10月18日の言論スタジオでは、鈴木亘氏(学習院大学経済学部経済学科教授)、西沢和彦氏(日本総研主任研究員)をゲストにお迎えし、「次の選挙で問われる社会保障制度改革とは」をテーマに議論が行われました。
まず、代表の工藤が「社会保障と税の一体改革法案が可決し、消費税増税が決まった。この評価をしてもらい、社会保障の争点を明確にする」と問題提起しました。それに対して両氏とも、社会保障制度改革は先送りされ、消費税増税による財政健全化が目的だったとの見解を示しました。その中で鈴木氏は、「少子高齢化の費用は年々増加するが、消費税は景気が上がっても増えない」と述べ、膨張する社会保障費に充てる適切な財源ではないと指摘しました。一方で、財政健全化について西沢氏は、消費税増税の一部が地方と公共事業に使われる可能性に言及し、「本当に財政健全化に寄与するのは半分」と述べました。
また、社会保障制度の在り方について鈴木氏は、「2023年には3人で1人、2060~70年には1人で1人を支えることになる」と述べ、「消費税、保険料など全ての負担が将来どれだけ上がるのか」を提示し、全体的な負担と給付を明らかにする必要性に言及しました。
続いて、現行の年金と医療制度の課題とその打開策について議論が及びました。年金制度について、西沢氏は雇用形態または家族形態などの構造の変化と財政に問題があると述べ、これを踏まえて民主党は過剰給付の抑制を含めた改革を検討したが、結局は「給付するだけになった」と指摘しました。また、鈴木氏は、積立金の取り崩しと運用損によって前提が崩れ、「2030年に年金の積立金が枯渇する可能性がある」と述べ、年金会計の深刻な状況を政府が国民に開示する必要があると述べました。
他方で、医療制度では、西沢氏は「医療資源の地域間の偏在」と年金同様に「財政の持続可能性」に問題があると指摘しました。前者について、現行制度では診療報酬の改定のように価格に主眼が置かれた政策だと述べ、今後は「医者に移ってもらう」などの量的な是正が必要だとの見解を示しました。後者について、組合健保が後期高齢者医療制度あるいは国民健康保険などを支えていることに言及し、ブラックボックス化している医療制度を「保険料の使い道が分かるようにシンプルに変えていくべき」と語りました。
今日の議論に先立ち、言論NPOの実施した緊急アンケート調査では、有識者81人から回答をいただきました。その設問で「次の選挙で政治家や政党が社会保障の問題で何を明らかにすべきか」を訊き、51.3%の半数余りの人が、政治家などに「現状の社会保障制度の維持か、抜本的改革を行うのかについての意思と具体策」を求めました。このアンケート結果を受けて西沢氏は、政治家は財源を「配るのではなく、負担を切り分ける」という「少子高齢化モード」に切り替わる必要があると述べました。なお、鈴木氏は、政策の実行プロセスの開示およびマニフェストの党内での共有の必要性を指摘し、財政検証は政治家より中立的な立場の「言論NPOなどが実施すべき」と言及しました。
最後に、代表の工藤は、超高齢化社会で社会保障財政が維持できない状況を覚悟すべきと述べ、「批判するだけでなく、課題解決が出来るようする。有権者が社会保障の問題を自分たちのものとして考えなければならない局面にいる」と締めくくりました。
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工藤:こんばんは、言論NPOの工藤泰志です。選挙がいつになるか分かりませんが、今回の言論スタジオでは社会保障の問題を議論したいと思います。言論NPOは、今度の選挙ではきちんと有権者側が考えて、はっきり政治にものを言おう、ということを考えています。そのために有識者アンケートを取ってみました。次の選挙の争点は何なのか?と。6つのテーマが出ました。まず「成長戦略」、それから「社会保障」、「財政」、そして「原子力を含めたエネルギー政策」、「安全外交保障」、「民主主義が抱える様々な問題」の6つです。私たちは、これらの問題を次期選挙の争点だと考え、それぞれ議論して、選挙で政治家が必ず国民に明らかにしなければいけないことを、逆に我々が提起し、それを政治家に語ってもらうという企画をこれからスタートさせようとしています。今日はその一回目として社会保障の問題を取り上げます。
議論に参加していただくお二人を紹介します。日本総研の西沢和彦さんと学習院大学経済学部教授の鈴木亘さんです。社会保障の問題は、ご両人がいらっしゃらないと始まらないと言っても過言ではない最適の方々です。
第1部:【社会保障と言っておけばいいのか】
"一体改革"はどこへ? 社会保障改革は仕切り直し
工藤:さて「社会保障と税の一体改革」では民主党政権で消費税の5%の増税が決まりました。まずその評価をしていただいて、社会保障の争点を抉り出していきたいと思います。鈴木さんからどうぞ。
鈴木:最初は厚労省と財務省の戦略的互恵関係だとうまいことを言っていたのですが、最後は、厚労省がスパッと切られて、財務省がゴールインしたというそういう印象を持っています。消費税だけが上がり、社会保障についてはこれから議論するとか言っておりますけど、事実上先送りで、何もしないということですから、財政再建ではむしろ望ましかったかもしれませが、社会保障改革ではなかったと考えています。
工藤:ということは、名前は「社会保障と税の一体改革」としない方がよかったですよね、何かだまされた気がします。西沢さんどうでしょう。
西沢:私もそうだと思います。社会保障をエサに増税に結びつけたということです。消費税5%のアウトラインは1%を社会保障の充実に使うと言っていますが、おそらくもっと膨らみます。残り4%を財政健全化に充てると言っていますが、1.54%分を地方に配ると言っていますし、また消費税が上がったことで安心したのか、公共工事に使うという話が出てきていますから、本当に財政健全化に寄与するものは半分ぐらいだと思います。ですから、社会保障としては評価し難いですし、財政健全化としても5%と言われるほど効果はないというのがトータルでの評価です。
工藤:つまり高齢化が進む中での社会保障の抜本的な改革、そしてこれは、みんなが思っているわけですけど、社会保障の様々な仕組みが持続的ではないのではないかと。これに対してなんらかの形で答えを出すのかと、現にそういう話をしたんですよね、一時は・・・それが、どっかで急になくなってしまったという状況なのですか。
西沢:菅さん(前首相)が「社会保障改革に関する集中検討会議」というのを始めたんですね。年金で2004年にマクロ経済スライドという給付抑制の仕組みを入れましたが、これが全然動いてない。それでその会議で、これではいかんということになり、改革しようというメニューに上がってはいたのですが 段々そういったものもなくなって、結局、給付するというものだけになってしまったんです。
鈴木:同じです。社会保障改革の方が先に議論されていたという認識はあまり持っていなくて、スタート時点はそういう議論もあったのですが、どんどん骨抜きになって結局、ばらまきみたいなものが最後は残っていたので、私は意外にスパッと切られて増税だけになって、この方が良かったかもしれないと思う。社会保障改革については、仕切り直しで議論するということでいいと思います。あまりばらまきをひきずらなくて、意外に結果的には良かったと考えています。
工藤:そうなってくると、今後、社会保障はどうするのかという非常に大きな問題があります。今回のアンケートで、「社会保障と税の一体改革」というのは、持続可能な社会保障改革への道筋を示したものなのかということを聞いてみました。そうしたら、意外に今のお二方の話に結構近くて、そもそも今回の一体改革は消費税をあげるためで、社会保障改革ではなかったというのが33.3%で一番多かったですね。次が、これも29.6%ですから、3割近いんですが、道筋どころか社会保障制度の持続性で何の判断も示していないと、どうなっているんだと、この二つが多かったことについて西沢さんどうですか。
西沢:全て正しいと思います。本当は、社会保障改革は少子高齢化が進む中で負担も上げざるを得ない、ただその負担を抑制するために給付も抑制しなければいけない。ですから、負担を上げて、給付を削るという国民の耳に痛い話となります。ただ、それをすることにより、最終ゴールとするとして、長期的にせよ長持ちするんですよということを示すことが改革のはずなのに、社会保障を充実します、とばらまきっぽい色がある。そして、負担を求めるといっても消費税5%でしかない。といった状況で改革でないという意見は全く正しいと思います。
増税で財政再建できるのか?
