COP17で問われる課題とは何か

2011年11月30日

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 11月23日の言論スタジオでは、蟹江憲史氏(東京工業大学大学院社会理工学研究科准教授)、高村ゆかり氏(名古屋大学大学院環境学研究科教授)、松下和夫氏(京都大学大学院地球環境学堂教授)をゲストに招き、「COP17で問われる課題とは何か」をテーマに議論が行われました。


 冒頭で代表工藤は、「11月28日から南アフリカのダーバンで気候変動枠組条約の第17回締約国会議「COP17」」が開かれるが、言論NPOが事前に実施したアンケートでは、このCOP17自体をよく知らないという方が多い。改めて、この会議の行方を踏まえて、京都議定書以後の新しい枠組みと地球温暖化対策について話し合いたい」と述べ、①地球温暖化対策の現状とCOP17の位置づけ、②温暖化対策の今後の課題について議論が進められました。

 第一の点について、まず、松下氏は地球温暖化をめぐる国際交渉を振り返り、「現在最大の問題は、京都議定書の第一約束期間が終了する2012年以降の国際的枠組みをどうするかということ」であり、「本来は2009年のCOP15において新しい枠組みが出来るはずだった」とその経緯を説明。「今回のCOP17でその新しい枠組みを合意できないと、2013年以降に空白期間ができてしまう」とし、また、高村氏も「今回のダーバンでの会議が京都議定書後の空白ができるかできないかの大きな分かれ目」と述べて、温暖化交渉においてCOP17が非常に大きな意味を持っていることを指摘しました。また、開催を直前に控えた各国の気運について、三氏は、京都議定書の延長や全ての主要国が入った新しい一つの枠組みづくりに向けた交渉とそれまでの間の京都議定書の暫定的な延長などの動きはあるものの、「新興国の台頭はもちろん、途上国の中でも意見が分かれるなど、国際的な政治力学が変化している」(高村氏)、「欧州経済危機や日本の震災復興に追われ、温暖化対策の政治的な位置づけが低下している」(蟹江氏)といった理由で、合意に向けた情勢は極めて厳しいとの見方を示しました。さらに、松下氏は環境政策についての日本のスタンスについて触れ、「民主党政権は、マニフェストで「2020年までに温室効果ガス排出量90年比25%減」という意欲的な目標を掲げたにも関わらず、それを裏付ける国内政策が実施されていないために、それが国際交渉の場で生かされていないのが現状」と問題点を指摘し、蟹江氏はさらに「外交交渉での政府の発言や対応も政権交代以後も変化はなく,環境重視という政府の立場は本音と建て前なのか国際交渉に連動していない」と語りました。

 今後の課題については、蟹江氏は「近年注目を集める「グリーン・エコノミー」もそうだが、温暖化対策は、エネルギー政策と表裏一体。二つをもっとリンクさせながら考えていくべき」と指摘、高村氏も「新興国の中ではエネルギー効率を高めるための再生可能エネルギーの導入など、エネルギー問題に関心が高まっており、そこをいかに捉えて新興国をこうした取り組みにいざなうかが課題」としました。高村氏はまた、日本政府のエネルギー政策がたしかに原子力発電による電力供給を前提としていたとしつつも、「需要側の対応はまだまだ可能だ」と強調。「あたかもすべて一から考えなおそうというのではなく、再生可能エネルギーの拡大や省エネなど、私たちができることを積極的に実施すべき」と述べました。

 最後に蟹江氏は、「温暖化はいま、私たちが直面している喫緊のアジェンダ。今対応しなければ大変な結果になることを再認識し、そのために何をしなければならないのかを改めて考えるべき」と述べ、三氏ともに、COP17の交渉において政府が合意のために巧みに落とし所を見つけることに期待感を示しました。

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第1部:ポスト"京都"をめぐる国際情勢の変化

 工藤:こんにちは。言論NPO代表の工藤泰志です。今日は今月(11月)の28日から南アフリカのダーバンで行われるCOP17(気候変動枠組み条約の第17回締約国会議)の問題について考えてみようと思います。さっそくゲストの紹介です。お隣が、言論NPOのマニフェスト評価でも協力いただいている京都大学大学院地球環境学堂教授の松下和夫先生です。よろしくお願いします。

 松下:よろしくお願いします。

工藤:その隣が、名古屋大学大学院環境学研究科教授の高村ゆかり先生です。よろしくお願いします。

 高村:よろしくお願いします。

工藤:その隣が、東京工業大学大学院社会理工学研究科准教授の蟹江憲史先生です。よろしくお願いします。

 蟹江:よろしくお願いします。

温暖化対策は緊急課題だが、政治的な緊迫感は薄れている

工藤:早速ですが、この議論の前にアンケートをやってみました。このCOP17が11月 28日から行われることをどれぐらいの人が知っているか、をまず聞いてみました。そうすると、驚くべきか、64.9%の人が知らないということでした。このアンケートに答えていただいている人は、かなり知的な層の人たちなのです。この地球温暖化の問題、そして世界での枠組みづくりの動きというのは、日本で震災があったこともあり、私たちの記憶の外にあるような感じがしていましたが、改めてCOP17がどういう役割なのか、どういう課題があるのか、ということから皆さんと話を進めていきたいと思います。松下先生、どうでしょうか。

松下:最初に、これまで地球温暖化に関する国際交渉がどのように進められてきたかを振り返ってみたいと思います。温暖化問題自体は、20年以上前から国際的な関心が高まってきて、最初の国際的な枠組みとしては、1992年に気候変動枠組み条約ができ、これは現在でも続いています。それを各国に、具体的な温室効果ガスの義務を持たせるために、97年にCOP3という第3回締約国会議が京都で開催されて、京都議定書が採択されました。京都議定書は先進国に対して、温室効果ガスを削減することを求めていて、日本の場合は、90年と比べて2008年から2012年までの期間で6%削減するということが求められています。これを第一約束期間と言います。

問題は、まず京都議定書を達成できるかどうか、ということもありますし、最大の問題は、この京都議定書の第一約束期間が2012年で終了しますから、それから先の地球温暖化問題に関する国際的枠組みをどうつくるのか、ということで議論がされてきました。本来であれば、一昨年のCOP15ぐらいで枠組みができるはずだったのですが、非常に紛糾しまして、現在もできていません。ということで、今年の第17回会議で何とか新しい枠組みをつくっていこうとしているわけです。そうしないと、2013年以降、空白期間ができるという問題が心配されています。

工藤:高村先生には、今回決まらないとどういうことになるのか、どうしてそういう状況になっているのか、ということについて、教えていただけますか。

高村:なぜ決まらないかというと、色々な理由があるのですが、背景には国際的な政治の力学といいますか、大きな変化があるように思います。特に、中国やインドと言った新興国が台頭してきたことで、当然、中国やインドの発言力が上がると同時に、途上国の中で1つの途上国グループという形で維持ができなくなった。つまり、交渉アクターを増やした形になったわけです。ですから、中国やインドが参加したコペンハーゲンの合意にも、少数ですけれども途上国が反対をして、最終的には合意ができなかったということがありました。交渉が抱えている問題点、これは貿易交渉などでも同じような現象が出ていますが、そういう背景があると思います。

