市民社会に必要な変化とは

2012年2月17日

entry_body= 2月13日の言論スタジオでは、小倉和夫氏(国際交流基金顧問)、山岡義典氏(日本NPOセンター代表理事)、田中弥生氏(大学評価学位授与機構准教授)をゲストにお迎えし、「市民社会に必要な変化とは」をテーマに議論が行われました。

 まず、代表工藤は、「混迷する政治を打開する主体として「有権者」に期待が集まっている。今回はそれに関連して、市民社会の新しい変化や課題について考えてみたい」と述べ、今回は、①日本の市民社会で起こっている新しい変化とはどんなものなのか、②一人ひとりの市民はこの国の課題にどう向き合えばいいのか、③これからの市民社会の課題は何なのか、の3つの論点について本格的な議論が行われました。


120213_all.jpg まず、市民社会の新しい変化について、小倉氏は、「世界中で政治制度や政党に対する不信が広がり、各国である種の市民運動が頻発している」とした上で、それに対する市民による運動が日本において低調な理由として、「これまで政党と市民をつなぐ中間団体の役割が変化し、政治にプロセスに参加するための受け皿が機能していない」ことを挙げました。一方、山岡氏は市民セクターは「第2ステージに入った」と指摘。昨年の東日本大震災を契機に、阪神大震災後にその存在の重要性を認識され始めた段階からは変化しているとの見方を示しながら、「新しいサービスプロバイダーとして優れた団体は出てきているが、アドボカシーに本格的に取り組む団体が少ない。NPO法自体の政治規制の問題もあるが、NPOが政治性を持っていいという状況を作り出さないと、本当に社会のダイナミズムをつくり出していけるのか」と新しい課題を提起しました。

 そして、田中氏は、「旧来型の仕組みでは現在の変化に対応できなくなっている中で、住民運動や市民活動がその割れ目の中からニッチを探すように出てきているのだろう」と現状を説明しつつ、「若い人々の働き方そのものについての考え方が変化している」ことを強調。「働くことと社会に貢献することが同じくらいのウェイトを占めている若者が明らかに増えていて、そういった層が、これからの市民社会をつくっていく大きな原動力になると思う」と語りました。

 次に、「私たち一人ひとりの市民はどのように課題に向かい合えばいいのか」について議論がなされました。小倉氏は、「身近なイシューで市民が集まり、行政のプロセスにもっと市民が入り口として入っていくことが必要だ」と述べ、山岡氏もこの点に賛意を示し、「リアリティのある関わりの中から、従来の政府や産業とは違うメッセージを社会に出していく。その中で自分たちが何を選択するのかが問われる」と主張しました。一方の田中氏は、「社会的な課題解決を実感するための一番いい学校は非営利組織やボランティア活動だと思う。行政を通じた参加だけでなく、外の目も両方持ち合わせているべきだ」と述べました。

 この論点に関して、次に代表工藤は、この議論に先だって行われたアンケートの設問とその結果に触れながら、「政治が何も決められない中で、リーダーシップを期待する声が高まっている。政治家は白紙委任された存在という発言も出ている。こうした風潮とここで議論したような、市民が自分たちで考え社会の課題に参加するプロセスとは方向が全く違うように思うがこれについてはどう考えるか」と問題提起しました。
 これに対しては、「選挙をやったときに想定しなかった政治的決断が必要になる場合を考えれば、有権者との対話、議論のプロセスは不可欠だ」(山岡氏)、「「白紙委任」という言葉自体、課題について自分で考えて選択する自由を自分から放棄するということ」(田中氏)として、有権者は社会の当事者であるという観点から両氏ともに危機感を表明。小倉氏は、「政治家自身が政治の不信を利用し、マスコミがそれに乗り、政治不信を加速している。この悪循環を断ち切らない限り、何ら解決にはならない」と述べると共に、「逆に言えば市民側が自己不信に陥っているのであり、市民一人ひとりが自信を取り戻さなければならない」と強調。そのためにも、「(社会の課題に)自らが参加することが必要だ」としました。

 最後に第3の点について、代表工藤は、先のアンケートで力強い市民社会ができるために、非営利の世界に問われる課題として、「NPOの課題解決の力」「NPOと市民のつながり」「NPO活動の見える化」などが多く挙げられた点を説明し、参加者に市民社会のこれからの課題について問いました。
 非営利の世界に質の向上を目指すため、言論NPOなどは望ましいNPOの評価基準として「エクセレントNPO」の評価体系や自己診断ツールを公表していますが、山岡氏はこの評価基準策定に携わった立場から、アンケート結果を「実感としてピッタリだ」とし、「震災の経験の中で見えてきたのだろうが、本物のNPOがやるべきことは何かについての認識が前向きに出てきている」と指摘。田中氏もアンケートで浮き彫りになった課題が、市民性と社会変革性、組織の刷新性に見合って現れていることを指摘し、「市民と一緒に課題解決をしていきたいと多くの人々が強く感じていることの現れ」と述べました。また、小倉氏も、非営利の世界で評価基準がなぜ重要なのかについて、「NPO活動を第三者評価することで、ある程度客観的な社会的信用度を出すことができる。そのことが、資金調達などにもリンクしていくのだろう」と説明するとともに、「今は震災の支援の追い風に乗ってNPOの評価が高いかもしれないが、これから本当の課題解決をするためには、闘うNPOにならなければならない。それが日本の風土の中でどのように育つかのか、今後の難しい問題だ」と語りました。

 最後に代表工藤は、「市民社会の中に気付きがあり、新しい変化が広まっている。しかし、これからもっと政治的な課題にも向かわなければならないし、そのためには非営利組織自体が、社会的な信用力や、市民による信頼を獲得することが必要不可欠。それを高めるためにも、エクセレントNPOを必要なモデルの一つとして普及しながら、NPO自身が切磋琢磨する状況を作っていきたい」と述べ、議論を締めくくりました。

議論の全容をテキストで読む    

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第1部:市民社会で起こっている新しい変化とは

工藤: 今日のテーマは、「市民社会に必要な変化とは」です。今年になって、私たちは野田政権の100日アンケート以降、今の日本の混迷をどう変えていくのか、ということで議論を行ってきました。その中で最も大きな期待を集めたのが有権者、そして市民社会でした。今日は、この市民社会に関して、議論したいと思います。

まず、ゲストの紹介です。私のお隣が、国際交流基金顧問の小倉和夫さんです。そしてそのお隣が、日本NPOセンター代表理事の山岡義典さん、そして大学評価・学位授与機構准教授で、言論NPOの理事でもいらっしゃる、田中弥生さんです。

さて、私たちは、この国が非常に大きな局面に来ていると思っています。民主主義というものが問われているし、またその市民が、時代に対して当事者として何ができるかということを問われている。世界でも、様々な国で、統治に対する不信から、市民がいろんな動きを始めています。日本も、ちょうど震災からもう少しで1年ということになるんですが、やはりいろんな形で市民が、またボランティアが、被災地の問題に取り組んできました。

まず、今、市民社会にどんな変化が始まっているのか。小倉さんからどうでしょうか。


日本ではなぜ、政治不信が抗議運動につながらないのか

小倉:そうですね、いま工藤さんがおっしゃったんですが、世界中がいろいろな抗議活動、市民活動を行っているんですが、世界に共通するのは、現在の政治制度なり、政党に対する不信だと思うんですね。それは政治不信といってもいいし、政党不信といってもいいのですが、これは世界中にある。そして、不信がある一方で、同時に市民がある程度政治に参加もしている。