工藤:社会保障の話に徹底的に入りたいのですが、その前に先ほどの話をしたいと思います。つまり、財政の問題にした方が分かり易かったということなんですが、鈴木さんも西沢さんもおっしゃったように、消費税を上げたことだけでも本当の財政再建に寄与したのか、という問題が一方で問われると思います。これもアンケートで聞いてみました。今回、財政再建の消費税増税ということで、日本の財政再建の道筋を示したものでしょうかと。全く示していないというのが54.3%、ある程度示したが39.5%です。はっきり示したというのは0%でした。5%というのは、14兆円ぐらい入るのですか。
鈴木:12兆円ぐらい。
工藤:12兆円ぐらい、それが財政再建に本当に寄与するものなのかと。色んなものに使われますよね、ということを説明して欲しいのですが、鈴木さん。
鈴木:一言で言うと焼け石に水です。これから、どんどん右肩上がりの少子高齢化で社会保障費が増えていきますが、消費税はよく安定財源といいますけど、景気が悪くても良くても増えないということですよね。だから、景気悪くても減らず、景気良くても増えないということですから、最初の5%の引き上げはまさに焼け石に水で、根本的なことをやりたかったら、今後、増えていくものに合うような財源を当てるか、増えていく社会保障費を抑えるかのどっちかしかありません。だから、消費税では焼け石に水ということが、このアンケートでは皆さん、分かっているということですね。
工藤:実際の数字的には西沢さんどうですか。つまり、そもそも財政再建とか、プライマリー赤字を半分にするとかありましたよね。でも結局、色んな形に使われますよね、基礎年金の問題から...どのような形になるのでしょうか。
西沢:先ほど申し上げたように5%のうち1%を社会保障に充てるといっても1%を超える可能性が非常に高い。また地方に1.54%配ります。それで、消費税は2兆数千億円入ると言われますが、実は見せかけの税収があって、政府も消費税を払っています。行って返ってくるという状態になっているので、結局1%当たり2兆円ちょっとの税収なんですね。すると本当に財政健全化に寄与するのは十兆円も多分ありません。政府は2016年にプライマリーバランスの赤字を対GDP比で-3%に持っていくと言っていますが、それは成長を見込んでの話ですし、その後のシナリオが全くない。それ以降の政府の予測であっても-3%の水準が続きます。プライマリーバランスですから、あと借金を返していくお金が出てこないわけで、最も低い目標であるプライマリーバランスですらこの状況ですから、まさに結果はこのアンケートに答えている通り道筋が見えていないということだと思います。
鈴木:先ほど話が出かけましたけど、非常に懸念すべきは消費税引き上げを前提にお金を使おうという、社会保障ではないところに使おうという案が随分出てきて、選挙もありますのでそういう声は強まっていきます。皆さんご存じのことだと思いますけど、社会保障に今回限定して財源を使うと言っていますけど、それは何の意味もない発言です。つまり、社会保障というものが、そもそも大きく支出と収入のバランスが崩れていて、結局、税金を一般会計から入れて成り立っているというのが現状です。そこに社会保障の財源を入れるということですけれども、全部の穴が埋まらない以上は、新しい税収をこっちに入れて、その分だけ減った、いままで入れてた税金の分は別のところに使いますから、金は色がついていないということと全く同じことで、つまり社会保障の財源を入れて、入れた分だけ別の所に使いますので、公共工事に使うことができるわけです。この目的税というのは特別会計かなんかに入れて、絶対に動かせないお金にしない限りは、公共工事だろうと、国家強靭化プランに使うことも可能なんです。ですから、社会保障に限定することは全く意味のない発言ということは強調しておきたいです。
工藤:せっかく増税を国民に問い、決めても、その使い道が色んな形になる。本当は社会保障で皆、将来に対して不安を持っているのに、それを使わないというと、政治のガバナンスというか、どうしているのだこの国は、とちょっとピリッと来ませんか。
鈴木:それともう一つ誤解を生むような発言が多い、政治家に。つまり、今回消費税を上げたのが年金のためですと、年金の財政がこれでよくなりますと言う政治家が何人かいますが、これは嘘なのでだまされてはいけません。つまり、今回消費税5%上げます。そのうちの1%は基礎年金の、基礎年金は3分の1国庫負担だったものを2分の1に引き上げて、その財源に当てるということになっています。だから、一見苦しい年金の財政が良くなるようなことをイメージできるんですけど、3分の1から2分の1に上げたということは、この100年安心プランとか、厚労省が立てている年金の財政計画には含まれているのです。つまり、織り込み済みで上げることが前提で計画がたっていますので、1%引き揚げても何ら先の財政がよくなることはありません。
工藤:そうですよね。決まっていたのだけれども、そのお金を色んな形で捻出して繋いでいたと言う感じですね。だから、それによってよくなるわけではないですよ。どうでしょうか。税金上げたわりには目的が分からなくなってきている。
西沢:結局、社会保障は様々な課題を抱えている、それをダシにして、増税をするという手法が間違っている。子どもだましだと思いますし。
鈴木:見透かされたと言う感じ
官僚支配化の民主党変質
工藤:後から政策の話を聞きますが、なぜこうなってしまったのか。
西沢:根本的に増税は、皆、嫌ですよね。社会保障と言っておけば、あまり賢くない国民は、納得するでしょうという頭だと思います。本来、社会保障改革って長期的な社会保障財政の持続可能性を高めるために必要です、ときちんと実直に説明したり、あるいは、集めたお金は、例えば小児医療に使いますと、目的をきちんと事細かに説明するのが、国民を信頼した説明になるはずなんですけど、それをしなかったが故に何となく胡散臭ささが出ています。
工藤:要するに民主党政権は元々、自民党の安心プランは駄目で抜本的に改革しなければならないといって誕生しましたよね。そうしたら全然抜本だけではなくて、既存の問題に対しても答えを出さない。今の財政に関しても駄目ということになると、この三年間、何をしてきたのかという気持ちになりませんか。
