日本の民主主義を考える

2012年10月17日

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121004_top.jpg 決められない政治またはマニフェストの形骸化など、課題解決を先送りする政治状況が続いている。民主党、自民党の党首選を終え、次の選挙が予想される中で今日の民主主義の問題とその解決策について、言論NPOのアドバイザリーボード3人が話し合った。

 日本の民主主義は、ぶれやすい民意と、それに応えようとポピュリズム化する政治家、形骸化しつつある制度に問題があると指摘された。そうした状況からもう一度、代表制民主主義を機能させるために、有権者が当事者意識を持ち、政党のガバナンスを監視し、マニフェストを軸とした政治を機能させる必要があるとの見解が示された。

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工藤:今、言論NPOは一つのメッセージを社会に提供して、広く賛同を集めようとしています。そのメッセージとは「私たちは政治家に白紙委任をしない」ということです。これは私たち有権者の覚悟であり、決意表明だと思っています。こうしたメッセージを社会に提起しながら、日本の政治における民主主義が今まさに問われていると感じています。また日本の社会に本当の変化を起こすために有権者が主体となって自分で考えて政治に発言し、政治との緊張関係を持つ、そのようなサイクルを実現していかないとこの国の民主主義は機能しなくなるのではという危機感を持っています。私たちはこの賛同を100万人の人から集めようと思っていますが、そういう賛同を多く集めることによって日本の社会に大きな変化を起こしていきたいのです。

崩壊過程にある政治家と有権者との信頼関係

 今回は「日本の民主主義を考える」をテーマに、言論NPOのアドバイザリーボードから3人の方に来ていただき、今の日本の民主主義をどのように考えれば良いのか、またどのように改善すべきなのか、を議論していきます。

 今回の議論に先立ち、私たちは有識者2000人にアンケートを送付し、その内413人の方からの回答を公開しています。日本の社会で民主主義が機能していると思いますか、という設問では、約7割の人が「機能していない」と答えました。民主主義が機能するとは、私たちが代表制民主主義をとっている以上、まず有権者が自分たちの代表の政治家を選ぶ、選ばれた代表の政治家・政党は日本の課題解決のために仕事をする、その結果を評価した上で次の選挙が行われる、そうしたサイクルがしっかいと回ることだと私たちは考えています。今は我々が代表を選んでから長い間選挙のない状況であり、政治家は有権者から、「本当に私たちの代表なのか?」「その代表は日本の抱える大きな問題に対して答えを出す努力をしているのか?」を問われています。多くの有識者は、民主主義が「機能していない」と思っていますが、皆さんはどう思っていますか。またその原因はどこにあるかを伺いたい。


増田:私は代表制民主主義の下では、選ぶ側の選挙民と選ばれた側の代表者の両者の信頼関係が出来上がっているのが民主主義の大前提だと思っている。今7割の人たちが先行きに危惧を抱いており、私も両者の信頼関係はまさに崩壊過程にあると思っている。選挙において何を代表者に託すのか、あるいは託したはずのことを本当に選ばれた側が実行したのか、その不信感の蓄積がアンケートの結果に出ている。これは、選ぶ側の思いと全くかけ離れた方向に政策が進んだ現状を反映している。一方で、選ぶ側にも、最近の投票率が非常に低く、また小泉(郵政)選挙、民主党による政権交代など、きちんとした政策に基づいて選んでいない、という問題がある。いずれにしても、信頼関係が崩れ、代表制民主主義の基本を揺るがすような事態になりつつある。

武藤:私がまず申し上げたいことは、2006年9月に安倍政権が発足して以来、6年間に6人、つまり1年に1人の総理大臣である、ということだ。このことだけを見ても日本の民主主義が機能しているとは思えない。選挙民が負託をして、施策を実施して、結果を出して、評価して、また投票する、こうしたサイクルが働くはずがない。この原因には、国民が代表を選ぶ手続きの問題もあるが、むしろ政治のシステム、それを運用する能力の点で重大な欠陥があるのではないかと思う。こんなに頻繁に指導者が変わるということは他の主要国にはない。それは仕組みやルールに重大な欠陥があると考えざるをえない。


日本の民意と日本の制度を反映した民主主義の課題

宮内:お二人の言った通りだと思う。しかし、機能していない、とそこまで言ってもいいのかという感じがする。すなわち、選挙になってきちんと政権が変わるというのは機能しているということだろう。政権交代の結果、政治が動かなくなっている。これはやはり日本の民意と日本の制度を反映した結果であり、これが日本型民主主義なのだろう。だから、それをよりよいものにしていくのは重要だと思うが、日本型民主主義は駄目だ、全く機能していないのではない。