ところが日本の場合は、政党への不信はある、制度への不信はあるけれども、市民が参加している抗議運動は、もちろん多少はありますが、そういう運動が、米国のウォールストリートやフランスのパリ、中近東、中国などの世界のいろんな国と比べるとあまりない、ないとは言わないけども比較的低調である、必ずしも目立っていない。

それはなぜなのかというと、やはり市民が参加する受け皿みたいなものが、今までは、農業団体であり労働組合であり、存在していたと思うんですよ。つまり、党と、市民なり国民をつなぐものとして、ある種の様々な利益団体や政治団体があって、それを通じて、市民が政治のプロセスに参加していた。

ところが、その中間的なもの、市民と政党なりをつなぐものが、全部崩壊したとまでは言いませんが、崩壊はしていなくても役割が大きく変化している。

政党は変化しているし、中間的なものも変化しているが、市民まで変化しているとは私は言えないと思うんですよ。しかし、市民がそれに対してどう動いたらいいかというのは、今まで中間的なものを通じて、政党なり制度と一緒になっていたから、なかなか戸惑いもあるし、そこが上手くいっていない。こういう状況じゃないでしょうか。

工藤:そうは言ってもこの前小倉さんは、原発のデモに参加したっておっしゃっていましたが。

小倉:いや、参加したって言っても、一緒に歩いただけなのだけれども。たとえば一つの、原発とか、今回の大震災に関連することは、いろいろと動きが出てきている。そういう意味では、今回の大震災は一つの契機になりうるかもしれませんね。

工藤:山岡さんはどうでしょうか、日本の市民社会に何か大きな変化が始まる兆しがあるのでしょうか。


市民セクターは第二ステージに入っている

山岡:国民全体の内発的な変化が急に起こっているかどうかはわからないけども、NPOというか市民セクターでいうと、僕は第2ステージに入ったところだという言い方をしています。第1ステージは、阪神淡路大震災、あるいはその直前くらいから、NPOの立法運動ができて、阪神淡路大震災をきっかけにNPO的なものの重要性が認められて、NPO法を作っていった。そしてそのNPO法を、税制優遇の仕組みだとかいろいろ作りながら、辛うじて十数年運用してきた。

だけど、あるところまでは行ったけど、なかなか次のステップにいかないな、という状況のところで、民主党政権になって、新しい公共とか、民法そのものが変わり、110年続いた公益法人制度が変わった。

そして、次のステップに入りかかったな、と思った瞬間にこの3.11が起こりました。この動きはかなり17年前の阪神淡路とは違う動きがあって、海外協力のNPOや日本国内の各地のNPOとか、現地のNPOとか、その他様々な住民団体、市民団体が動き始めて、この経験の中から新しい市民社会が生まれつつある、という実感は持っているんです。ですから私は、この2011年を契機に市民社会、市民セクターは第二ステージに入ってきていると言っているのですね。

この第2ステージで、前の十数年の間にできなかったことをどこまでやれるかということが課題だろうと考えています。税制優遇の新しい市民公益税制とか、そういうものも抜本的に変わるし、この4月1日からNPO法も変わっている。このときに、この第2ステージをしっかりと我々が作ることができるのだろうか、ということが、僕ら日本NPOセンターの課題であり、言論NPOとか、エクセレントNPOの課題でもあると思います。

ただ、これはNPO法の問題もあるのですけども、NPOという枠組は、新しいサービスプロバイダとしての役割もあるのですが、アドボカシー的な、政治に本格的に取り組むNPOはまだ弱いなと感じています。ここに少し問題がある。これはNPO法自体の政治規制の問題もあって、NPOは政治に関わらないものだ、という非常に社会的な雰囲気があるからです。そこを突破しないといけない。やはりNPOはもっと政治性を持っていいんだと。そういう状況をつくり出していかないと、社会のダイナミズムを作り出していくことができるのか、というのが課題としてあると思いますね。

工藤:今の話は非常に興味深いですね。実を言うと言論NPOができたときに、加藤紘一さんが、言論NPOのような組織が出てくるなんてNPO法では想定していなかったと言っていました。あのときは17基準...

山岡:一番最初のときは12基準で、それが17基準になるんですね。

工藤:そこに当てはまらない、っておっしゃっていました。それで私たちのカテゴリーは「社会教育」になった、という経緯もあります。

次に田中さん、今の市民社会の大きな動きについてどう考えていますか。


旧来型の仕組みのニッチを探すように市民運動が起こっている

田中:私は市民社会の動きというのは、いわゆるボトムアップにはなると思います。しかし、どうも日本の場合というのは、そういう兆しが出ると、役所が最初にすくいあげて、何でも提供してしまうために、かえって萎えてしまう、という傾向があります。どうしてそういう兆しがあるかというと、2つ理由があると思います。

1つは、もうすでに小倉さんがおしゃってくださったように、世界で統治の仕組み、ガバナンスの仕組みが崩れ始めていて、今までの旧来型の仕組みでは、上手く今の世の中の変化に対応しきれなくなっている。ですから、政府に対する不信感というのが世界中で起こっているのは、政府に能力がないだけではなくて、それが旧来型の仕組みになりつつあるというところに、大きな原因があるように思います。そういうときには、必ずと言っていいほど、あまり既存の仕組みに捉われないような主体が出てきて、大抵の場合それが非営利組織のことが多い。もし市民活動とか、住民運動が出てきているとすれば、その割れ目と言うか、新しいものと古いものの中からニッチを探すようにして出てきているのだと思います。


若い世代が、これからの市民社会をつくっていく大きな原動力になる

もう1つは、私は若い世代の人の動きを見ていると、働き方そのものに対する考え方が、まったく変わってきているなと感じます。以前のように、お金を儲けて働くということや、自らが所属する組織に対してそれほどロイヤリティを感じてない。知識基盤というか、ナレッジを基盤にして働く若者がとても増えている。あるいは仕事は仕事で割り切りながら、社会の課題解決のために、自分がお給料をもらうのと別の場所を持っていたいと。だから、アフター5や、土日には社会貢献活動、NPOやNGOの活動に参加したいと思っている。ですから、働くことと、社会に貢献することが自分の生活感の中で同じくらいのウェイトを占めている若者というのが、明らかに増えていると思います。それが私は、これから市民社会を作っていく大きな原動力になるのでは、と思います。

工藤:今のお三方のお話である程度変化の特徴が見えてきたのでは、と思います。特に今の若い層が、何か社会の問題に自分も参加したいと思っているのは、僕も感じます。

一方で別の変化もある。今回の震災とか原発問題含めて、今まで政治が非常に遠い存在だったのが、ちょっと自分たちも考えないといけないと思い始めた。今まで当たり前に存在していた、それは民主主義の仕組みもそうなのですが、自分と関係なく機能していたと思っていたものが、誰かに任せていても答えが無いのではないか、自分も考えないといけないのではないか、と。それが、多分、山岡さんが言っているような状況につながっている。つまり、かなり政治性を持つ問題がみんなの生活の周りに出始めている。

ただそれが、アクションとして動き始めようとした時に、何となく昔的に、何か左翼運動、右翼運動みたいな、運動論としてしか見えてこない。もっと自然に動こうと思ったときに、その参加の仕方とか、受け皿が見えない。そこに戸惑いがあるような気がします。


市民一人ひとりがもっと身近な行政のプロセスに参加すべきだ

小倉:僕はその場合、広い意味で政治と言ったとき、NPOという立場からみると、行政と、いわゆる狭い意味での政治を区別したほうがいいと思っています。つまり、NPOが政治に参加すると言ったときに、いわゆる行政のプロセスに参加するというのは、比較的易しいと言ったら変だけども、大いにもっとやるべきだし、やり方はいろいろあると思っています。