鈴木:民主党は、100年安心プランは成り立たないといってたけれども、最近100年安心プランと言い始めました。それどころか100年以上安心ですと。最近、厚労大臣変わりましたけれど前の小宮山さん、100年以上安心ですと言っていた。もっとひどくなった。
工藤:どうしてそうなったのですか。
鈴木:当初いた人たちと野田政権が全く同じ党とは言えないぐらい変質している人たちであるということでしょうし、彼らが成り立っている基盤は、完全に官僚の支配下にあるということだと思います。
工藤:なるほど。そもそも自公政権の時は100年安心プランと言うのがありました。その100年安心プランが中々上手くいかないこともあり、2004年の時に年金改革があって、給付をきちんと抑制して、何とか辻褄を合わせようと思った。それ自身問題だということもあったのだが、それが上手くいかなくなり、民主党政権が出来たけれども、それに対してそれを改善するのか、抜本的な改革なのかどっちかしかなかったのだけれども、そのどっちもやらなかったという理解でいいですか。
鈴木:民主党のベクトル自体が財政的に改革するというベクトルに向いていなかったのが1つです。この後、民主党の色んな試算が出てきましたね。民主党案だと財政的にどうなると出てきましたけれども、あれを見て頂くと分かるように財政的な持続可能性が、民主党がやる改革で確保されるわけではありません。むしろ最低保障年金とか所得分配的なところの機能を強化するという案なので、出してきた民主党案も財政を改善するものとは必ずしも言えなかったと。最初のベクトルの向きがちょっと違ったと思います。
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第2部:【社会保障の構造変化】騎馬戦から肩車へ
工藤:西沢さんはだいぶ前から、既存の仕組みに本質的な問題が多いと言っていました。民主党はその抜本改革をやるというようなポーズを取っていましたよね。
西沢:これまで議論になったように、年金には、財政の問題と構造改革の問題の2つがあります。民主党は構造改革の方に焦点を当て、家族の形や就労の形態が変わっているので制度を変えよう、と言っていました。財政の方にはあまり関心がなかった。民主党は、2009年に自公政権下で出された、100年安心プランはまだ生きていますという財政検証(いわば年金の健康診断)を批判していたのです。でも政権交代して与党になると、気づいてみればそれを肯定している。構造改革にも手を付けないし、100年安心プランも批判していたのに無批判に受容してしまうというのが、鈴木さんや私から見るとものすごく不信感が高いのです。
工藤:社会保障の改革について議論したいのですが、これから高齢化のスピードがすさまじく速くなっていく。お年寄りを若者が担うという構造が非常に難しい。つまり、構造的に、今の超高齢社会を維持できる仕組みが非常に難しい状況の中で、さまざまな制度にいろんな矛盾が広がっている。そこで、現在の制度、年金も医療もそうなのですが、それに関しては、いろんな人たちが支え合う構造だったのだけれど、それがうまくいかない。たぶんそれが、100年安心という段階ではなくなっているのではないか、壊れてしまっているのではないか、なのに政治はそれに対して取り組んでいないのではないかと私も思っているのですが、鈴木さん、ちょっと解説してもらえますか。日本の社会保障は、どこまで壊れているというか、展望がないのですか。
鈴木:かなり大きな話になりますが、今回の選挙で問われるべき課題というのは、細々とした今までの話ではなくて、全体として今どういう状況になっているのかちゃんと見せてくれ、この先もこのままいくとどうなるか見せてくれというのが、一つの大きな論点だと思いますね。そういう意味でいうと、高齢化がどんなスピードで進んでいるのかというのが非常に重要なのですが、ちょうど3人の現役世代で1人の高齢者を支えるという状況が今の日本の立ち位置ですね。
ところが、団塊の世代が大量に退職している状況ですから、2023年つまり11年後には2人で1人を支えるという時代が来ます。3人で1人と、2人で1人とではえらい違いなのですね。だいたい2060年、70年くらいになりますと、これが1対1で支える状況になる。重要なことは、1対1で支えるという状況が、また人口が増えて元の通り肩車から騎馬戦になって、というふうに戻っていくのかというと、今の予測では戻らない。つまり、ずっと1対1のまま先まで行ってしまうという状況なので、1人の高齢者が使っている医療費や年金や介護を3人で割り勘している時代が、1人で割り勘することになりますから、単純にいって負担は3倍になるのですね。もし、今また社会保障のバラマキなどということがあって、例えば(社会保障支出が)2倍になったとすると、2×3で将来は6倍の負担がやってくる、というのが単純なモデルですけれど、それくらいのインパクトの中に我々がいるということです。
だから、ここで安易にばらまきますとか言っているのが、その先で消費税はどれだけ上がるのかとか、保険料などはどれだけ上がるのかというものを一緒に見せてくれないと、選択のしようがないわけですね。今は一番フルのバラマキのままでいきましょう、ところが消費税を5%上げれば何とかなります、とかいうのは全然計算が合っていないのですね。フルでバラマキをやって、この先(現役世代の負担が)3倍になる社会を生きようと思ったら、消費税でいうと下手すると30%とか、30%どころではないと私は思っていますけれど、そういうことになりますがこれでよろしいでしょうか、とセットで議論してもらわないと困る、それが一番大きな論点になります。
工藤:正直な議論としてはそういう段階なのですよね。ただ、1対1で背負う社会とはどういう社会なのですか。イメージが見えないのですね。お年寄りを1人で支えるというのは無理ではないですか、自分も生きないといけないし。
鈴木:だから、そういう意味では、1人で支えなければいけない負担を減らしていくとか、もちろん税も上げなければいけないと思いますけれど、あるいは高齢者自体にも高齢者になる備えをしてもらう、若いころに自分の老後を養えるくらいのものを少しは蓄えておいてくれとか、いろいろ手はありますけれど、それも「先がこうなります」というものがあって初めて議論ができるので、今のように「先のことはよく分かりません、高齢者にはバラマキましょう、負担は上げませんよ」という、今だけを見ているようなことばかり言っている限りは、先に備えられませんから。
いまの病状の正しい診断を その処方箋は?