もう1つの、空白ができるとどうなるかという点ですが、京都議定書の規定によりますと、今年のダーバンの会議で京都議定書の第二約束期間の数値目標を含めた改正ができないと、2013年1月1日から国際的に法的拘束力のある目標というものが、先進国にもないという状態になります。アクロバティックな方法として、来年、もう1度再開の会合が決まるということが決まれば別ですが、そうでなければ今回のダーバンの会議が、空白ができるかできないかの非常に大きな分かれ目になると思います。


ポスト京都は、新しい枠組みまでの延長が新しい提案

工藤:蟹江さん、今回の会議で各国は、何としても決めようという意気込みを感じていますか。

蟹江:正直、ないと思います。
工藤:ないですか。では、決まらないかもしれませんね。

蟹江:建前上はあるということなのだと思いますが、実際のところは、ヨーロッパも不景気ですし、日本も震災対応で四苦八苦です。また、世界の大都市でも不景気の波が押し寄せていますので、どちらかというとそちらの方に目がいってしまっている状況だと思います。我々関係者は、温暖化というと長期的な課題というよりも、直近の課題だと思っていますけど、多くの人にとってみれば、長期的な課題だから、ある程度先送りしても大丈夫だ、という認識があると思います。そういった中で、政治的な緊迫感というのは、残念ながらないと思います。

工藤:COPの議論って、会議の途中から何か急にまとめようというエネルギーが出てきたりするじゃないですか。今、そういう可能性はありませんか。各国はどういう形でまとまることを目指しているのでしょうか。

高村:今、蟹江さんがおっしゃったように、確かに、非常に難しい状況ですけれども、今年の半ばに入ってから、新しい動きが出ています。きっかけになったのはオーストラリアとノルウェーの提案です。京都議定書の第二約束期間をどうするか、京都議定書の延長をどうするかという点と合わせて、日本も主張をしていた全ての主要国が入った1つの枠組み、その交渉を始める合意をしようという内容です。特にEUに関して言いますと、京都議定書の延長として第二約束期間を自分達はやってもいいけど、そうした新しい1つの枠組み、議定書をつくっていく、という条件を出してきていて、その2つの問題が今、結び付いています。ですから、途上国の中でも、とりわけ温暖化の悪影響に悩んでいる国は、アメリカや中国、インドも入った新しい1つの枠組みの交渉を始めてもいいのではないか、と主張しています。ただし、その場合は、京都議定書が続くということが条件だと言っています。

しかし、EUにしてみると京都議定書の延長は当座の数年間のつなぎにすぎない。最終的には1つの枠組みになるという形で、ある意味でオーストラリアやノルウェー、EUが1つの妥協案を出してきているというのが、大きな動きだと思います。

工藤:今の話、色々な国が排出削減義務を負う協定をまとめる交渉をしましょうという提案が出てきていて、その交渉が決まるまでは京都議定書を延ばそうという動きがある、という理解でいいでしょうか。

高村:その通りです。ですから、期限をつけて新しい議定書の交渉を終えて、そちらに移行していきましょうという提案です。


世界は、このポスト京都をどう判断しているのか

松下:少し補足をします。少し戻りますが、今から2年前のCOP15、コペンハーゲンで会議が開かれましたが、その時には合意への期待が高まりました。日本からも当時の鳩山首相が、アメリカからはオバマ大統領、中国からは温家宝首相などの首脳級が集まって議論した。しかしながら、最終的にはコペンハーゲン合意が決議できず、それに留意するという形で、会議を終えてしまいました。そういうことで、せっかく政治的には合意への盛り上がりがあったのですが、首脳クラスが協議してもうまくいかないということで、国際社会は落胆したのですね。その後、去年は建て直しを図るために、メキシコがホストとしてCOP16を開き、各方面の意見を丁寧に聞いて、コペンハーゲン合意で留意されたことを1つの決議としてきちんと決め、多国間の交渉を修復しました。まだ結果は出ていませんが、交渉をきちんとやろうという雰囲気は出てきました。それで、今高村さんが言われた新しい枠組みに向けた足がかりをつくっていこうという段階だと思います。

工藤:蟹江さん、それに関しては、アメリカも京都議定書に乗ってもいいと思っているのでしょうか。

蟹江:アメリカは京都議定書にはとにかく乗りたくない、と。なので、アメリカを含めた枠組みを全体でどうつくれるか、ということが1つの課題です。それから、先程おっしゃっていたように、温暖化の問題は時々盛り上がってくるというのはまさにその通りだと思います。ただ、そのためにはいつ盛り上げるのか、という約束を事前にしているのですね。なぜ2年前に盛り上がったかというと、その2年前にバリで会合があった時に、2年後までに決めましょう、ということを決めていたからです。なぜCOP3で決まったかというと、その2年前にCOP3で決めましょうという事前の合意がありました。なので、今回は、いつまでに何を決めるかということを決めることができれば、そこに向けて交渉がスタートしていくということだと思います。

工藤:お二人のどちらでもいいので教えてほしいのですが、国際政治の地図で、この温暖化の合意づくりで主要なプレイヤーはどういう役割をしようとし、その中で日本はどういう主張をしようとしているのでしょうか。COP17の参加メンバーのおおまかな全体像を教えてもらいたいのですが。まず、高村さんからお話しいただいて、補足をしてもらうということでお願いできませんか。

高村:京都議定書の延長と、先程言いました新しい主要国が入った枠組みという、この2つの点について、各国、それぞれ意見が違っています。最終的に2020年頃に出来上がる、京都議定書を引き継ぐ新しい枠組みについて、途上国は京都議定書が残ることを非常に強く求めています。新しい枠組みは先進国、日本だけではなく、アメリカ、ヨーロッパが望んでいるものです。ただし、この移行の過程については、いろいろな考え方がある状況です。日本の場合は1つの包括的な枠組みを強く押しており、EUなどは、きちんと引き継がれる保証があれば京都議定書を当座続けても良いという立場で、途上国の特に脆弱な国も同じ立場です。しかし一番問題なのは、中国、インドといった主要排出国が、自らに国際的な拘束力がある約束はしたくないと強く思っていることです。主要新興国は包括的な1つの枠組みをつくることに対して消極的な立場にあります。

工藤:なるほど。中国とかインドは新しい枠組みに入り、規制されることが嫌なのですね。
高村:少なくとも公式の交渉の中では強く反対しています。特にインドがそうですね。


日本は京都議定書の継続に反対だけでアイデアなし

工藤:蟹江さん、今の話なのですが、日本は移行の間に京都議定書が続くことは嫌なのでしょうか。

蟹江:日本はそうですね。
工藤:嫌ってことは、日本はどういうことをイメージしているのですか。

蟹江:日本が一番懸念して主張しているのは、今の京都議定書でそのままいくと、アメリカは何の義務も負わない、あと日本の貿易相手国の1つは中国ですが、中国にも義務がない、日本ばかり損してしまうじゃないか、ということだと思います。なので、アメリカも中国も含めた大きな枠組みを作りたいのです。その前提があるので、京都議定書の延長をすると、結局、日本だけが1人損をしてしまうので、そのことには反対だ、ということです。

工藤:新しい枠組みができるということは、日本にとっては良いことなのですね。
蟹江:そうですね。全部が含まれるのでしたら。
工藤:だけど移行期間の隙間を埋めるために、京都議定書を使うのは嫌だと。
蟹江:それが既成事実化していくことを恐れているのだと思います。
工藤:それはどういうことなのでしょうか。
松下:一番困ることは、日本が京都議定書単純延長は絶対反対だと主張し続けた結果として、これまで作ってきた国際的なレジームがすべて崩壊してしまうことです。これまでの、例えば植林を促進する仕組み等が、がらがらぽんになってしまう。やはり日本が国際的なレジームを壊してしまった、ということはしたくないですね。ですからソフトランディングして、新しいレジームにどうやって移っていくかというところで、日本政府も知恵を出していく必要があります。