 一方で、民主主義を動きにくくしている一つの問題は、民意が非常にぶれる、うつろいやすいということだ。その結果、非常に妙な政治形態を作っている。もう一つは日本の現在の制度、例えば政府と衆議院、参議院、政党、これらによって今の民主主義が機能しないように見える結果をもたらしている。例えば政党がマニフェストを掲げて、選挙で政権を取ったが、全く実現できないだけでなく、反対のことを始める。こういうことによって国民がより失望している。だから、民主主義というものはそれに関わる国民と政党、それを動かしている制度にメスを入れないとよりより民主主義にならないと思う。

工藤:今の意見で基本的な論点が明確になったと思います。今の発言のように民意がぶれやすい、民意にひきずられるという問題とそれを利用する政治、政党・制度の問題、そうしたいろんな問題が今の状況を作っています。つまり、日本の民意と制度を反映して日本の民主主義を作っていることは確かにそうです。しかし、今の日本では課題解決が先送りされ、重要な問題が山積している状況です。これらの話を踏まえて、増田さんはどう考えますか。

増田:結局うまく機能していない。日本が民主国家であることはその通りである。それは近隣の国とは様子が違うと思う。だが、今のままでいけば非常に心配されることが多いことも事実であり、それは最近出てきている国政課題で顕著である。以前は毎年税収が増え、利益をどう分配するかが国政の大きなテーマだったが、今は負担をどう分かち合うかが大きな国政のテーマとなり、これに政治と行政がどう関わっていくかが重要になってきた。また、環境の変化として、例のチュニジアのジャスミン革命ではないが、一人一人がいろんな意見を外に発信するソーシャルネットワークの"武器"を持ち始めている。一方で、日本の選挙制度は小選挙区制度に変わって、二大政党を前提に政党政治を運営することになっているが、負担を分配する中でどうも民意を大きく二つに集約しきれない。今は、より多様な民意の終着点が必要ではないか。従って、日本の抱える問題を見ると時代の変化に合わせて民主主義をより上手く機能させていくために知恵を相当絞らなければならないということだ。

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意見の統一できない政権与党と整合性の取れないマニフェスト

工藤:こうした民意の話を受けて、別の観点から話を続けたい。民意は確かにぶれやすくていろんな形がありますが、そのために政策決定があり、政治は民意のぶれと同じようにぶれるのではなく、課題に対してこういうことをやるべきだと民意を説得するような姿勢が取られるべきです。しかし、その政治が民意の流れに巻き込まれてしまうという状況になると、有権者は誰を選べばいいか分からなくなります。

 アンケート調査に戻ると、あなたは次の選挙でどの政党を選ぶか、確信を持っているか、という問いに「今回は確信を持てない」あるいは「投票に自信がない」と答えた有識者が31.8%でした。そういう人たちは最後に何とか棄権をせずに決めたいという気持ちでしたが、非常に悩んでいます。また、その人たちに決められない理由を尋ねると半数を超えた意見が3つありました。一つは、「どの政党も日本の直面する課題に答えを提起できていないから」、二つ目は「全ての政党が大衆迎合的で今後の政治の展望が見えないから」、三つ目は「政党の離合集散の動きも選挙のための政治家の都合に過ぎないから」、です。つまり、今の課題に対して真剣に考えたいがそれに対してどうすればいいのか分からないという有権者がおり、政治と有権者との間に溝が出来ています。武藤さん、この状況をどう考えていますか。

武藤:日本の場合政権交代の直後とか、今回の消費税増税法案の経緯を見ると、いろんな問題はあるが、国民の負担を増やす法案がきちんと通っている。だから、政治がきちんと方向を示して、国民に働きかけ、説得する努力をすれば、国民はちゃんと理解してくれる。それに答えるという意味で私はそんなに捨てたものではないと思う。そういう意味では宮内さんのご意見と同じだ。ただ、政党が十分に対応していないことと、私の申し上げるルールやシステムに欠陥があるという意味では問題がある。例えば、政党のマニフェストは徹底した議論を通じて決めるわけではない。また今でも内閣の中で大臣の言うことがマニフェストとかなり違っていても放置される。さらに、与党と総理の立場が違っても一向にすり合わせしようとしない。これでは国民はどれを信じたらいいのか分からない。従って、国民の方にも責任はあるが、政治の方にも責任があり、悪循環が生じているのではないか。他にも、国会の実態にも問題があり、これらをきちんとしてもらわないと国民が投票に行くことに対してかなりマイナスの影響を与える可能性がある。

