は典型的で、上の言ったことをその通り受け入れちゃうというのは、非常に残念です。
日本の国民は忍耐強く、秩序を重んじるという良い面があるのだけど、それが悪い形で出てしまった。それから、3番目は、今は、英語が国際用語になっています。よく言われるように、日本の人たちの英語力は世界でも最低です。しかし、国際的に発信するという時には、英語を使う。具体的に言えば、話して、ディスカッションをする。英語の能力は150カ国中、135番目。アジアでも、韓国は60番台ぐらいですが、中国、ベトナム、インドネシアよりも下です。私は、これは日本人が従順であるということを反映していると思うけど、英語教育の在り方、つまり、重箱の隅をつつくような文法を勉強するのではない。そんなことは、実際に社会に出ると役に立たないのですよ。英語というのはコミュニケーションの手段だから、自分の言いたいことをしっかりと言い、議論し、国際的にも発信するということをやっていかないといけないと思います。
工藤:日本でも、原発問題などを見ていると、これまで当たり前だったということを、生活の視点から、これは違うのではないか、ということに気づき始めていますよね。しかし、自己主張するということに関して、なかなかできない。本来なら、これはちょっとまずいのではないか、という段階にきています。なぜこれが起こらなくて、どうしたら起こってくるのでしょうか。
世代間闘争が若者の芽をつんでいる
黒川:1つは、政治が悪いとか言って、5年間で6人目の首相というのは、とんでもない話だということは、みんな思っているわけです。そういうことを言うけれど、メディアは必ず、それは国民が選んでいるのだと言いますよ。だけど、普段メディアは何をしているのか。今回でわかったことは、あれだけの大事件が起こっているにもかかわらず、メディアはみんな権力の方にすり寄っているだけだ、ということがよくわかりました。しかも、記者クラブという形で、他の人を入れないというのはとんでもない話です。だから、記者クラブのいいところ、ということでディフェンシブに言うけど、大手メディアは本当にみっともないということが分かってしまった。今回のオリンパスの時も、ネットを見ると直ぐにわかるのだけど、ウォールストリートからもどんどんインタビューが出ていました。その時に、「何をやっているの。あなたたちは書かないのか」とある新聞社に電話したら、「何の話です」と言うわけです。そうしたら、あなたたちはオリンパスが記者会見するからその場に行って、言われたことを書いているだけでしょ。それは共同通信がやることで、あなたたちの仕事ではない、ということを言いました。そして、経済紙でも出始めたのは3日後ですよ。そういうセンスでやっていること自体が、ジャーナリストなんていなくて、結局は、みんな会社員だということです。そういう人が辞めずにどんどん仕事ができるというのは、終身雇用という今やない制度にこだわりすぎているということですよね。だから、上の人は、今、逃げ切ろうとしているだけの話で、下の人たちはそれを押しのけようとしているのだけど、そのエネルギーがなかなか大きなものにならない。確かに、日本はグローバリゼーションの経済活動が広がっているのは確かですが、それより世代間の闘争の方がはるかに大きくて、若者の芽を摘んでいるなと私は思います。
工藤:そう考えると、若者の将来はかなり大変ですよね。
黒川:彼等の将来はないかもしれない。凄くまずいですよ。特に女性は。
松浦:私も、まさにそう思います。先程から話題になっている、日本が抱えている諸問題。少子化、高齢化、人口減少、政府の大借金、それからエネルギー問題、元々ある食料問題、こういう一連の問題を一番感じるのは、次の世代、次の若い人達ですよ。私たちの世代は、4人で1人の老人を支えればよかったけど、3人になり、2人になり、将来は1人で2人の老人を支えなければいけないことだってあり得るのです。そういうことは、実際には起こりえないのですね。私よりも今の中年の世代がもっとしっかりしてほしい。そして、今の若い世代ももっと怒りをもって、自分達の抱えている問題をしっかり分析して、それを表現してほしいと思います。
工藤:さっきのアンケートでも、そういうのが2つありました。1つは、「最近の政治は議会闘争ばかりで、年金、医療も費用の負担の話はしているけど、20年、30年後の姿を何も示しておらず、全く、有権者の立ち位置に立っていない」という意見でした。それはまさにそうで、選挙の時にはどうだとか、今の話だけですよね。もう1つは、「私は、この頃思うようになりました。自分は、未来の日本人のために働きたいです」と、40代の人からの意見でした。なので、そういうところから日本の変化が始まりながら、その時々に、我々は自分達の将来と同時に、世界のグローバルアジェンダに、こういうことを考えたいとか、その中で行動するとか、そういう循環が始まれば存在感が上がっていくわけですね。