工藤:先程のアンケートでも、「今回の税・社会保障一体改革は改革の道筋を示していますか」と聞いたら、「道筋どころか目指す姿が見えない」、「姿が見えないのにどうやって道筋が出せるのか」という意見があります。西沢さんに聞きたいのですが、基本的な構造は鈴木さんが言われた通りだと思うのですね、ただ今ある制度というものが現実の中で非常に大きな混乱、矛盾を抱えている、ただ政策としては、年金であれば100年安心と言う仕組みが今あって、医療であればみんなで支え合っていく構造があるわけですね。これは今どこまで厳しい段階になっているのでしょうか。
西沢:実態は、今、鈴木さんがお話になられたように、1人が1人を支えるという社会が現実に訪れてきます。でも政府は、医療で例えると病状の診断を正しくしていないと思うのです。本当は深刻な病状なのに、「大丈夫ですよ、安心してください」という偽りの説明をなぜか繰り返している。「100年安心です、若い人も払った保険料の2.3倍もらえます、年金未納だって年金財政には関係ないですから放っておいていいのですよ」という偽りの説明が繰り返されることに、我々はむしろ疑心暗鬼になっているし、「安心です、病気ではありません」と言っているので、その処方箋を描く段階に我々は至っていないのです。
ですから、「少なくとも正しい診断をしてください、ひどかったとしても頑張ってそれを治していくように努力しようではありませんか」という訴えなのです。ソリューション、処方箋の段階まで全く至っていないというのが現状だと思いますね。
工藤:ただ最初の話で結局、自民党も民主党も結果論としては、基本的には100年安心プランに収斂したわけですね。その100年安心プランは今どんな状況なのか、本当に安心なのか、ということではどうでしょうか。
鈴木:全然違うのですよ。収斂した結果が事実であるとは限らない。まず100年安心プランのことから言うと、積立金はものすごい取り崩し方をしていますし運用増も発生している状況ですので、私の予測だと、経済状況がわりと良くなることを前提としても、2030年代には年金の積立金は枯渇する。もともとは100年安心のものが、20年くらいかなと。これもうまくいってですよ。下手するともっと早くなくなる可能性があると思いますけれど。
工藤:そこに先程の、1.5人や2人(の現役世代で1人の高齢者を支えるという状況)が重なってくるわけですね。
鈴木:そうですね。完全な賦課方式に、見事に高齢者の分を全部支えなければいけないということになりますので、大変な状況になるのですが、それを、先程の西沢さんの話ではないですが、我々は告知してもらっていないのですよ。インフォームド・コンセントではなくて、あなたの病状がそうなっていますよ、ということを分からないで、「安心だ、安心だ」と言われて、もうひどい話なのですね。どうしてそんなことになるかということですけれど、事実を伝えない談合になってしまっているのですね。もともと自公政権が100年安心プランと言っていたのですから、その発言を変える必要はないわけですね。民主党の方もどういうわけか分かりませんけれど、正直に言うよりもそのまま官僚たちの言っていることに乗っかっていった方が楽だと分かったのですね。そして、今度は自公政権と仲良くならなければいけませんから、3党合意ということで、事実は見ないことにしよう、お互い「安心」と言っていればいいじゃないか、と。厚労省の方は財政の状況を一番よく分かっているのですけれど、政治が全然イニシアティブを取ってくれないから指示待ちですよね。「向こうが言ってこないのだから我々だって計算する必要はない」ということで、3者がいい感じで「安心、安心」と仲良くなってしまっているのですね。これが最大の問題だと思いますね。
工藤:政治家ってそんなに嘘をついていいのですかね。例えば、普通の企業であれば、詐欺のようになってしまいますよね。できないと分かっていて嘘を言っているのであれば。非常に深刻だと思うのですが。さっきの、積立金があと20年くらいでなくなってしまうということで、本来は100年分あったものがかなり大きく減ってしまっている。この原因は何なのですか。特に西沢さんは昔、給付抑制のことで、マクロ経済スライドがデフレ下で発動しなかったということを、ここ(言論NPO)の会議でも何回も(議題に)出していたのですが、議論があっても全然取り組まないですよね、今の状況は。だから、非常に過剰給付があって、それが将来世代に回されていく構造は変わっていないわけで、どのようにして100年安心プランはこうなってしまったのですかね。
西沢:結局、政党の中にも、中には世代間格差是正というきれいなことを言う政党がありますよね。それは正しい。ただ、世代間格差を是正するということは、高齢者の年金をカットする、早めに負担を引き上げる、このいずれか、あるいは両方しかない。ということは、とてもつらい作業が待っているわけです。
今回、消費税を上げますと言ったときに、「消費税も上げて年金もカットするのか」という国民の意見に、政治的にとても耐えられないという判断で、消費税(の増税)の方をとって、年金の財政健全化は、「100年安心だから」ということで目をつぶっているのではないでしょうか。
誤った政府のメッセージを読みとる
工藤:アンケートでそのことを聞いてみたのですね。「年金制度を持続的にするためには何をしたらいいのだろう」と。一番多かったのが、「高所得者の年金給付の見直し」で55.6%。次が、鈴木先生が言っているような「賦課方式から積立方式への転換など、制度そのものを抜本的に改革すべきだ」というのが50.6%、その後、「国民年金の保険料を払ってくれないことの改善」と「マクロ経済スライドをきちんと早く対応するような形にして、過剰給付の構造を直すべきだ」と。以外に少なかったのが、それでも多いのですが34%で「年金の支給開始年齢を引き上げる」というものなのですね。この構造は、給付をかなり抑制していくという仕組みですよね。あと制度設計を変えていくという話です。そのほか、今あるものでやっていないものをなぜ放置しているのか、それをちゃんとやりなさい、と。たぶんこのあたりになっているのですが、どうですか。
西沢:全部同じだと思うのですよ。高所得者の年金給付を見直すということは削るということ、保険料の納付率を改善するということはたくさん収入を得るということ。収入をたくさん得て給付を抑えるということで、方向性としては積立方式なんですよね。賦課方式の年金を縮小して積立方式に持っていくということでは全く一緒で、すべて財政健全化につながっていきますので、答えはすべてリーズナブルだと思いますね。
鈴木:リーズナブルですし、覚悟があるということですよね。「安心、安心」と言われているのに「身を削る改革をやれ」と言っているわけですから、やっぱり国民は馬鹿ではないのですよね。ちゃんと見透かしているということだと思いますよ。
工藤:つまり、問題の複雑さとか大きさは知っているのですね。
西沢:ただ、(アンケートの回答者は)おそらく知識層ですよね。
工藤:そこは輿論と世論(せろん)という大きな問題があるのですが、ただやっぱり、そういう病巣がある程度分かっている人たちが結構いて、しかし政治がそれにまったく取り組まない。逆に嘘をついてしまうという状況にみんながびっくりしているわけですよね。
鈴木:もともとそういう愚民思想的な、特に霞ヶ関の官僚たちは、基本的に「寝た子は起こすな、事実はそのまま知らせないでいた方が幸せだ」という発想で、「俺たちが意思決定するから」ということですから。
工藤:そうですね。ただ、これは何とかしないといけない、というのが現実的にある話なのですが、今の安心プランというものが壊れている現象は、発病という形が、病巣が見える仕組みはどういう形で出てくるのでしょうか。
西沢:例えば、鈴木先生も言われているバランスシート、年金会計でもいいのですが、それが重要です。社会保険方式というのは、保険料を制度が受け入れると給付を支払わなければならない義務が発生する。その義務を全部積み上げていくと何百兆円という現在価値になるわけですよね。
まずそれを目に見える形にする、そしてこれを減らすにはどうしたらいいか、年金債務と定義づけておきますと、減らすためには今の給付を削る、あるいは早めに負担を増やすということによって500兆円の年金債務を減らすことができる、それで長持ちするのですよ、というような、会計の力を借りて数字で国民に分かりやすく伝えるという手があると思うのですね。