宮内:皆さんのご意見の他の面で申し上げると、現在大きな政党が二つあり、対立しているようだが、結局今の政権与党とは何だろう、と思わざるをえない。内部の政策、一人一人の意見が全く一致していない。私は現在の政権与党、民主党は反自民党という点だけで一致した党で、政権交代した後に、実際に国を運営することとなると意見がとんでもなくひどい。ある意味では何でもありという風になった。選挙の時に掲げたマニフェストとの整合性が全くなくなったので国民が大変失望し、前回の参議院選挙の結果となった。だから、短期的に見ないで、長期的に見れば、これまでの政権運営が国民に納得できるものかどうかが次の選挙で明らかになるので、私はまさに民主主義は機能すると思う。


とらえどころのない民意とポピュリズム化する政治家

工藤:さて、アンケート結果に戻ると、次の選挙が日本の新しい変化のきっかけになると、期待しているか、という質問に対して意見が真っ二つに分かれました。「期待している」と答えたのが4割、「期待していない」も同様の状況です。しかし、両方とも言っていることは同じです。つまり、次の選挙を契機として混迷した政治をチャンスに変えなければならない、期待するのは当然だ、というのが「期待している」の意見ですが、「期待できない」と答えた人は、そうは言っても期待できる政治家・政党がない、政治家は日本の課題に対して解決策を提起できるのか、と考えています。一方で、今回の尖閣問題にも該当しますが、勇ましい発言、あるいは大衆迎合的な発言をする人が影響力を持つ可能性もあります。確かに選挙という民主主義の仕組みとして最大のチャンスでしょうが、この状況をどのように考え、どう活用すればよいかについて、増田さんから意見を伺いたい。

増田:私も次の選挙に大いに期待している。選挙とは、節目節目で色んなことを変えていく仕組みである。有権者は常にあらゆる問題についてどちらかというと負担は嫌だし、難しいことは先延ばしにしたいという傾向があるし、相対的に見れば、大衆迎合的なところに惹かれるところがあると思う。だからこそ、政治家は今、何が問題でどういうことをしなければいけないかをはっきりと真正面から説かなければならない。逆に、それが今一番欠けている事ではないかと思う。どこの国でも税金を上げることにものすごい抵抗感があり、それによって政権が交代する。しかし、どうしても作らなければいけない社会保障の仕組みを次の政権が引きついで、全く反対の党でありながら、全く同じシステムを何回かに分けて作っていく。これが北欧の今までの歴史である。やはりそういう政治の世界に委ねるべきことについて政治家はきちんとした覚悟を持って、国民、有権者に働きかけをしていく形にしていかなければならない。それはお互いに緊張感をいかにもたせるのかということである。

工藤:先ほどの宮内さんの発言、つまり民意と制度が今の民主主義、日本の政治を作っている、ということに関して訊きます。そうなると今の民意のレベルが今の政治を容認しているか、それともそういう民意が政治を選ぶチャンスがなかったから今の政治の状況になっている、ということになる。こうした民意の状況をどのように考えていますか。

宮内:民意はとらえどころのないほど広がっている。国民として一つの社会を保つためにそれに対する自分の貢献、いわゆる義務とそこに対する権利という両方の側面があるが、残念ながら日本の戦後教育は権利の主張に重きを置き、コミュニティ・社会・国に対する義務の希薄化を生んでいる。そういう中での民主主義だから、国に対する要求ばかりが強くなっている。それに対して、政治がその要求にとても答えられない状況になっている。つまり、ポピュリストになることで自分を曲げなければならないとしても、ポピュリストのポーズをとらないと選ばれないという今の小選挙区制の制度の矛盾の中で政治家は生まれてくる。従って、自分の主張を隠してでもとにかく選ばれないといけないという形で代議制民主主義が行われている。やはり根本を言うと教育から変えなければいけない。どうして社会が成り立っているかというのを国民一人一人が分からないといけない。今のところ政治家が一番困っているのは国民の要求が強すぎること、義務を果たそうとしないことである。その中で自分の政治家としての何かをやらなければならない。政治家も私は辛いと思う。だから、現在の日本の民主主義は日本の民意、日本のレベルと言わざるをえない。

工藤:今の話は本質的な話で、私も政治家の人と話をした時に永田町の中で「言論NPOの言うような本当の政策軸に基づく政治改革は出来ない、なぜなら選挙に弱いからだ」と言われました。つまり、有権者の色んなニーズ、ある意味でポピュリストな発言をしないと当選できません。従って、有権者側が大きく変わらない限り、選挙に強くなければ政治家はなかなか本質的な課題解決に取り組めない状況があります。

