2015年度予算を検証する

2015年3月06日

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 3月6日放送の言論スタジオでは、「2015年度予算を検証する」と題して、小黒一正氏(法政大学経済学部准教授)、亀井善太郎氏(東京財団ディレクター研究員、元衆議院議員)、矢嶋康次氏(ニッセイ基礎研究所チーフエコノミスト)をゲストにお迎えして議論を行いました。


今回の予算への評価は非常に厳しいものに

工藤泰志 まず司会の工藤から、今回の議論に先立って行われたアンケートでは、有識者の半数以上が今回の予算案に対して否定的に評価していることが紹介されました。次に、安倍首相が言うように、この予算案が「経済再生、財政健全化を同時に達成するのに資する予算になった」と判断している有識者は8%に過ぎず、財政健全化には真剣に取り組んでいないと見ている有識者が8割近いことが紹介されました。

 この結果を受けてまず、小黒氏は「予算が膨張しているので、短期的には、真剣に財政再建をして歳出の抑制に努めているのかわからない予算である」と評価。
続いて矢嶋氏は、民主党政権時にはできなかった歳入増を達成したことや、ネットでみて財政再建に資する国債発行額を減らしたことには一定の評価をした上で、「中長期の財政再建に向かうためには、今回の予算で試金石になるものがなかった」と述べ、さらに、「ここ1か月くらいで雰囲気が変わり、プライマリーバランスの黒字化についての話がトーンダウンしてきている印象が強くある」と語りました。

 これを受けて、亀井氏も「経済財政諮問会議での議論を見ると、財政再建よりも経済再生に軸足が移っているという感覚がある」と述べた上で、自民党の「財政再建に関する特命委員会」の議論がどうなっていくかが財政再建における今後の大きなポイントになると予想しました。

 ここで工藤が「なぜ、そのように雰囲気が変わってきたのか」と尋ねると、小黒氏は、「消費増税の先送りなどにより、2020年度にプライマリーバランスを黒字化するという政府目標の達成は難しくなっている。そこで、プライマリーバランスを目的にするのではなく、GDP比でみた債務残高を考える方向になったのではないか」と分析しました。


 続いて、工藤は「安倍政権は社会保障の改革や財政再建化プランを打ち出す方針を示していたので、日本の政治が本格的に課題解決に取り組みつつあると多少期待していたが、やはりそれは難しかったのか」と問いかけました。

 これに対して亀井氏は、日本の財政における構造的な問題を指摘しました。まず、海外では「財政責任法」などを作り、政治がどんなに揺れたとしても、きちんとした枠組みで財政運営をする、という仕組みを作っているが、「日本では財政再建や社会保障改革に対して『属人的』、例えば、与謝野馨氏など個人の力量に基づく取り組みになっていた」と指摘。さらに、「日本では、シルバー民主主義、つまり高齢者の投票率や投票数が多く、高齢者に不人気の政策は全く実現しないという問題がある。その結果、政治は財政再建や社会保障改革に積極的に取り組まない」と分析しました。


膨張し続ける歳出を止める術はないのか

 その後、議論は予算構造についての話に移りました。まず工藤が「歳出規模がリーマンショック以降高止まりしたままの構造を変えることはできないのか」と問いかけると、小黒氏は、「一般会計およそ96兆円のうち、30兆円が社会保障費。他にある程度融通の利く政策経費はおよそ30兆円しかないが、その30兆円には防衛関係の予算などがあって、実際、裁量的にカットできる予算はおよそ10兆円程度である。したがって、やはり最も大きい社会保障費を見直さなければ、予算の膨張というのは止められない」と述べました。その上で、小黒氏は政府内ではこの点について「政府内でそういうアジェンダ設定にはなっていない」と指摘しました。

 亀井氏は日本政治の観点から、「日本の政治は財政破たんに対する危機感が全くない。自民党も民主党も、財政規模ベースでいうと考え方はほとんど変わらない。だから国民から見ても選択肢がない」と述べました。

 これらの議論を受けて工藤が、「財政再建を意識して歳出の上限を決めるとか、あるいは『pay as you go(ペイアズユーゴー)』方式で新規の支出や減税などを行う際に財源確保を義務づけ、収支のバランスを取るとされている。そうした取り組みは現政権ではなされていないのか」と尋ねると、小黒氏は「自然増で毎年1兆円ずつ増えていた社会保障関係費を2200億円ずつ切るという枠組みをはめた2006年の『骨太の方針』のような、抜本的な歳出のフレームを作るやり方はやっていない」と説明しました。

 矢嶋氏は、「若い世代はどれだけ自分の負担が増加したかなどはほとんどわからない状況で、わからないから不満の声も出さない。財務省も規律は大切だというが、誰も不満の声を上げないので、問題を先送りしてしまっている」と主張しました。また、「補正予算が組まれることで、会社で言えば決算が良く見えず何が会計なのかも判然としないという質問を良く受ける」と述べ、予算について、何が本当の姿なのかわからないために、国民もだんだんと関心を示さなくなってきたという予算の構造自体の問題点を指摘しました。

 これらの議論を受けて亀井氏は、財政再建を進めるためには、①法律による財政のガバナンス、
②独立財政機関や独立推計機関の設立と活用、③複数年度での財政運営が必要、と3つのポイントを提示し、「国民の支持がないと政治も動くことができない。しかし、諸外国の経験に倣い、政治が機能しない時でも動く枠組みをきちんと作り上げるべき」と主張しました。


ターニングポイントは日銀総裁の任期が切れる2018年

 ここで、工藤からアンケートの中で、有識者から財政再建の「再建」とは何を意味しているのか、財政破たんの「破たん」の意味がはっきりしないとの声が寄せられたことが紹介されると、小黒氏は「財政再建は財政破たんとセットで考える必要があり、基本的に最も分かりやすい指標では『GDP比でみた債務残高が発散しない状態』で、安定したレベルにあること。それから財政破たんは、端的には『国債が売れなくなる』こと」と解説しました。

 矢嶋氏は、「アベノミクスによって日銀の緩和がすごい状況まで来ているのに、市場のアレルギー反応を示す金利上昇が出てきていない。そこが財政破たんの危機意識を遠くに押しやっている。だからこそ破たんの定義がすごく曖昧になってきている」とした上で、「日銀がこのペースで国債の購入を続けると、2019年には買う国債がなくなる状況まできている。それでも何とかしなければならないという危機意識もなくなってしまっている」と警鐘を鳴らしました。
小黒氏はこれを受けて、その2019年の1年前の2018年がターニングポイントになるとの見方を示しました。その理由として、「2018年は日銀総裁の任期が切れる。現在、日銀が最終的に国債を買うという安心の下に成り立っているが、総裁の交代によって入札で国債を買い続けるという循環メカニズムが壊れる恐れがある」と指摘しました。

 亀井氏もこれに同意し、「経済財政諮問会議の議論を見ると、黒田総裁は金融政策をつかさどる総裁として、かなり責任ある発言をしている。それが現政権の重石として機能しているので、それがなくなってしまえばかなり危険な状況になる」と述べました。