例えば、生活委員会とか教育委員会とかいろいろありますね、交通安全とか。そういう行政に参加する問題と、それからいわゆる狭い意味での政治プロセスに参加するというのと少し意味が違うと思います。私はまずその行政のプロセスにもっと参加していく。たとえば民間の裁判員制度とかもそうですが、広い意味での司法行政。そういうものに入っていくプロセスにまず、もっとNPOや市民一人ひとりが入っていく。そのプロセスが狭い意味での政治のプロセスに結びついていくと思うのです。

それをいきなり、「あなたね、民主主義はこうだ、さて何かしろ」と言っても、これはちょっと、一人ひとりの市民の立場から言うと、「そうかもしれないけど何したらいいかわからないな」ということになる。だから、行政のプロセスにもう少し入り込んでいく。それが入り口として、もう少しあっていいのではないかと思います。

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第2部:市民はこの国の課題にどう向き合えばいいのか

工藤:先の話を続けたいのですが、市民は政治にどのように参加すべきなのでしょうか。


リアリティのある関わりの中から、従来とは違うメッセージを社会に発信していく

小倉:私はね、イシューですね。1つの争点。つまり制度的なものではなくて、原発なら原発でいいし、女性問題なら女性問題などの身近な課題です。市民は課題で集まらないといけないと思います。

山岡:僕の考えも全くそのとおりで、従来の直接政治というよりも、自治体の審議会の公募に応募するとか、意見を自治体に述べるとか、自治体との集会に参加するとか。やっぱり現実の行政の場に参加することを通じて、リアリティのある行政の場が何であるのかということと、行政の仕組みが何であるのかというのを、きちんと理解するプロセスがないとね。大きい枠組みの議論だけを言っても、犬の遠吠えになってしまって、そんなに力にならないと思う。

僕は小倉さんが言ったのが非常に重要だし、いろんな参加のプロセス、あるいは協働もいいし、参加もいいのだけど、そういうリアリティのある関わりの中から、これは何なのか、自分たちはどういう役回りをしないといけないのかということを考える、あるいはどういう条例を自分たちで作っていくのかを考える。そういう話につながっていくのが重要だと思います。

それからNPOで言いますと、今回でいうと、従来から原発問題でいうと、本当に孤軍奮闘してきちっとやってきたところは、今やっぱり力持っていますよね。同時に、市民による様々な放射能の観測所ができている。これは、それ自身は政治的であるものもないものもあると思うのだけども、とにかく計る。我々は我々で、行政とも違う、企業とも違う、我々も独自に計るのだ、という第3者が計るデータを持つことが重要だと。そしてそれをホームページで公開する。国際的な場で公開する。それが市民ならできる。

僕はこうした活動には政治性があると基本的に思っていますが、そういうアクションを通じて、社会に、そして従来の行政や産業とは違うメッセージをきちんと出していく。その中で、自分たちは何をすべきかを出していく。そういう動きを、別の分野でも、全部作っていくことが必要かなと思います。


社会的な課題を実感するための一番いい学校は非営利活動やボランティア活動

田中:もちろん行政を通じて課題解決というのもあるのですけど、私はやっぱり、社会的な課題解決を実感し、体験する一番いい学校というのは、非営利活動やボランティア活動だと思います。日本人って、心配なのは、お上意識が強いということです。自分も行政的なところにいますけども、あの複雑な機構の中に、飲み込まれてしまう。そのポジションを見失ってしまうことって、あると思います。やっぱり外の目も、両方持っている必要があると思います。


リーダーシップを期待する風潮をどう考えるか

工藤:いまお三方と話をして、やはりこれは市民側が主体的にこの社会と向かい合っていく、そういう動きが色んなかたちで始まっているし、歩みの速度もあるのですが、少なくとも立ち位置がそういうところから皆さん議論を構成している。つまり市民が主体的に当事者として考えていく。NPOというのは政治ということから少し距離を置くような状況が今まであったのだけど、しかし、政治というのが自分たちの生活に直結しているものだ、と思えば、それも考えなければいけない局面にきている。

その点で皆さんにお聞きしたいのは、大阪の橋下市長の、この前の朝日新聞のインタビューです。橋下さんは、「有権者が選んだ人間に決定権を与える、それが選挙だ」と。「選挙では国民に大きな方向性を示して訴える、ある種の白紙委任なのですよ」ということを言っています。多分この発言は2つの意味があって、マニフェスト型の政治は、本当は国民との約束に基づいた政治をするということだったのですが、いろいろ細かいことを書き過ぎていて、それを守るかどうかで、一杯一杯になっている。現に民主党のマニフェストはほとんど機能してないわけですから、こんなことに政治家が縛られてどうしようもないという話。もう1つの話は、選ばれた以上、政治家が色々なことを決められるのだという話、この2つがあると思います。この2つの問題が一緒にかぶって、少し分かりにくくなっているのですが、こうした上からの発想と先ほどの皆さんの意見や考え方と少し違うのです。

つまり、市民が自分の意思でものを選んでいくなり、社会に対して発言していくとか、さっき話にも出ましたが、放射線を測量したり、何か社会のことに関して取り組んでいくとかそういう問題と、一方では、選挙は政治に「白紙委任」したものだ、という政治側の露骨な言い分もある。こうした政治側からの論点を、どういう風に考えていけばいいかということですね。これはどうですか。


常に市民の前に正統性を問いかけ、市民とともにやっていくのが本当の政治

小倉:政治というものが決めるべきものを甘く見ていると思いますよ、「白紙委任しろ」なんていう人は。ルーズベルトについてチャールズ・ビアードという人が書いた有名な本の日本語翻訳がやっと出ましたが、あれを見ると、第二次大戦を始めたのはルーズベルトですが、彼が結局自分の選挙公約を無視して戦争に突入する過程で、権力の恣意性というものが明らかに出ているわけです。

ですから、戦争か平和かということでは、権力は恐ろしい恣意性を持っているため、白紙委任ということはあり得ません。常に市民の前に自分の正統性というものを問いかけて、市民と一緒になってやっていくのが本当の政治だと思います。権力というものの恐ろしさというのを、あの本は余すところなく言っていると思いますが、私はそういう意味で、日常茶飯事のことについては白紙委任でいいと思います。しかし政治の本当の所、つまり国家安全保障とか、生きるか死ぬか最後の決断の問題というものは本当の政治ですよ。その時権力の恣意性というのが恐ろしい結果を生むというのは、歴史が証明しているわけです。だからそれは白紙委任という言葉の意味にもよりますが、とんでもない話で、まさにそこは大変な問題を孕んでいると思いますよ。


有権者との対話のプロセスが政治に大きな影響を持つ仕組みに

山岡:橋下さんの発言の仕方というのは、白紙委任と言っているけど、前提として、大きな方向性では選挙を戦っているわけだよね。マニフェストのように細かく決めたものにとらわれないで、大きな方向性の中で選んでいるわけだから、その大きな方向性がどの程度なのかっていうのが一つ。それと、今回の大震災なんていうのは突然起こるわけです。震災についてどうするかなんて選挙の時に誰も言っていないわけですし、大きい方向性も何もないわけです。菅さんが総理大臣になった時に震災が起こるなんて思っていなかったから。そうすると、やはり選挙をやった時に想定しなかった大きな問題、戦争の問題もそうですけど、政治的決断が必要な場合が出てきます。どの時どうするのか。それは全て白紙委任なのか、やはりその中で有権者との対話のプロセスが政治に大きな影響を持つような仕組みにしておくのか、というと、やはり対話のプロセスなり政治家内で議論のプロセスなり、そういうものがないといけませんよね。