武藤:政治家の現実感覚はそういうことだとは私も想像がつく。しかし、民意、さきほど宮内さんがとらえどころのないものであると述べたが、全くその通りで民意があらかじめきちんとした定型を持っているということは望んでも無理だと思う。やはり国民のかなりの部分が良識と理解する知恵、世の中を良くしようとする叡智を持っていることが民主主義の基本だと思う。

 しかし、この国の一人一人があらかじめそうしたものを持っていて、政治が何か提案した時に自分の基準に照らして選択することはあり得ない。政党と政治家が基本的な国家像について何をしようとしているのか、をきちんと示さないと国民は選択できないと思う。それをいつも曖昧にして、当選したらいいことをたくさんやりますというような姿勢で選挙に臨まれると国民も確かにポピュリズムになり、政治家もポピュリズムになって悪循環となる。

 また、私はこの国で選挙があり過ぎると思う。選挙がたくさんあることが民主主義の良い点だという風に国民がなんとなく思っているが、それは嘘だと思う。選挙ではある程度の期間、政党が政策運営を担当して結果を示したことによって評価をしない限り、成果は出てこない。だから、政権運営で不手際があるかどうか、最も極端なのはスキャンダルだが、そういう話で世論を誘導しようとするし、そうしたメディアも出てくる。そういうとらえどころのない民意の中でやはり政党、政治家がちゃんとした発言をし、それに国民が応えて、しっかりとして政治家を選ぶことが重要である。

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代表制民主主義を立て直す

工藤:本当にその通りだと思いますが、先ほど宮内さんの言ったように政権与党が長く政権をやったからといって果たして答えを出せるのでしょうか。つまり、確かに落ち着いて政策運営をやらなければなりませんが、落ち着く政党そのものがバラバラだという本質的な問題があります。

武藤:それよりは日本の政治の基本である政党にガバナンスがないということが問題である。党首選を見れば明らかであるが、どういう原理でやっているのか、次の選挙に負けそうだとか、長老が応援しているとか、こういう議論しかなかった。企業ならばおかしくなっている。政治家のキャリアパスも極めて曖昧である。こうなると政党もきちんとした提案が難しい。

工藤:増田さん、民意はそんなに無責任なものですか。確かに民意はぶれやすいが、日本の中にもある程度賢明な判断の出来る人はいると思いますが、その点についてどのようにお考えですか。

増田:私は民意が無責任というのはいい過ぎであって、それはあくまでも有権者の意思であると思う。しかし、本当に気をつけなければならないのは、よく有権者とか、選挙権とかを権利で捉えるけれども、あれは権利ではなく義務であるということだ。先日の地方選挙だが、あれだけ話題になった山口県知事選挙も投票率がわずか45%だった。要は、権利の上に眠っている人が55%おり、一部の意思によって全体の民意が形成されているような状況だった。かかる問題が良いのか悪いのか以前に、そういう権利を使わずに、一方で、選びだした政権を少し時間が経つと引きずり下ろす、飽きて次を求めたがるという問題がある。国政の場合、衆議院解散があるにしても一度選んだからには、地方選挙と異なり、リコール制度がないので、その選挙の一回だけが勝負である。決して手に唾することは言いたくないが、最近民意がやや安易に考え過ぎていると思う。

工藤:民意と言った場合「世論」と「輿論」は異なっています。一般的な「世論」は、とにかくサービスが重要であり、何かあれば勇ましい人を求め、毅然とした態度を取れとか、そういうことがないと軟弱だとか、そういう風に動きます。一方で、「輿論」はきちんとした議論に基づいた責任ある意見です。本来後者の「輿論」が民主主義の前提となっていますが、実際には大きな乖離があるという問題があります。

 一方で、このアンケートに答えている人たちはかなり意識が高いです。その人たちが今の課題解決を政治が出来ないということに対しておかしいのではないか、つまり宮内さんのさきほど言ったポピュリズム的な改革色を競うようなスローガンというより、政治家の課題解決力を見ようとしている声があります。この二つの民意の展開、せめぎあいをどのように考えていけばよいかを、宮内さんにお願いしたい。

宮内:そのために代議制の民主主義がある。いちいち世論調査をして決めるわけにはいかない。やはり、選ばれた人が何か物事を動かすという時に話し合いをし、すり合わせをし、妥協に妥協を重ねて、中をとる。中の取り方はいろいろあるが、何かを作り上げて物事を進める、そこの集結度合いが日本の政党間で非常に弱い。連立をしないと動けない。それでも動かなくなったら、選挙で対立した一番目の政権与党と、一番目の野党が大連立を組むという全く民主主義を破壊するような論が出る。そうではなく、一つ一つのイシューに関する政策協調がどうして出来ないのか。これが出来ない限り何のために政治家を選んだのかとむなしい思いを抱く。政治家は我々の負託を受けて代表になったのだから、何が何でもいいから物事を動くように妥協を図って、日本国を少しでも前に進めろという気持ちになる。それをやらない政治家を怠慢というか、何のために政治家になったのかと叫びたくなる。