今夏の財政再建計画には、膨張する社会保障費を削る具体的な改革案を

 続いて、政府が掲げている「国と地方の基礎的財政収支を2020年度に黒字化する」という目標を達成するためには具体的に何が必要なのかについて議論がなされました。
亀井氏は内閣府の試算を前提として、「アベノミクスがうまくいくという仮定でも9.4兆円も足りない。これは全予算の約1割に相当するため、かなり難しい。社会保障改革でこれまで先送りしたもの、例えば現役並みの所得の高齢者の医療費負担を現役並みにすることなどをきちんと前倒しでやったとしても難しい」と主張しました。

 矢嶋氏は自身の推計として「経済成長実質2%、名目3%、さらに政府がいう消費税を10%で止めることを前提としてシミュレーションをすると、歳出を毎年4000億円削らなければならない。これは現実的に難しい」とした上で、「6月をめどにまとめる経済財政運営の基本方針(骨太の方針)では、目標達成に向けた財政再建策を盛り込む予定だが、ここで伸びている部分を少しでも抑えることが政治的にできるかどうか。具体的な改革案が示されないと市場からもいい加減見放される可能性もある」と語りました。

 小黒氏は2020年以降も視野に入れ、「2020年から2025年に団塊の世代が全員、75歳以上の後期高齢者になる。そうすると現在、50兆円の医療費、介護費が2025年にはおよそ1.4倍の70兆円になる。プライマリーバランスの黒字化まで考えれば、かなり踏み込んだ改革をしないと難しい」と主張しました。

 これを受けて矢嶋氏は、「社会保障に関しては国がすべてを面倒みるというのは、現実的には無理がある。規制緩和も含めて民間開放をやるということをどこかで決断しないといけない」と語りました。


財政再建を実現するためにも、有権者の危機意識の醸成が急務

 最後に、財政再建に向って、日本の政治はどうあるべきかについて議論がなされました。亀井氏は、「具体的に何を削かるかとなると、例えば診療報酬を変えたり、薬価を大きく引き下げたりする必要があるが、そこでは自民党の業界団体とぶつかることになる」と指摘した上で、今の政治にはその覚悟がないと断じました。そこで「シンクタンクやメディアの役割は大きくなる。特に、メディアに関しては、財政問題について少し長い目を持って報道していくことや、世の中に提起していくべき」と訴えました。

 矢嶋氏は「国民レベルで危機意識を醸成するということが必要なので、世代会計がポイントになる。自分がどれくらいお金をもらっているという話は危機意識を醸成しやすい。特に、財政再建の法制化を後押しするのは国民の役割なので、その危機意識の醸成や自分が置かれている立場をきっちり把握できるような情報開示が最も大事だ」と主張しました。

 小黒氏は、「『政治』という観点から言えば、最後は民主主義に話に行き着く。1人の政治家に頼ってうまく回していく方法ではなく、しっかりした制度を作っていく必要がある。そのためには長期的な財政推計をベースにしながらみんなで議論できる基本的なインフラを作ることがまず重要なのではないか」と語りました。

 議論を受けて工藤は、今回の予算案をみて、日本の財政再建は難しいと考えている有識者が8割を超えたアンケート結果を紹介しつつ、「その危機感が投票行動や選挙の政治をバックアップする大きな世論形成につながっていない。政治は全体責任であるし、有権者自身にも責任が問われるので、この国のデモクラシーのあり方も考える必要があるし、長期的な日本の将来像も含めて、言論界の議論をもう一度建てなおさなければならない」と述べ、議論を締めくくりました。


 報告記事 / 全文をよむ  

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工藤:言論NPO代表の工藤泰志です。今日の言論スタジオは、「2015年度予算を検証する」と題して議論を行います。日本は財政再建を成功させることができるのか、あるいは日本の財政が破綻するのではないかとの岐路に立っており、私たちは真剣に向かい合っていく必要があります。しかし、国会の予算委員会を見ても、日本の財政問題が議論されていない。そうなったときに実際、日本の財政をどう考えればいいのか、今回の予算案を見ながら分析していきたいと思っています。

 今日は3人のゲストをお呼びしました。法政大学経済学部准教授の小黒一正、続いて東京財団ディレクター・研究員で元衆議院議員の亀井善太郎さん、最後にニッセイ基礎研究所チーフエコノミストの矢嶋康次さんです。


半数を超える有識者が、2015年度予算案を「評価していない」

 議論の前に私たちが行った有識者アンケートで、今年度の予算について聞いてみました。まず、「今回の予算案をあなたはどう評価しているか」と尋ねたところ、予算案を「評価している」、「どちらかというと評価している」を併せて26.0%にとどまりました。一方、「評価していない」(27.0%)、「どちらかといえば評価していない」(28.0%)を併せて、半数を超える人が評価をしていないという結果となりました。次に、安倍首相がこの予算案について「経済再生、財政健全化を同時に達成するのに資する予算になった」と述べていたことを受けて、「今回の予算案は、経済再生と財政再建に取り組んだ予算と判断しているか」と尋ねました。首相が言うように、「経済再生と財政健全化を同時に達成するのに資する予算といえる」との回答が8.0%でした。逆に「経済再生と財政再建のどちらにも十分に取り組んだと思えない」との回答が43.0%。「経済再生には取り組んだが、財政健全化には真剣に取り組んだといえない」との回答が34.0%となり、特に「財政健全化や財政再建」に真剣に取り組んでいないとする声が大きかったと思います。こうした結果を踏まえつつ、小黒さんは今回の予算案をどう見ていますか。


中長期の財政再建に向かうための試金石がない予算

小黒: 2014年度予算は95.8兆円でしたが、今回の15年度予算は96.3兆円となり、0.5兆円膨らむという結果でした。大雑把にいうと、地方交付税を0.6兆円削り、社会保障費が1兆円伸びているので、予算自体は膨張しています。少なくとも短期的には、真剣に財政再建に取り組み、歳出の抑制に努めているのかわからない予算だと思います。

工藤:今回の予算では、税収の増収分で国債発行額を抑えてはいるものの、増収した分で借金を返済しているわけではありません。基本的に現政権の財政に対する思想がわかりません。矢嶋さんどうでしょうか。

矢嶋:安倍首相の政策運営が色濃く出ていると思います。まず民主党政権時にはできなかった歳入増は達成しています。安倍政権の政策では、歳出をあらかじめ決めるわけではなくて、歳入増の分は歳出も増やしていいという考えのようです。ネットでみて財政再建に資する国債発行額を減らすという運営を行っており、政策の運営を上手くやった点では評価できます。ただ中長期の財政再建に向かうための、試金石になるものがなかった。だからこそ、その点については評価が割れるのだと思います。

工藤:確かに税収を増やすことで結果的に歳入を増やした点は評価できます。ただ、中長期の財政再建に向けての試金石がなかったということで、政府はまだ財政再建に取り組む必要がないと思っているのでしょうか。


「2020年度のPB黒字化」から「GDP比でみた債務残高」へ目標が変わるのか

矢嶋:ここ1か月くらいで雰囲気変わってきたと思います。要は、プライマリーバランスの黒字化についての話がトーンダウンしてきている印象が強くあります。財政再建ではなく、経済成長の方に政府の軸足が動いてきたのではないかと感じています。

亀井:矢嶋さんの話を補足すると、昨年の12月22日、27日、そして2月12日の経済財政諮問会議での議論を見ると非常によくわかります。財政再建とはそもそも何を示すかという数値目標の話の中で、経済再生に軸足が移っているという感覚が確かにあります。政府の中で様々な攻防があり、国会答弁等も含めて、現状はとりあえず維持されています。ただ、前回の選挙時に、財政再建については「消費税は先送りするけれども、経済再生と財政再建を堅持する」という言い方をしました。これを本当に守っていけるかどうかは、6月下旬に政府、その前に自民党が何らかの文書を出すと思いますので、そこに向けて、どんな議論がされるのかをきちんと見ていくことが重要だと思います。