工藤:日本はあまり主張をしないで、流れの中でやるという感じになっているのですか。

松下:現状では、今、蟹江さんが言われたように、単純延長することは日本にとって非常に問題があるということを強く主張しています。

工藤:ただ、高村さんの話をうかがうと、EUの主張する新しい枠組みの意見の方がすっきりしているように見えたのですが。つまり新しい枠組みを作りましょう、それができるまでの期間については京都議定書を延長しようと。その方が松下さんが言われた,日本が国際的なレジームを壊したくない、という話にも繋がると思いますが。

高村:松下先生もおっしゃいましたけれど、やはり移行期間をどうするかというのは、10月にCOP17の事前の閣僚級の会合があって、そこで日本は意思表明をしているのですが、やはり移行期間も地球温暖化対策の歩みは止めない、ということを国際的に覚悟する必要があるとはおっしゃっています。

工藤:腰がすわっていない、感じですね。
高村:ただ、どうやって、というはっきりアイデアは出されていません。
工藤:蟹江さんは日本の動きは正しい方向だと思いますか?


EUの対応のほうが論理的にもすっきりしている

蟹江:正しい方向ではないと思います。私もEUの対応の方がすっきりしているし、論理的にも正しいと思っています。

工藤:今の政権は何故このような主張をしているのでしょうか。

松下:民主党政権に代わって、中期目標に向けて非常に野心的な動きを示していましたが、それを裏付ける国内対策が出来ていない。国内対策ができないと、対外的にもきちんとした交渉ができない、そういう悪循環に陥っていると思います。
工藤:わかりました。ここでひとまず休憩をはさみます。

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第2部:温暖化対策をめぐる日本政府の姿勢と世界の動向

工藤:議論を続けます。今の話は非常に重要なところに来ていました。今日の議題についてアンケートを取っているのですが、COPについてどういう姿勢が望ましいか2つの選択肢を用意しました。Aは、現在京都議定書の下で義務を負っていないアメリカや中国も含めた単一の国際的枠組みの合意を目指すが、合意が得られない場合は暫定的な措置として京都議定書の延長もやむを得ない、というさっきのEU型のもの。Bは、合意ができない場合は空白状態も覚悟の上で単純延長を拒否する、でした。アンケート結果では延長もやむを得ない、が50%で半数となっており、単純延長を拒否すべき、は27.5%です。このアンケートは普段から意識が高い方が回答しているのですが、この結果についてはどう思いますか。一言お願いします。


地球環境に対する対応は、国内も外交交渉での姿勢も後退している

松下:おそらく、現在の日本政府はBの立場ですね。公式に、単純延長は拒否すると宣言していますね。ただし、京都議定書を中心とした枠組みがすべて空白になると、世界全体で温暖化対策が非常に後退しますので、地球全体にとって望ましくないことです。そういった意味から、アンケートに答えて下さった方も半数近い方は京都議定書を維持しながら、のAを選ばれたのでしょう。

工藤:蟹江さんはどうですか。このアンケート結果が健全だという感じですか。

蟹江:普通に質問をすると、こういう回答になるのではないかと思います。外交交渉上の欠点は、必ずしも一般の意見が、日本の立場として反映されないということです。そこにアカウンタビリティを求めるのは非常に大事ですが、語られていないですね。国内政策は目に見えるのでアカウンタブルな政策を、と言いますけれど、外交政策だとやっぱりちょっと乖離しているように思いますね。

工藤:ただ、有権者がこういうことをきちんと考えていくのは必要だと思うので、いい流れを作れないかと思っています。

第1部の議論を聞いて疑問になったことですが、民主党政権は、環境や地球温暖化に関して、従来よりかなり積極的だと思われました。しかし、その後それが、ほとんどトーンが変わったように動きが見えません。震災もあったわけですが、そういった国内における対策と国外に向けての交渉を、どう組み合わせて進めているのか、いまひとつわからないことがあります。これについてお話を聞きたいと思います。松下さんからお願いします。

松下:民主党政権になってからマニフェストで中期目標として、2020年に25%削減(1990年比)を鳩山首相が国際的にも表明し、国内的には温暖化対策基本法案を提出して、政策的に3つの柱を立てました。

1つ目は環境税の導入。2つ目は排出量取引の導入。3つ目は自然エネルギーにおける固定価格買い取り制度。これを国会に提出して、衆議院で可決されたのですが、参議院に審議が移ったところで鳩山首相が退陣して、その結果、法案が廃案になりました。しかし、次の菅首相の下で再度提案され、かろうじて自然(再生可能)エネルギー買い取り制度は法案として成立しましたが、現状では依存として温暖化対策基本法案が成立していないし審議もされていません。環境税と排出量取引に関しては導入が先送りされるという見込みになっています。ということで、マニフェストで掲げたことが、国内でも進んでいないし、国際交渉の場でも活かされていないというのが現状だと思います。

工藤:高村さん、どうでしょうか。


日本は政権が変わっても外交交渉の姿勢は変わっていない

高村:国内的な状況については、今のお話の通りですが、それが国際交渉に与えている影響という意味でいくと、日本は先ほどの議論にもありました通り、京都議定書の第二約束期間には約束しないという立場です。他方で、国内の対策は進んでいないので、周りの国から見ると、国際的に25%は条件付きで掲げたけれど、実際にどうやってやるのか国内での動きがない、と。震災前からもそうでしたが、震災後はなおさら、25%の目標を下げるという議論も出てくる中で、空白は生じてもいいから、京都議定書は続けない方がいいという立場は、あたかも温暖化対策に背を向けていると、国際的には見られている気がします。そういった意味で、温暖化交渉の中での枠組み作りの発言力は失っている感じがいたします。

工藤:はい。蟹江さんどうですか。海外での発言をなかなか国民は知らないので。日本政府はどういうことを世界に向けて発言しようとしているのか、していないのか。後退しているのか。

蟹江:実際にこういう外交交渉は、政治家が出てくるのは最後のポイントだけなのですね。それまでは事務方が交渉する。その事務方が交渉しているポジションを見ると、やっぱり民主党の政権になる前のポジションとほとんど変わっていない、というのが現実ですね。25%削減をやるのであれば、それをてこに世界をリードできるぐらいの話だったと思うのです。当時、私はちょうどフランスにいたのですけど、日本が25%を発表した時、驚いていて、これからは日本に大きく期待するという雰囲気でしたけれど、ちょっと見てみたら交渉のポジションは変わっていない。もう少し変えていくのでしたら、アメリカが良い例なのですが、政権が変わると温暖化対策の担当者が変わります。少なくとも事務方のリーダーが変わって、そこでポジションが全く変わっていく、そういうところまで突っ込まないといけません。

工藤:日本はどうですか。全然変わらないですか。

蟹江:日本は全然変わらないですね。事務方、要するに各省庁の代表が出ていって、そこの間の力関係で決まるので、基本的に変わっていない。本当に25%削減するのでしたら環境に関する利益を前面に押し出してもいいと思うのですけれど、そういうポジションの変化は今のところ見られません。