それであれば、年金債務を減らすために、給付カット・負担増に我慢しようかという判断にいくと思うのですけれど、今政府がやっているのは「100年安心です、2、3倍ももらえます」というメッセージですから、誤ったメッセージを伝えていると思うのですよね。
工藤:鈴木さんは去年の12月にこの議論をした時、私は今54歳なのですが、支払いとサービスが(トントンになる)ギリギリだと言ったのですね。1960年生まれからマイナスになるという話だったのですが、それ以降生まれた人がマイナスになるということは、これから生まれる子どもは生まれた段階で、年金でいうと二千数百万円の借金、医療とか介護とかを全部入れると四千万円くらいになってしまう。鈴木さんはいろんな本の中で、それはあまりにも不公平だという話と、さっき言った、積立がもうなくなりますよということを明らかにしているのですが、それがやっぱり大変だという話だと。
鈴木:そうですね。だからそういうものを、公的な債務でも損得計算でもいいのですけれど、きちんと会計が公開されて国民の目に触れているということが、西沢さんのおっしゃるように重要なことだと思いますね。それからもう一つ重要なことがあって、私はガバナンスに非常に大きな問題があると思うのです。つまり、そういう事実を語る人が、年金政策の失策の責任を取る人たちだ、厚労省とか政治家がそうなのですけれど、つまり、会計的なチェックをする人と年金政策をやっている人間が同じなのですね。これはやはりお手盛りにならざるを得ないわけで、会計検査院とかアメリカでいうGAOのような別の部局がちゃんと厳しい目で見る。これはエネルギー政策と同じですね。原子力の推進をやっているところと規制庁が同じだということとまったく同じだと思いますけれど、そういうガバナンスを確保するということももう一つの大きな解決策だと思います。
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第3部:【年金同様の構造的課題抱える医療】保険医療の財政はもつのか
工藤:わかりました、年金の問題は、先程一応の方向が見えました。では、医療の問題ですが、これもアンケートで聞きました。医療もいっぱい課題があるので困ったのですが、社会保障の問題は医療も同じですね、保険でやっていますから。こちらの方は積立がない中でやっていく状況なのですが、アンケートでは「社会保障と税の共通番号や行政インフラを整備する」ということと、「医療のサービス提供体制を見直す」ということが半数以上で、それから医療財政とか保険者の再編とか受益と負担が分かるような仕組みとか。保険料はサラリーマンの方もすごく引かれるでしょう、税金以上にどんどん増えている。でも税金と同じですよね。これはどうなっているのか。つまり、お年寄りをいっぱい支える構造で、みんなでやってきて、ここにギシギシと大変な問題が出ているわけですね。 今度の選挙で私たちはどのように医療問題を考えていけばいいかということを解説してほしいのですが、西沢さんどうでしょう。
西沢:医療には年間37兆円かかっていますけれど、一つは、少子高齢化が進む中で、医療費が高い高齢者の方を今、現役世代が支えているので、財政的に持続可能かどうかという、年金と同様の課題があります。もう一つは、医療資源の地域間や診療科間の偏在、不足をどう是正していくか、あと、高齢社会にふさわしい地域ごとの医療・介護提供体制をどう作っていくかといったような医療資源の整備、その2つの課題があると思います。
工藤:医療問題は非常に難しいのですが、保険医療の財政の仕組み、自分の健康保険もあるし、お年寄りの保険もある。それらがどう回っているのか、これから先、2人で1人を支える状況で持つのか、そこはどうなっているのでしょうか。
西沢:組合健保という、大企業が中心でやっている健保が、今日本に1500弱あります。トータルで年間6兆円の保険料を労使で集めている。どう使っているかというと、6兆円集めたうち3.4兆円は従業員と家族向けの保険給付、残り2.7兆円は高齢者向けに移転されています。後期高齢者医療制度に1.3兆円、前期高齢者は主に市町村がやっている国民健康保険に入っているので、そこにも1.1兆円、サラリーマンOBの方が国保に入っていて、そこにも3千億円。今、高齢化率は24%ですが、今後40%に向かっていく中で、今でも6兆円集めて2.7兆円はよその制度に行っているものがどんどん増えていったときに、今でも組合健保はものすごい勢いで解散しているのですが、大学生もなかなか就職できない状況の中で、果たして持つのですかという話がある。今、私が申し上げたので「あ、そうかな」と思っている方が多いかもしれませんけれど、この現状があるということですね。
工藤:つまり、普通に考えてみると、その仕組みは持たないんじゃないかという気がします。
西沢:持たないと思います。ですので、持たせるためには、高齢者は平均で年間医療費が70~80万円ですかね、苦しくても少しでも節約できないかと知恵を絞っていくのが、長持ちさせる秘訣だと思うのですよね。
工藤:自分たちの保険料が自分たちだけの仕組みではなくてお年寄りのために使われているということは、皆さん知っているのですかね。
西沢:分かっていないと思いますね。保険料が天引きされて。
工藤:ただ、そういう形で日本の医療保険の仕組みが成り立っている、そこに高齢化とかいろんなことがぶつかっているというわけですね。
鈴木:医療の世界は、財政的に見たら年金とほとんど同じなのですよね。少子高齢化すると苦しくなる。それに加えて、年金と違うのは、積立金というバッファー(緩衝物)を持っていませんから、もっと苦しくなるわけですね。しかも、給付の伸び方は、年金のようにお金だけではなくて技術革新とかいろんなものが入ってきますので、伸び率がもっと高いのですね。そういう意味で、もっと深刻に考えなければいけないのですが、年金の100年安心プランのように保険料をどう上げるということすら何もないという、ほとんど無法地帯のようなところなのですね。
それに加えてひどいのは、制度が細かくなっていますから、制度論に話を移すといくらでも煙に巻けるような要素があって、財政的な問題よりもそちらに目が行ってしまいます。ですので、なかなかにっちもさっちもいかなくて、後期高齢者医療制度を廃止するとかしないとかいう、ほとんど財政的には何も変わらないようなところに論点が行ってしまっているわけです。やはり一番重要なことは財政なので、財政的に将来持つのかどうかというところに話を戻していかなければいけないと思うのですね。
ブラックボックスの中の保険料
工藤:これは、西沢さんどうなのですか。制度の改革を含めて、どうやったら財政が持つのですか。
西沢:難しいですね。高齢化が進んでいく中で医療費がかかることは間違いないですから。工藤さんがおっしゃったように、今はブラックボックスですよね。保険料を払ってもどう使われているか分からないというところから、払った保険料の使い道を我々が分かるように、制度そのものをシンプルに、我々が判断しやすいように変えていくことによって、ブラックボックスが明るくなって、我々もより安心感を持てるようになると思います。ですから、その意味で、払った保険料が他の制度に移転されるという制度ではなくて、保険料を払ったらそれが自分に返ってくる、所得移転は税に依存していく、といった形に改めていくべきだと思います。
工藤:保険料が、基本的に税金と同じような役割になっていますよね。
西沢:保険料は負担と受益がリンクしているという我々の幻想がありますから、その幻想を利用してお金を集めて税のように舞台裏で移転している、というのが今の制度です。
工藤:医療保険の制度でこういうことを直そうという動きはまったくないのですか。
鈴木:ないですね。ですから、沈みゆくタイタニック号の上で椅子の取り合いをしているような、誰が負担するかとかいう喧嘩ばかりなのですね。
工藤:このアンケートの中で、これをやれば何か一つの流れが変わる、というようなものはありますか。