工藤:なぜ雰囲気が変わってきたのでしょうか。

小黒:それは非常に単純です。昨年の7月25日に内閣府が公表した「中長期の経済財政に関する試算」では、2020年度のプライマリーバランスを黒字化に向けて、経済がかなり高成長するという前提でもおよそ10兆円の追加的な増税か歳出カットをしなければ間に合わないという結果でした。そして今年2月に同様の試算が出ましたが、結局中身はほとんど変わらなかった。もともと2回連続で増税の実施を予定していましたが、結局、連続で引き上げを行うことはできなかった。そうなると、今後、更なる追加的な増税と歳出カットを実施していく必要がありますが、現実的に難しい。その過程で出てきた議論が、プライマリーバランス(PB)の黒字化を目的にするのではなく、GDP比で債務残高を見るという指標がでてきたのではないでしょうか。つまりGDP比でみた債務残高は、分母は成長率で伸びて、分子は金利で伸びるので、成長率が金利の上昇スピードより速ければ、比率でみたときの債務は圧縮できるということです。そうすると歳出超過で赤字が出ても指標としては安定している、という論法にすり替えたいという発想が少し入ってきているのだと思います。

工藤:矢嶋さん、こうした目標の変更は、6月に提出する予定の「2020年度までのPB黒字化」がかなり難しいということで、目くらましをしたいという状況なのでしょうか。

矢嶋:そうですね。PB黒字化という目標から逆算した場合、どうしても地方交付税や社会保障経費を削らなければならないと思いますが、今の政権運営でそこを削るということを決断できないのであれば、別の指標でみた目標に変えておきたいという総意になりつつあるのが現状なのではないでしょうか。


歳出を減らすには社会保障への切り込みは不可欠だが、政府内に議論できる場がない

工藤:かつては3党合意の中で、社会保障と税の一体改革の中で、消費税増税もあったわけです。それを延期した以上その合意は既に壊れているわけです。その結果、安倍政権下で社会保障の改革や財政再建化プランを考える必要が出てきたことで、本格的に課題が問われる政治になりつつある、と多少なりとも期待をしていたのですが、それは難しかったということでしょうか。

亀井:率直に申し上げて、そこに関する感覚は非常に薄いと思います。財政や社会保障については、日本では極めて属人的に取り組まれてきた課題と言えます。かつては、例えば、与謝野さんのような方たちが一生懸命取り組まれていました。日本国憲法の下で立法府や内閣府は位置づけられていますが、財政についてはせいぜい憲法に財政民主主義に関する言葉があるくらいで、どこに責任があるのか、どんな位置づけなのかは判然としていません。翻って、各国の動きを見れば、憲法の改正を行い、「財政責任法」などを作り、政治がどんなに揺れたとしても、きちんとした枠組みで財政運営するということを実行してきました。日本はそこがほとんどできていません。財政は、日本では、政治的に人気の取れない政策です。今、日本はシルバー民主主義といわれています。つまり高齢者の投票率や投票数が多く、高齢者に不人気の政策は全く実現しないという問題があります。政治家は若者と話す機会よりも高齢者と話す機会が多いので、どうしてもそこを削るのは難しい。マクロでみれば、社会保障経費を削らなければなりませんが、具体的に誰々さんの何々を削らなければいけないとなった場合、まず顔が浮かぶのは高齢者である、という心理が政治家には働きます。この構造をどう変えるかが極めて重要だと思います。

工藤:予算でいつも気になっているのは、財政の支出規模がリーマンショック以降、高止まりしたまま、歳出のキャップすらないという状況です。しかし、どんなに経済成長しても税収は50兆円か60兆円ですが、歳出が90兆円以上であれば、誰が考えても30兆円足りず、ずっと借金が膨らんでいくことは分かるのですが、この支出構造を変えることは無理なのでしょうか。

小黒:予算を細かく見れば、この予算は必要ないなど色々な話がありますが、ざっくりと日本の予算を分類してみたいと思います。すると一般会計がおよそ96兆円で、そのうち30兆は社会保障関係費です。残りは借金の返済が大部分を占めていて、ある程度、融通の利く政策経費はおよそ30兆円しかないのが現実です。その30兆円には防衛関係の予算などがあって、実際裁量的にカットできる予算はおよそ10兆円しかないのが実情です。その10兆円の中身をしっかり見る必要もありますが、やはり最も大きい社会保障関係費の抑制を考えなければ、予算の膨張というのは止められないと思います。

 先程申した社会保障関係費の30兆円というのは、一般会計で見ている負担分のみですが、国と地方の社会保障予算の合計、つまり社会保障給付費はおよそ110兆円になります。これ自体の伸びが年間平均で2.6兆円、年度によっては4兆円伸びている場合もあるなど、非常に大きなスピードで伸びてきています。この社会保障費に何らかの形で制約をかけなければ、予算の膨張に歯止めをかけることはできないと思います。

 ただ、こうした社会保障の問題を議論する場は、政府の中ではおそらくないのだと思います。国の予算編成で見る部分は社会保障関係費のみですが、社会保障給付費は110兆円から115兆円くらいあるわけです。具体的に中身を見ると30兆円くらいが国の負担、年金積立金等の資産収入が10兆円くらい、社会保険料収入で60兆円が賄われていて、その差額が地方の負担です。社会保障を考える際には、全体としての議論をしなければ話が進みません。しかしその議論はおそらく経済財政諮問会議のような場所で、110兆円の中身を洗い出していくしかないと思いますが、そうしたアジェンダ設定には今のところなっていないと思います。

工藤:矢嶋さん、この前、3兆円越えの補正予算が組まれました。税収増分をこれで全部使っているではないかと思ってしまうのですが、いかがでしょうか。

矢嶋:いろいろな方と話すと、「結局、予算は何なのか」ということを聞かれることが多くあります。補正予算が組まれ、決算がよくわからず、何が会計なのかがわからない、という質問をよく受けます。結局、政策運営は予算が最重要で、予算と補正と決算の関係が不透明で、何が本当の姿なのかがわからない。するとだんだん関心がなくなり、そういう難しいことはもういい、という国民が非常に多くなっていると感じます。


与野党共に、財政破たんに対する危機感は乏しい

工藤:補正を含めると、税収で増えた分だけ、支出を増やしていますよね。亀井さん、日本の政治は財政破たんということに関して、全く危機感がないのでしょうか。

亀井:与野党共にないと思います。財政については、国民から見ると選択肢がないという状況です。昨年12月の総選挙時に、民主党は自民党が消費増税を先送りするなら、自分たちはそれに反対するという選択肢がとれたはずです。しかし、三党合意を実現した野田さんを含めて「仕方ない」と認めたことで、結果的に国民の選択肢を奪いました。今回の予算についても、実はリーマンショック以降、政権交代があったのにも関わらず、財政ベースでみると動きがありません。自民党も民主党も、財政政策でいうとほとんど変わらないということです。アベノミクスは民主党に対する抱き付き戦略みたいな側面があって、国際的にみると、アベノミクスは、金融緩和して歳出を増やす、事実上国債ファイナンスをやっている点は社会民主主義的政策をやっていると見られています。そういう意味では、財政政策としての政策的差異がなくなっています。予算委員会の議論が政策ベースにならないとか、財政ベースにならないという一つの原因なのではないかと思います。