工藤:確かにテレビで、国際交渉で日本政府として役人の人が発言しているシーンを見ていて、あれ?と思ったことが何回もあります。国内で民主党政権が誕生した時のイメージと違っているな、と思っていて、ここあたりが変だなという感じがします。


地球温暖化のアジェンダの位置づけは世界でどうなったのか

松下:温暖化対策の交渉ですから、各国の事情、国内産業に対する配慮が必要ですが、やはり地球全体としてこれからどういう社会を目指すのか、温暖化の危険がない低炭素社会に向けて、ビジョンを共有して、日本はそれなりの知識と経験を活かして貢献します、というポジションをきちんと出していかなければいけません。個別の、日本だけが損をするとか言っているようでは、国際的な説得力が無いですね。現在はむしろ、環境対策とか、再生可能エネルギーを拡大することによって、経済を発展させ雇用も確保できる、そういう取り組みが世界的に広がっています。日本は技術が進んでいるという自負があるのですから、そういうところを活かして国際的に関わっていくべきだと思います。

工藤:高村さん、もう1つ一般の人がわからないのは、だいぶ前は地球環境に向けて、EUも頑張って、アメリカもオバマさんが出て色々な法案を出して、非常に盛り上がり、まるで世界が環境という単一目標に向かって大きくチェンジするぐらいの勢いを感じていたのですが、その後全体的に地盤沈下というか低迷している風にも見えます。日本はもっとひどいのですが、世界的には地球温暖化というテーマに対してどういう状況になっているのですか。

高村:おっしゃったように、地盤沈下というか政治上のアジェンダの位置が下がっていることは現状として否めないと思います。オバマ政権にとって、温暖化対策はメインにして出してきた1つですが、なかなかほかの重要課題に時間を取られて、温暖化の法案自体も議会で通らない。ヨーロッパもご存じの通り、今の経済の状況の中でなかなか合意が得られない。EUの首脳会議の文書などを見ると非常に面白いのですが、温暖化というものは今まで大きな割合を占めていたわけですが、今は全体の中の1割にもならない。それは環境大臣クラスの会合を指示する形の確認でしかない。そうしたアジェンダの位置の低下は否めないと思います。

工藤:アジェンダの位置を、蟹江さんはどのように見ていますか。

蟹江:温暖化はもちろん温暖化の問題なのですが、私は、その裏返しとしてエネルギーの問題があると思います。化石燃料を使った結果、温暖化になるので、化石エネルギーから、再生可能エネルギーにシフトしていく、場合によっては原子力を使う、そういうエネルギーの話でもあるのですね。エネルギーの話になると、国際政治の一番肝の部分といいますか、国益に関係してくる部分ですから、各国とも自分の立場をどうしても譲れないようになってしまっている。ですから、温暖化とエネルギーのリンクを10年ぐらい前まではそれほど強く意識していなかったけれど、新興国が出てくることによって、本当に大事にしないといけないのだ、という認識が高まってきて、それと同時に国益がぶつかり合って、なかなか先に進まなくなっている、そんな状況なのではないかと思います。

工藤:はい。ここで非常に深刻な疑問が出てくるのですが、政治上、温暖化はアジェンダの位置が低下して国益上の判断もある、と。しかし地球温暖化の課題そのものは、それを理由に目をつぶってもいいものなのか、と。昔は、温暖化に伴って地球に様々な深刻な影響が出ると言われていました。今は気象の問題がありますよね。そこも含めて、今どんな状況なのですか。温暖化対策は休んでも大丈夫なのですか。


では、地球温暖化の状況は、一服を許す状況なのか

松下:気候変動の科学的評価についてはIPCCが5年に1回ぐらい評価を続けていて、現在第5次評価報告書の検討がされているはずです。今年起こった色々な事象、例えば最近で言うとタイの洪水ですとか、日本の和歌山を襲った台風ですとか、そういうことを見ても、気象が非常に変わってきて、異常気象とそれに伴う被害が増えていることで、体感としてわかることだと思います。IPCCのレポートでもおそらく明らかになってくるでしょう。先進国を中心として、地球温暖化のアジェンダが下がっているということは否めないと思うのですが、ただし、途上国が何もしていないかというと、そんなことはありません。例えば中国では第11次5カ年計画で、これはGNPあたりの二酸化炭素の排出削減ですが、大幅に40%以上削減します。インドも大きく下げる計画を作っています。途上国自身もそれぞれの国内の対策に積極的に取り組み始めていて、それが、それぞれの国の経済にとってメリットだったり、自分たちの国の被害を回避するという意味でも経済的合理性があったり、対策が取れれば進んでいっているわけです。多くの国が温暖化対策をする方が、経済的にも国際関係上もメリットがあるという仕組みをどうやって作っていくかということが課題だと思います。

工藤:政治上のアジェンダは下がっていますが、環境的なアジェンダとしては上位であるということは、変わっていないということでいいでしょうか。

高村:環境的なアジェンダとしては、今、松下先生がおっしゃったように、非常に大きな悪影響が将来生じかねない予測の結果も出てきていますので、間違いなく、非常に緊急なものとして、多くの人は認識しています。また、新興国の中で、エネルギー問題としては非常に関心が高くなっていると思いますね。それはもちろん、エネルギー需要に応えなければいけないというので、再生可能エネルギーを導入するとか、化石燃料の価格が高騰しているので、エネルギー効率を高めるインセンティブは非常にあって、エネルギー問題としてのアジェンダは常に高いです。そこをうまくとらえて、とりわけ新興国をこうした取り組みにどう誘うかということが重要だと思います。EUも最近の世論調査では、現在の経済状況にも関わらず、温暖化対策、交渉は積極的に進めるべきだという意見が8割を超えていました。ということで、世論としてバックアップする動きは、ヨーロッパでは非常に強くあります。

工藤:再生可能エネルギーも含めて、化石燃料をやめようという動きはあるのですね。

高村:動いています。


地球温暖化とエネルギーの政策はコインの裏表

蟹江:環境に関するアジェンダの政治的位置付けは実際問題、低くなっていると思います。しかし、エネルギー問題としては相変わらず高い位置付けであり、日本の震災対応を見てもそうです。その2つをリンクすることが忘れられている。実は2つは表と裏の関係なので、リンクする必要があると思います。もう1つは国際的な動きとしては、ちょうど来年がリオの地球サミットから20年なのですね、通称「リオ+20」と言われている会議が来年ブラジルで開かれますが、そこのアジェンダの1つが「グリーンエコノミー」なのです。「グリーンエコノミー」というのは裏を返せば温暖化対策で、いかに緑の開発をしていくか、緑の経済を発展させていくかということなので、言葉は違いますが、同じような考え方が世界のアジェンダの中にあることはあります。この前の東アジアのサミットやAPECで触れられているので、完全に忘れられているわけではないとは思います。

工藤:そうですか。EUはさっきお話にも出ましたけど、経済破綻の危機もありますが、地球環境に関してはリーダーシップを発揮して動いていましたね。アメリカの対策はどうですか。途中で法案が止まってしまいましたよね。

松下:アメリカにおいても、オバマ大統領が温暖化対策を進めるための排出量取引制度の法案を出したのですが、下院では通りましたが、上院で止まっている状況です。

工藤:それをもう一回やり直そうという意思はオバマさんにはあるのですかね。

高村:アメリカに関して言いますと、来年、大統領選挙と議会の改選を迎えますので、おそらくその結果が非常に大きなファクターだと思います。オバマ政権¬¬発足時に温暖化対策は中心的な議題だったのは間違いありませんから、再選があるとすると、大きな位置付けが与えられると思います。