工藤:僕は橋下さんの言っていることは、ある状況に関する答えを言っていると思います。それは、日本の政治が、全く意思決定できないということです。だけど多くの有権者も、まったく自分で考えてない、ただお任せしているような雰囲気がある。その状況で見れば、色々なことよりも、ちゃんと選ばれた人が決定権を持ってもいいという、微妙にポイントをついているのではないでしょうか。


政治不信の悪循環を市民の「気づき」によって変えていきたい

小倉:それは選んだ市民の方にも、選ばれた方にも若干の錯覚があると思います。というのは、現在起こっていることは、非常に冷酷に言ってしまうと、政治家自身が政治の不信を利用しているわけです。マスコミがまたそれに乗り、ミーハー族がそれに乗って、それが回りまわって政治不信をさらに加速させているわけです。その責任は政治家にあるというのはちょっと酷であって、市民にもあるのですよ。なぜなら市民はマスコミに踊らされている。マスコミにも責任はあるのだけど、そういう政治不信の中で動いているわけです。政治家がまさにその政治不信を利用している。市民が利用されている、また市民もそれを利用している、そういう悪循環が今日本で起こっている。それを変えない限り、駄目なのだと思います。

工藤:それは市民の気付きだよね。

小倉:まさにそうなのです。まさにそこを私は言いたい。だからそういうことをやっていても、解決にはならない。


「白紙委任」は自分で考えて選択をする自由を自ら放棄すること

田中:1つは政治側の問題、もう1つはまさに有権者側の問題、2つ述べたいと思います。まず「白紙委任」という言葉自体を使うということ自体、結局は、さっきの課題解決ですよ。課題について自分で考えて選択をする自由を自分から放棄しているということなので、やはりその言葉は使ってはまずいと思います。有権者自体が自分の選択権を放棄したということだと思うので、私は非常にまずいと思いました。

それからもう1つは、橋下さんは、マニフェストが政治家の裁量を狭めているという発言をされていますけど、問題の本質はマニフェストの出来が悪かったということなのです。課題解決として政治が機能してないのであれば、まず政策立案能力というのをきちんと見定めた上で、必要であれば絶対変えてはいけないと言っているわけではありません。変える理由を有権者に説明するというその手続きの話をしている。それを全部否定してしまったら、まさに民主主義が壊れてしまうと思います。


自己不信を越え、自信を取り戻すために、市民一人ひとりが課題に参加すべきだ

工藤:この橋下市長の発言に関しては、有識者への緊急のアンケートでも聞いています。このアンケートの自由回答では、皆さんと同じような回答が多く、白紙委任とかそういうことに関して、ちょっと違うのではないかという意見が圧倒的でした。ただ、結果を見ると、44.6%が橋下さんの意見に関して、「どちらかといえば賛成」と答えているのです。「賛成」は16.1%です。「反対」というのは23.2%で、「どちらかといえば反対」は12%だから、35%ぐらいが反対なのですね。賛成が多いということは、誰かリーダーシップのある人に期待しないと動かないのではないか。逆に言えば、市民側に自己不信があるのです。自分たちも大して動けないのではないか、と。市民社会を考えるときに、こうした雰囲気は無視できないと思うのですが。

小倉:一番恐ろしいのはやはり自己不信ですよね。そこに市民一人ひとりが自信を取り戻さなければいけない。そのためには自分の問題はやはり何かに参加していくとか、そこから自信を取り戻すよりしょうがないのではないでしょうか。


全国からのボランティアの活躍に多くの人々が変化を感じている

工藤:その意味でちょっと話を戻すと、この前の震災ではかなり多くのドラマがあって、圧倒的に多くの人がボランティアで被災地に行った。つまり自分のことと同じように多くの地域や、今困っている人たちのことを考えて、その中の課題解決に取り組んだという点では、非常に大きな経験、教訓を残していると思います。この点についてもアンケートで聞いてみました。震災から11カ月が経つのですが、あなたはこの震災時とその復興のプロセスにおいて、誰の役割に注目し、あるいは評価をしましたか、という質問です。このうち最も多かったのが、被災地の住民、そして全国からのボランティア、そして自衛隊なのです。この結果はどういう風に見ますか。

田中:私の印象通りです。先日、東大工学部の、防災工学を専門にされている目黒先生にお話を伺いました。震災のデータ分析をされているのですが、それともかなりオーバーラップしているところが、通じるところがあるのではないかと思います。目黒先生は震災以降のメディア報道等々の分析をずっとされていまして、そこの中で最も活躍している主体として、特に自衛隊の活動、ここのところを挙げてらっしゃいました。あとボランティアというのもキーワードで出てきます。

工藤:どうですか、山岡さん。この3つの回答が多いことについて。

山岡:自衛隊はさすがだなと思います。これは従来なかったことで、これが何を意味するかということと、本当に自衛隊は頑張ったという面もありますから、今後の自衛隊の在り方をどうするか、非常に重要だと思います。

若干ボランティアの方が多かったというのは救われた面もあります。特に被災地の住民というのは、今度のようにルーラルエリア(農村地域)では、本当に住民が頑張ったし、住民しかいない、NPO、ボランティアもとても入れるような状況ではない時に住民の大変な努力があった、という点で上の2つはいいと思います。聞き方が国内のNPO・NGOというのはちょっと少ないのですけど、全国からのボランティアというのはほとんどNPO・NGOがコーディネートしているわけです。現地の災害ボランティアもそうだし、ボランティアバスを使ってボランティアの送り出しをやっているのも大体広い意味でのNPOです。ですから見える部分はボランティアですが、その後ろにはNPOの存在があったことは理解していただきたい、と思っています。それから大学生や若者がものすごく少なくなっているけれど、実は全国からのボランティアのほとんどは大学生や若者なのです。だからこのアンケート結果で言うと、なんだ、日本の大学生・若者は全然駄目だと言うけど、このボランティアに入っているのです。このボランティアのおそらく3分の2か、もっとたくさんは大学生ボランティアや若者です。

工藤:確かに今回のアンケートの質問の仕方にも問題があったと思います。選択肢の種類が違うものが一緒に並んでしまっているので...。組織と個人が一緒になってしまっている。

山岡:個人は見えるけど、組織は見えないのですよね。

工藤:ただ多分、多くの人たちが全国からボランティアが被災地に行ったということに関して、非常に大きな出来事だと思っているし、組織としてみればNPOの姿がなかなか見えなくて、一方で自衛隊の姿がかなり見えていた。それは田中さんが言われたように報道という問題もあるかもしれません。逆に言えば政治家とか行政とかいう人たちは少ないですよね。

山岡:1割程度ですね。


永続的に市民社会が成熟するために、息の長い復興のプロセスを見る必要がある

小倉:やはり自衛隊については、震災までは市民と距離がある程度あったけれど、急速にその差が狭まった、そういうことは今後の日本にとっても大きいと思います。もう1つは自分が役立っているということでボランティアの方々も自信がついたと思いますし、市民社会の成熟への1つのきっかけになると思います。

問題は、災害は一時的なものですから、これが課題解決といっても課題なのかどうか。災害というのは極めて特殊な一時的なものですから、そこで盛り上がったものが次のステップにどのようにつながるかっていうのは、少し難しい問題があると思います。

私は今回については確かに1つの契機になりうるけど、そこからスピンオフ、ものすごく永続的な形で市民社会の成熟のきっかけの1つとなるかどうかは、むしろこれからの、息の長い復興のプロセスをもう少し長く見ていかないといけないと思います。今の災害への対処ではなくて、もう少し長い5年10年のプロセスの中で何が必要か、それに対して我々が、何ができるのかということを考えるその過程が大事だと思います。