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工藤:今の予算の編成という基本的な話をお聞きしたいのですが、昔は諮問会議が基本方針を決めて予算編成を行い、その後、財務省がシーリングをかけるなど、各省から様々な要求はあるものの、財務省がコントロールしている体制がありました。政府によっては、財政再建を意識して歳出の上限を決めるとか、「pay as you go(ペイアズユーゴー)」方式で、新規の支出や減税などを行う際に財源確保を義務づけ、収支のバランスを取るなどルールがありました。現政権ではそうした取り組みが機能しているのでしょうか。


財政再建を進めるための3つのポイント

小黒:民主党政権の時は特殊なやり方でしたが、現政権はかつての自民党のやり方に戻っていると言えます。通常の予算編成とは、まず予算のシーリングを行い、最初にどれくらいカットするかを決めた上で、成長戦略のために重視する予算の枠を作ることで、総額を作っていきます。その中で、主計局と他の官庁との間で予算編成をやっていくやり方です。つまり、平時モードの予算編成に戻ったということです。昔の諮問会議が決定した2006年の「骨太の方針」では、各予算にどれくらい切り込むかが予め決まっていました。最も分かりやすいのが社会保障分野でした。当時は自然増で毎年1兆円ずつ増えていた社会保障関係費を2200億円ずつ切るという枠組みをはめたことがあります。そうした歳出のフレームを作るやり方は、現状取っていません。また、骨太2006は非常に長いタームで考え、例えば公務員の人件費をどれくらい削減するかなど、様々な分野に切り込む目標や総額を決めましたが、現政権ではそういう形ではやっていないのが実情です。

工藤:内閣府が、仮にアベノミクスが成功したとしても、基礎的財政収支の赤字を埋めるためには、まだかなりのギャップがあると、シミュレーション出しています。本来であればその試算結果をベースにして、司令塔である諮問会議で政府の方針を決めていきます。財務省は財務省で、本来であれば財政の規律を守るために意地でも財政赤字を止めるという行動があってもおかしくはありませんが、そういった話を全く聞きません。何が上手くいっていないのでしょうか。

矢嶋:結局は、国民の後押しが全くないからだと思います。国民の後押しがあれば財務省も政治も動くと思いますが、それがないために、結局、若い人にツケを回しているだけです。今は世代会計の話がほとんどなく、たとえば若い世代がこの5年間でどれだけ自分の負担が増加したかはほとんどわかりません。すると不満の声も出ません。財務省も規律は大切だと言いますが、誰も不満の声を上げないので、そのままにして、先送りしてしまっている状況だと思います。

工藤:確かに現状はそうですが、前回の選挙の時に、自民党は「財政規律を守ります」、「今年の夏には財政規律のための計画を出します」と公約しました。財政規律が主要なアジェンダとして浮上したのだと思いますが、それに対しての取組みは進んでいるのでしょうか。

亀井:取り組んではいます。政府では経済財政諮問会議でどうするか議論がなされていて、その方針を受けて内閣府はプランを練っている段階だと思います。党でも、財政再建に関する特命委員会が設置されて、骨太の方針につながるような、成長主導で行うという議論がされていると思います。しかし、財政再建については、日本は全部「運用」の中でやりたがる傾向があります。制度対応をしたがりません。世界各国の1990年代以降の経験では、財政に関する法律を、国民主権のもとで、きちんとつくり、財政をガバナンスしてきたというのが1つ目の重要なポイントです。それから政府が自分でお手盛りで数字を作るのではなく客観的な数字をたたかわせる、独立財政機関や独立推計機関をしっかりと使うことが2つ目のポイントです。それからもう1つは、小黒さんが先程述べられたように、複数年度で計画し、運用していくことです。日本の場合は、憲法で予算の単年度主義が決まっているので、運用上の工夫が必要ですが。以上の3点を遵守した上で、定量的な話と定性的な話がセットになって財政再建をパッケージ化するべきなのですが、これが全くありません。
かつて1997年橋本内閣下での「財政構造改革法」でもありましたし、あるいは自民党が野党時代に、谷垣総裁や林政調会長代理たちが「財政責任法」を作ろうとしたことはありました。そのような枠組みが提示されるものの、与党になるとこれが軽視されてしまうことが極めて問題です。先程も話しましたが、どうしても国民の支持がないと政治が動くことができない。つまり、民主主義、デモクラシーの問題なのです。しかし政治が機能しない時でも動かせるという枠組みをきちんと作り上げることが各国の経験としてあるのですから、その点について日本は学ぶべきだと思います。


「財政再建」、「財政破たん」とはどういう状態を指すのか

工藤:今の3つのポイントは是非やって欲しいと思いました。ここで有識者のアンケートを紹介したいのですが、「財政再建」というが、「再建」がそもそも何を意味しているのか分からない、それから財政破たんの「破たん」の意味がはっきりしないという声がありました。小黒さんどうでしょうか。

小黒:財政再建は財政破たんとセットで考える必要があって、基本的に最も分かりやすい指標でいえば、「GDP比でみた債務残高が発散しない状態」で、安定したレベルにあることです。ただあまりにも高いレベルに落ち着くのも問題です。現状、日本は2倍ですが、例えばGDP比でみて債務が5倍、10倍の状態は大きな問題です。あまりに大きいと金利上昇にともなって利払い費が増加することになり、税収が全く足りなくなり限界がきてしまう。例えば今1000兆円の債務があって、金利が1%なので約10兆円の利払いで済んでいます。ただ、平時の国債の利払いは4~5%くらいなので、仮にそうなると仮定すると税収のほぼ全ての50兆円が利払いになってしまう。ですから、ボリューム感も考える必要があります。それが適当な位置で落ち着いていれば財政再建できていると言えます。通常で考えれば、150%とか100%ぐらいが適正で、200%は多いと思います。それから財政破たんは、単刀直入にいえば「国債が売れなくなる」ことです。財務省が国債の入札をかけても誰も買ってくれなくなることが、最も危険と言えます。

工藤:財政再建というのは発散しない状況ということですね。これについては、昔、財政制度等審議会でシミュレーションやりましたよね。

矢嶋:財政審でやりました。1990年代の初めから様々なシミュレーションを行っていて、100%、150%、200%の場合でシミュレーションしましたが、どこを通過しても「発散しない」結果になりました。麻生さんは、これをオオカミ少年だと言っています。

工藤:結果としては「発散しない」ということでしたか。


矢嶋:対GDP比でどの水準までいくと危ないという議論がありましたが、結局その水準を超えても金利が上っていない、だから財政破たんのルートに乗らないということになりました。

 今、日銀の緩和がすごい状況まで来ているのに、市場のアレルギーを示す金利上昇が出てきていません。そこが財政破たんの危機意識を遠くに押しやっている。その結果、今、破たんの定義がすごく曖昧になってきているという印象は受けますね。

 日銀がこのペースで国債の購入を続けると、2019年頃には買う国債がなくなる状況まできていると言われています。本来であれば出口をみつけなければいけませんが、何とかしなければならないという危機意識がなくなってしまっている状況だと思います。