西沢:疑問に思ったのは「高齢者医療制度の再構築」です。制度の再構築といっても若い世代から高齢者に移転することは残さないといけません。これはここ数年の、民主党政権の高齢者医療制度をやめるという主張の弊害だと思います。結局やめられない。移転するとしてもいかに公平・効率的に移転するかという仕組み作りでしかないのに、やめる、やめないということの弊害だと思いましたね。
工藤:西沢さん、「医療サービス提供体系の見直し」というのは何を言っていることになるのでしょうか。
西沢:これから高齢社会で亡くなっていく方がものすごく増えていく中で、今、病院で亡くなる方が8割なのですね、そういう人たちがなるべく自宅で亡くなれるようにするためには、24時間駆けつけてくれるお医者さんとか、病院・診療所・介護事業者の連携を整備していくといったものや、地域間で過剰なベッド数があったりしてコントロールがなかなか効いていないですから、そういったものを直して医療資源を効率的に使っていくということではないでしょうか。
工藤:医療資源を効率的に使うということでは、昔、診療報酬の使われ方をどうするとか、民主党政権で初めは結構話題になっていましたよね。中医協を見直すとかいろんなことをやっていたのですが、あれは結局どうなったのですか。
鈴木:元の木阿弥に戻ってしまっている。
西沢:テクニカルすぎて分からないですよね。
工藤:なるほど。ただ、診療報酬というのが医療の一つの価格なのですよね。
西沢:ほぼ診療報酬という、価格でしかコントロールする手段が国にないというのは問題で、量的にこっちの人をこっちに移すとかしないと偏在も直らないですよね。
工藤:そうすると、医療を抜本的に変えるというのはどういうことなのですか。受益と負担、つまり保険としてきちんと機能するような仕組みにしないといけないということですか。
西沢:1つは、我々が意思決定できるように、払っている保険料に価格機能を持たせるということと、もう1つ今、政府は医療資源の量とか地域間の配分というのを診療報酬、価格でしかコントロールできていないですけれど、もう少し強制力を持たせて、お医者さんとかに転勤してくれと言うくらいにしないと、いつまで経っても、任せておけば偏在するに決まっていますよね。ですから、日本は民間の病院とかお医者さんが多いですけれども、それを克服して移ってもらうということでしょうか。
工藤:鈴木さん、一言で言えば、医療問題というのは何を変えれば流れが変わりますか。
鈴木:難しい問題ですけれども、年金と同じでこの先の絵というのを見せるべきだと思います。日本の医療制度というのは、何から何まで公的な保険で見ます、それに対してこれだけ費用がかかっています。それがこの先どうなっていきます、そして、それほど負担を上げないのであれば何を削らないといけないですね、というのがセットで、いくつかの選択肢があれば、例えば「風邪くらいは自己負担が高くてもいいけれど、そんなに税金を上げないでくれ」という選択肢を我々が選ぶことができるじゃないですか。だから、さっき(の年金)と同じ結論ですけれど、この先も含めて、ちゃんと「何にどれくらいかかっていて、この先はどれくらいの負担になるのか」を給付とセットで見せるということが重要なのではないかと思いますけれどね。
工藤:少なくとも、この医療の課題をきちんと整理した上で、「こう変えたい」と言う議論がテーブルに出てこないと。さっきの年金では少しありましたよね。今の仕組みは難しい、新しい形での制度設計はこういう形に変えた方がいいのではないか、と。今あるのは、保険の仕組みとしてちゃんと整えて、きちんと再配分するということは税としてやった方がいいのではないかということですよね。保険として機能するための制度設計を、保険組合の統合も含めてやる、ということでしょう。
西沢:社会保険ですから、ある程度所得再分配があってもいいと思うんですけれど、やはり限度もあると思うのですね。そこを税と組み合わせて議論していった方がいいと思います。
少子高齢化の社会に政治はどう向き合うのか
工藤:わかりました。アンケートで最後の質問になるのですが、「今度の選挙で、政治家や政党は、社会保障の問題で何を明らかにしなければならないのか」と。鈴木さんはさっき近いことを言っていたのですが、今の社会保障制度が持たないということを正直に認めたうえで、それに取り組むという意思をきちんと持っている人、ただ、この前の選挙も口ばっかりだったので、その後、態度が変わってしまったら責任をとってもらわないといけないのですが、そういう「社会保障制度の今の認識をきちんと説明すべきだ」というのが一番多いと思ったら、アンケートでは5%しかいなくて、半数を超えたのは、「現状の社会保障制度の抜本改革をするのか、現状の仕組みを変えるのか、どうやってそれをやるのかをきちんと説明してほしい」というものだったのですね。確かにこれが有識者の声なのですが、そういうことになってしまうと、今私たちが選挙で政治家に迫らないといけないのは課題解決の方策なのですね。というところまで来ているという認識なのですが、どうでしょう。
鈴木:これをどう見るかですけれど、社会保障が持続可能かどうかを聞いてもしょうがないというのが一つだと思いますね。いくらでも言い逃れできますから。そんなものを求めているよりも、現実的な認識として、「ダメなら何をするか」というところにもう話が行ってしまっているのだと思いますね。今の制度の手直しでいいか、これはずっと官僚たちが言っていることですが、その通り政治家がしゃべるのか、それとも抜本改革が必要だとしゃべるのか、細かな財政の可能性がどうかとかいうところでは、もう官僚に太刀打ちできないので、その覚悟があるかどうかを問いたい、という叫びなのではないかと私は思いますけれどね。
工藤:そうですよね。ただ、前回の選挙もそうでしたけれど、プランだけ選挙の時だけショーみたいに言ってその後まったくやらないというのも話にならないので、そういうことはもう勘弁してほしいですよね。西沢さんは、このアンケート結果を見てどうですか。
西沢:結局、少子高齢化が進む中では、負担を増やして給付を減らすという、いかにも選挙に落ちそうなマニフェストしか出ようがありません。それを私たちは求めているし、やらなくてはいけないのですが、そういった政治家の負担を減らすように、社会保険の会計とか、政治家をサポートしてくれる党のスタッフとか、そういうものを作っていかないといけないと思いますね。ただ単に、紐のないバンジージャンプのように「飛び込め」と要求するのではなく、インフラ作りをしてその上で彼らに求めていくという責任も我々の方にあるのかなという気もしますね。
工藤:この前の民主党政権の時は、まさに選挙で抜本改革を言って、自公との間で優劣を競っているような局面であったので、今回また同じように、選挙になると人が変わったように言ってくる可能性があるわけですよね。でもそれは政党そのもののガバナンスですよね。自分たちが約束したことをきちんと実現するということは、まさに政党そのものが国民に説明しなければいけないですよ、どういうふうに実現するかと。有権者側では議論はたくさんあるけれど、何か一つでいいから、その政治家なり政党がやれば、何となく流れが始まるかな、というものはないのでしょうかね。
西沢:一つは、少子高齢化モードに頭を切り替えることですね。配るという政治ではなくて、負担を合理的に公平に国民に説得するというように切り替えないと、延々とこの状態は続くと思うのですけれどね。
政治家にごまかされないよう、有権者自身の問題として考えよう
工藤:確かにそうですよね。また戻ってきていますよね。どうですか、選挙で、一つでいいので、何をした人を信じますか。
鈴木:踏み絵を踏ませるということですけれどね。前回、民主党がなぜ失敗したかということを振り返りますと、彼らに全然、戦術とか戦略がなかったのですよ。この政策をやるのに、まず、こうやってここから始めて、というのはまったくなかったですよね。だから、抜本改革をやるというのであれば、そのディテールを聞きたいですね。そのために厚労省の組織はどうするのか、ガバナンスも含めて、どうするのかということを聞くとだいぶ現実性が分かってくるだろうな、と思いますね。
もう一つ、民主党の大きな失敗だったのは、一部の人でマニフェストを共有していましたけれど、全体では全然共有していなかった。全然一枚岩ではなくて、どうやって最低保障年金をやるんですかと聞いても、答える人によって全然違うことを答えたりしていたわけですよね。だから、どれくらい共有されているのかということが一つの踏み絵にはなるのではないかと思います。