松下:州レベルですとかね、産業界レベルではすごく進展があって、火力発電所は建設がストップされています。

工藤:そういう動きが始まったのは事実ですね。ここで休憩にします。

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第3部:フクシマを経て日本は環境、エネルギー政策をどう変える

工藤:最後のセッションを始めたいと思います。日本では3.11に震災があり、原発事故が深刻な事態になりました。原子力をベースにしたエネルギー政策そのものを見直そうという大きな転換点に来ているわけですね。

その転換の裏側にあるのは、エネルギーをどういう風にして供給していくのかということです。今までの地球温暖化に対する日本の考え方というのは、基本的に原子力発電を前提にしているような議論になっていました。この日本自体が、地球環境の問題、エネルギー政策をどうしていけばいいか、もう1回整理し直して、国民に提起しなければいけないと思います。それがないために、地球温暖化よりエネルギー供給を優先しなければいけない、その場合は化石燃料でも仕方ないし、地球温暖化対策が当面できなくてもやむを得ないのではないか、という議論が出てくる感じがあります。

実際、アンケートでも、半数の人が「震災復興とエネルギーの供給確保を優先すべきであり、その結果、京都議定書の目標が達成されなくても致し方ない」を選んでいます。¬このあたりをどう考えればいいか、うかがいたい。松下先生どうですか。


温暖化の危機に直面しているとの認識を持ちながらエネルギー政策を見直す

松下:確かに震災復興は、日本において、政治的にも社会的にも第一の課題だということは事実です。それが直ちに温暖化対策と矛盾するかというとそうでもないと思います。今年の夏、電力の供給がタイトになって多くの方が苦労して節電に努めました。これは強いられた節電だったのですが、相当程度、節電、省エネルギーができることがわかりました。これを今後、より社会的なシステムとして制度化していくことが必要ですし、一方で、自然エネルギーに対する拡大策も準備されてきて、そういうものに対する投資も増えています。短期的には不足した電力を、例えば液化天然ガスで補充する等、暫定的なプロセスはきちんと精査することが必要ですし、長期的には¬¬温暖化対策と、省エネルギー、代替エネルギーの拡大と、セットで取り組んでいけば、それによって地域の雇用、振興にもつながると思います。

工藤:確かにその通りなのですが、政府そのものはそこを整合的にプランニングする段階ではないですよね。前の菅政権は脱原発だし、野田政権は、安全性をベースにして稼働していくという話です。そこあたりも何だかよくわからない状況になっているのですが、どうでしょうか。

高村:エネルギー政策の見直しが原子力発電所事故後に行われていますが、やはりこれだか国民が原子力発電に不安を感じていて、タイミングはともかく、長期的には削減して依存度を¬減らしていこうという方向にある時に、なかなか具体的な案が出てきていません。それはおそらく、今の見直しの中で議論されて出てくることを期待するわけですが、その中でも、しばしば温暖化対策と矛盾するのではないか、という議論があります。

今回のアンケートでも、それを懸念する声があったかと思います。先程、松下先生もおっしゃいましたが、確かに、原発9基建設を前提としたCO2削減25%の20年目標だったと思いますけれど、しかし、需要側の対策はなおできるはずです。しかも、今の電力不足に対応する、あるいは電力価格が上がることに対応する、つまり省エネや節電、あるいは需要側ではありませんが、再生可能エネルギーの拡大というものを、もっと積極的に打ち出すということは、供給側の対策を考えているときでも、なおできるはずです。なのに、あたかも全部温暖化目標も全て含めて、1から考えましょうというような雰囲気を、今の議論からは感じます。しかし、それはまた1年遅らせることになりますから、そこはやはりできる事をもっと積極的にやってもいいのではないか、という風に思っています。

工藤:蟹江さんは、今の点についてどうでしょうか。

蟹江:お2人がおっしゃったことは、まさにその通りだと思います。やはり、震災でもう1つ明らかになったことというのは、中央集権型の電力供給システムの限界といいますか、安全面を考えたときの危険性ということだと思います。やはり、再生可能エネルギーというのは、分散型の発電です。それは、考えてみると、発展途上国などで本当に生きてくるのだと思います。太陽光パネルを1つ付ければ、電線が通っていないところでも、ある程度の電力供給ができるようになります。そういった点というのも考えて、日本が売れる産業の1つになっていくとすれば、それを育てていくということが、大事なのではないかと思います。今、なぜ石油・石炭が安いかと言うと、大量の補助金が入っているからです。その補助金の在り方、それは言ってみれば我々の税金から出ているものですので、そういったお金の振り分け方から、やはり議論して変えていかないといけないと思います。その結果として、温暖化対策をしなければいいのではないか、ということには逆にならなくて、もしそうしていていると、逆に影響が強くなります。

タイの状況は温暖化との因果関係を精査する必要がありますが、ただ、もし、ああいう状況になった場合に、その対策費用というのは、またバカにならない金額になると思います。なので、本当に我々が温暖化の危機に直面しているという認識を持ちながら、温暖化とエネルギーの関係というのは、その制約のもとで考えていく必要があるのではないかな、と思います。

工藤:確かに、お話しを聞いていて、日本の政府は腰が入っていないというか、どちらを向いているのかよくわからない。だから、僕たちが議論をしていても、歯がゆいですよね。政治が今の原発問題、震災、日本のエネルギーの安全保障の問題、それから、温暖化という問題をやはり考えて、国民に説明して動かないといけない、という話ですね。


世界ではグリーン経済が中心的なテーマだが、日本ではどう具体化するか

松下:先程、蟹江先生が、リオ+20、来年の6月に予定されている会議に向けて、グリーン経済が中心的なテーマとして議論されているということを紹介されました。これは、国際レベルではそういう議論がされています。しかし、日本ではあまり議論がされていません。これは、まさに震災復興だとか、地域の活性化だとか、限界集落をどのように活かしていくか、里山をどう活用していくか、そういうことに全部かかっています。人々がより安心して、真っ当に地域の資源を活かして、雇用を増やして、安心できるという社会をどのようにしてつくるかということです。ですから、貧困を減らしながら、安全で安心な社会をつくっていく。それが、再生可能エネルギーを増やしたり、温暖化対策をしたり、環境対策をやったりすることと一体となって考えて行くべきだと思います。日本には優れたレベルの技術もあるし、風力、太陽光、地熱、小水力など、色々な資源があるわけですから、この機会に再度見直して、それを逆に国際的な場で提供していく、ということで、リオ+20なり、あるいは今度のCOPの会議に臨んでいく。そういう風に考えていく機会だと思います。

工藤:今まで、日本の政治は、内容は別にして世界的には環境を"売り"にしていました。つまり、日本の課題解決能力を世界的に提起するという点で、環境は強みでしたが、今はそれを戦略化できなくなっている。
蟹江:本音と建て前が違うというのが、今の状況ではないかと思います。
工藤:初めから本気ではなかったということですか。

蟹江:ある程度本気の時期はあったと思いますが、本音のところに触れようとすると、どうしても反発が強いので、建前をキャッチアップするような本音になっていない、ということだと思います。少なくとも、今の状況はそうだと思います。ただ、松下先生がおっしゃったように、2つは全く別のことではなくて、まさに、震災の復興などはグリーン経済の話なのですね。そういったことを結びつける。それは、我々のように言葉を仕事にしている人間の役割かもしれませんが、一見違うような事柄を結び付けていくようなことが大事なのではないでしょうか。