武藤:政治家が選挙のために政治をするという風になっている。その状況から、政治家が国家のために政治を行い、政策を実行し、その結果を選挙で問う、という風にしたいし、しなければならないと思う。この原因は、政治のルールに問題があるからだ。選挙の回数は一年半に一回あるように出来あがっている。衆参の問題で物事が解決出来ない状況に出来あがっている。政党も二大政党といいながら、その価値観は5つ、6つ、7つ、のように多様な意見に分かれている。そういうことを前提にやるしかない。


マニフェストを軸とした政治サイクルの実現

工藤:さて、またアンケート結果に戻ります。日本の民主主義を機能させるためにどんなアイデアを持っていますか、という設問では、有権者の問題を問う声が非常に多かったです。43.9%と半数近くの方が「有権者、市民の当事者としての自覚」と答え、最多となりました。これと連動しているのは、22.1%の方が回答した「マニフェストを軸とした政治サイクルの確立」と19.5%が回答した「有権者と政治とのより緊張感のある関係」でした。つまり、有権者の自覚と政治家との関係を再構築することが非常に重要だという声が非常に多い。それに関連して、20%程度の方が「首相公選制」や「直接民主制の導入」などを求め、有権者の参加を求める声も多数ありました。これは一つの解決策として有権者と政治との関係に対して問う必要性を感じているということです。

 他方で、制度改革を求める声もあります。例えば、31.1%が「参議院の廃止など両院制の改革」、21.8%が「定数削減」、18.5%が「一票の格差の是正」と答えていました。投票という行為自体に関しては、「投票の義務化」に私も賛成だが、有識者の13.5%も同様な意見を持っています。この「投票の義務化」と関連して、「最低投票数の厳密化」という、どれくらいの政治家が代表制を維持しているのかという本質的な問いかけもしている。その他に、「政党助成金の廃止」あるいは「政党自体の外部監査制と政党助成金のリンク」などが10%ほどあります。解決策は有権者と政治との緊張関係と制度改革、政党改革に集約されています。こうした状況についてまず増田さんから意見を伺いたい。

増田:まず参議院のあり方を変えるとか、首相公選制とかのいろいろなアイデアがあるけれども、やはり私はものすごく時間がかかるし、難しいと思う。当事者が変えないと出来ない仕組みをやる時はなかなか変えられない。直接制度、例えば国民投票などで最後に有権者の意見を聞いてみる。これは世論調査と同じようなものである。そういう風に安易にそういう所に戻すな。選ばれた以上そこでこらえて、結論を出しなさい。原発の問題にせよ、何にせよ、難しいからこそ有権者に選ばれた代表者が徹底的に議論し、自分たちの中で決めるべきだと思う。

 しかし、そういう仕組みにどのようにしていくかということだが、やれば出来ると思ったのがこの間の3党合意である。政党間の合意は今まで非常に難しかったけれども、本当にごく一部、曖昧な部分はたくさんあるが、何とか3党でまとめ上げた。だから、本当に追い込められて真摯にやらなくてはならない時は党を超えて合意をするという実績がある。これを他の政策でも行なえばいいと思う。

 最後に、アンケート調査にもあったが、「マニフェストを軸とした政治サイクル」を政党はきちんとやってほしい。民主党政権でマニフェストという言葉が汚れたが、民主党のマニフェストはマニフェストもどきで、ああいう天から降って来たものをごく一部でやっているというのはマニフェストではない。そうではなく、本当に真摯にマニフェストを下から積み上げて党内議論をし、少なくとも党員から支持されるマニフェストを作ってほしい。その上で政党間が譲ることは譲って、最後は妥協も必要になる。それでマニフェストのサイクルが実現していけば、今の政治に対する信頼を取り戻せると思う。