それから、やはり財政的な辻褄ですよね。バラマキをやります、でも消費税は上げません、と言っているのでは財政的に合わないでしょう、ということを、言論NPOのようなところが「この党が言っていることをやると、これくらいGDP比の赤字が増えます」ということを見せることが必要なのではないかと思いますね。
工藤:今いろいろとヒントがあって、確かにやりたいことはいいのだけれど、具体的にどうするかとか、党のガバナンスとか、政策を決定、実行するプロセスもきちんと出してほしいとか、あとは財源の経済的な辻褄をちゃんと合わせる、それを説明する責任があるとか、そういう形で迫っていかないとダメですよね。西沢さんどうですか。
西沢:今、鈴木さんが言われた通り、例えば言論NPOで政治家を呼んで話を聞くとしても、「あなたの言っていることは党の公式見解ですか、あなたの個人見解ですか」ときちんと峻別した方がいいと思います。その場では個人の意見でかっこいいことを言いますけれども、党に戻ったら誰もそんなことは認識していない、というのでは困りますから、きちんと峻別する。政策に関しては、民間サイド、あるいは政府の公式機関を使って財政検証をしていくというのが重要だと思いますね。
工藤:今回の選挙、もう失敗は許されないでしょう。ただ少なくとも、鈴木さん、西沢さんがおっしゃったように、もう(財政が)もたない、しかも私たちが覚悟しないといけないのは超高齢化社会を目の前にしているわけで、それに対してまったく目をつぶっているということはあり得ないですよね。ということは、今回、社会保障の問題を大きな争点にしていかないといけない、ということでよろしいでしょうか。
西沢・鈴木:まったくその通りですね。
工藤:これ(6つの争点に関する議論)はまだまだやっていきます。私は今日の話を踏まえて、政治家に何を聞けばいいのかをもう一度整理しますので、また参加していただいて、(別の)いろんな人たちにも参加していただいて、今度はきちんと、"許さない"という感じで。ただ批判するだけではないのですよね。ちゃんとそれを課題解決できるような仕組みに持っていかないといけないので、そういう形でやっていきたいと思っています。今日は第1回目で社会保障の議論をやりました。残り5つの問題も次々とやっていきますが、これはやはり、有権者が自分たちの問題として考えようという動きがない限り、政治家に途中でごまかされてしまう。こういう状況はもう絶対に勘弁したいと思っていますので、ぜひ私たちの動きに関心を持って見ていただきたいと思っております。今日はどうもありがとうございました。
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2012年10月18日(木)収録
出演者:
鈴木亘氏(学習院大学経済学部経済学科教授)
西沢和彦氏(日本総研主任研究員)
司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)
※この議論は2012年10月18日(衆議院解散前)に行われました。
工藤:こんばんは、言論NPOの工藤泰志です。選挙がいつになるか分かりませんが、今回の言論スタジオでは社会保障の問題を議論したいと思います。言論NPOは、今度の選挙ではきちんと有権者側が考えて、はっきり政治にものを言おう、ということを考えています。そのために有識者アンケートを取ってみました。次の選挙の争点は何なのか?と。6つのテーマが出ました。まず「成長戦略」、それから「社会保障」、「財政」、そして「原子力を含めたエネルギー政策」、「安全外交保障」、「民主主義が抱える様々な問題」の6つです。私たちは、これらの問題を次期選挙の争点だと考え、それぞれ議論して、選挙で政治家が必ず国民に明らかにしなければいけないことを、逆に我々が提起し、それを政治家に語ってもらうという企画をこれからスタートさせようとしています。今日はその一回目として社会保障の問題を取り上げます。
議論に参加していただくお二人を紹介します。日本総研の西沢和彦さんと学習院大学経済学部教授の鈴木亘さんです。社会保障の問題は、ご両人がいらっしゃらないと始まらないと言っても過言ではない最適の方々です。
第1部:【社会保障と言っておけばいいのか】
"一体改革"はどこへ? 社会保障改革は仕切り直し
工藤:さて「社会保障と税の一体改革」では民主党政権で消費税の5%の増税が決まりました。まずその評価をしていただいて、社会保障の争点を抉り出していきたいと思います。鈴木さんからどうぞ。
鈴木:最初は厚労省と財務省の戦略的互恵関係だとうまいことを言っていたのですが、最後は、厚労省がスパッと切られて、財務省がゴールインしたというそういう印象を持っています。消費税だけが上がり、社会保障についてはこれから議論するとか言っておりますけど、事実上先送りで、何もしないということですから、財政再建ではむしろ望ましかったかもしれませが、社会保障改革ではなかったと考えています。
工藤:ということは、名前は「社会保障と税の一体改革」としない方がよかったですよね、何かだまされた気がします。西沢さんどうでしょう。
西沢:私もそうだと思います。社会保障をエサに増税に結びつけたということです。消費税5%のアウトラインは1%を社会保障の充実に使うと言っていますが、おそらくもっと膨らみます。残り4%を財政健全化に充てると言っていますが、1.54%分を地方に配ると言っていますし、また消費税が上がったことで安心したのか、公共工事に使うという話が出てきていますから、本当に財政健全化に寄与するものは半分ぐらいだと思います。ですから、社会保障としては評価し難いですし、財政健全化としても5%と言われるほど効果はないというのがトータルでの評価です。
工藤:つまり高齢化が進む中での社会保障の抜本的な改革、そしてこれは、みんなが思っているわけですけど、社会保障の様々な仕組みが持続的ではないのではないかと。これに対してなんらかの形で答えを出すのかと、現にそういう話をしたんですよね、一時は・・・それが、どっかで急になくなってしまったという状況なのですか。
西沢:菅さん(前首相)が「社会保障改革に関する集中検討会議」というのを始めたんですね。年金で2004年にマクロ経済スライドという給付抑制の仕組みを入れましたが、これが全然動いてない。それでその会議で、これではいかんということになり、改革しようというメニューに上がってはいたのですが 段々そういったものもなくなって、結局、給付するというものだけになってしまったんです。
鈴木:同じです。社会保障改革の方が先に議論されていたという認識はあまり持っていなくて、スタート時点はそういう議論もあったのですが、どんどん骨抜きになって結局、ばらまきみたいなものが最後は残っていたので、私は意外にスパッと切られて増税だけになって、この方が良かったかもしれないと思う。社会保障改革については、仕切り直しで議論するということでいいと思います。あまりばらまきをひきずらなくて、意外に結果的には良かったと考えています。
工藤:そうなってくると、今後、社会保障はどうするのかという非常に大きな問題があります。今回のアンケートで、「社会保障と税の一体改革」というのは、持続可能な社会保障改革への道筋を示したものなのかということを聞いてみました。そうしたら、意外に今のお二方の話に結構近くて、そもそも今回の一体改革は消費税をあげるためで、社会保障改革ではなかったというのが33.3%で一番多かったですね。次が、これも29.6%ですから、3割近いんですが、道筋どころか社会保障制度の持続性で何の判断も示していないと、どうなっているんだと、この二つが多かったことについて西沢さんどうですか。
西沢:全て正しいと思います。本当は、社会保障改革は少子高齢化が進む中で負担も上げざるを得ない、ただその負担を抑制するために給付も抑制しなければいけない。ですから、負担を上げて、給付を削るという国民の耳に痛い話となります。ただ、それをすることにより、最終ゴールとするとして、長期的にせよ長持ちするんですよということを示すことが改革のはずなのに、社会保障を充実します、とばらまきっぽい色がある。そして、負担を求めるといっても消費税5%でしかない。といった状況で改革でないという意見は全く正しいと思います。
増税で財政再建できるのか?