田中:1995年の阪神淡路大震災の教訓というものがあると思います。あの出来事は、ボランティア革命という言葉があるぐらい、NPO法の制定の大きな原動力にはなったのですが、市民全体の動向について見た時に、寄付とボランティアの行動率は、実は95年は上がったのですが、その後、ずっと低迷していたのです。今回もまたぐっと上がると思うのですが、それがどこまで活発に残せるか、維持できるかというのが問われていると思います。

工藤:多分、多くの国民は別にNPOがどうかなんか関係なく、何かをしたかったのですよ。それが寄付にも表れたし、みんな何かを助けたかったし、そういう気持ちがかなり出たということはすごく良かったと思います。ただNPOの関係で言えば、阪神淡路大震災の時の巨大なボランティアの動きを1つの形にしていくということでNPO法ができてきて、一時的な災害かもしれないですけれど、1つの大きな流れをNPOがつくれるかどうかということも今回、問われたのも事実ですよね。その割にNPOの存在が、なかなか見えなかったのではないか。やっている人から見れば、当然やっているよとなるけど、やっていない人から見ればNPOって何だったのだろうとか、そういう感じがまだあるのではないでしょうか。

田中:それは、報道関係者、それから先週末、東大の公共政策大学院の学生、OBと話をしたのですけど、やはりちょっと今回はそんなにNPOの存在感は見えないかなと言っていました。

工藤:それは良いことなのですかね。

小倉:難しいところでね、日本の企業の社会貢献活動と他の国を比べますと、日本の場合は圧倒的にPRが上手くいっていないのです。ところが良いことをやれば、そのこと自体が良いことであって、それをむやみやたらに宣伝するということ自体はあまりする必要はないのだという美徳が日本社会にはある。だからボランティアで良いことやれば、俺はこういうことやったぞ、どうだと言ってPRするというのは、日本の文化・伝統の中では難しい問題があると思います。

工藤:ボランティアに行った人たちがその後どういう意識を持って、社会の大きな担い手として成長していくのかということに非常に関心ありますよね。

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第3部:これからの市民社会の課題は何なのか

ボランティアはNPOの表情

工藤:さて、先ほどの続きなのですが、NPOの姿が見えないのはむしろ良いことじゃないか、という気もするのですが。

山岡:良いかどうかは別として、もともと見えないものだということですよ。

工藤:中で動いている人達は見えるのですが。

山岡:ボランティアが見える。ボランティアがNPOの表情なのですよ。

工藤:そうですね。そうすると、ボランティアの受け皿としてきちんとNPOが機能したかどうかということですね。

山岡:事例を1つ挙げると、夏休みに岩手の県立大学のボランティアセンターが「GINGA-NETプロジェクト」というのをやるわけですよね。あれはNPOとして、ユースビジョンという阪神淡路大震災の時に赤澤さん達が立ち上げた団体と、さくらネットという、これも阪神淡路大震災の時に出た西宮の団体で、現地の災害ボランディアセンターで立ち上げを行った石井布紀子さんという人がいたのだけど、そこと、現地の学生ボランティアセンターと、現地の社教(岩手県社会福祉協議会)との4者でつくったプロジェクトなのですよ。それでね、日本全国から1000人のボランティアをボランティアバスで三陸に運ぶわけです。それは見えるけど、それを動かしていたのは5、6人か、10人もいません。だからNPOは見えないけど、動かしているボランティアは見えるわけ。NPOは見えなくてもいいの。赤澤さんも石井布紀子さんも見えないし、学生ボランティアセンターのオフィスも見えないですよ。だけど現地で動いているボランティアは見える。それが健全なので、NPOだけが見えて、ボランティアが見えなかったら、それはダメですよ。

工藤:先ほどのアンケート結果は適切だったのですね。


支援金なしにはボランティアも動けない

山岡:それで、その時にボランティアだけで、彼らはどれだけ使ったかというと1000万円のお金を使ったわけですよ。日本財団とか赤い羽根共同募金とかいろいろな所から、それから参加費もあって約1000万円。だから1000人のボランティアを全国から三陸に全国から運ぶために、1人1万円かかっているわけです。それはみんなの寄付で行っているわけですよね。その資金、今回でいえば、支援金が無ければボランティアはあんなに動けなかった。ボランティアが活発になるかどうか、NPOが活発になるかどうかは支援金の問題と一緒に考えないとね、ボランティアだけ良かったね、じゃなくて、そこまで本当は見ないといけない。

工藤:どうですか田中さん、今のお話。

田中:それはそうだと思うのですよね。ただ、平時の時のデータを見ていますと、寄付を集めないNPO法人が、去年の内閣府のデータですと全体の7割。それからボランティアが全然いませんと回答しているのが、私たちのアンケートですけれど2割近くになっています。要は介護事業だとか補助金の仕事に専念しているNPO法人がある。それ自体は悪いことではないのですが、増えてきてしまっています。なんとなく、今までの政策的な風潮の中で、ボランティアと寄付は古いもので、チャリティからは脱却しましょうという風潮もあったのです。その結果として、寄付やボランティアの受け皿がなかなか機能しない団体もあって、実際被災地に行って寄付のオファーがあったのだけれど、受け方がわからなかったからとりあえずお断りしました、と。そういう慣れていない所はあったと思います。


社会の課題解決に向けた力強い動きが始まるために、何が問われているか

工藤:確かに、ある意味でNPOは縁の下の力持ちみたいなところはあるのだけれど。しかしNPOが見えない、というのもあって、どこに寄付をしたらいいかわからない、ということも確かにあったのは事実ですよね。

アンケートをベースに話を戻したいのですが、日本のNPOについて聞いてみました。「日本には約4万団体のNPOが存在します。しかしその実態はまだまだ脆弱なものです。非営利の世界で社会の課題解決に向けた力強い動きがより広範に始まるために、あなたは何が大事だと思いますか」と聞いたところ、1番多かったのが「NPOの課題解決の力」と「NPOと市民とのつながり」、3番目が「NPO活動の見える化」でした。見える化ということは活動が見えないってことなのですね。

基本的に、NPOに対して、市民とのつながりや見える化を選ぶ人が6割ぐらいいて、あとNPOそのものの課題解決の力、本当に市民社会が大きく強くなるための力を問われている、ということがありました。この結果はどうでしょう。


大きな組織が小さな非営利組織をつくり、育てるプロセスがもっとあってもいい

小倉:やはり、さっきのPRの問題とも関係するのですが、NPOの活動についての情報を-提供をする人がいないといけない。NPO自身は事業をすることに精一杯だし、組織をちゃんとすることに精一杯で、やっていることをPRするということは、だれか第三者がやらないといけない。自分でやれと言っても無理です。NPOについての情報を収集して、それを外に出す、そういう組織というものがもう少し力強く成長してこないといけない、というのが1つあると思います。

もう1つは、私が思うに、大きな財団や大きな組織、会社でもいいのですが、それが小さなNPOをつくっていく、そういうプロセスも大事だと思います。市民から湧きあがってくるものも大事ですよ。それはもちろん一番大事なのだけど、なかなかそう簡単ではない時に、例えば大きな財団なり、大きな社会貢献活動をしている団体に、小さな団体をつくってもらうということが、もう少しあって良いのではないかと思います。その両方が、マッチングしてうまくいけば、そこでNPOが育っていく。何故なら、私が日本のNPOの最大の問題だと思うのが、あまりにも規模が小さいということ。先ほど田中さんが言われたように、あまりにも規模が小さいからPRしようといったって無理な話なのですよ。小さいNPOがあってもいいのですけど、規模を多少なりとも少しずつ大きくしていく。そのプロセスをどうしたら良いか考えるとね、私は、一緒になるということもいいけれども、大きな財団なり大きなところが、小さなものをつくって育てていく、そういう動きがもう少しあってもいいように思います。