工藤:高村さん、今もやはり地球環境という問題、それから、エネルギーの在り方の抜本的な見直しとか、再生可能エネルギーを中心にしたものというのは、世界的なアジェンダとしても非常に意味のある、流れなのですか。


環境と再生可能エネルギーの潮流に日本は置いていかれるのではないか

高村:正直なところ、先程、腰が入っていないとおっしゃいましたけど、このまま行くと、日本は置いていかれるのではないかという気持ちがあります。先程からいくつか出ておりましたけど、例えば、中国は沢山エネルギーを使い、二酸化炭素を排出している国ではありますが、再生可能エネルギーの導入量というのは、非常に大きいのです。風力に関して言うと、昨年度は世界一の導入量です。そこには、単なるエネルギー需要だけではなく、やはり、自国の産業の振興、例えば、再生可能エネルギーのソーラーパネル技術ですとか、風力技術の振興と、合わせてやっているわけです。これは、アメリカも同様の状況ですし、もちろんEUは先だってやっているわけです。むしろ、再生可能エネルギーの将来的な拡大を見越して、むしろ、貿易戦争の状態が生じていると思います。そういう意味では、こうした世界の動きの中で、本来、日本はソーラーパネルでも非常に強い技術力を持っていたはずだと思うのですが、国内市場がなかなか拡大しない中で、そのシェアが随分落ちてきているのを見ると、どういう風に経済と環境と、安心・安全といった社会のビジョン、戦略を日本がどのようにつくっていくのか、ということが大きな課題になっているのではないか、と思っています。


工藤:今回のテーマについてのアンケートに、沢山意見が来ています。2つ、3つ紹介させてもらいます。今日の議論にも出たのですが、「世界的に経済が危機的状況にある中で、本当にCOP17という展開を続けるべきなのかも含めて、どう考えればいいか、判断がつきかねています」という意見でした。確かに、地球環境の問題はあるのですが、至るところで経済が厳しい状況にあるという問題がある。だから、「今更蒸し返してもしょうがないけれど、温暖化の科学的根拠をもう少し出すべきじゃないか」とか、これが正直な感想だと思います。

一方で、「3.11の震災と原発事故以降、マスコミ報道も含めて、自然エネルギーなどがまともに取り上げられていない」と。「切羽詰まった状況にもかかわらず、地球温暖化対策の基本である京都議定書のことが完全に忘れ去られている現状に危機感を覚える。だから、エネルギーの恩恵を我々はいかに受けるべきか、ということも含めて、抜本的な議論をしていかないと、まずいのではないか」という意見でした。それから、「日本はこの問題についてリーダーシップをとるために、何を説明していくべきなのか。だけど、今の民主党政権にはそういうテーマについて、リードする人はいないのではないか。少なくとも他党でもいいから、そういうことを考える人を南アフリカに送ってほしい」という声もありました。かなり重要な問題にもかかわらず、何かの形で思考が止まっている。それが、さっきの本音と建前なのかもしれないし、そういう要素もあったと思いますが、その中で、COP17が行われるわけですよね。これに対する日本政府の対応、日本の交渉当事者として、何を期待するかということについて、皆さんに答えていただければと思います。

松下:色々と問題提起されて、全てにお答えはできないのですが、1つは国全体の方向がきちんと出ていないということがあります。日本でも各自治体で色々と新しい取り組みが始まっています。震災が1つの契機になったということはあると思います。再生可能エネルギーを中心とした取り組みを始めているところもあります。例えば、長野県の飯田市がよく取り上げられますが、ここはいわば、NPOが中心となった会社をつくって、そこが、現在0円で太陽光電池を設置しましょうということになっています。0円というのは、初期費用を0にする、いわゆる一種の融資をするわけです。それで、売電によって初期投資を回収する、一種の地域の資金や技術を使って、金融をうまく絡めて広げていく、という仕組みをつくっています。それから、メガソーラーもあるわけです。メガソーラーと言っても、外から持ってきたメガソーラーではなくて、地元の企業が関わって、地元で電気が扱えるようにする。そういった地域との関わりで、その地域に根付いた温暖化対策、再生可能エネルギー、産業興し、地域興しが起こってくる。

工藤:この流れは止められないということですね。

松下:それは、みんな学習していますから、そういう経験を海外の事例なども交えつつお互いに勉強し合って、広めていく。それから、今はまだ小さい事業者かもしれませんが、そういう事業者が、各地でどんどん起こってきています。1つは、民間のイニシアティブ、それから自治体のイニシアティブを、国としてはできるだけ後押しできるような制度をつくっていくことが必要だと思います。

工藤:高村さんと蟹江さんには、こういう風な環境を踏まえて、COP17で日本政府に何を期待していますか。


千載一遇のチャンスを日本政府は生かして新たな枠組みを

高村:ある意味で、日本政府も求めてきた米中など主要国が入った1つの枠組みの交渉を始める、非常に重要な、可能性は非常に低いかもしれませんが、ある意味では、千載一遇のチャンスであり、これをつかまえないと次にいつくるかわからない、そういうタイミングだと思っています。そういう意味では、単純延長ではなくて、むしろそういう合意ができることを条件にしたときに、京都議定書のもとで何らかの取り組みをする、一種の柔軟性をもって、交渉に当たっていただきたいと思いますし、それが日本の温暖化対策の足を止めないということに繋がるのだと思って、期待しています。

工藤:何が何でも、答えを出して帰ってきてほしいということですね。
高村:そうですね。
工藤:また決まらないで終わってしまったら、ガクッときちゃいますよね。

高村:これ、何も決まらないと、また交渉自体が延びていくだけですから、おっしゃる通りです。

蟹江:やはり、温暖化は僕たちが今直面している問題だと思います。我々、地震のリスクがあって、それはこの前明らかになったけれども、その前は、やはりこれほど大きな地震が来るとは思っていなかった。でも、リスクはあるとは分かっていたので、それなりの対策をそれなりにしてきたわけですよね。温暖化も同じで、リスク管理の問題だと思うのですね。なので、多くの学者は、温暖化は起こると言っている。そのために、今やらなければ、本当に取り返しのつかないことになってしまう。それを再認識して、そのためには何をやらなければいけないのか、ということを考えてもらいたいですね。実際の交渉自体に関しては、高村さんがおっしゃったように、日本政府にはうまい妥協をしてもらいたい、と思います。やはり妥協しないと、先には進めないと思います。COP6では、京都議定書を活かすために、アメリカが離脱した後、日本はうまく妥協しました。やはり、そのようなうまい落としどころを見つけて、妥協していくということが1つの日本の知恵ではないかと思います。その着陸点を見出していくということが大事だと思います。

工藤:確かに、政治がそういう風な形に強い意志を持って、交渉に臨むためには、有権者側も自分の問題として考えないと緊張感が出ないですよね。何かやっているねとか、こんなこと言っているの、というレベルではダメなので、私たちも地球環境、エネルギーの問題をきちんと継続的に議論をしたいと思っていますので、また、みなさんにもご参加いただければと思っています。