黒川:それは始まりつつあるのだけど、そのスピードがないと、今まであまりにも変わっていないというか、その抵抗勢力が潰されていたので、そこのところが、急成長する。世界の先進国はみんなファイナンシャル・クライシスでダメになっている。ここを、どういう形で日本が埋められるか、ということです。今、GDPで3位になったけど、インドが急成長しているから、そのうち抜かれると思います。この前、日本で原発関連の6万人のデモがありましたが、あの時に、外国のメディアで20~30人理由なく拘束されたらしいです。後で調べてみてください。そういうことをちょっと聞いたので、調べてみようと思っています。
工藤:メディアの報道も分かれましたよね。
黒川:そういうことは絶対に書かない。
工藤:書かないだけじゃなくて、デモそのものを書かないところもありました。
黒川:この前のデモはさすがに大きくて、NHKのニュースでも出したけど、新聞社がどこ見ているかわかるでしょう。
工藤:そろそろ時間がなくなってきたのですが、この中で若い人達を始めとして、色々な人の成長が問われるのだけど、世界的に国際社会で通用する人物を育てていくためにはどうしたらいいか。体験も交えながら、最後に語っていただければと思います。
その前に、松浦さんに聞きたかったのですが、ユネスコでは、日本の若い世代の人たちがどんどん入って、競争をしているという現象はないのでしょうか。
松浦:それはありました。国連のシステム全体で言えば、日本人の職員は非常に少ないです。分担金に応じた日本人の職員がいないとよく言われます。ところが、幸いにして、ユネスコだけは私がトップになったこともあり、日本国内でビジビリティがあがったこともあったし、多くの人が手を挙げてきて、ユネスコでは分担金に応じたレベルの日本人職員の数になっています。ただ、中身を見ると、ユネスコの場合は英語だけでダメで、フランス語もできないといけません。これが、日本人にとっては厳しいのですが、帰国子女とか若いときから外国でまず英語を学んで、その後フランス語を学んだという女性が圧倒的に多いです。国連本部や他の国連の機関だと英語だけでいいのですが、ユネスコの場合はフランス語ということがあるものだから、入り口の敷居が高いです。ただ、それでも、それを乗り越えて入ってくる日本人の女性、中には何百人との競争に打ち勝って選ばれることがあります。これは非常に嬉しいことです。
工藤:最後に、世界で通用する日本、日本人になるためには何が大事でしょうか。
もっと女性を活用すべきだ
黒川:今の所、女性は終身雇用、単線路線という言葉を信じていないでしょ。だから、女性ははるかにグローバルなパー・キャピタバリューが高い人が沢山いて、非常に能力の高い人が多いですね。しかも、自分でお金を貯めて留学しているから。一方の、男の人は会社か役所に払ってもらって行っているわけです。
工藤:すると、女性に期待しろという結論ですか。
黒川:当たり前ですよ。
松浦:しかし、男性もがんばってほしいですね。
黒川:だから、女性をもっと活用するべきなのですね。ゴールドマンサックスでは、女性をエンパワーメントするだけで、15%GDPが増えると言っています。それは、オランダぐらいのGDPですよ。
工藤:さっき黒川さんがおっしゃった、1年間休学して海外に行くという事は、1つの大きな方法ですね。
黒川:それはもの凄く愛国心を感じるし、日本のいいところと、悪いところ、弱い所が見えてきて、凄くがんばろうとしています。非常に素晴らしいです。
英語でコミュニケーションできる能力を
工藤:松浦さん、一言で、国際社会で通用する日本人になるためには何が大事ですか。
松浦:私は、コミュニケーション能力だと思います。英語でしっかりとコミュニケーションできる能力をつけてほしい。それは、もちろん、さっき申し上げたような一連のことを対応した上での話で、まっさきに英語ありきではありません。やはり、しっかりとした色々な見識を持ち、しっかりとした考えを持っていても、それを英語でコミュニケートできなければ、国際的な発信はできません。
工藤:わかりました。今日の議論はかなり面白かったのですが、明日もこの言論スタジオがあります。明日は、「COP17で問われる課題」ということで、地球温暖化について議論します。明日は、15時半からやりますので、よろしくお願いします。黒川さん、松浦さん、今日はありがとうございました。
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