工藤:かなり異常な状態で財政ファイナンスを続けている状況下で、マーケットコントロールで金利を下げて発散をおさえていますが、本当はかなり厳しい状況が続いているということですよね。亀井さんどうでしょうか。

亀井:基本的には財政再建や財政健全化ができているというのは、借金がコントロールされている状態にあるということ、コントロールされながらだんだんと債務が収束していく状態だということです。そして対GDP比の話以外にも、もう1つ考慮するポイントは、債務の絶対量がどれくらいかということです。これは支払利息の実額そのものにも影響してきます。アメリカでは債務が対GDP比で100%を超えて大騒ぎになっているし、他の国々でも同じです。それを超えて200%の規模になっているのは日本くらいです。これをどこまで小さくしていくかが先々の目標です。それは定量的、定性的の両方の側面から見ることが重要ですが、具体的な歳出削減の項目や税収増というアプローチと仕組みづくりの両面からコントロールできているという状態が極めて大事です。それから、「破たん」が何を意味するかというと、実はこれは難しい。いわゆる格付け会社が格付けを大きく下げたときに起こるのではないのではないかというのが以前の話でした。現在の、実質、日銀による財政ファイナンスがされている状態では、通貨の価値が非常に安くなり、例えば土地を海外勢に買われるとか、大事な資産を買われる。すると結果的に次世代の人が頑張って稼いでもそれを海外に持っていかれることになります。これについても問題を先送りしていることに気が付く必要があります。

工藤:昔は国債を民間がたくさん買い入れていました。現状も、民間が買ってはいますが、その後、全部日銀が買い上げてくれるからという状況です。そうなってくると、マーケットが日銀も考慮し始めているという状況ですよね。


日銀・黒田総裁の任期が終わる2018年が日本経済のターニングポイント

小黒:一番重要なのは、日銀との関係、特に財政との関係があるのですが、2017年-19年頃がターニングポイントになると思います。ただ、市場では異次元緩和の限界がくるのが「2017年-2019年」という噂もあり、日本銀行が購入する国債がなくなるという年がいつなのか、という視点も重要だと思います。その前年の2018年には黒田日銀総裁の任期が切れます。現在、日銀が最終的に国債を買うという安心の下に成り立っていますが、総裁の交代によって入札で国債を買い続けるという循環メカニズムが壊れると怖い状況になります。

工藤:伸びるかもしれませんが、その頃に、安倍首相の任期も終わりになりますよね。そうすると、次のことも考えなければ政策が不連続になってしまう可能性もありますよね。

小黒:安倍首相の任期と黒田総裁の任期が一緒にやってきますが、どちらが怖いかといえば、黒田さんが変わるのが怖いと思っています。

亀井:同感です。12月27日や2月12日の経済財政諮問会議での、黒田総裁の発言を見ていると良くわかります。黒田総裁は、安倍首相が消費税増税の梯子を外さないと思って、黒田バズーカを発射しました。ところが消費税を先送りする形でその梯子を外しました。日銀からすると、買った国債の償還が保障されるという財政の仕組みが機能していなければ、自分たちが保有する国債等の資産価値を損ない、バランスシートが毀損する恐れがあります。これは、日銀単体として、また金融政策をつかさどる総裁として、公共政策に関わる1人の人間として、かなり責任あるご発言をされていると感じています。経済財政諮問会議の議論はふわふわしたところに行きがちなのですが、黒田総裁や麻生大臣の発言は、かなりピン止めされていました。それが現政権の重石として機能しているので、それすら無くなってしまえば、かなり危険な状況になると思います。また民間議員がかなりふわふわした方向にいってしまっているので、率直に言ってかなり危ないと思います。

工藤:先程の小黒さんの話に、比率ではなく総額のボリューム感の話がありましたが、限界がくる水準というのはどのあたりでしょうか。

小黒:限界については、金利との兼ね合いもあるので一概には言えません。例えば、金利が平常時の4~5%に戻ってしまえば、8年間くらいかけて利払い費が50兆ぐらいになります。現在は年間で言うと10兆円の利払いですから、3、4兆ずつ増えていくことになり、かなり厳しいと思います。

工藤:今の200%ももう危ない段階ですよね。

小黒:これはトートロジーになりますが、今は日本銀行が異次元緩和で長期金利を低下させている状態なので、とりあえずは安心できる状態だと思います。

矢嶋:私は限界だと思います。今年怖いなと感じていることは、既に機関投資家が、金利がゼロ状態ということもあり、国債を売って外への投資をどんどんやり始めていることです。これは日銀がいう「ポートフォリオリバランス」のためにしたのですが、それを進めるということは、その機関投資家が吐き出した国債を日銀はまた買わないといけない。そうすると日銀の購入量が目標よりもさらに増えていく可能性があります。ですから、財政の規律を守らなければ、2018年まで持つかどうかも危険な状態になっていると思います。

工藤:そうした異常な状況でやっているということが、財政当局も含めて、早く規律をつくっていかなければならないということですよね。先ほど、亀井さんが3つのポイントを指摘してくれましたが、そうしたことをやればいいのに、なかなかそうはならない。

亀井:なぜかと考えるのですが、政治家の任期が短期化しているという問題があると思います。結果的に選挙が刻まれてしまっていることは非常に罪深く、形式上は4年の任期があるのに、今は解散が頻繁に行われているので実質的に2年の任期になると多くの衆議院議員は感じています。実際、次の選挙が2年後にあると思っている議員は多いわけですから。すると国家全体のことを10年のスパンで考えるよりも、地元のことのみを短期的にしか考えなくなり、国家的かつ長期的な視野を持つ議員が少なくなっている。だから財政を懸念する議員はものすごく少ないし、国民自身もそこまで関心を持っていない。私は、財政は想像力の賜物だと思っています。財政破たんが起きた時にどうなるか、次の世代はどういう思いをするか、ということをいかに考えられるかが重要だと思います。


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工藤:今までの話を聞いてきて、財政再建に向けた規律が働いていないと思っている視聴者も多いのではないかと思います。ただ昨年12月の消費増税を巡る解散で、今年の夏にプライマリーバランスが2020年にきちんと黒字化するプランを出すと約束したので、これからの焦点はそこになってくると思います。予算上本当にできるのか、あるいはその時にどういうメッセージを出すのかということに関してはどうでしょうか。


財政健全化を目指すために、必要な政策とは

亀井:6月に出てくる計画の内容はかなり厳しいものになると見ています。先日、内閣府が経済財政諮問会議に提出した資料をベースにすると、2020年度のプライマリーバランス黒字化のためには、アベノミクスがうまくいった状況でも9.4兆円足りていません。全予算の約1割に当たりますので、この1割をどうカットするか、税収増を図るかという問題です。先程、小黒さんの話にもあったように、政策経費がかなり限られている中でおそらく社会保障費に手を付けなければいけません。具体的には社会保障については、まずは、いろいろと先送りしてきたものを前倒しでやっていくしかないわけです。例えば、現役並みの所得の高齢者の医療費負担を現役並みにするとか、もともと経済学で言えば供給が需要を掘り起こす「ぜいたく財」である医療についての改革です。つまり医療については供給によってかなりの地域差があります。この地域差を全国の一番低いところ並みにできればいくらか歳出カットはできると思いますが、そういう話を積み上げても9.4兆円には届きません。しかし、そうした状況でも具体的なプランを出さなければいけないところまで追いつめられています。おまけに、消費増税先送りをしてしまった以上、増税策は封印されています。もう1つは、ガバナンス改革です。法的に立法で縛る、国民の代表である国会が内閣をきちんと統治するというガバナンス改革に取り組むとか、あるいは独立推計機関を導入するとかが重要になってきます。