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政党のガバナンスをチェックし、政党の質を高める

武藤:色々問題があるからといって二院制を一院制するような大掛かりな制度改正を現実にやろうとしたら成功しないと思う。それよりは現在の仕組みの運用を工夫する余地はたくさんある。例えば、国会運営の日程を事前に決めておき、初めから中身を議論することが必要である。また、衆議院で先議するとか、参議院は後からだとかは、より柔軟に対応する必要がある。さらに、審議に関して今6カ月以上9カ月近く国会を開いているが、その間閣僚が拘束される。こういうことをしていると政治がなかなかきちんとしたことを出来ない。他方で、マニフェストについては公正な評価機関をワンセットで作らないと、マニフェストは事実上の詐欺行為に近くなる。最後に申し上げたいのは政党のガバナンスをチェックする、政党が何をやりたいか、何をやりたいかをどのように決めたか、やれないときはどうするのか、人材をどのように登用しているのか、そういう企業で言えばガバナンス、これをチェックした方が政党の質が向上する。よりしっかりした政策を作るとか、政治家がしっかりすれば国民がよくなるというのはその通りだが、本当の前進に何がなるかといったら政党のガバナンス、これが最も必要である。

宮内:今、武藤さんが言った通りだと思う。長く続いた自民党はオールラウンドな政党になり、非常に多くの人を抱えた。それに対抗するために現れた民主党ももっと広い、かつ綱領のない政党という考えられない政党が出来た。やはり、私はしっかりした政党作りが重要だと思う。何を主張する政党なのか、これだけは明確にすべきだ。それに連なる人がその政党の候補者として選挙民に応えるという一番基本のところが、残念ながら日本に特に現在の民主党に全く見られない。その結果、国民を失望させているのが現実である。だから、政党はしっかりしているのか、政党間の対立軸は何なのか、をはっきりするのが大事である。その中から国民の責任で自分の支持する所をしっかりと支持して、選んだ後、それこそ「白紙委任はしない」という意味に関わるが、監視を強める、これが一番重要であると思う。その監視の結果を次の選挙で示す。これを何度も繰り返していけば、政党もしっかりしていくし、選挙民も自覚が出来てくる。だから、こうした選ばれた人と選んだ人との相互作用が必要である。

 また、政党はこういう形で国をリードすると国民に示さなければならない。現在の国民の大部分が政権与党にだまされたと思っている。これが日本の現在の悲劇だと思う。だから、残念ながら、だまされたという所からもとに戻さなければならないという、低レベルの民主主義になってしまった。これを早く高いレベルの民主主義に持っていきたい。

工藤:先ほどのアンケートでは、選挙とは「国民との約束の場」か、それとも「白紙委任出来る政治家を選ぶ場」なのか、を訊いています。これは極端な選択肢なので真ん中あたりに答えが集約されると思っていましたが、実際は「国民との約束の場」という人が約6割いました。また、マニフェストを軸とした政治が必要か、と改めて訊いてみると、67.6%の方が「必要だ」と答えました。次に、選挙の時に何をあなたたちは参考にするか、と聞くと、57.6%が「マニフェスト」と答え、圧倒的でした。私はここに武藤さんや宮内さんの言及した政党のガバナンスを入れればよかったと反省しましたが、その代わり、気になったのが政党よりも政治家個人の考え方を知りたいという声が2割ぐらいあったことです。これは、「選挙とは約束の場だ」、「マニフェストを機能させなければならない」と考えているが、今の政党を信用できない。だから、その中にいる政治家一人一人をチェックしないと信用できないという層もいるという事です。増田さん、こうした声に関してどう思いますか。

増田:白紙委任はしないというか、スーパーマン頼みみたいなことは駄目だ。何かの手がかりで選ばなければならないので、一人一人の考え方を確認するという事は政党がいかに機能していないか、いかに政党が政党の形になっていないか、ということである。細かな数値目標ではなく、何をやる政党なのかをはっきり出して、候補者の資質とかを政党の責任で揃えてもらわなければならない。いくつかの提示された選択肢の中で私はこの党、私はこの党と決めるというごく当たり前のことをもう一回復活させる。そういう場であってほしい。私は今回のアンケート結果を見てなるほどと思う事が多いし、今の政治を変えていくために政党側から働きかけていかなければならない。

工藤:今、増田さんの言ったことが非常に重要で、確かにそうです。代表となる政党が、代表になる候補者を立てる義務があります。だから、政党の機能は全てにおいて問われていますが、今の政党が本当に取り組むのかという問題があります。

武藤:政党ではなく、政治家で選ぶという議論があれば二大政党制は無理である。もう一つは政党が望ましい政治家を必ずしも選んでないということである。その原因は自分たちのメンバーをどのように決めるかに関して十分に議論しない仕組みになっていて、有権者からみると変な人が立候補しているということにあると思う。この問題では政党のガバナンスということが試されているけれども、総じて民主主義を徹底した結果、民主主義が機能しないというのが現状だと思う。民主主義が傷ついているのではなく、ルールが必要である。政党がどのように運営をされるか、政治資金は政党の基本中の基本だからこれがどのように調達され、どのように配分されるか、人はどのように選ばれるのか、リーダーは誰なのか、ということを、こういう手続きでやっていれば信頼できるだろうという枠組み、そういうルールがあれば国民はもう少し異なる投票行動になれるだろう。そこが最大のポイントだと思う。