工藤:田中さん。このNPOの課題解決の力、NPOと市民とのつながり、というのは、これまで私たちが開発して普及に努めてきた、エクセレントNPOの評価基準そのものだと、思うのですが。


「エクセレントNPO」の評価基準を通じて社会的信用度を上げていく

田中:私も非常に驚いたのですけれど、私たちがエクセレントNPOの基準をつくるにあたって、ベースになる調査を行った結果、NPO自身が答えていることと、この有識者アンケートがかなり同じなのです。

まず、やはり自分たちの力をもっと強くしなくてはいけないし、もっと市民と繋がらなければいけない。でも、市民と繋がるためには、自分たちの姿を見せなければいけない。見せるためには方法が必要で、そのひとつが評価なのでしょう、ということだと思うので、ストーリーとして良くつながっていると思います。

小倉:1つ、言い忘れたのですが、社会的信用度なのですよ。いいことやっているけど、やっぱり企業なり財団なりとくらべると規模が小さいでしょ。率直に言うと、社会的信用度が分からないのですよ。ですから、NPO活動の第三者評価が何故重要かというと、それによって社会的信用度がついて、ある程度、客観的なものを出せるということなのですね。それを見ればどういう団体かが分かりますからね。それが色々な意味での資金集めとか、そういうことにリンクしていくということではないでしょうか。


多くの人が、市民と一緒に課題解決をしていきたいと強く感じ始めている

工藤:アンケート結果を逆から見ると、少ないのもあるのですね。「行政からの委託や支援」が7.1%。それと、僕はもっとNPOは、何でもいいから色々なところと競争し合って勝ち抜かなければいけないぐらいの気持ちを持っているのですが、こうした「競争」を選んだ人は5.4%と、意外に支持が無いのですね。

一つ教えてもらいたいのですが、この「課題解決の力」というのは何を言っているのですかね。

田中:これはまさに、NPOが非常に好んでいる社会変革性ですよ。社会の課題を解決することによって、社会を良くしていく、自分たちの力で変えていく、というそのアスピレーションそのものです。

工藤:そうか、それが1位で、市民とのつながりが2位で並んでいるのですね。

田中:まさに、市民と一緒になって課題解決をしていきたい、と思っているのです。

工藤:山岡さん、どうですか、これは。

山岡:これは非常に僕らの実感とぴったりです。NPOについて認識の高い人たちが答えている感じです。まさに、課題解決の力、例えばさっき言った放射能測定をしよう、ということは普通なら今まで思い付かないと思います。これは市民の立場からやらなければいけなくて、そして課題解決に繋がっていくわけですよ。ただ淡々と測って公表するだけなのだけど、そのことが意味を持ってくる。僕らもNPOセンターで、現地NPOの応援基金という形で関わりましたが、本当に色々なアイデアを持っていて、避難所の中から小さなNPOが立ち上がってきている。もちろん全国から来たのもたくさんあるのですけれど。でも今度については、いろいろな現場からの課題解決、避難所における女性の問題、障害者の問題、誰も考えていなかったものにNPOが気付いていくわけです。気が付いたところはそこで仲間を集めて何とかやっていく。そういう意味で言うと、僕はこの課題解決の力が本当に重要だということを実感しています。


「本物のNPOがやるべきこと」についての認識が前向きに出始めている

工藤:ただ、「市民とのつながり」の回答が多いのは、つながりが無いということの裏返しではないでしょうか。

山岡:繋がったのは良い例として出てくるわけですよ。だからやっぱり、つながりは重要だなと実感するわけですよね。もちろん今までは無かった、ということなのかもしれない。

田中:1998年にNPO法ができた頃は、つながりは非常に強かったと思うのですけれど、少しずつ薄くなってきたのです。

山岡:これは、やっぱり必要だということですよ。萎えてきたものが、今回見えてきた。

工藤:田中さんが一番批判的な「行政からの委託」は少ないし、「NPO活動のビジネス化」もそんなに多くないですね。

田中:そうなのですよ。社会的企業とか、ビジネスブームでしたからね。

山岡:これはおそらく、震災という経験の中で見えてきたことなのだと思います。震災の直前にやったら違うのが出てきて、震災によって、本物のNPOのやるべきことは何か、ということについての認識が、非常に前向きに出てきたものだと僕は思います。

工藤:すると、それは課題解決の力と市民のつながりだと。

田中:市民性と社会変革性ですね。

工藤:それで、「見える化」。第三者評価というのは、信用力を付けなきゃとか環境をつくらないといけない、という話ですよね。意外にいいとこついていますよね。


アンケート結果から浮かび上がる「エクセレントNPO」評価基準の必要性

工藤:多かった3つの回答に関しては、エクセレントNPOの宣伝にもなります。誘導したわけじゃないのですが、田中さん、NPOの評価基準としてみた場合のこのアンケートの結果をどう見ますか。

田中:はい。エクセレントNPOの評価基準というのは、こちらの先生方、工藤さんにも入っていただいて、3年ほどかけて、NPOと市民の間のつながりをもっと厚くして、お互いに質を高めていこう、ということでつくりました。この評価基準は3つの基本項目からできていまして、それが「社会変革性」と「市民性」と「組織力」です。まさに課題解決力というのが「社会変革性」であり、市民とのつながりというのが、市民参加の受け皿に非営利組織がちゃんと機能していますかという「市民性」を尋ねていますし、見える化とか評価というのは信頼できる組織であるかを問うわけですから「組織力」ということになります。NPOも、それからNPO以外の方達が見る目というのと、私たちが提示させていただいた-評価基準が、非常に整合していると思います。

工藤:さっきの山岡さんの話が非常に興味深かったのですが、震災の前なら違っていたかもしれないけれど、震災の経験の中で、本当に必要なことが見えてきたってことは、NPOの世界から見れば良いことですね。

山岡:僕はそう思いますよ。

工藤:なんでそう気付いたのでしょうか。

田中:ボランティアと寄付ですよ。

工藤:圧倒的にボランティアと寄付ですよね。市民の大きなエネルギーですね。

山岡:それと色々な報道場面でしょうね。阪神淡路大震災の時は、テレビしか見えるものが無かったけど、今はソーシャルメディアなどを通じて、色々な形で情報が伝わったでしょ。だから、色々な現状を多面的に見る機会があって、そういうところで見えたもの、聞いたもの、あるいは新聞の報道、雑誌の報道、そういうものがベースになって、こういう認識に至ったのだろうと思います。

工藤:そうですね。ただ、やっぱりそれを動かしたのは、市民の圧倒的に大きな参加ですよね。被災地に関する善意とかも含めて。

山岡:それと、やっぱり現地の住民の影響もありますよ。

工藤:ありますよね。

山岡:今回は、ある意味で言うとNPO空白地帯で起こったわけですよね。今、現地でNPOは新しく出来始めていますけれど、当時、即座に現地のNPOが動いたのかというと、そうではない、ちょっと近くの都市のNPOが動いて、あとは全国のNPOが動いた。そういう中で、今、NPO的なものがそれぞれの地区で立ち上がりつつあるという現状です。