 私も、独立推計機関などを仕掛け始めています。実は法制局ともいろいろと話をして、法案は既に手元にはあります。これをどのように立法府でやってもらうかについては、政局も含めた話でもあります。これは立法府を強くしていく立法府改革や国会改革そのもので、アメリカの議会予算局(Congressional Budget Office)のような形を作れないかと考えています。いろいろな人と話はしていて、さらにその上で複数年予算をやっていくということも考えていかねばなりません。あらゆる知恵を集めて6月には全部やるところまで言わなければ、何か悪いことのきっかけになるのではと危惧しています。

工藤:要するに、その目標を維持して実行するという点は、信頼してもいいのでしょうか。

亀井:やってもらわなければ困りますが、最近の経済財政諮問会議を見ると不安なります。ただ関係閣僚の国会答弁や麻生財務大臣の財政演説、さらに総理の記者会見でもそこは何度でもしっかりと触れられています。様々な形で議論が積み上げられてきているところに対しては、まだ隙はないのだと思いますが、経済財政諮問会議がふらふらしないように頑張ってください、としか申し上げられないのが現状です。

工藤:目標を維持するとか、歳出にキャップをかぶせるとか、色々な制度面の話がありましたが、どのような形になるでしょうか。心配しているところはありますか。


少なくとも今後5年間、政府は10%以上の増税はしない

矢嶋:経済成長実質2%、名目3%、さらに政府がいっているように、消費税を10%で止めることを前提として自分でシミュレーションをしてみたら、2020年度にプライマリーバランスを黒字化するには、歳出を毎年4000億円削らなければなりません。

 小泉改革でもあったように現実的には相当に難しいと思います。ただ、この6月に関しては、難しいことは分かっていても、旗を降ろすということはありえないと思います。そういう意味では、プライマリーバランスの2020年度までの黒字化という旗と、もう1つは、20年度以降について、債務残高の対GDP比が減っていくという姿をきっちり示さなければなりません。その上で、この1、2カ月の諮問会議を見ていると、政治的には消費税を10%で止めることを決めてしまったようなので、それを前提にして、どうするのか、ということも示す必要があると思います。

工藤:もう上げないのですか。どこで決まったのでしょうか。

小黒:諮問会議でのペーパーを見る限り、はっきりは書いてないのですが、税でやる部分については、税制改正の効率化で対応する旨が書かれていますが、少なくとも5年間は、追加増税しない、という方向性が読み取れます。

工藤:ということは、矢嶋さんがおっしゃったシミュレーションは、そうした点も織り込んでいるということですね。

矢嶋:はい。そうすると歳出で毎年4000億削減となると相当厳しい。その際に頼らざるを得ないのが経済成長を上げるという話です。そこは現実的な数字の中で、プライマリーバランス黒字化を見せる必要があると思います。カットではなくて伸びている部分を少しでも抑えることが政治的に今回できるかどうか。具体的な改革案が示されないと市場からいい加減見放される可能性もあります。その意味で非常に重要な6月になると思います。

工藤:市場から見放されるという話ですが、投資家たちはどのようなマインドで見ていますか。まさにガバナンスの問題を問うているのでしょうか。

矢嶋:ガバナンスはずっと問うていますが、結局守られたことがない。破られたときには普通何らかのペナルティがあるはずですが、現状、市場が完全に日本銀行で潰されているため、ペナルティがどこにも見えない。だからみんな「もういいや」となっています。非常に突発的に問題が起きそうな事態でもあるため、非常に怖いです。マイルドに起きるということではなく、みんなの考え方が一気に変わってしまう状況にあると思います。


増え続ける社会保障給付費にどう対応していくか

小黒:プライマリーバランスの目標は2020年度までだけではなく、その先を見せることも必要ですが、そうなるともう1つ難しい問題がでてきます。2020年から25年に団塊の世代の人達が、75歳以上の後期高齢者になります。そうすると厚生労働省の出している医療費、介護費の推計から急増します。現在の医療費、介護費は50兆円ですが、2025年には訳1.4倍、つまり70兆円になります。プライマリーバランスの黒字化まで考えれば、かなり踏み込んだ改革をしないと達成が難しいというのが現実です。今、内閣府の中長期試算が出している最後の年限というのは2023年までしか出していませんから、今の時期からかなり踏み込んだ改革が必要になります。

工藤:必要なものが増えていくのに、今の話を聞いていると、達成は難しいのではないかと思いました。

矢嶋:社会保障に関して国がすべてを面倒みるというのは、現実には無理だと思います。規制緩和も含めて民間に開放すること、国が丸抱えというのは制度的には無理ということをどこかで決断しないといけないと思います。

工藤:そういうような局面に来ている。問題はおっしゃったように、少なくとも旗を降ろすということはあり得ないということですね。

 するとそうした目標の実現に向かって、日本の政治はどのように動いているのでしょうか。


よい政府を作るには、シンクタンクやメディアの協力も必要

亀井:具体的に何を削かるという話について申し上げると、例えば診療報酬を変えたり、薬価を大きく引き下げたりする必要があるでしょう。例えば日本だとジェネリックの薬価は相対的に高いので、これを落とさなければいけない。そこでは自民党得意の業界団体と思いっきりぶつかる必要がありますが、その覚悟がありますかという話だと思います。その覚悟は現時点ではない。つまり、政治家として政党として覚悟を持っているかだと思います。もっとも、現時点では顕在化していない人たちの支持を受けて選出される必要がありますが、このように投票率が低くては、見えやすい票に頼らざるを得ない。今の自民党では難しいし、民主党もなおさら難しいかもしれない。その解決策は、本来は我々シンクタンクやメディアがやらなければならない。しかしそこまでの覚悟もその方策もなかなか見えないというのが率直な部分です。

工藤:アンケートに色んなメディアの人たちも答えてくれています。若いメディアの人達見ていると、結構楽観的です。今回、国債を減らしたため、財政の規律に向けて大きく動いているのはないかというコメントもありました。

亀井:僕は大本営発表に頼りすぎているメディアが多すぎると思います。財政はやはり少し長い目で見ないと理解できないものです。何度も言いますが、財政はやはり想像力の賜物であるにも関わらず、今のメディアは役所が出てきたものをそのままペーパーにする、そのまま記者会見を記事にしている人がいる。その結果、構造的な質問がなかなかできないというメディア人が育てられてきているというように感じています。メディアも含めて、少し長い目を持って報道していったり、世の中に提起していくことはやっていかなければならないと強く思います。

矢嶋:この20年の動きを見ていると、日本の政治にはあまり期待できないと思いますが、2つの動きが必要だと思っています。まず、国民レベルで危機意識を醸成するというのが必要なので、世代会計です。年金と同じで、自分がどれくらいお金をもらっているかという話は危機意識を醸成し、きちっとした数字がでるので、それは非常に有効だと思います。もう1つは、政治が変わっても財政再建が国民の共通の問題となると思いますので、その法制化です。法制化を後押しするのは国民であると思います。ですから、国民の危機意識の醸成や自分が置かれている立場をきっちり把握できるような情報開示が最も大事だと思います。