蟹江さんと高村さんは南アフリカに行かれるということで、またご報告いただければと思います。皆さん、今日はありがとうございました。

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放送に先立ち緊急に行ったアンケート結果を公表します。ご協力ありがとうございました。

2011年11月23日(水)収録
出演者:
蟹江憲史氏(東京工業大学大学院社会理工学研究科准教授)
高村ゆかり氏(名古屋大学大学院環境学研究科教授)
松下和夫氏(京都大学大学院地球環境学堂教授)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)


第3部:フクシマを経て日本は環境、エネルギー政策をどう変える

工藤:最後のセッションを始めたいと思います。日本では3.11に震災があり、原発事故が深刻な事態になりました。原子力をベースにしたエネルギー政策そのものを見直そうという大きな転換点に来ているわけですね。

その転換の裏側にあるのは、エネルギーをどういう風にして供給していくのかということです。今までの地球温暖化に対する日本の考え方というのは、基本的に原子力発電を前提にしているような議論になっていました。この日本自体が、地球環境の問題、エネルギー政策をどうしていけばいいか、もう1回整理し直して、国民に提起しなければいけないと思います。それがないために、地球温暖化よりエネルギー供給を優先しなければいけない、その場合は化石燃料でも仕方ないし、地球温暖化対策が当面できなくてもやむを得ないのではないか、という議論が出てくる感じがあります。

実際、アンケートでも、半数の人が「震災復興とエネルギーの供給確保を優先すべきであり、その結果、京都議定書の目標が達成されなくても致し方ない」を選んでいます。¬このあたりをどう考えればいいか、うかがいたい。松下先生どうですか。


温暖化の危機に直面しているとの認識を持ちながらエネルギー政策を見直す

松下:確かに震災復興は、日本において、政治的にも社会的にも第一の課題だということは事実です。それが直ちに温暖化対策と矛盾するかというとそうでもないと思います。今年の夏、電力の供給がタイトになって多くの方が苦労して節電に努めました。これは強いられた節電だったのですが、相当程度、節電、省エネルギーができることがわかりました。これを今後、より社会的なシステムとして制度化していくことが必要ですし、一方で、自然エネルギーに対する拡大策も準備されてきて、そういうものに対する投資も増えています。短期的には不足した電力を、例えば液化天然ガスで補充する等、暫定的なプロセスはきちんと精査することが必要ですし、長期的には¬¬温暖化対策と、省エネルギー、代替エネルギーの拡大と、セットで取り組んでいけば、それによって地域の雇用、振興にもつながると思います。

工藤:確かにその通りなのですが、政府そのものはそこを整合的にプランニングする段階ではないですよね。前の菅政権は脱原発だし、野田政権は、安全性をベースにして稼働していくという話です。そこあたりも何だかよくわからない状況になっているのですが、どうでしょうか。

高村:エネルギー政策の見直しが原子力発電所事故後に行われていますが、やはりこれだか国民が原子力発電に不安を感じていて、タイミングはともかく、長期的には削減して依存度を¬減らしていこうという方向にある時に、なかなか具体的な案が出てきていません。それはおそらく、今の見直しの中で議論されて出てくることを期待するわけですが、その中でも、しばしば温暖化対策と矛盾するのではないか、という議論があります。

今回のアンケートでも、それを懸念する声があったかと思います。先程、松下先生もおっしゃいましたが、確かに、原発9基建設を前提としたCO2削減25%の20年目標だったと思いますけれど、しかし、需要側の対策はなおできるはずです。しかも、今の電力不足に対応する、あるいは電力価格が上がることに対応する、つまり省エネや節電、あるいは需要側ではありませんが、再生可能エネルギーの拡大というものを、もっと積極的に打ち出すということは、供給側の対策を考えているときでも、なおできるはずです。なのに、あたかも全部温暖化目標も全て含めて、1から考えましょうというような雰囲気を、今の議論からは感じます。しかし、それはまた1年遅らせることになりますから、そこはやはりできる事をもっと積極的にやってもいいのではないか、という風に思っています。

工藤:蟹江さんは、今の点についてどうでしょうか。

蟹江:お2人がおっしゃったことは、まさにその通りだと思います。やはり、震災でもう1つ明らかになったことというのは、中央集権型の電力供給システムの限界といいますか、安全面を考えたときの危険性ということだと思います。やはり、再生可能エネルギーというのは、分散型の発電です。それは、考えてみると、発展途上国などで本当に生きてくるのだと思います。太陽光パネルを1つ付ければ、電線が通っていないところでも、ある程度の電力供給ができるようになります。そういった点というのも考えて、日本が売れる産業の1つになっていくとすれば、それを育てていくということが、大事なのではないかと思います。今、なぜ石油・石炭が安いかと言うと、大量の補助金が入っているからです。その補助金の在り方、それは言ってみれば我々の税金から出ているものですので、そういったお金の振り分け方から、やはり議論して変えていかないといけないと思います。その結果として、温暖化対策をしなければいいのではないか、ということには逆にならなくて、もしそうしていていると、逆に影響が強くなります。

タイの状況は温暖化との因果関係を精査する必要がありますが、ただ、もし、ああいう状況になった場合に、その対策費用というのは、またバカにならない金額になると思います。なので、本当に我々が温暖化の危機に直面しているという認識を持ちながら、温暖化とエネルギーの関係というのは、その制約のもとで考えていく必要があるのではないかな、と思います。

工藤:確かに、お話しを聞いていて、日本の政府は腰が入っていないというか、どちらを向いているのかよくわからない。だから、僕たちが議論をしていても、歯がゆいですよね。政治が今の原発問題、震災、日本のエネルギーの安全保障の問題、それから、温暖化という問題をやはり考えて、国民に説明して動かないといけない、という話ですね。


世界ではグリーン経済が中心的なテーマだが、日本ではどう具体化するか

松下:先程、蟹江先生が、リオ+20、来年の6月に予定されている会議に向けて、グリーン経済が中心的なテーマとして議論されているということを紹介されました。これは、国際レベルではそういう議論がされています。しかし、日本ではあまり議論がされていません。これは、まさに震災復興だとか、地域の活性化だとか、限界集落をどのように活かしていくか、里山をどう活用していくか、そういうことに全部かかっています。人々がより安心して、真っ当に地域の資源を活かして、雇用を増やして、安心できるという社会をどのようにしてつくるかということです。ですから、貧困を減らしながら、安全で安心な社会をつくっていく。それが、再生可能エネルギーを増やしたり、温暖化対策をしたり、環境対策をやったりすることと一体となって考えて行くべきだと思います。日本には優れたレベルの技術もあるし、風力、太陽光、地熱、小水力など、色々な資源があるわけですから、この機会に再度見直して、それを逆に国際的な場で提供していく、ということで、リオ+20なり、あるいは今度のCOPの会議に臨んでいく。そういう風に考えていく機会だと思います。

工藤:今まで、日本の政治は、内容は別にして世界的には環境を"売り"にしていました。つまり、日本の課題解決能力を世界的に提起するという点で、環境は強みでしたが、今はそれを戦略化できなくなっている。
蟹江:本音と建て前が違うというのが、今の状況ではないかと思います。
工藤:初めから本気ではなかったということですか。

蟹江:ある程度本気の時期はあったと思いますが、本音のところに触れようとすると、どうしても反発が強いので、建前をキャッチアップするような本音になっていない、ということだと思います。少なくとも、今の状況はそうだと思います。ただ、松下先生がおっしゃったように、2つは全く別のことではなくて、まさに、震災の復興などはグリーン経済の話なのですね。そういったことを結びつける。それは、我々のように言葉を仕事にしている人間の役割かもしれませんが、一見違うような事柄を結び付けていくようなことが大事なのではないでしょうか。