課題解決のため、NPOは「闘うNPO」にならなければならない

小倉:阪神淡路大震災もそうだし、今回の東日本大震災もそうですが、NPOが日本の社会に育っていく上で良いと思います。ある意味では「禍を転じて福と為す」です。でも、冷静に考えると、今回はものすごいお金があったのですよ。それから、「助ける」という善意。今回は助けを求めている人がいて助ける、ピタっといくわけですよ。しかしこれからは大変です。課題解決型というのは、ある意味で反対者と闘わないといけないのです。反対者を押し退けて、ある意味では「闘うNPO」にならないといけない。今は「助けるNPO」ですよ。だからこれはいいのです、誰も皆、良くやってくれたと言ってくれますから。しかし、闘うNPOになった途端に、「やれ、やれ」って言う人もいるけど「何やっているのだ」と言う人も出てくるわけです。この「闘うNPO」になれるかどうか。課題解決といった時には闘わなくちゃいかんわけですから。それが日本の風土の中で、どのように育つかというのは難しい問題だと思いますよ。

工藤:今日の議論は、非常に良い結論になったのですが、まさに市民社会の中に大きな気付きがあり、大きな変化が始まっている。しかし、それはひょっとしたら、今の「闘い」とか、政治的な課題に関しても向かい合わないといけない、大きなそういう段階まできている。ただ闘うためには軍資金が必要で、信用力も得なきゃいけないし、市民の本当の理解を得なければいけない。そういう形の非営利組織が、今後出てこないといけないし、それを適正に評価できる仕組みが必要だと思います。市民がそれをきちっと理解できないとまずいですよね。

NPOが市民社会の大きな本当の担い手になれるかどうか、市民社会が大きく日本を変革する、そのスタートに立っている中での担い手になれるか。そういう段階に来ていると思います。どうでしょう。


NPOにとっては、チャンスであると同時に正念場だ

田中:まさにそうだと思います。NPO側に立って見れば、すごく大きなチャンスなのですが、同時に正念場だと思いますね。まさに「闘う」という言葉を使って下さったので、引き締まった感じがあります。やはり良いことだけではない、つらいこともあるし、だれかと争わなければならない時にも、どのくらい踏んばれるか、ということが求められます。そして、先ほどの白紙委任の話になりますけど、自分たちで選び、自分たちで考えて、最後まで責任を持つということが、本当に闘うことだと思います。


5年ぐらいで、現地のNPOが育ち、活動を継続していけるように

山岡:もうちょっと具体的に言いますと、今、1年近く経って、被災地は救援期から生活再建期に入っている。今までのNPOの力というのは、見えている部分は全国各地から集まった応援NPOなのですね。今、小さく育ちつつあるのが現地のNPOです。次第に現地のNPOにバトンタッチして、現地のNPOがきちんと育って、継続的な活動をしていくようにならないといけない。その状況をどうつくるか。全国規模のNPOは金を集める力もあるし、見える化も相当なされている。現地ではない応援NPOは、立派なところ、実力のあるところが行って入り込んでいる。それに対して、小さいのはこれから生まれつつある、それはまだよくは見えないし、力もそれほど無い。それを持続的に、そういう風にきちんと育てていけるか。さっき財団という話もありましたが、財団以外に色々な企業の支援も使っていく。そういう状況をつくっていかないといけない。個人も、企業も、瞬間的にこの1年に寄付がバーンと集まったけど、これから減っていく。この1年に集まった寄付を、僕は5年かけて使うようにと言っています。僕らは企業から相談があったら、5年かけて使わせて下さいと言っています。少なくとも5年、10年でもいいのだけど。10年というと大抵企業はちょっと待って下さいとなるので、5年ならやりましょうということでやっています。瞬発的に集まったお金を、5年ぐらいかけることによって、地元のNPOのキャパシティビルディングをどうつくっていけるか、という点に僕はかかっていると思います。そのことによって全国から応援したNPOは少しずつ手を引いていく。いつまでもそこに居座っちゃダメなので、そういう状況をどうつくっていけるか、っていうのがこれからの、この5年ぐらいの課題だと思っています。

小倉:立派なNPOを育てる、育てるためのNPOが必要なのですよ。それを言論NPOがしっかりやって下さい。


「エクセレントNPO」を目指して切磋琢磨していく状況を作り出したい

工藤:今日の話は、これから市民社会がいろいろな意味で強くなっていくこと。市民社会が強くなることが目的ではなくて、強くなることによってこの国の社会が変わっていく、それだけの大きな原動力になりたいということです。ただそれは一部の人に期待するのではなくて、市民がみんなで考えてそれに取り組むという、大きくて強いエネルギーを僕たちはつくっていきたいと思っています。その意味で今日ちょっと話が出たのですが、エクセレントNPOという、ある1つのNPOにとって必要なモデル、目指す評価基準がありまして、それを私たち、「エクセレントNPOを目指そう市民会議」は色々な形で普及しながら、その中で切磋琢磨していくような状況を作っていこうと思っていますので、そのようなことも皆さんに見てもらって、注目して、期待していただきたいと思っています。今日は市民が時代を大きく動かす時代になった、これからが勝負だという思いを強くしました。皆さんどうもありがとうございました。

一同:ありがとうございました。

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放送に先立ち緊急に行ったアンケート結果を公表します。ご協力ありがとうございました。

2012年2月13日(月)収録
出演者:
小倉和夫氏(国際交流基金顧問)
山岡義典氏(日本NPOセンター代表理事)
田中弥生氏(大学評価学位授与機構准教授)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)

第1部:市民社会で起こっている新しい変化とは

工藤: 今日のテーマは、「市民社会に必要な変化とは」です。今年になって、私たちは野田政権の100日アンケート以降、今の日本の混迷をどう変えていくのか、ということで議論を行ってきました。その中で最も大きな期待を集めたのが有権者、そして市民社会でした。今日は、この市民社会に関して、議論したいと思います。

まず、ゲストの紹介です。私のお隣が、国際交流基金顧問の小倉和夫さんです。そしてそのお隣が、日本NPOセンター代表理事の山岡義典さん、そして大学評価・学位授与機構准教授で、言論NPOの理事でもいらっしゃる、田中弥生さんです。

さて、私たちは、この国が非常に大きな局面に来ていると思っています。民主主義というものが問われているし、またその市民が、時代に対して当事者として何ができるかということを問われている。世界でも、様々な国で、統治に対する不信から、市民がいろんな動きを始めています。日本も、ちょうど震災からもう少しで1年ということになるんですが、やはりいろんな形で市民が、またボランティアが、被災地の問題に取り組んできました。

まず、今、市民社会にどんな変化が始まっているのか。小倉さんからどうでしょうか。


日本ではなぜ、政治不信が抗議運動につながらないのか

小倉:そうですね、いま工藤さんがおっしゃったんですが、世界中がいろいろな抗議活動、市民活動を行っているんですが、世界に共通するのは、現在の政治制度なり、政党に対する不信だと思うんですね。それは政治不信といってもいいし、政党不信といってもいいのですが、これは世界中にある。そして、不信がある一方で、同時に市民がある程度政治に参加もしている。

ところが日本の場合は、政党への不信はある、制度への不信はあるけれども、市民が参加している抗議運動は、もちろん多少はありますが、そういう運動が、米国のウォールストリートやフランスのパリ、中近東、中国などの世界のいろんな国と比べるとあまりない、ないとは言わないけども比較的低調である、必ずしも目立っていない。

それはなぜなのかというと、やはり市民が参加する受け皿みたいなものが、今までは、農業団体であり労働組合であり、存在していたと思うんですよ。つまり、党と、市民なり国民をつなぐものとして、ある種の様々な利益団体や政治団体があって、それを通じて、市民が政治のプロセスに参加していた。

ところが、その中間的なもの、市民と政党なりをつなぐものが、全部崩壊したとまでは言いませんが、崩壊はしていなくても役割が大きく変化している。

政党は変化しているし、中間的なものも変化しているが、市民まで変化しているとは私は言えないと思うんですよ。しかし、市民がそれに対してどう動いたらいいかというのは、今まで中間的なものを通じて、政党なり制度と一緒になっていたから、なかなか戸惑いもあるし、そこが上手くいっていない。こういう状況じゃないでしょうか。