工藤:社会保障の話に徹底的に入りたいのですが、その前に先ほどの話をしたいと思います。つまり、財政の問題にした方が分かり易かったということなんですが、鈴木さんも西沢さんもおっしゃったように、消費税を上げたことだけでも本当の財政再建に寄与したのか、という問題が一方で問われると思います。これもアンケートで聞いてみました。今回、財政再建の消費税増税ということで、日本の財政再建の道筋を示したものでしょうかと。全く示していないというのが54.3%、ある程度示したが39.5%です。はっきり示したというのは0%でした。5%というのは、14兆円ぐらい入るのですか。
鈴木:12兆円ぐらい。
工藤:12兆円ぐらい、それが財政再建に本当に寄与するものなのかと。色んなものに使われますよね、ということを説明して欲しいのですが、鈴木さん。
鈴木:一言で言うと焼け石に水です。これから、どんどん右肩上がりの少子高齢化で社会保障費が増えていきますが、消費税はよく安定財源といいますけど、景気が悪くても良くても増えないということですよね。だから、景気悪くても減らず、景気良くても増えないということですから、最初の5%の引き上げはまさに焼け石に水で、根本的なことをやりたかったら、今後、増えていくものに合うような財源を当てるか、増えていく社会保障費を抑えるかのどっちかしかありません。だから、消費税では焼け石に水ということが、このアンケートでは皆さん、分かっているということですね。
工藤:実際の数字的には西沢さんどうですか。つまり、そもそも財政再建とか、プライマリー赤字を半分にするとかありましたよね。でも結局、色んな形に使われますよね、基礎年金の問題から...どのような形になるのでしょうか。
西沢:先ほど申し上げたように5%のうち1%を社会保障に充てるといっても1%を超える可能性が非常に高い。また地方に1.54%配ります。それで、消費税は2兆数千億円入ると言われますが、実は見せかけの税収があって、政府も消費税を払っています。行って返ってくるという状態になっているので、結局1%当たり2兆円ちょっとの税収なんですね。すると本当に財政健全化に寄与するのは十兆円も多分ありません。政府は2016年にプライマリーバランスの赤字を対GDP比で-3%に持っていくと言っていますが、それは成長を見込んでの話ですし、その後のシナリオが全くない。それ以降の政府の予測であっても-3%の水準が続きます。プライマリーバランスですから、あと借金を返していくお金が出てこないわけで、最も低い目標であるプライマリーバランスですらこの状況ですから、まさに結果はこのアンケートに答えている通り道筋が見えていないということだと思います。
鈴木:先ほど話が出かけましたけど、非常に懸念すべきは消費税引き上げを前提にお金を使おうという、社会保障ではないところに使おうという案が随分出てきて、選挙もありますのでそういう声は強まっていきます。皆さんご存じのことだと思いますけど、社会保障に今回限定して財源を使うと言っていますけど、それは何の意味もない発言です。つまり、社会保障というものが、そもそも大きく支出と収入のバランスが崩れていて、結局、税金を一般会計から入れて成り立っているというのが現状です。そこに社会保障の財源を入れるということですけれども、全部の穴が埋まらない以上は、新しい税収をこっちに入れて、その分だけ減った、いままで入れてた税金の分は別のところに使いますから、金は色がついていないということと全く同じことで、つまり社会保障の財源を入れて、入れた分だけ別の所に使いますので、公共工事に使うことができるわけです。この目的税というのは特別会計かなんかに入れて、絶対に動かせないお金にしない限りは、公共工事だろうと、国家強靭化プランに使うことも可能なんです。ですから、社会保障に限定することは全く意味のない発言ということは強調しておきたいです。
工藤:せっかく増税を国民に問い、決めても、その使い道が色んな形になる。本当は社会保障で皆、将来に対して不安を持っているのに、それを使わないというと、政治のガバナンスというか、どうしているのだこの国は、とちょっとピリッと来ませんか。
鈴木:それともう一つ誤解を生むような発言が多い、政治家に。つまり、今回消費税を上げたのが年金のためですと、年金の財政がこれでよくなりますと言う政治家が何人かいますが、これは嘘なのでだまされてはいけません。つまり、今回消費税5%上げます。そのうちの1%は基礎年金の、基礎年金は3分の1国庫負担だったものを2分の1に引き上げて、その財源に当てるということになっています。だから、一見苦しい年金の財政が良くなるようなことをイメージできるんですけど、3分の1から2分の1に上げたということは、この100年安心プランとか、厚労省が立てている年金の財政計画には含まれているのです。つまり、織り込み済みで上げることが前提で計画がたっていますので、1%引き揚げても何ら先の財政がよくなることはありません。
工藤:そうですよね。決まっていたのだけれども、そのお金を色んな形で捻出して繋いでいたと言う感じですね。だから、それによってよくなるわけではないですよ。どうでしょうか。税金上げたわりには目的が分からなくなってきている。
西沢:結局、社会保障は様々な課題を抱えている、それをダシにして、増税をするという手法が間違っている。子どもだましだと思いますし。
鈴木:見透かされたと言う感じ
官僚支配化の民主党変質
工藤:後から政策の話を聞きますが、なぜこうなってしまったのか。
西沢:根本的に増税は、皆、嫌ですよね。社会保障と言っておけば、あまり賢くない国民は、納得するでしょうという頭だと思います。本来、社会保障改革って長期的な社会保障財政の持続可能性を高めるために必要です、ときちんと実直に説明したり、あるいは、集めたお金は、例えば小児医療に使いますと、目的をきちんと事細かに説明するのが、国民を信頼した説明になるはずなんですけど、それをしなかったが故に何となく胡散臭ささが出ています。
工藤:要するに民主党政権は元々、自民党の安心プランは駄目で抜本的に改革しなければならないといって誕生しましたよね。そうしたら全然抜本だけではなくて、既存の問題に対しても答えを出さない。今の財政に関しても駄目ということになると、この三年間、何をしてきたのかという気持ちになりませんか。
鈴木:民主党は、100年安心プランは成り立たないといってたけれども、最近100年安心プランと言い始めました。それどころか100年以上安心ですと。最近、厚労大臣変わりましたけれど前の小宮山さん、100年以上安心ですと言っていた。もっとひどくなった。
工藤:どうしてそうなったのですか。
鈴木:当初いた人たちと野田政権が全く同じ党とは言えないぐらい変質している人たちであるということでしょうし、彼らが成り立っている基盤は、完全に官僚の支配下にあるということだと思います。
工藤:なるほど。そもそも自公政権の時は100年安心プランと言うのがありました。その100年安心プランが中々上手くいかないこともあり、2004年の時に年金改革があって、給付をきちんと抑制して、何とか辻褄を合わせようと思った。それ自身問題だということもあったのだが、それが上手くいかなくなり、民主党政権が出来たけれども、それに対してそれを改善するのか、抜本的な改革なのかどっちかしかなかったのだけれども、そのどっちもやらなかったという理解でいいですか。
鈴木:民主党のベクトル自体が財政的に改革するというベクトルに向いていなかったのが1つです。この後、民主党の色んな試算が出てきましたね。民主党案だと財政的にどうなると出てきましたけれども、あれを見て頂くと分かるように財政的な持続可能性が、民主党がやる改革で確保されるわけではありません。むしろ最低保障年金とか所得分配的なところの機能を強化するという案なので、出してきた民主党案も財政を改善するものとは必ずしも言えなかったと。最初のベクトルの向きがちょっと違ったと思います。