宮内:結局、民主主義が行きつくとてんでんばらばらとなる。そうではなくて、社会を動かすためにはてんでんばらばらでは駄目でそのために政治がある。やはり政党が何をするかが非常に大事である。どの政党は何を主張しているか、ということをはっきり出してそれをゆるぎなく進めていく。あるいは、それを少し変えるときには国民にしっかり説明するという政党の行動をしっかりしないと民主主義は本当に変なものになる。

工藤:今日は3人の議論で民主主義の非常に大きな問題点、またそれをどのように変えていけばよいかの論点を明確に提起出来ました。言論NPOの「私たちは政治家に白紙委任しない」というこの決意はスタートです。この決意から私たちが民主主義をより機能させるために変えていかなければなりません。そのために有権者と政治家とのカウンターバランスを取り戻す、特に有権者は現状について当事者意識を持って、考え、行動しなければならない局面にいます。是非私たちの呼び掛け「有権者は政治家に白紙委任をしない」という賛同の環を広めていきたいです。つまり、この呼び掛けから日本の大きな変化を作りだしていきたいと思います。

 ありがとうございました。

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放送に先立ち行ったアンケート結果を公表します。ご協力ありがとうございました。

2012年10月4日(木)収録
出演者:
増田寛也氏(野村総合研究所顧問)
武藤敏郎氏(大和総研理事長)
宮内義彦氏(オリックス株式会社 会長兼グループCEO)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)


代表制民主主義を立て直す

工藤:本当にその通りだと思いますが、先ほど宮内さんの言ったように政権与党が長く政権をやったからといって果たして答えを出せるのでしょうか。つまり、確かに落ち着いて政策運営をやらなければなりませんが、落ち着く政党そのものがバラバラだという本質的な問題があります。

武藤:それよりは日本の政治の基本である政党にガバナンスがないということが問題である。党首選を見れば明らかであるが、どういう原理でやっているのか、次の選挙に負けそうだとか、長老が応援しているとか、こういう議論しかなかった。企業ならばおかしくなっている。政治家のキャリアパスも極めて曖昧である。こうなると政党もきちんとした提案が難しい。

工藤:増田さん、民意はそんなに無責任なものですか。確かに民意はぶれやすいが、日本の中にもある程度賢明な判断の出来る人はいると思いますが、その点についてどのようにお考えですか。

増田:私は民意が無責任というのはいい過ぎであって、それはあくまでも有権者の意思であると思う。しかし、本当に気をつけなければならないのは、よく有権者とか、選挙権とかを権利で捉えるけれども、あれは権利ではなく義務であるということだ。先日の地方選挙だが、あれだけ話題になった山口県知事選挙も投票率がわずか45%だった。要は、権利の上に眠っている人が55%おり、一部の意思によって全体の民意が形成されているような状況だった。かかる問題が良いのか悪いのか以前に、そういう権利を使わずに、一方で、選びだした政権を少し時間が経つと引きずり下ろす、飽きて次を求めたがるという問題がある。国政の場合、衆議院解散があるにしても一度選んだからには、地方選挙と異なり、リコール制度がないので、その選挙の一回だけが勝負である。決して手に唾することは言いたくないが、最近民意がやや安易に考え過ぎていると思う。

工藤:民意と言った場合「世論」と「輿論」は異なっています。一般的な「世論」は、とにかくサービスが重要であり、何かあれば勇ましい人を求め、毅然とした態度を取れとか、そういうことがないと軟弱だとか、そういう風に動きます。一方で、「輿論」はきちんとした議論に基づいた責任ある意見です。本来後者の「輿論」が民主主義の前提となっていますが、実際には大きな乖離があるという問題があります。

 一方で、このアンケートに答えている人たちはかなり意識が高いです。その人たちが今の課題解決を政治が出来ないということに対しておかしいのではないか、つまり宮内さんのさきほど言ったポピュリズム的な改革色を競うようなスローガンというより、政治家の課題解決力を見ようとしている声があります。この二つの民意の展開、せめぎあいをどのように考えていけばよいかを、宮内さんにお願いしたい。