工藤:そうは言ってもこの前小倉さんは、原発のデモに参加したっておっしゃっていましたが。

小倉:いや、参加したって言っても、一緒に歩いただけなのだけれども。たとえば一つの、原発とか、今回の大震災に関連することは、いろいろと動きが出てきている。そういう意味では、今回の大震災は一つの契機になりうるかもしれませんね。

工藤:山岡さんはどうでしょうか、日本の市民社会に何か大きな変化が始まる兆しがあるのでしょうか。


市民セクターは第二ステージに入っている

山岡:国民全体の内発的な変化が急に起こっているかどうかはわからないけども、NPOというか市民セクターでいうと、僕は第2ステージに入ったところだという言い方をしています。第1ステージは、阪神淡路大震災、あるいはその直前くらいから、NPOの立法運動ができて、阪神淡路大震災をきっかけにNPO的なものの重要性が認められて、NPO法を作っていった。そしてそのNPO法を、税制優遇の仕組みだとかいろいろ作りながら、辛うじて十数年運用してきた。

だけど、あるところまでは行ったけど、なかなか次のステップにいかないな、という状況のところで、民主党政権になって、新しい公共とか、民法そのものが変わり、110年続いた公益法人制度が変わった。

そして、次のステップに入りかかったな、と思った瞬間にこの3.11が起こりました。この動きはかなり17年前の阪神淡路とは違う動きがあって、海外協力のNPOや日本国内の各地のNPOとか、現地のNPOとか、その他様々な住民団体、市民団体が動き始めて、この経験の中から新しい市民社会が生まれつつある、という実感は持っているんです。ですから私は、この2011年を契機に市民社会、市民セクターは第二ステージに入ってきていると言っているのですね。

この第2ステージで、前の十数年の間にできなかったことをどこまでやれるかということが課題だろうと考えています。税制優遇の新しい市民公益税制とか、そういうものも抜本的に変わるし、この4月1日からNPO法も変わっている。このときに、この第2ステージをしっかりと我々が作ることができるのだろうか、ということが、僕ら日本NPOセンターの課題であり、言論NPOとか、エクセレントNPOの課題でもあると思います。

ただ、これはNPO法の問題もあるのですけども、NPOという枠組は、新しいサービスプロバイダとしての役割もあるのですが、アドボカシー的な、政治に本格的に取り組むNPOはまだ弱いなと感じています。ここに少し問題がある。これはNPO法自体の政治規制の問題もあって、NPOは政治に関わらないものだ、という非常に社会的な雰囲気があるからです。そこを突破しないといけない。やはりNPOはもっと政治性を持っていいんだと。そういう状況をつくり出していかないと、社会のダイナミズムを作り出していくことができるのか、というのが課題としてあると思いますね。

工藤:今の話は非常に興味深いですね。実を言うと言論NPOができたときに、加藤紘一さんが、言論NPOのような組織が出てくるなんてNPO法では想定していなかったと言っていました。あのときは17基準...

山岡:一番最初のときは12基準で、それが17基準になるんですね。

工藤:そこに当てはまらない、っておっしゃっていました。それで私たちのカテゴリーは「社会教育」になった、という経緯もあります。

次に田中さん、今の市民社会の大きな動きについてどう考えていますか。


旧来型の仕組みのニッチを探すように市民運動が起こっている

田中:私は市民社会の動きというのは、いわゆるボトムアップにはなると思います。しかし、どうも日本の場合というのは、そういう兆しが出ると、役所が最初にすくいあげて、何でも提供してしまうために、かえって萎えてしまう、という傾向があります。どうしてそういう兆しがあるかというと、2つ理由があると思います。

1つは、もうすでに小倉さんがおしゃってくださったように、世界で統治の仕組み、ガバナンスの仕組みが崩れ始めていて、今までの旧来型の仕組みでは、上手く今の世の中の変化に対応しきれなくなっている。ですから、政府に対する不信感というのが世界中で起こっているのは、政府に能力がないだけではなくて、それが旧来型の仕組みになりつつあるというところに、大きな原因があるように思います。そういうときには、必ずと言っていいほど、あまり既存の仕組みに捉われないような主体が出てきて、大抵の場合それが非営利組織のことが多い。もし市民活動とか、住民運動が出てきているとすれば、その割れ目と言うか、新しいものと古いものの中からニッチを探すようにして出てきているのだと思います。


若い世代が、これからの市民社会をつくっていく大きな原動力になる

もう1つは、私は若い世代の人の動きを見ていると、働き方そのものに対する考え方が、まったく変わってきているなと感じます。以前のように、お金を儲けて働くということや、自らが所属する組織に対してそれほどロイヤリティを感じてない。知識基盤というか、ナレッジを基盤にして働く若者がとても増えている。あるいは仕事は仕事で割り切りながら、社会の課題解決のために、自分がお給料をもらうのと別の場所を持っていたいと。だから、アフター5や、土日には社会貢献活動、NPOやNGOの活動に参加したいと思っている。ですから、働くことと、社会に貢献することが自分の生活感の中で同じくらいのウェイトを占めている若者というのが、明らかに増えていると思います。それが私は、これから市民社会を作っていく大きな原動力になるのでは、と思います。

工藤:今のお三方のお話である程度変化の特徴が見えてきたのでは、と思います。特に今の若い層が、何か社会の問題に自分も参加したいと思っているのは、僕も感じます。

一方で別の変化もある。今回の震災とか原発問題含めて、今まで政治が非常に遠い存在だったのが、ちょっと自分たちも考えないといけないと思い始めた。今まで当たり前に存在していた、それは民主主義の仕組みもそうなのですが、自分と関係なく機能していたと思っていたものが、誰かに任せていても答えが無いのではないか、自分も考えないといけないのではないか、と。それが、多分、山岡さんが言っているような状況につながっている。つまり、かなり政治性を持つ問題がみんなの生活の周りに出始めている。

ただそれが、アクションとして動き始めようとした時に、何となく昔的に、何か左翼運動、右翼運動みたいな、運動論としてしか見えてこない。もっと自然に動こうと思ったときに、その参加の仕方とか、受け皿が見えない。そこに戸惑いがあるような気がします。


市民一人ひとりがもっと身近な行政のプロセスに参加すべきだ

小倉:僕はその場合、広い意味で政治と言ったとき、NPOという立場からみると、行政と、いわゆる狭い意味での政治を区別したほうがいいと思っています。つまり、NPOが政治に参加すると言ったときに、いわゆる行政のプロセスに参加するというのは、比較的易しいと言ったら変だけども、大いにもっとやるべきだし、やり方はいろいろあると思っています。

例えば、生活委員会とか教育委員会とかいろいろありますね、交通安全とか。そういう行政に参加する問題と、それからいわゆる狭い意味での政治プロセスに参加するというのと少し意味が違うと思います。私はまずその行政のプロセスにもっと参加していく。たとえば民間の裁判員制度とかもそうですが、広い意味での司法行政。そういうものに入っていくプロセスにまず、もっとNPOや市民一人ひとりが入っていく。そのプロセスが狭い意味での政治のプロセスに結びついていくと思うのです。

それをいきなり、「あなたね、民主主義はこうだ、さて何かしろ」と言っても、これはちょっと、一人ひとりの市民の立場から言うと、「そうかもしれないけど何したらいいかわからないな」ということになる。だから、行政のプロセスにもう少し入り込んでいく。それが入り口として、もう少しあっていいのではないかと思います。

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放送に先立ち緊急に行ったアンケート結果を公表します。ご協力ありがとうございました。
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