工藤:亀井さんが先程、いろいろな提案をやろうとしている、とおっしゃっていましたが、そうしたものをもっと表に出してもらえればと感じました。

亀井:表に出していますよ。独立推計機関について例えば日経の経済教室に書いたり、あるいは色んな施策をやりますと提言したりしても、そもそも記者クラブの人が理解できない。つまり、今ないものだからわからない。ここも実は理解力が結構大きな壁です。直接お話ししても、「ああ、そんなものがあるんですね」という話で終わってしまいます。一部長い目で見て書く人も出てきていますが、国民が動くというところまでは行かない。矢嶋さんとアプローチ違うかもしれませんが、国民になかなか理解されないものですから、少なくとも確信犯的に、これはやらなければいけない、と思う人たちが出てきて、粛々と法律にしていくっていうのをやる必要があると思っています。

小黒:結局政治を考えると最後は民主主義の話になってしまいます。繰り返しですが、その民主主義をどうやってコントロールしていくかという話です。亀井さんがおっしゃったように、属人的に1人の政治家に頼ってうまく回していく方法ではなく、しっかりした制度を作っていく必要があります。私も亀井さんと一緒に提案に加わっていますが、我々が今だしている結論というのは、長期的な財政推計や世代会計をベースにしてみんなで議論できる基本的なインフラを作ることがまず重要ではないかと思っています。

工藤:今回のアンケートでも、「今回の予算案をみて、日本の財政再建は可能だと思いましたか」との質問に、60.0%が「このままでは難しい」と回答しました。25.0%は「すでに困難」と回答しているので、併せて85.0%の人が「難しい」、「かなり厳しい」と思っている。有識者アンケートでは毎回このような感じで、かなり多くの人たちは個人的には結構厳しいのではないかと判断していることが多い。しかし、そうした意見が投票行動や政治をバックアップする大きな世論形成につながってはいません。確かにデモクラシーの問題ですが、政治の中にそういうことを考える仕組みができない限り、代議制民主主義をとっている以上、そういうことに取り組まない政治家には辞めてもらうしかない。

亀井:前回の安倍首相が行った総選挙は、代議制民主主義を振り回したかなり乱暴な措置だと思っています。しかし対抗軸となる民主党が、財政上の選択肢を同じものとしてしまった。それは彼ら自身がまた立法府を殺してしまったということだと思います。率直に言えば、安倍さんが解散総選挙を決断したとしても、例えば不信任案を提出するなど、立法府でのいろいろな戦い方があったはずです。しかし立法府が馬鹿にされても何もできなかったことについては、野党が特に反省をしなければいけないし、野党が次の世代のことを考えるのであれば、そういう中で自らも選択肢を出していく姿勢が今求められているのではないかなと思います。与党でも与党内野党は何ができるかだと思います。

工藤:返す返す予算委員会をテレビで観ていても、こういう話がされていないことが気になりますね。

小黒:まあ学術的には、財政赤字を戦略的に起こす政治経済学的な文脈があって、従来温厚な政党が政権取っている時に、予算を膨張させて、次に政権交代しても何もできなくさせるという戦略もあります。財政規律が働いている前提で、相手に財政破たんさせて、次に自分が政権を取るというストラティジックな方法もあるくらいです。現実的には野党の先生方が、「誰が火中の栗を拾うか」というときには、誰も得をしないわけです。そういう意味では、極論ですけれども、破たんするのを待つというのも1つの戦略なので、そういうことをさせないためのメカニズムを作っていかないと、この問題は解決できないのかなと思います。ちょっと乱暴な言い方かもしれませんが。

工藤:話を続けたいのですが、時間になったのでこれで終わらなければなりません。今の政治は全体責任です。ただそれを選んだ有権者にも責任がある。そうした問題も問われているわけです。そろそろこの国のデモクラシーのあり方も含めて考える必要がありますし、長期的な日本の将来像も含めて、言論界の議論をもう一度、建て直さなければいけないと思いました。ということでみなさんどうもありがとうございました。


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2015年3月6日(金)
出演者:
小黒一正(法政大学経済学部准教授)
亀井善太郎(東京財団ディレクター(政策研究)・研究員)
矢嶋康次(ニッセイ基礎研究所経済研究部 チーフエコノミスト)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)

 3月6日放送の言論スタジオでは、「2015年度予算を検証する」と題して、小黒一正氏(法政大学経済学部准教授)、亀井善太郎氏(東京財団ディレクター研究員、元衆議院議員)、矢嶋康次氏(ニッセイ基礎研究所チーフエコノミスト)をゲストにお迎えして議論を行いました。


今回の予算への評価は非常に厳しいものに

工藤泰志 まず司会の工藤から、今回の議論に先立って行われたアンケートでは、有識者の半数以上が今回の予算案に対して否定的に評価していることが紹介されました。次に、安倍首相が言うように、この予算案が「経済再生、財政健全化を同時に達成するのに資する予算になった」と判断している有識者は8%に過ぎず、財政健全化には真剣に取り組んでいないと見ている有識者が8割近いことが紹介されました。

 この結果を受けてまず、小黒氏は「予算が膨張しているので、短期的には、真剣に財政再建をして歳出の抑制に努めているのかわからない予算である」と評価。
続いて矢嶋氏は、民主党政権時にはできなかった歳入増を達成したことや、ネットでみて財政再建に資する国債発行額を減らしたことには一定の評価をした上で、「中長期の財政再建に向かうためには、今回の予算で試金石になるものがなかった」と述べ、さらに、「ここ1か月くらいで雰囲気が変わり、プライマリーバランスの黒字化についての話がトーンダウンしてきている印象が強くある」と語りました。

 これを受けて、亀井氏も「経済財政諮問会議での議論を見ると、財政再建よりも経済再生に軸足が移っているという感覚がある」と述べた上で、自民党の「財政再建に関する特命委員会」の議論がどうなっていくかが財政再建における今後の大きなポイントになると予想しました。

 ここで工藤が「なぜ、そのように雰囲気が変わってきたのか」と尋ねると、小黒氏は、「消費増税の先送りなどにより、2020年度にプライマリーバランスを黒字化するという政府目標の達成は難しくなっている。そこで、プライマリーバランスを目的にするのではなく、GDP比でみた債務残高を考える方向になったのではないか」と分析しました。


 続いて、工藤は「安倍政権は社会保障の改革や財政再建化プランを打ち出す方針を示していたので、日本の政治が本格的に課題解決に取り組みつつあると多少期待していたが、やはりそれは難しかったのか」と問いかけました。

 これに対して亀井氏は、日本の財政における構造的な問題を指摘しました。まず、海外では「財政責任法」などを作り、政治がどんなに揺れたとしても、きちんとした枠組みで財政運営をする、という仕組みを作っているが、「日本では財政再建や社会保障改革に対して『属人的』、例えば、与謝野馨氏など個人の力量に基づく取り組みになっていた」と指摘。さらに、「日本では、シルバー民主主義、つまり高齢者の投票率や投票数が多く、高齢者に不人気の政策は全く実現しないという問題がある。その結果、政治は財政再建や社会保障改革に積極的に取り組まない」と分析しました。