宮内:そのために代議制の民主主義がある。いちいち世論調査をして決めるわけにはいかない。やはり、選ばれた人が何か物事を動かすという時に話し合いをし、すり合わせをし、妥協に妥協を重ねて、中をとる。中の取り方はいろいろあるが、何かを作り上げて物事を進める、そこの集結度合いが日本の政党間で非常に弱い。連立をしないと動けない。それでも動かなくなったら、選挙で対立した一番目の政権与党と、一番目の野党が大連立を組むという全く民主主義を破壊するような論が出る。そうではなく、一つ一つのイシューに関する政策協調がどうして出来ないのか。これが出来ない限り何のために政治家を選んだのかとむなしい思いを抱く。政治家は我々の負託を受けて代表になったのだから、何が何でもいいから物事を動くように妥協を図って、日本国を少しでも前に進めろという気持ちになる。それをやらない政治家を怠慢というか、何のために政治家になったのかと叫びたくなる。

武藤:政治家が選挙のために政治をするという風になっている。その状況から、政治家が国家のために政治を行い、政策を実行し、その結果を選挙で問う、という風にしたいし、しなければならないと思う。この原因は、政治のルールに問題があるからだ。選挙の回数は一年半に一回あるように出来あがっている。衆参の問題で物事が解決出来ない状況に出来あがっている。政党も二大政党といいながら、その価値観は5つ、6つ、7つ、のように多様な意見に分かれている。そういうことを前提にやるしかない。


マニフェストを軸とした政治サイクルの実現

工藤:さて、またアンケート結果に戻ります。日本の民主主義を機能させるためにどんなアイデアを持っていますか、という設問では、有権者の問題を問う声が非常に多かったです。43.9%と半数近くの方が「有権者、市民の当事者としての自覚」と答え、最多となりました。これと連動しているのは、22.1%の方が回答した「マニフェストを軸とした政治サイクルの確立」と19.5%が回答した「有権者と政治とのより緊張感のある関係」でした。つまり、有権者の自覚と政治家との関係を再構築することが非常に重要だという声が非常に多い。それに関連して、20%程度の方が「首相公選制」や「直接民主制の導入」などを求め、有権者の参加を求める声も多数ありました。これは一つの解決策として有権者と政治との関係に対して問う必要性を感じているということです。

 他方で、制度改革を求める声もあります。例えば、31.1%が「参議院の廃止など両院制の改革」、21.8%が「定数削減」、18.5%が「一票の格差の是正」と答えていました。投票という行為自体に関しては、「投票の義務化」に私も賛成だが、有識者の13.5%も同様な意見を持っています。この「投票の義務化」と関連して、「最低投票数の厳密化」という、どれくらいの政治家が代表制を維持しているのかという本質的な問いかけもしている。その他に、「政党助成金の廃止」あるいは「政党自体の外部監査制と政党助成金のリンク」などが10%ほどあります。解決策は有権者と政治との緊張関係と制度改革、政党改革に集約されています。こうした状況についてまず増田さんから意見を伺いたい。

増田:まず参議院のあり方を変えるとか、首相公選制とかのいろいろなアイデアがあるけれども、やはり私はものすごく時間がかかるし、難しいと思う。当事者が変えないと出来ない仕組みをやる時はなかなか変えられない。直接制度、例えば国民投票などで最後に有権者の意見を聞いてみる。これは世論調査と同じようなものである。そういう風に安易にそういう所に戻すな。選ばれた以上そこでこらえて、結論を出しなさい。原発の問題にせよ、何にせよ、難しいからこそ有権者に選ばれた代表者が徹底的に議論し、自分たちの中で決めるべきだと思う。

 しかし、そういう仕組みにどのようにしていくかということだが、やれば出来ると思ったのがこの間の3党合意である。政党間の合意は今まで非常に難しかったけれども、本当にごく一部、曖昧な部分はたくさんあるが、何とか3党でまとめ上げた。だから、本当に追い込められて真摯にやらなくてはならない時は党を超えて合意をするという実績がある。これを他の政策でも行なえばいいと思う。

 最後に、アンケート調査にもあったが、「マニフェストを軸とした政治サイクル」を政党はきちんとやってほしい。民主党政権でマニフェストという言葉が汚れたが、民主党のマニフェストはマニフェストもどきで、ああいう天から降って来たものをごく一部でやっているというのはマニフェストではない。そうではなく、本当に真摯にマニフェストを下から積み上げて党内議論をし、少なくとも党員から支持されるマニフェストを作ってほしい。その上で政党間が譲ることは譲って、最後は妥協も必要になる。それでマニフェストのサイクルが実現していけば、今の政治に対する信頼を取り戻せると思う。

報告    


放送に先立ち行ったアンケート結果を公表します。ご協力ありがとうございました。
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