工藤:高村さん、今もやはり地球環境という問題、それから、エネルギーの在り方の抜本的な見直しとか、再生可能エネルギーを中心にしたものというのは、世界的なアジェンダとしても非常に意味のある、流れなのですか。


環境と再生可能エネルギーの潮流に日本は置いていかれるのではないか

高村:正直なところ、先程、腰が入っていないとおっしゃいましたけど、このまま行くと、日本は置いていかれるのではないかという気持ちがあります。先程からいくつか出ておりましたけど、例えば、中国は沢山エネルギーを使い、二酸化炭素を排出している国ではありますが、再生可能エネルギーの導入量というのは、非常に大きいのです。風力に関して言うと、昨年度は世界一の導入量です。そこには、単なるエネルギー需要だけではなく、やはり、自国の産業の振興、例えば、再生可能エネルギーのソーラーパネル技術ですとか、風力技術の振興と、合わせてやっているわけです。これは、アメリカも同様の状況ですし、もちろんEUは先だってやっているわけです。むしろ、再生可能エネルギーの将来的な拡大を見越して、むしろ、貿易戦争の状態が生じていると思います。そういう意味では、こうした世界の動きの中で、本来、日本はソーラーパネルでも非常に強い技術力を持っていたはずだと思うのですが、国内市場がなかなか拡大しない中で、そのシェアが随分落ちてきているのを見ると、どういう風に経済と環境と、安心・安全といった社会のビジョン、戦略を日本がどのようにつくっていくのか、ということが大きな課題になっているのではないか、と思っています。


工藤:今回のテーマについてのアンケートに、沢山意見が来ています。2つ、3つ紹介させてもらいます。今日の議論にも出たのですが、「世界的に経済が危機的状況にある中で、本当にCOP17という展開を続けるべきなのかも含めて、どう考えればいいか、判断がつきかねています」という意見でした。確かに、地球環境の問題はあるのですが、至るところで経済が厳しい状況にあるという問題がある。だから、「今更蒸し返してもしょうがないけれど、温暖化の科学的根拠をもう少し出すべきじゃないか」とか、これが正直な感想だと思います。

一方で、「3.11の震災と原発事故以降、マスコミ報道も含めて、自然エネルギーなどがまともに取り上げられていない」と。「切羽詰まった状況にもかかわらず、地球温暖化対策の基本である京都議定書のことが完全に忘れ去られている現状に危機感を覚える。だから、エネルギーの恩恵を我々はいかに受けるべきか、ということも含めて、抜本的な議論をしていかないと、まずいのではないか」という意見でした。それから、「日本はこの問題についてリーダーシップをとるために、何を説明していくべきなのか。だけど、今の民主党政権にはそういうテーマについて、リードする人はいないのではないか。少なくとも他党でもいいから、そういうことを考える人を南アフリカに送ってほしい」という声もありました。かなり重要な問題にもかかわらず、何かの形で思考が止まっている。それが、さっきの本音と建前なのかもしれないし、そういう要素もあったと思いますが、その中で、COP17が行われるわけですよね。これに対する日本政府の対応、日本の交渉当事者として、何を期待するかということについて、皆さんに答えていただければと思います。

松下:色々と問題提起されて、全てにお答えはできないのですが、1つは国全体の方向がきちんと出ていないということがあります。日本でも各自治体で色々と新しい取り組みが始まっています。震災が1つの契機になったということはあると思います。再生可能エネルギーを中心とした取り組みを始めているところもあります。例えば、長野県の飯田市がよく取り上げられますが、ここはいわば、NPOが中心となった会社をつくって、そこが、現在0円で太陽光電池を設置しましょうということになっています。0円というのは、初期費用を0にする、いわゆる一種の融資をするわけです。それで、売電によって初期投資を回収する、一種の地域の資金や技術を使って、金融をうまく絡めて広げていく、という仕組みをつくっています。それから、メガソーラーもあるわけです。メガソーラーと言っても、外から持ってきたメガソーラーではなくて、地元の企業が関わって、地元で電気が扱えるようにする。そういった地域との関わりで、その地域に根付いた温暖化対策、再生可能エネルギー、産業興し、地域興しが起こってくる。

工藤:この流れは止められないということですね。

松下:それは、みんな学習していますから、そういう経験を海外の事例なども交えつつお互いに勉強し合って、広めていく。それから、今はまだ小さい事業者かもしれませんが、そういう事業者が、各地でどんどん起こってきています。1つは、民間のイニシアティブ、それから自治体のイニシアティブを、国としてはできるだけ後押しできるような制度をつくっていくことが必要だと思います。

工藤:高村さんと蟹江さんには、こういう風な環境を踏まえて、COP17で日本政府に何を期待していますか。


千載一遇のチャンスを日本政府は生かして新たな枠組みを

高村:ある意味で、日本政府も求めてきた米中など主要国が入った1つの枠組みの交渉を始める、非常に重要な、可能性は非常に低いかもしれませんが、ある意味では、千載一遇のチャンスであり、これをつかまえないと次にいつくるかわからない、そういうタイミングだと思っています。そういう意味では、単純延長ではなくて、むしろそういう合意ができることを条件にしたときに、京都議定書のもとで何らかの取り組みをする、一種の柔軟性をもって、交渉に当たっていただきたいと思いますし、それが日本の温暖化対策の足を止めないということに繋がるのだと思って、期待しています。

工藤:何が何でも、答えを出して帰ってきてほしいということですね。
高村:そうですね。
工藤:また決まらないで終わってしまったら、ガクッときちゃいますよね。

高村:これ、何も決まらないと、また交渉自体が延びていくだけですから、おっしゃる通りです。

蟹江:やはり、温暖化は僕たちが今直面している問題だと思います。我々、地震のリスクがあって、それはこの前明らかになったけれども、その前は、やはりこれほど大きな地震が来るとは思っていなかった。でも、リスクはあるとは分かっていたので、それなりの対策をそれなりにしてきたわけですよね。温暖化も同じで、リスク管理の問題だと思うのですね。なので、多くの学者は、温暖化は起こると言っている。そのために、今やらなければ、本当に取り返しのつかないことになってしまう。それを再認識して、そのためには何をやらなければいけないのか、ということを考えてもらいたいですね。実際の交渉自体に関しては、高村さんがおっしゃったように、日本政府にはうまい妥協をしてもらいたい、と思います。やはり妥協しないと、先には進めないと思います。COP6では、京都議定書を活かすために、アメリカが離脱した後、日本はうまく妥協しました。やはり、そのようなうまい落としどころを見つけて、妥協していくということが1つの日本の知恵ではないかと思います。その着陸点を見出していくということが大事だと思います。

工藤:確かに、政治がそういう風な形に強い意志を持って、交渉に臨むためには、有権者側も自分の問題として考えないと緊張感が出ないですよね。何かやっているねとか、こんなこと言っているの、というレベルではダメなので、私たちも地球環境、エネルギーの問題をきちんと継続的に議論をしたいと思っていますので、また、みなさんにもご参加いただければと思っています。

蟹江さんと高村さんは南アフリカに行かれるということで、またご報告いただければと思います。皆さん、今日はありがとうございました。

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