膨張し続ける歳出を止める術はないのか

 その後、議論は予算構造についての話に移りました。まず工藤が「歳出規模がリーマンショック以降高止まりしたままの構造を変えることはできないのか」と問いかけると、小黒氏は、「一般会計およそ96兆円のうち、30兆円が社会保障費。他にある程度融通の利く政策経費はおよそ30兆円しかないが、その30兆円には防衛関係の予算などがあって、実際、裁量的にカットできる予算はおよそ10兆円程度である。したがって、やはり最も大きい社会保障費を見直さなければ、予算の膨張というのは止められない」と述べました。その上で、小黒氏は政府内ではこの点について「政府内でそういうアジェンダ設定にはなっていない」と指摘しました。

 亀井氏は日本政治の観点から、「日本の政治は財政破たんに対する危機感が全くない。自民党も民主党も、財政規模ベースでいうと考え方はほとんど変わらない。だから国民から見ても選択肢がない」と述べました。

 これらの議論を受けて工藤が、「財政再建を意識して歳出の上限を決めるとか、あるいは『pay as you go(ペイアズユーゴー)』方式で新規の支出や減税などを行う際に財源確保を義務づけ、収支のバランスを取るとされている。そうした取り組みは現政権ではなされていないのか」と尋ねると、小黒氏は「自然増で毎年1兆円ずつ増えていた社会保障関係費を2200億円ずつ切るという枠組みをはめた2006年の『骨太の方針』のような、抜本的な歳出のフレームを作るやり方はやっていない」と説明しました。

 矢嶋氏は、「若い世代はどれだけ自分の負担が増加したかなどはほとんどわからない状況で、わからないから不満の声も出さない。財務省も規律は大切だというが、誰も不満の声を上げないので、問題を先送りしてしまっている」と主張しました。また、「補正予算が組まれることで、会社で言えば決算が良く見えず何が会計なのかも判然としないという質問を良く受ける」と述べ、予算について、何が本当の姿なのかわからないために、国民もだんだんと関心を示さなくなってきたという予算の構造自体の問題点を指摘しました。

 これらの議論を受けて亀井氏は、財政再建を進めるためには、①法律による財政のガバナンス、
②独立財政機関や独立推計機関の設立と活用、③複数年度での財政運営が必要、と3つのポイントを提示し、「国民の支持がないと政治も動くことができない。しかし、諸外国の経験に倣い、政治が機能しない時でも動く枠組みをきちんと作り上げるべき」と主張しました。


ターニングポイントは日銀総裁の任期が切れる2018年

 ここで、工藤からアンケートの中で、有識者から財政再建の「再建」とは何を意味しているのか、財政破たんの「破たん」の意味がはっきりしないとの声が寄せられたことが紹介されると、小黒氏は「財政再建は財政破たんとセットで考える必要があり、基本的に最も分かりやすい指標では『GDP比でみた債務残高が発散しない状態』で、安定したレベルにあること。それから財政破たんは、端的には『国債が売れなくなる』こと」と解説しました。

 矢嶋氏は、「アベノミクスによって日銀の緩和がすごい状況まで来ているのに、市場のアレルギー反応を示す金利上昇が出てきていない。そこが財政破たんの危機意識を遠くに押しやっている。だからこそ破たんの定義がすごく曖昧になってきている」とした上で、「日銀がこのペースで国債の購入を続けると、2019年には買う国債がなくなる状況まできている。それでも何とかしなければならないという危機意識もなくなってしまっている」と警鐘を鳴らしました。
小黒氏はこれを受けて、その2019年の1年前の2018年がターニングポイントになるとの見方を示しました。その理由として、「2018年は日銀総裁の任期が切れる。現在、日銀が最終的に国債を買うという安心の下に成り立っているが、総裁の交代によって入札で国債を買い続けるという循環メカニズムが壊れる恐れがある」と指摘しました。

 亀井氏もこれに同意し、「経済財政諮問会議の議論を見ると、黒田総裁は金融政策をつかさどる総裁として、かなり責任ある発言をしている。それが現政権の重石として機能しているので、それがなくなってしまえばかなり危険な状況になる」と述べました。


今夏の財政再建計画には、膨張する社会保障費を削る具体的な改革案を

 続いて、政府が掲げている「国と地方の基礎的財政収支を2020年度に黒字化する」という目標を達成するためには具体的に何が必要なのかについて議論がなされました。
亀井氏は内閣府の試算を前提として、「アベノミクスがうまくいくという仮定でも9.4兆円も足りない。これは全予算の約1割に相当するため、かなり難しい。社会保障改革でこれまで先送りしたもの、例えば現役並みの所得の高齢者の医療費負担を現役並みにすることなどをきちんと前倒しでやったとしても難しい」と主張しました。

 矢嶋氏は自身の推計として「経済成長実質2%、名目3%、さらに政府がいう消費税を10%で止めることを前提としてシミュレーションをすると、歳出を毎年4000億円削らなければならない。これは現実的に難しい」とした上で、「6月をめどにまとめる経済財政運営の基本方針(骨太の方針)では、目標達成に向けた財政再建策を盛り込む予定だが、ここで伸びている部分を少しでも抑えることが政治的にできるかどうか。具体的な改革案が示されないと市場からもいい加減見放される可能性もある」と語りました。

 小黒氏は2020年以降も視野に入れ、「2020年から2025年に団塊の世代が全員、75歳以上の後期高齢者になる。そうすると現在、50兆円の医療費、介護費が2025年にはおよそ1.4倍の70兆円になる。プライマリーバランスの黒字化まで考えれば、かなり踏み込んだ改革をしないと難しい」と主張しました。

 これを受けて矢嶋氏は、「社会保障に関しては国がすべてを面倒みるというのは、現実的には無理がある。規制緩和も含めて民間開放をやるということをどこかで決断しないといけない」と語りました。


財政再建を実現するためにも、有権者の危機意識の醸成が急務

 最後に、財政再建に向って、日本の政治はどうあるべきかについて議論がなされました。亀井氏は、「具体的に何を削かるかとなると、例えば診療報酬を変えたり、薬価を大きく引き下げたりする必要があるが、そこでは自民党の業界団体とぶつかることになる」と指摘した上で、今の政治にはその覚悟がないと断じました。そこで「シンクタンクやメディアの役割は大きくなる。特に、メディアに関しては、財政問題について少し長い目を持って報道していくことや、世の中に提起していくべき」と訴えました。

 矢嶋氏は「国民レベルで危機意識を醸成するということが必要なので、世代会計がポイントになる。自分がどれくらいお金をもらっているという話は危機意識を醸成しやすい。特に、財政再建の法制化を後押しするのは国民の役割なので、その危機意識の醸成や自分が置かれている立場をきっちり把握できるような情報開示が最も大事だ」と主張しました。

 小黒氏は、「『政治』という観点から言えば、最後は民主主義に話に行き着く。1人の政治家に頼ってうまく回していく方法ではなく、しっかりした制度を作っていく必要がある。そのためには長期的な財政推計をベースにしながらみんなで議論できる基本的なインフラを作ることがまず重要なのではないか」と語りました。

 議論を受けて工藤は、今回の予算案をみて、日本の財政再建は難しいと考えている有識者が8割を超えたアンケート結果を紹介しつつ、「その危機感が投票行動や選挙の政治をバックアップする大きな世論形成につながっていない。政治は全体責任であるし、有権者自身にも責任が問われるので、この国のデモクラシーのあり方も考える必要があるし、長期的な日本の将来像も含めて、言論界の議論をもう一度建てなおさなければならない」と述べ、議論を締めくくりました。


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